第三七話 世界情勢判断⑵

第四問題 対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案

  方 針

一、速に極東に於ける米英蘭の根拠を覆滅して自存自衛を確立すると共に更に積

 極的措置に依り蒋政権の屈服を促進し独伊と提携して先づ英の屈伏を図り米の

 継続意志を喪失せしむるに勉む

二、極力戦争対手の拡大を防止し第三国の利導に勉む

  要 領

一、帝国は迅速なる武力戦を遂行し東亜及西南太平洋に於ける米英蘭の根拠を覆

 滅し戦略上優位の態勢を確立すると共に重要資源地域竝主要交通線を確保して

 長期自給自足の態勢を整う

 凡あらゆる手段を尽して適時米海軍主力を誘致し之を撃滅するに勉む

二、日独伊三国協力して先づ英の屈伏を図る

 ⑴ 帝国は左の諸方策を執る

  ㋑ 濠洲印度に対し政略及通商破壊等の手段に依り英本国との連鎖を遮断し

   其の離反を策す

  ㋺ 「ビルマ」の独立を促進し其の成果を利導して印度の独立を刺戟す

 ⑵ 独伊をして左の諸方策を執らしむるに勉む

  ㋑ 近東きんとう北阿ほくあ、「スエズ」作戦を実施すると共に印度に対し施策を行う

  ㋺ 対英封鎖を強化す

  ㋩ 情勢之を許すに至らば英本土上陸作戦を実施す

 ⑶ 三国は協力して左の諸方策を執る

  ㋑ 印度洋を通ずる三国間の連絡提携に勉む

  ㋺ 海上作戦を強化す

  ㋩ 占領地資源の対英流出を禁絶す

三、日独伊は協力し対英措置と並行して米の戦意を喪失せしむるに勉む

 ⑴ 帝国は左の諸方策を執る 

  ㋑ 比島の取扱は差し当り現政権を存続せしむることとし戦争終末促進に資

   する如く考慮す

  ㋺ 対米通商破壊戦を徹底す

  ㋩ 支那及南洋資源の対米流出を禁絶す

  ㋥ 対米宣伝謀略を強化す

    其の重点を米海軍主力の極東への誘致竝米極東政策の反省と日米戦無意

   義指摘に置き米国与論の厭戦誘発に導く

  ㋭ 米濠関係の離隔を図る

 ⑵ 独伊をして左の諸方策を執らしむるに勉む

  ㋑ 大西洋及印度洋方面に於ける対米海上攻勢を強化す

  ㋺ 中南米に対する軍事、経済、政治的攻勢を強化す

四、支那に対しては対米英蘭戦争特に其の作戦の成果を活用して援蒋の禁絶、抗

 戦力の減殺を図り在支租界の把握、南洋華僑の利導、作戦の強化等政戦略の手

 段を積極化し以て重慶政権の屈伏を促進す

五、帝国は南方に対する作戦間極力対「ソ」戦争の惹起を防止するに勉む

 独「ソ」両国の意嚮に依りては両国を媾和せしめ「ソ」を枢軸側に引き入れ他

 方日蘇関係を調整しつつ場合に依りては「ソ」蓮の印度「イラン」方面進出を

 助長することを考慮す

六、仏印に対しては現施策を続行し

  泰に対しては対英失地恢復を以て帝国の施策に協調する如く誘導す

七、常時戦局の推移、国際情勢、敵国民心の動向等に対し厳密なる監視考察を加

 えつつ戦争終結の為左記の如き機会を捕捉するに勉む

 ㋑ 南方に対する作戦の主要段落

 ㋺ 支那に対する作戦の主要段落特に蒋政権の屈伏

 ㋩ 欧州戦局の情勢変化の好機特に英本土の没落、独「ソ」戦の終末、対印度

  施策の成功

  之が為速に南米諸国、瑞典スウェーデン、葡国、法王庁等に対する外交竝宣伝の施策を強

  化す

  日独伊三国は単独不媾和を取極むると共に英の屈伏に際し之と直に媾和する

  ことなく英をして米を誘導せしむる如く施策するに勉む

  対米和平促進の方策として南洋方面に於ける錫、護謨の供給及比島の取扱に

  関し考慮す


第五問題

  帝国の資源圏を如何にすべきや

   判 決

 帝国資源圏は日満支及西南太平洋地域とし自給生産力の拡大を期し濠洲印度等は之が補給圏たらしむるものとす

   説 明

 本資源圏は大東亜新秩序建設の基幹たるべき帝国戦力の劃期的充実拡大を期する為必要なる石油、鉄鉱石、石炭、「ボーキサイト」並に大東亜の必要とする食糧及被服原料資源に付其の将来の需給、推定寿命並に世界的地位を勘案し決定するものなり

   説 明

 今後概ね十五年を期し大東亜の需給関係を達観し其の生産力拡充目標を左の如く概定す

  ⑴ 鉄 鋼      三千万噸

   ㋑ 鉄鉱石   約 六千万噸  

   ㋺ 粘結炭         約一億二千万噸

  ⑵ 石炭(前掲粘結炭を除く) 約   二億噸

  ⑶ アルミニューム      約  六十万噸

    ボーキサイト        二百六十万噸

  ⑷ 石油              二千万噸

  ⑸ 船舶総噸数        二千万噸

                (外に油槽船二百万噸)

一、石油

 天然石油資源は米州圏及欧亜圏は今後二十年乃至三十年にして枯渇の状態に入るべく従って新規開発油田地帯として西南太平洋地域(スマトラ、ビルマ)及イランイラクの石油資源は今や世界的に重要なる地位を占め前者を把握する帝国の石油地位は世界的に比較的有利の地位を占むべし

二、石炭

 ㋑ 褐炭

  天然石油資源の世界的枯渇に伴い概ね今後二十年乃至三十年にして人造石油

 之に代替するに至るべく、現技術を以てすれば原料炭として褐炭の需要新たに

 著しく増大すべし

  褐炭に付米州圏は特に豊富なる資源を擁し、日満支のみを以てしては欧亜圏

 に対しても著しく劣勢にして、濠洲及東部シベリヤの其を合せ之に匹敵すべし

 ㋺ 粘結炭

  鉄鋼生産の劃期的拡大に伴い其の四倍の粘結炭を要し之を差当りは北支に依

 存するを得べきも恒久的には十分ならず 印度粘結炭を合し欧亜圏に匹敵する

 程度なり

㋩ 無煙炭

  世界的に優位を確保しあり

三、鉄鉱石

  鉄鋼生産の劃期的拡大に伴い大東亜内の鉄鉱石のみを以て其の恒久的基礎と

 するに十分ならず 印度濠洲の夫れを合せ初めて欧亜圏及濠洲圏に匹敵するに

 至るべし

四、アルミニューム

  大東亜に於けるボーキサイト、礬土頁岩等のアルミ原料賦存は世界的に有力

 なり

五、食糧

 米は大東亜に於て自給し得るも、満支食糧充足の為め満州の小麦をば必要とす

六、被服原料

  大東亜人口の被服原料としての羊毛綿花需要は日満支及西南太平洋諸地域の

 増産改良を以てしても十分ならず 印度棉花及濠洲羊毛を必要とすべし

  之を要するに資源圏は大東亜の資源立地及将来の需給関係より其の賦存範域

 を概定せるものにして努めて日満支及西南太平洋地域資源を根幹として自給生

 産力の拡大を期し、濠洲印度は差当り之が補給圏たらしむるものとす


第六問題 

 大東亜戦争の現情勢に於て帝国指導下に新秩序を建設すべき大東亜の地域

 

 判 決

 近き将来に於ける情勢に対し軍事、政治、経済文化等各般に亘り帝国の指導下に把握し新秩序を建設すべき大東亜の地域を左の如く概定す

 日満支及東経九十度より東経百八十度迄の間に於ける南緯十度以北の南方諸地域

 其の他の地域に関しては情勢の推移に依り決定す


第八問題

 占領地より物資取得の現状竝に将来の見透し

一、物資取得の現状(一月末調)

物資名         陸軍       海軍

普通揮発油    約二五、〇〇〇竏    ー

航空原料揮発油     ー      約二六、〇〇〇竏


重   油    約四五、〇〇〇竏  約一六、〇〇〇竏

原   油       ー      約一二、〇〇〇竏

潤 滑 油       ー      約 二、〇〇〇竏

其他各種燃料    若 干        若 干

ゴ   ム    約 二、〇〇〇瓲     ー

錫        約 一、二〇〇瓲     ー

マニラ麻        ー      約 二、三三四瓲

被服、糧秣     多 数         ー

木   材       ー        若 干

二、将来の見透し

 ㋑ 一般物資

  下記の如く未占領又は調査未済なる処多く現状猶確度大なる予測をなし得ざ

 るも従来の実績に徴し極力努力すれば概ね予定計画量の取得可能なりと認む

  1、馬来半島の資源は予定計画量の取得可能なるべし

  2、比律賓は重要鉱山の破壊程度判明せざる所多きを以て正確なる予測困難

   なるも概ね予定計画の取得には大なる支障なき見込なり

 ㋺ 石油

   現状に於ける取得見込量左の通

  1、昭和十六年度

    英領ボルネオ    一、四〇〇竏

    タラカン地域    二、〇〇〇竏

  2、昭和十七年度

    英領ボルネオ    七〇〇、〇〇〇竏

    タラカン地域    二五〇、〇〇〇竏

    サンガサンガ地域  三〇〇、〇〇〇竏

    南部スマトラ    五〇〇、〇〇〇竏

      計      一七五〇、〇〇〇竏

 以上の如く南方取得量はは開戦前予想せるものよりも若干増加の見込

 但し航空燃料の取得に関しては依然大なる努力を要する実情なり


第十二問題の前半

 国民生活確保の具体的方策

一、国民生活最低限度の劃定

 国民生活の最低限度の劃定に付えtは衣食住の各部面に亘りて之を為すの要ある所衣に付ては既に実施せる切符制度に依り一応其の限度を劃したるものと謂うべく又住に付ては釘等の鉄鋼製品を除き当面多少の時間的余裕あるに顧み差当り食に関する最低限度を確保することを主旨として方策を講究するものとす

  判 決

 国民生活最低限度維持の為には概ね別表記載の如き昭和十五年又は十六年程度の各種食品を確保するを要す

  理 由

 人口一人一日当り要確保最低栄養量は熱量二、〇〇〇カロリー判定せらるる所別表記載総食品の人口一人一人当り栄養量は熱量二、〇八八カロリーにして概ね上記最低量なるに依る

二、国民最低生活確保の方策

 ⑴ 前掲各種食品の供給を確保する為其の生産に付必要なるあらゆる努力をおし

  まず物資動員計画上原材料を始め肥料其の他の所要物資を確保し及輸送を最

  先順位に取扱うものとし之が為他の生産拡充に影響を及ぼすも之を忍ぶもの

  と尚す

  価格政策に付改善を加うるものとす

 ⑵ 右食品の確保に付ては米、麦、味噌、塩、魚介に特に重点を置き比較的短

  期間に付ては上掲五種食品をして他の食品に依る栄養量に代替せしむるも已

  むを得ざるべし

 ⑶ 右に伴い必要已むを得ざる場合には海上輸送を米、大豆、塩に限定す

 ⑷ 魚介の収穫及主要食品の輸送を確保する為必要なる燃料を優先確保す

 ⑸ 食品の配給に関しては一層其の機構を整備し統制の方式及其の緩厳を適正

  にし府県等の区域に依る流通の阻害等を極力排除し又其の配分に付ては形式

  的の公平に拘泥することなく努めて実質に即するが如く配慮す

 ⑹ 右に関連し差当り昭和十七年三月より十八年三月迄に於て青少年、重労働

  者、妊婦等に対し飯米三百五十七万五千石を特配す

 ⑺ 右措置にも関連し昭和十七年米穀年度(自昭和十六年十一月至昭和十七年

  十月)に於ける左記外地米及外国米の取得を確保す 但し外地米の取得困難

  なるときは其の不足分を外国米に振替うるものとす

    朝鮮より         七百万石

    台湾より       二百十五万石

     外地米計      九百十五万石

    仏印及泰より   九百三十万四千石

    ビルマより(九月及十月)

              三十三万六千石

     外国米計     九百六十四万石

    総計       千八百七十九万石

 尚右の外昭和十七年十一月以降昭和十八年三月迄に

 ビルマより百三十七万5千石の輸入を予定す

⑻ 右外地米及外国移輸入の為昭和十七年三月より昭和十八年三月迄に外地及外国に対し左の輸送を確保するものとす

  

 朝鮮       一、四一一千屯

 台湾         四五六千屯

 仏印・泰     一、九四六千屯

 ビルマ        二八六千屯

 ⑼ 右輸送計画実行の為には既定輸送計画に影響を及ぼすべき所努めて輸送能

  率の増強(軍徴用船の活用を含む)に依りて之を賄うものとするも相当に他

  物資の輸送を削減するを要すべく場合に依りては軍徴用船の解傭も考慮する

  ことを要することあるべし

 ⑽ 尚

  ㋑ 朝鮮米七百万石の内地移入に伴い満洲より朝鮮に対する二十万屯の雑穀

   輸出を確保するものとす

  ㋺ 右飯米の特配は上掲各措置の見込つきたるときは貯蔵米の流用に依り三

   月より実施するものとす

  ㋩ 上掲の我方の外国米確保に伴い昭和十七年二月二十四日第六委員会に於

   て決定せる「大東亜共栄圏食糧需給に関する暫定措置の件」に依る南方各

   地域に対する米穀の配当数量は修正せらるることあるものとす

 ⑾ 上掲標準食糧にては脂質及蛋白質特に脂質に於て著しく不足し居るを以て

  今後漸次改善するの方法を講ずるものとす

(備考)

 医薬品に付ても其の必要量を確保するの要ある処之に関しては別途之を立案す

 (参考資料 省略)


第十三問題

第一 船腹の現状及将来推移

一、現状

 ⑴ 昭和十六年十二月の百噸以上の汽船全船腹量六四九万総噸にして油槽船、

  冷凍船、官庁用船、特殊雑船、徴用船、修繕船、喪失海難等を除き重要物資

  輸送使用船腹一七四万総噸(定期船五八万総噸、不定期船一一六万総噸)其

  の輸送量二四一万噸なり

 ⑵ 昭和十七年一月より三月迄の重要物資輸送船腹は月平均一五九万総噸にし

  て重要物資輸送量月平均二一六万噸となり、之を十六年度第一及第二、四半

  期の月平均五〇〇万噸に比すれば四三%なり

 ⑶ 十六年度に於ける重要物資輸送状況は左の如し

  ㋑石炭

   第一、四半期 八、〇四五千噸前年同期に対し一二〇%

   第二、四半期 七、一〇九    〃     九四%

   第三、四半期 五、〇〇九    〃     七四%

   第四、四半期 四、〇九九    〃     六九%

    計    二四、二六二    〃     九〇%

  ㋺鉄鉱石

   第一、四半期 一、九一四千噸前年同期に対し一六三%

   第二、四半期 一、三〇〇    〃    一〇五%

   第三、四半期   九七七    〃     六四%

   第四、四半期   八〇七    〃     八二%

    計     四、九九八    〃    一〇一%   

  ㋩塩 

   第一、四半期   五一三千噸前年同期に対し一五二%

   第二、四半期   五一四    〃    一二六%

   第三、四半期   四二九    〃     九一%

   第四、四半期   三四〇    〃    一三八%

    計     一、七九六    〃    一二三%

  ㋥米

   第一、四半期   九三一千噸前年同期に対し二四〇%

   第二、四半期   七七八    〃    一八六%

   第三、四半期   三二七    〃    一〇二%

   第四、四半期   三八一    〃     七五%

    計     一、四二七    〃    一四八%

 (註) 重点輸送の結果右の如き成績を維持せるものなり

二、将来推移

 ⑴昭和十七年度左の如く造船、外国傭船修理を予定し拿捕、喪失大破を予想す

 其の一

                 (単位千噸)

        造船  外国傭船  長期修理  短期修理

 十七年三月 二二、七 二八、四 一〇〇、〇 一五〇、〇

    四月 二五、〇 六五、一 一二〇、〇 一八八、〇

    五月  〃   九四、一   〃   一九六、〇 

    六月  〃    〃     〃   二〇〇、〇

    七月 二九、〇  〃     〃   二一〇、〇

    八月 三三、〇  〃     〃   二五〇、〇

    九月  〃    〃     〃     〃

    十月 三七、〇  〃     〃     〃

   十一月  〃    〃     〃     〃

   十二月 四一、〇  〃     〃     〃

 十八年一月  〃    〃     〃     〃

    二月  〃    〃     〃     〃

    三月 四五、〇  〃     〃     〃

(註)

 ㋑ 毎月現在量にして各月増加量に非ず

 ㋺ 独乙、仏印よりの傭船を契約通り解傭する場合は七月

   以降各月五四、五千噸となる

 其の二  (省略)

⑵ 昭和十八年度以降に於ける造船量は概ね左の如く予定するも同期間に於ける

 船舶量の増減に付ては昭和十七年度上半期実績を見定めたる上遅くも十七年度

 末迄之を定む

   左 記

  十八年度造船量      六五万噸

  十九年度造船量      八五万噸

⑶ 右使用船腹に拠る昭和十四年度以降十九年度に至る輸送力の推移は徴用船に

 付既定計画通り実施するとせば左の如し

  十四年度      六二、六〇二千噸

  十五年度      六七、一五九

  十六年度      四七、四七五 

  十七年度      五〇、六三〇

  十八年度     約六〇、〇〇〇

  十九年度     約七〇、〇〇〇

⑷ 十七年度以降前項輸送力に依るとき之が物資動員との関係に付考察するに

 ㋑各年度年間を通じては南方物資の取得計画量を処理し得るの外満支及仏印泰

 よりの重要物資輸送量逓増し十九年度末期に至れば概ね重要なる総動員物資輸

 送は之を処理し得べし

  但し上半期は各年度を通じ隘路をなし特に十七年度に於ては物資動員計画上

 甚だしき困難なり  

 ㋺南方地域相互間及対支間の交流物資輸送を処理する為には十九年度末期に至

 るも前号の総動員物資輸送量中より之を充足するの他なし

  第二 船腹増強対策

一、方 針

 船舶輸送力が物的国力の維持増強上絶対隘路なるに鑑み行政力を挙げて船腹増加及輸送能率の増進の方途に集中施策すると共に徴傭船舶に関し厳に其の既定計画通り実施し又右に依る総動員物資輸送の実現に努む

二、要 領

 船舶輸送力の隘路を打開する為め現に為しつつある輸送力増強の諸施策を促進するの他輸送力の負担軽減に関し左の如き施策を併せ為すを要す

 ⑴造船の急速増強及鉄鋼増産実施上左の如き循環矛盾を有す

  造船増強の為には → 鋼材増産を要す之が為めには →

  石炭及鉄鉱石輸送を増大するを要す之が為めには →

  船舶輸送力増大を要す

  而して之が唯一の打開策は石炭鉄鉱石の輸送量を減少し得る方法即ち屑鉄に

 依る鉄鋼増産の他途なし之が為め屑鉄回収及産業設備整理に伴う屑鉄供出に関

 する既定方針を強行するの他占領地に於ける屑鉄蒐集を速かに計画的に実施す

 るを要すべし

 ⑵輸送力の重要部分を占むる石炭の輸送量の軽減を企図する為洗炭状態を更ら

 に改善するを要す之が為め要すれば洗炭設設備を国家管理し之を整備拡充する

 等の非常手段を強行するの要あるべし

 ⑶尚既定計画として之が実現を促進すべき主なる事項は左の如し

 1 戦時標準船の決定及計画造船

 2 港湾荷役の能率増進及出荷統制機構の確立

 3 機帆船の計画輸送体制の整備

 4 船員の養成等船員対策

  第三 昭和十七年度船舶運用の基準

 将来左記既定の陸海軍徴用船船舶量を変更するときは改めて大本営政府連絡会議に於て決定するものとす

 右に依り政府は最小限度所要総動員物資輸送量を確保すると共に往航に方り極力軍需輸送に協力せしむ尚陸海軍は其の徴傭船を以て極力総動員物資の輸送に協力す

       陸軍徴傭船       海軍徴傭船

 三月  二、一四四、四〇〇噸  一、五六〇、〇〇〇噸

 四月  一、七四四、四〇〇   一、四八〇、〇〇〇

 五月  一、六九四、四〇〇      〃

 六月  一、五四四、四〇〇      〃

 七月  一、〇四四、四〇〇      〃

 八月       〃         〃

 九月       〃         〃

 十月       〃         〃

十一月       〃         〃

十二月       〃         〃

 一月       〃         〃

(備考)

 ⑴本船舶量は百噸以上の貨物船及客貨船とす

 ⑵Aの七月以降の徴傭船に就ては別に約二十万噸を必要とする事情あるに依り

 引揚船の促進、拿捕船、機帆船、木造船等の利用促進を強化し別途之に応ずる

 如く努力するものとす

 ⑶其他の船舶量に関しては昭和十六年十月連絡会議に於ける企画院総裁の説明

 資料とす

 (別紙資料 省略)

                      以上


 世界情勢判断の中で面白いのは、石油の枯渇に触れていることである。石油の枯渇は、この後、戦後のオイルショックで騒がれ、その後も枯渇が話題になったが、枯渇の記事は政治的パフォーマンスであることが判明すると、今度は環境問題へと話題をすり変えたことだ。まだ、石炭からの人造石油にも触れている。当時、人造石油の開発にドイツ、日本が研究していたのである。日本は人造石油の開発は無理であったが、最終的にはしなくても石油はあり余るほどあるのだ。

 資源の輸送に関する船舶の問題が日本には重要な点である。船舶関係の見込みが甘かったのが、重要なことであったが、戦局の悪化が船舶の喪失量が膨大となり、造船をフル回転しても計画通りにはいかなかった。戦時標準船の採用で建造コスト、建造期間の短縮を図っても成り立たなかった。戦時標準船は各種形式にのっとり約一千隻も建造された。

 そして、食糧の確保、屑鉄などの資源の確保も重要問題として議論されたのである。


(参考文献) 順不動

 この章を執筆するにあたり、以下の文献資料を参考とさせていただきました。

防衛庁防衛研修所戦史室  「戦史叢書 海軍進攻作戦」

             「戦史叢書 陸軍航空作戦」

             「戦史叢書 蘭印攻略作戦」

          「蘭印・ベンガル湾方面海軍進攻作戦」

                    朝雲新聞社 

参謀本部編 「杉山メモ下」 明治百年史叢書 原書房

佐藤暢彦著 「一式陸攻戦史」 潮書房光人新社 二〇一九

巌谷二三男著 「雷撃隊、出撃せよ!」 文芸春秋 二〇〇三

神立尚紀著 「零戦隊長宮野善次郎の生涯」潮書房 二〇一六

梅本弘著 オスプレイ軍用機シリーズ56「第二次大戦の隼のエース」

                    大日本絵画 二〇一〇

檜与平著 「つばさの血戦」 光人社 昭和四二年

歴史群像シリーズ「決定版太平洋戦争3 南方資源と蘭印作戦」 学習研究社 

歴史群像 No.102「蘭印進攻作戦」 学研パブリッシング 

歴史群像 No.70 (『ベルリン攻防戦』伊吹秀明著「スラバヤ沖海戦」)

                 学研パブリッシング

歴史群像 太平洋戦史シリーズ17「伊号潜水艦」 学習研究社

丸エキストラ別冊「戦史と旅4 重巡洋艦の戦歴」潮書房

丸エキストラ版第三八集「米空軍を翻弄した”ZERO”」潮書房

丸エキストラ版第四一集 徳永悦太郎・山辺雅男「日本陸海軍空挺部隊かく戦えり」                      潮書房

丸エキストラ版第五三集 奥本実著「”空の神兵”パレンバン上空の誓い」

                        潮書房

丸エキストラ版第三六集 森富士雄著 「メナド・クーパン降下作戦」

                        潮書房

丸エキストラ版第二九集 田中国義著 「空の要塞を叩き落とした零戦の闘魂」                      潮書房

丸エキストラ版第二六集 山川新作著「急降下爆撃隊」潮書房

丸エキストラ版第三七集 泉雅爾著「世界一を誇った日本海軍の酸素魚雷」  

                         潮書房

丸別冊太平洋戦争証言シリーズ⑧『戦勝の日々』 潮書房

 板津辰雄著「真珠湾から印度洋へ」

 原久吉著 「東海林支隊ジャワ奇襲攻略記」

 渡辺大二著 「第八駆「満潮」バリ島沖海戦記」

 宇都宮道生 「羽黒水偵上空から見たスラバヤ沖海戦」

「第79回帝国議会・貴族院議事録・昭和16.12.26~昭和17.3.25」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.A07050037100、(国立公文書館)

「第16軍 爪哇作戦記録」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14110688600、第16軍 爪哇作戦記録(防衛省防衛研究所)

「治集団情報記録 第9号(ジャワ攻略作戦経過の概要)」 昭和17年3月30日」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14110767800、昭和17年3月30日(防衛省防衛研究所)

「昭和17年1月11日~昭和17年2月3日 第1特別陸戦隊戦闘詳報」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030284200、(防衛省防衛研究所)

「昭和16年12月16日~昭和17年2月28日 第5戦隊戦闘詳報戦時日誌」」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030042200、(防衛省防衛研究所)

「昭和17年1月4日~昭和17年1月17日 第2水雷戦隊戦時日誌」」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030088900、(防衛省防衛研究所)

「昭和17年1月1日~昭和17年1月31日 第2水雷戦隊戦時日誌」」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030089600、(防衛省防衛研究所)

「昭和17年2月1日~昭和17年2月28日 第2水雷戦隊戦時日誌」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030092300、(防衛省防衛研究所)

「昭和17年2月24日~昭和17年3月11日 第2水雷戦隊戦闘詳報」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030093300、(防衛省防衛研究所)

「昭和17年1月18日~昭和17年2月16日 蘭印部隊第2護衛隊戦闘詳報」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030090800、(防衛省防衛研究所)

「昭和17年2月16日~昭和17年2月24日 蘭印部隊第2護衛隊戦闘詳報」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030091800、(防衛省防衛研究所)

「昭和17年2月1日~昭和17年5月31日 第3水雷戦隊戦時日誌戦闘詳報」」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030104800、(防衛省防衛研究所)

「昭和17年1月1日~昭和17年1月20日 第4水雷戦隊戦時日誌戦闘詳報」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030108600、(防衛省防衛研究所)

「昭和17年1月21日~昭和17年1月31日 第4水雷戦隊戦闘詳報」」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030109500、(防衛省防衛研究所)

「昭和17年2月1日~昭和17年2月28日 第4水雷戦隊戦時日誌」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030110000、(防衛省防衛研究所)

「昭和17年2月8日~昭和17年3月10日 第4水雷戦隊戦闘詳報」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030110500、(防衛省防衛研究所)

「表紙 「昭和17年1月1日~昭和17年3月19日 第5水雷戦隊戦時日誌戦闘詳報」」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030118800、(防衛省防衛研究所)

「昭和17年1月~昭和17年2月 呉1特(アンボン飛行場攻略) 戦闘詳報」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030732400、(防衛省防衛研究所)

「昭和16年12月8日~昭和17年2月6日 特設水上機母艦讃岐丸戦闘詳報」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030657500、(防衛省防衛研究所)

「昭和17年2月7日~昭和17年4月13日 特設水上機母艦讃岐丸戦闘詳報」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030658200、(防衛省防衛研究所)

「南方作戦間陸海軍協同関係綴」 昭和16年11月16日~昭和17年2月28日」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14060092100、(防衛省防衛研究所)

JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.B02130173500、英領北ボルネオ(南洋-1)(外務省外交史料館)

JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.B02130180200、蘭領東印度概説(南洋-5)(外務省外交史料館)

「ジャバ」攻略戦行動詳報」 昭和17年1月5日~17年3月14日」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14110626400、(防衛省防衛研究所)

「東海林支隊上陸計画(バタビヤ.ボジョネゴロ.メラク.チカンペク.バンドン) 昭和17年2月3日」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14110677900、(防衛省防衛研究所)

「東方支隊アンボン.チモール攻略作戦 昭和22年6月調製」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C19100008200、(防衛省防衛研究所)

「バリックパパン攻略作戦に関する件 昭和22年6調製」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C19100009000、(防衛省防衛研究所)

「バンゼルマシン攻略作戦に関する件 昭和22年6調製」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C19100009400、(防衛省防衛研究所)

「タラカン島攻略作戦に関する件 昭和22年6調製」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C19100009800、(防衛省防衛研究所)

「大東亜戦争 南方進攻 大東亜戦史 蘭印航空作戦」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C19010242700、(防衛省防衛研究所)

「爪哇スマトラ方面航空作戦記録 昭和21年8月調整」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C16120041800、(防衛省防衛研究所)

「戦闘詳報 自昭和17年1月7日至昭和17年1月16日」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14110672300、第16軍混成第56歩兵団高射砲第44大隊 戦闘詳報(タラカン島)(防衛省防衛研究所)

「昭和16年11月20日~昭和17年4月30日 第1号哨戒艇戦時日誌戦闘詳報」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030620400、(防衛省防衛研究所)

「各航空母艦飛行戦隊行動調書」(アジア歴史資料センター)(防衛省防衛研究所)

「各基地航空隊行動調書」(アジア歴史資料センター)(防衛省防衛研究所)

「昭和17年1月12日~昭和19年1月1日 大東亜戦争戦闘詳報戦時日誌 第8戦隊」」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030048000、(防衛省防衛研究所)

「独立工兵第26連隊第2中隊 第1小隊戦闘詳報」 昭和17年2月9日~17年3月3日」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14110652200、(防衛省防衛研究所)

「昭和16年12月13日~昭和17年3月26日 第7戦隊戦時日誌戦闘詳報(6)」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030046700、(防衛省防衛研究所)

「昭和17年3月11日~昭和17年5月17日 第5戦隊戦時日誌戦闘詳報(1)」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030043000、(防衛省防衛研究所)

「昭和17年2月8日~昭和17年3月10日 第4水雷戦隊戦闘詳報(6)」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030111100、(防衛省防衛研究所)

                 (以上)

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