第十一話 U作戦(ビルマ輸送作戦)

 ビルマ全域の攻略にあたっては二個師団(第十八師団と第五十六師団)の増強が必要となっていた。その輸送のためには海上となれば相当数の輸送船が必要であり、陸上輸送では大量のトラックが必要であったが、国境付近の道路事情は悪く、早急に二個師団を運ぶのは不可能であり、輸送船でのラングーンへの輸送が時間的にも物量的にも最適であった。

 が、しかし、輸送船も開戦四ヶ月が経過し、予想以上に喪失量が多かったのも、今後の作戦を考えると頭の痛い問題点であった。


 四月十日に海軍省で纏められた資料には、徴用船のうち、海軍管轄四十一隻、陸軍管轄四十二隻、民間八隻の合計九十一隻(二三八、〇〇〇トン)が喪失、損傷したもの九十四隻に上っている。その間拿捕した船舶は四十三隻(一〇六、〇〇〇トン)に過ぎず、その輸送船舶の確保は、「大本営政府連絡会議」においても重要な課題の議論であった。ビルマ作戦での集中輸送においては、約五十万トンの輸送が見積もられ、どうにかなる算段も目途が立ったのである。

 ビルマ輸送作戦については「U作戦」の呼称が付けられた。

 U作戦に関する要領は二月十二日には次のように策定されていた。


    第一 方針

一 輸送船約三十二万屯を集結し三月十日以降逐次輸送を開始し三月末日迄に其

 の主力を四月上旬中にその全部の輸送を完了しU作戦実施に遺憾なからしむ

 状況に依り一部の船舶を折返し使用することあり

    第二 要領

二 輸送部隊及所要屯数

  第十八師団及軍直部隊  約三十二万屯

  別に広東よりの転用馬匹及川口支隊の転用

              約九万屯

三、使用輸送船充満要領は別表の如く主として第二十一師団、第三十三師団、第

 五十六師団、第二十五軍直輸送船を充当し別に一部約五万屯はH作戦充当船の

 折返えしを充当す

四、本輸送実施に方りては目下の船舶の実情に鑑み輸送船の充当要領を第三項の

 如く定むるも輸送船の実情に応じ彼此融通すると共に要修理船の入渠を図り爾

 後に於ける輸送実施に遺憾なからしむる如く努む

五、本輸送竝に別に計画せらるべきH充当船の帰還時を利用する部隊転用輸送と

 を考慮し艤装給炭給水の準備竝諸施設を増強すると共にU作戦地揚陸地施設の

 整備に遺憾なからしむ

   第三 艤装

六 艤装換実施は必要の最小限度とするも三月十日迄に左記資材を新嘉坡に前送

 す

    左 記

  寝 棚   二千坪分

  馬 欄   五百頭分

七 艤装実施地区を左の如く予定す

  主艤装実施地点   西 貢

  補助艤装実施地点  新嘉坡

            広 東

   第四 給 炭

八 給炭実施地区を左の如く予定す

   主給炭地   西貢  カムラン地区

   補助給炭地  高雄  新嘉坡

九 前項給炭実施の為概ね三月上旬を目途とし左の如く前送す

   イ、軍隊船により  約六万屯

   ロ、軍需品船により 約三万屯

  別に鉄道輸送により「ホンゲイ」炭二万屯を西貢に集積す

 (筆者註:ホンゲイはベトナム北東部の石炭産地で良質な無煙炭を産出する著名な産地でもあり、日本では濾過材に最適なものとして利用されてもいる)

一〇 前送石炭の集積を左記の如く予定す

    西貢地区      三万屯

    カムラン地区    三万屯

    新嘉坡       三万屯

          (逐次増加し三月中旬を目途とす)

一一 別にU作戦充当船にして日次の余裕之を許すものは努めて台湾内地に帰還

 給炭せしむるの[文字欠落]引続きU作戦に充当せラルる船舶は内地出港前給

 炭(水)を満船たらしむ

   第五 給油

一二 重油船は内地出港前満船せしむるの外に月末日を目途とし給油船北喜丸に

 よりB重油六千屯を西貢地区に前送せしむ

   第六 給水

一三 給水は西貢地区「カムラン」地区に於て主として実施するの外給水船岩手

 丸利根丸を二月末日迄に西貢地区に前進せしめ爾後新嘉坡に廻航し同地の給水

 に任ぜしむ

   第七 船内糧秣

一四 主として西貢地区に於て搭載するものとす一部新嘉坡への前送を予期す 

 Uの為船内糧秣は約二〇日分とす

   第八 衛生

一五 所要に応じ新嘉坡地区竝に上陸地衛生機関の増強を予期す

一六 転用其の他に方り検疫は実施せざるも船舶消毒には遺憾なきを期す

一七 病院船一を三月末日迄に西貢に準備し第一次輸送部隊に同行せしむ

    第九 護衛

一八 新嘉坡よりの輸送に方りては直接護衛とし其の細部に関しては別に定むる

 所によるものとす

一九 帰還船舶は間接護衛を主とするも状況之を許す限り直衛を得る如く努む

    第十 船舶部隊

二〇 一部の遡江作戦揚陸効程発揮のため第一次輸送船には独工一ケ連隊程度

 (所要舟艇共)を前送する如く努む

二一 揚陸地碇泊場司令部は根本部隊と予定し三月十日を目途とし之れが推進を

 実施す

    第十一 其他

二二 △△方面海図三百部を二月末日を目途とし西貢に準備す

二三 本輸送を勇作戦輸送と称呼す

二四 防諜機秘密保持に□遺憾なきを期す


 第一次輸送は第五十六師団主力を中心として輸送した。

 輸送船は

   低速船   三二隻

   高速船   十一隻

で、護衛する海軍艦船は、巡洋艦「香椎」海防艦「占守」駆逐艦「旗風」「朝風」「松風」が務め、三月十九日新嘉坡を出港し、二十四日ラングーンに到着。


 第二次は第十八師団を輸送。

 輸送船   四十五隻

 護衛艦  巡洋艦「香椎」「占守」

      駆逐艦「敷波」「旗風」

      水雷艇「雁」

      駆潜艇 第八号

 で四月二日新嘉坡出港、七日ラングーン着。


 第三次輸送は坂口支隊その他を輸送

 輸送船   三十二隻

 護衛艦  駆逐艦「初鷹」「朝風」「秋風」

      第十一駆潜隊

      水雷艇「雁」

 で四月十三日新嘉坡出港、十九日ラングーン着。


 第四次輸送はその他部隊を輸送

 輸送船  十四隻

 護衛艦  第九特別根拠地隊兵力

 で四月二十二日新嘉坡出港、二十八日ラングーン着。

 

 このU作戦中、喪失した輸送船は四月一日ペナン沖七〇浬付近で英潜水艦トルーアントにより撃沈された八重丸(六七八〇トン)と春晴丸(四九四九トン)の二隻があるが、帰りの船で空船であったことが幸いであった。(筆者註・「戦史叢書には春日山丸と春生丸と記載されているが、船舶運営会の「喪失船舶一覧表」によれば、八重丸と春晴丸となっている)


 

 この輸送作戦に先立ち、ラングーンに設置される第十二特別根拠地隊は、司令官石川茂少将指揮の下に、三月二十日ペナン港を出発し、二十二日夕刻イラワジ河河口のエレファントポイントに進出して、河川の水中障害物を調査して障害物がないことを確認し、河を遡航して二十三日夕刻ラングーンに進出して、輸送船団の到着を待った。


 一方中支に残留していた第三十三師団のうち、歩兵第二百十三連隊と山砲兵第三十三連隊、輜重兵第三十三連隊などの諸部隊は、三月六日から八日にかけてバンコクに進出し、陸路ラングーンに向かった。


 これより先、陸海軍は中・北部スマトラの攻略、アンダマン諸島の攻略、クリスマス島の攻略、ベンガル湾機動作戦、インド洋機動作戦を遂行することを計画していた。

 次話からビルマの陸戦からこのスマトラからセイロン島にかけての戦闘について展開したい。

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