第三話 ハウランド、ギルバート方面

 ハウランド島は、太平洋の中部、北緯〇度四八分、西経一七六度三八分に位置する長円形の隆起型環礁、面積一・九平方粁で、当初はイギリス領のフェニックス諸島に属していた。

 ハウランド島は丁度フィジーとハワイとの直線上にあり、米豪連絡航空路の要衝と考えられ、一九三五年末米国の併合となるや、米海軍は三滑走路を建設した。そして、ハウランド島はマーシャル諸島に近かったことから、日本軍にとっても邪魔な存在となる島であった。


 ギルバート諸島は、中部太平洋に散在する北緯三度から南緯三度、東経一七三度から一七七度の区域に存在する大小一六の珊瑚礁からなる島群で、総面積四三〇平方粁、人口二八〇〇程度である。一八九二年から英国の保護領となり、一九一五年から英国の植民地となった。政庁はオーシャン島にあった。

 そして、ギルバート諸島はマーシャル諸島より南方から南東方に約一八〇浬から三六〇浬に存在するという、防衛に関する脅威を与える存在であった。


 昭和十六年十一月中旬、岩国において第四艦隊司令部は、連合艦隊司令部と作戦要領を協議した結果、ギルバート諸島の要地を攻略して、同地に水上航空基地を進出させることに意見が一致し、ここにハウランド、ギルバード方面への攻撃計画が策定された。


 割り当てられた部隊は次の通りである。


  ハウランド方面攻撃支援隊

   指揮官 第十九戦隊司令官 少将 志摩清英

    第十九戦隊   沖島  天洋丸

    第二十九駆逐隊第二小隊 駆逐艦 夕凪  朝凪

    第五十一警備隊の陸戦隊

  潜水部隊

   指揮官 第七潜水隊司令官 少将 大西新蔵

    第七潜水隊 旗艦 迅鯨

     第二十六潜水隊  呂六〇  呂六一  呂六二

     第三十三潜水隊  呂六三  呂六四  呂六八

  航空部隊

   指揮官  第二十四航空戦隊司令官 少将 後藤英次

    第二十四航空戦隊

      千歳航空隊

      横浜航空隊

      神威

      五洲丸

      第六根拠地隊特務砲艦 長田丸 


 十一月二十七日第一九戦隊司令官志摩少将が命令第一号を下令した。


  機密「ハ」方面攻撃支援隊命令作第一号

   昭和十六年十一月二十七日「トラック」旗艦沖島

    「ハ」方面攻撃支援隊指揮官 志摩清英

 「ハ」方面攻撃支援隊命令

第一 南洋部隊第一兵力部署に於て「ハ」方面攻撃支援隊は開戦劈頭速に「ギルバート」要地を占領し航空部隊と協力し「マキン」に急速航空前進基地を設営し尓後航空部隊の「ハ」方面に対する作戦に協力すると共に機宜潜水部隊の「ハ」方面に対する監視攻撃を支援せんとす

第二 各隊の行動

 

 一、開戦前の行動

 十二月四日一二〇〇迄に「ヤルート」に進出し十二月七日一八〇〇迄に対敵行

 動開始必要なる諸準備(別令)を完成す

 二、開戦後の行動

  ㋑ X日(時刻別令)「ヤルート」出撃航空部隊基地設営隊(長田丸)を護

   衛し対潜対空警戒を厳にし極力行動を秘匿しつつ概ね別図第一の如く行動

   しX+二日天明前19S(津軽常盤欠)は「マキン」島に2D|29dgは

   「タラワ」島に陸戦隊を揚陸速に両島を占領す

  ㋺「マキン」及「タラワ」島占領後各隊は左の如く行動す

 ⑴ 19S(津軽常盤欠)は航空部隊と協力し「マキン」に急速航空前進基地を

  設営すると共に令に依り沖島より派出の陸戦隊を収容す

 ⑵ 2D|29dgは主として通信及交通機関を破壊したる後速に「マキン」付

  近に於て19Sに合同す

  (以後省略)


 志摩少将指揮するハウランド方面攻撃支援隊は、十一月二十九日駆逐艦夕凪、朝凪を先頭としてヤルートに向かった。

 ヤルートに到着した志摩少将は十二月四日、旗艦沖島において横浜航空隊司令、第五十一警備隊司令、第二十四航空戦隊、第十九戦隊の各参謀らが出席のうえ、作戦に関する詳細な打ち合わせをおこなった。


 機密「ハ」方面攻撃支援隊命令第三号

   昭和十六年十二月四日「ヤルート」旗艦沖島

    「ハ」方面攻撃支援隊指揮官 志摩清英

  「ハ」方面攻撃支援隊命令

 「ギルバート」諸島占領の際揚陸陸戦隊の準拠すべき主なる事項を左の通定む

一、揚陸方針

  隠密上陸を主眼とし抵抗なき限り住民に危害を与え又施設を破壊することを

 避く

二、攻略要領

 ㋑ 「マキン」

  水上航空基地設営を主眼とす従て陸上諸施設は極力之が利用に努む

 ㋺ 其の他の島嶼

  我作戦に不利を来さしむる虞ある機関施設を破壊す

三、揚陸作業着手順序

 ㋑ 第一着作業

  ⑴ 軍事施設ある場合其の占領

  ⑵ 有無線電信所(気象観測所を含む)及発電所の押収(破壊)

   「マキン」は之を押収利用し其の他は之を破壊す

   但し各島嶼共点灯用動力は之を破壊せず

  ⑶ 島行政中枢機関の占領

  ⑷ 英米人及其の他の白人の拘禁

 ㋺ 第二着作業

  土着島民の懐柔

 ㋩ 第三着作業

  ⑴ 我が軍事施設に利用し得べ倉庫等建築物の押収

  ⑵ 銀行の押収

  ⑶ 武器弾薬火工品類の没収

  ⑷ 船舶(小型帆船及カヌーを除く)の没収

  ⑸ 燃料類の没収

     但し住民生活必需のものを除く

  ⑹ 「ラヂオ」の没収

四、英米人及其の他の白人の処置

  ㋑ 「マキン」在住のものは一応特定の場所に拘禁す

  ㋺ 「マキン」以外の在るものは其の島嶼に残留せしむるを建前とするも其

   の性状疑わしきものは之を「マキン」に連行す

五、没収物件の処理要領

 「マキン」に集中す

  但し運搬不可能となるものは之を破壊若は焼却す


 前日の三日には陸戦隊の編制がさだめられ、第一部隊として「沖島」から特務中尉を指揮官とする総勢八十五名、第二部隊として「夕凪」「朝凪」から中尉を指揮官とする総勢七十一名が発表された。


 八日、陸戦隊命令が下された。


機密連合陸戦隊第一部隊命令第一号

  昭和十六年十二月八日 於沖島

      陸戦隊指揮官  加藤永清

  陸戦隊命令

一、情報に依れば「マキン」の島には民間所有の無線電信所を有するの外軍事施

 設を有せざるも島民約二〇〇〇名白人約二〇名居住し軍用銃約二〇を有するも

 のの如し

二、陸戦隊は「マキン」島占領の目的を以てX+二日未明A海岸(情況に依りB

 或いはC海岸)に上陸を決行せんとす

三、揚陸計画を別紙の通定む

四、揚陸後第二中隊は当面の敵を撃攘し速に無線電信所(B地点)を占領之を確

 保すると共に前方の警戒に任ずべし

五、第一中隊第一小隊は揚陸後速に砲台を占領したる後部落の掃蕩を行い無線電

 信所付近に集合すべし

六、尓余の隊は本隊となり無線電信所付近に集結すべし

七、尓後の行動は追て令す

八、合言葉を梅、松とす

九、余は上陸後概ね本隊の先登にあり

  (以後省略)


 五日、大本営海軍参謀部から敵情にかんする電報が届いた。

   作戦情報第五号

「フィニックス」諸島方面の敵情に関しては最近の状況に依り得る所なきも従来の通信諜報其の他一般情報等を綜合するに左記理由に依り「ハウランド」島を基地としての価値は当初左程大ならざるを以て一応陸上滑走路の破壊は之を行うの要ありと認むるも尓后の監視偵察等の関しては当初は寧ろ「カントン」島「ツツイラ」港若は「パルミラ」島等に対し着目するの要ありと判断す

一、「ジョンストン」島「パルミラ」島基地は最近来飛行艇屡之を使用し居るに

 拘らず「ハウランド」島は通信上に現われたる兆候なし

二、濠洲より布哇諸島に飛行せる英陸上機は「ラバウル」「ウエーキ」島を経由

 「ハウランド」島を利用し居らず

三、通信諜報に依るに「ツツイラ」港及「カントン」島は航空基地通信系に入り

 居れども「ハウランド」島は現われ居らず

四、「ハウランド」島は降雨皆無にして樹木無く無人島なるを以て基地としての

 維持困難最近基地として使用せる形跡なし


 第七潜水戦隊の第三十三潜水隊の呂六十三、呂六十四、呂六十八は四日ハウランド方面監視のために出撃し、十日呂六十四潜はハウランド島を砲撃し、呂六十八はベーカー島を砲撃した。

 当初呂六十四潜は、ハウランド島に浮上近接して陸戦隊を上陸させる予定であったが、波浪が大きく、尚且つ相手から察知されたと判断し、十一日〇二〇〇から〇三〇〇にかけて浮上して二千メートルに距離から砲撃し、無線電信所、宿舎、倉庫などを破壊炎上させ帰途についた。

 呂六十八潜はベーカー島にむかい、十一日〇三四五から〇四一五にかけて浮上砲撃を行い、べーカー島の無線電信所、気象観測所などを砲撃炎上させて帰途についた。

 呂六十三潜は十四日ハウランド島に接近して監視した所、無線局などが破壊されていることを確認したので、砲撃は中止して帰途についた。


作戦に参加する横浜虚空隊は十一月二十八日ヤルートのイミエジ基地に全機集合を完了し、十二月三日まで同基地で訓練に従事し、五日からはヤルートの東方および南東方面の哨戒飛行を実施した。

 六日、本隊はハウランド攻撃に備えてメジュロ基地へ移動をおこない、一部部隊はナウル、オーシャン方面に備えて、イミエジ基地に待機展開していた。

 八日、横浜航空隊の田代壮一少佐は飛行艇十五機を指揮してハウランド爆撃に向かったが悪天候のために反転引き返した。

イミエジ基地を発進した二機はナウル島の電信所を爆撃した。

 九日、田代少佐は再び十五機を率いてハウランド爆撃に向い今度は爆撃に成功、二五〇粁十二発、六〇粁一二〇発を投下し、滑走路および施設に命中弾を得たと報告した。

 イミエジ基地を発進した長島博三郎大尉指揮の三機は、オーシャン島の電信所に損害を与え、ナウル島の電信所付近にも至近弾を得た。さらに十一日にも四機で攻撃に向い、ナウルの無線柱を倒壊させ、その他の建物にも被害を与えた。

 その後横浜航空隊はウエーキ島攻略に備えて、ハウランド方面への爆撃は中止となった。

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