第三四話 海軍部隊の活躍

 南雲中将指揮する機動部隊は、蘭印作戦に呼応する形で、連合国軍の基地や艦船を攻撃した。ポートダーウィン攻撃では、それなりの戦果を挙げたが、それでもその内容は小型艦艇と商船ばかりで不満の残る攻撃でもあった。連合国軍の主力艦艇はまだ残存していたが、其後海軍航空隊と巡洋艦部隊により攻撃で、連合国艦隊は壊滅した。機動部隊はスターリング湾に投錨し、補給したのちに、ジャワ作戦協力にむけ、二月二十五日同湾を出撃した。


 二十七日、空母ラングレー発見の報が届いたが、陸攻隊の爆撃により沈没した。三月一日、午前七時、機動部隊はクリスマス島の一五〇度一四〇浬付近で、蘭商船モッドヨカード号(八〇八二トン)、米給油船ペコス、米駆逐艦エドソールを発見撃沈した。

 特務艦ペコス、駆逐艦エドソールの撃沈については、空母部隊は艦爆六十二機を出撃させ、第三戦隊の戦艦二隻、第八戦隊の重巡二隻は大量の主砲を発射してようやく撃沈したのであって、十分反省材料としては大きな戦闘であった。艦爆隊も対空砲火によって被弾機二十機の損傷を受け、内一機は着艦後火災の為放棄されている。負傷者も軽傷二名を生じていた。ペコスもエドソールも操舵技術がよく、艦長の避弾指示が適確であったのであろう。


 この時の爆撃の模様が山川一飛(加賀)の手記に残されている。

『特務艦ペコスを発見。味方編隊の高度は五、〇〇〇メートル。爆撃には絶好の天候である。

 編隊解散で突撃隊形をつくる。敵はさかんに高角砲をうちあげてくるが、なんのことはない。

 まず指揮官機が急降下に入った。続いて二番機、三番機と次々に突っ込んでいく。

 敵艦はまっしぐらに直進するかたわら、ポムポム砲を射ちあげてくる。

 一番機が投弾し、ぐっと機首を引きおこした瞬間、ぺコスは最大速力で航跡を真白く長く引きながら右に変針した。

 その航跡が弧を描くと見たとたん、艦首の左前方に大水柱があがった。

 続いて二番機が投弾。

 艦は面舵一杯で必死の形相が感じられる。が、二番機は惜しくも一番機と同様、艦首の左前方に大水柱をあげた。

 ペコスの航跡は早くも四十五度方向に変わった。ついで三番機投弾。敵艦は、物凄く傾斜しながらも転舵している。またも爆弾はそれた。

 惜しい。

 敵ながら大したものである。見事にわが爆弾をはずしていく、艦長の腕の程はなかなかりっぱだと思った。

 四番機、五番機と続いて投弾したが、ペコスは依然面舵一杯、すでに針路を九十度以上変針している。

 六番機、七番機、八番機と続いて、四百五十メートルの高度から投下するのだが、いずれも完全にそれてしまった。海中に没した爆弾の跡が、白い波紋を残して航跡と併行している。

 おかげで、わたくしにも順番がまわってきた。

 ただ一発しかもたない爆弾である。責任は重い。

 急降下に移った。

 高度はグングン下がっていく。四、〇〇〇メートル、二、〇〇〇メートル。

 敵艦からは、機銃をしきりに射ちあげてくる。その間、八発の爆弾をものの見事にさけた敵艦に、ちょっとの油断が感じられた。

 瞬間、爆弾は全く無意識のうちに投下されていた。

 ぐうーっと操縦桿を引くと同時に、機を傾斜させてみた。

 船全体が浮きあがったと見えたとたん、ちょうど船の中央部の高角砲を射ち上げていた付近に、猛烈な火煙が噴きあがった。

「やった!」

 全くたとえようもなくうれしかった。』

(山川新作著「急降下爆撃隊」丸エキストラ版No.26『艦攻と艦爆』 潮書房)


 機動部隊はチラチャップ港の攻撃に向かい。五日には港外にて蘭国武装商船「エンガノ」を砲雷撃により撃沈。同日のチラチャップ攻撃では、商船大型四、中型十五の撃沈、地上軍事施設の破壊、小艦艇一の戦果をあげた。


 攻撃隊の指揮官は淵田中佐。編成は次の通り。

 空母 赤城

  艦攻隊 淵田中佐指揮 十八機 八〇〇㌔×一八

  制空隊 板谷少佐指揮  九機

 空母 加賀

  艦攻隊 橋口少佐指揮 二七機 八〇〇㌔×二七

  制空隊 志賀大尉指揮  九機

 空母 蒼龍

  艦攻隊 阿部大尉指揮 一八機 八〇〇㌔×一八

  艦爆隊 江草少佐指揮 一六機 二五〇㌔×一六 

  制空隊 菅波大尉指揮  九機

 空母 飛龍

  艦攻隊 楠美少佐指揮 一七機 八〇〇㌔×一七

  艦爆隊 小林大尉指揮 一七機 二五〇㌔×一七

  制空隊 重松少佐指揮  九機


 七日、別働隊となった第三戦隊と駆逐艦がクリスマス島を砲撃した。また同じ日蒼龍の母艦機は武装商船二隻を発見しこれを撃沈し、十一日機動部隊はスターリング湾に帰った。


 一方、南方部隊本隊は、チラチャップの南方約七〇浬の付近にあり、三月一日に挙げた戦果は、撃沈商船四隻、一隻炎上、一隻拿捕であった。二日には「早潮」が千トン級のオランダ船を拿捕した。

 其後、基地航空部隊より、敵軽巡一隻発見の報告があり、近藤中将は、重巡「愛宕」「高雄」に対して撃滅するよう命令を下した。

 「愛宕」「高雄」は速力を二十六ノットにあげ南下、二二〇〇頃に七三度方向距離一万八千に敵らしき艦影を認めた。艦型を調べると米巡マーブルヘッド型であることが判明し、二二二五距離五千二百米にて照射砲撃を開始し、二二三二にこれを撃沈した。しかし、この艦は「マーブルヘッド」ではなく、駆逐艦「ピルスバリー」であった。同駆逐艦は四本煙突であり、軽巡と見間違えたのであった。同艦の生存者はなく、米国側がその最期を知ったのは、戦争終結後であったという。「高雄」艦内で発行された週報号外にはこの戦闘の経過詳報が図入りで解説されている。

《「昭和16年~昭和17年 大東亜戦争綴 (第4戦隊高雄)(6) 」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08030743600、昭和16年~昭和17年 大東亜戦争綴 (第4戦隊高雄) (防衛省防衛研究所)》


 「マーブルヘッド」は陸攻隊の爆撃により損傷してセイロン島に向けて脱出していた。また、他に発見した駆逐艦に対しては、重巡「摩耶」と駆逐艦二隻が追及しており、こちらも英駆逐艦「ストロングホールド」を発見し、一九一二「摩耶」が砲撃を開始、一九五一には駆逐艦が砲撃を開始し、二〇二八にこれを撃沈した。

 三日、南方部隊本隊はバリ島の一九六度百六十浬付近にあり、針路西にて航行していた。一〇三六米砲艦「アッシュビル」を発見攻撃しこれを撃沈した。

 四日、本隊はチラチャップの沖合にてオーストラリア護衛艦、英油槽船、英商船、英掃海艇各一を発見撃沈した。

 一六二〇には駆逐艦「嵐」がオランダ武装商船一隻(7千トン級)を臨検拿捕し、乗船していた約五百名の兵員を捕虜とした。重巡「愛宕」もオランダ船(千トン級)一隻を拿捕した。

 南方部隊はジャワ南方洋上の掃蕩作戦を終了し七日、スターリン湾に帰投した。


 ジャワ作戦には潜水艦部隊も作戦に投入され、活躍したことを忘れてはならない。作戦には第四潜水戦隊と第六潜水戦隊が投入され、甲潜水部隊とされ作戦に参加した。


 二月一日南方部隊指揮官近藤中将は甲潜水部隊の作戦要領を示した。

 甲潜水部隊作戦要領

一 任務

 1 敵増援及脱出兵力の捕捉撃滅

 2 敵要地の監視攻撃

二 配備

 1 ジャワ及びスンダ列島南側(六〇浬以内)五隻。但しジャワ上陸前はスン

  ダ海峡及びロンボック海峡南口付近に各二隻。上陸後はチラチャップ沖二隻

  以上

 2 トーレス海峡 二隻

 3 ポートダーウイン 一隻


 これをうけて甲潜水部隊指揮官吉富少将は五日命令を発した。

一 第四潜水戦隊の配備

 「スンダ」海峡南口、「チラチャップ」沖、

 「ロンボック」海峡南口

二 第六潜水戦隊の配備

 「ポートダーウィン」「トーレス」海峡


 続いて二月八日第二潜水戦隊を以て丙潜水部隊として作戦に投入されることになった。丙潜水戦隊の作戦海域は、ジャバ南方からココス島南方付近、パレンバンから豪州西海岸に至る広大な海域の哨戒任務であった。


 第四潜水戦隊各潜水艦の戦果

 1 伊五十三潜水艦

  二月二十七日 オランダ船ホーシー撃沈

  同 二十八日 英船シティ・オブ・マンチェスター撃沈

 2 伊五十四潜水艦

  三月二日 オランダ船マジョカート撃沈

 3 伊五十八潜水艦

  二月二十二日 オランダ船ビジナッカー・ホンヂック撃沈

   同二十五日 オランダ船ボエロ撃沈

   同二十八日 英タンカーブリティッシュ・ヂャッジ撃沈

 第六潜水戦隊の潜水艦三隻については、この作戦期間における戦果はなかった。

 

 第二潜水戦隊の戦果は次の通りである。

1 伊一潜水艦

 三月三日 オランダ船シアンター撃沈

2 伊二潜水艦

 三月一日 オランダ船パリギイ撃沈

 同十一日 英船チルカ撃沈 

3 伊四潜水艦

 二月二十八日 オランダ船バン・ホー・ガン撃沈

4 伊七潜水艦

 三月四日 オランダ船メルクス撃沈


 緒戦での日本潜水艦は、対商船攻撃に効果を発揮していたことは確かである。この後のベンガル方面、インド洋方面の作戦でも輸送船攻撃に潜水艦としての本領を発揮している。緒戦は通商破壊戦にそれなりの戦果を掲げていた。それが発揮できなくなったのは、ソロモンでの戦闘での変化であった。それはまたソロモン戦で述べたいと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る