第三三話 陸軍航空部隊の活躍

 ジャワ攻略に関しては、陸海軍協定が一月二十三日締結されていたが、第三飛行集団には各種戦闘機、爆撃機などの提供があった。参謀本部では南方における敵航空兵力を次の状況で捉えていた。


一 既に増加せるもの

  ビルマ一〇〇機、マレー一一〇機、蘭印一〇機

二 東亜自体の流用

  インドよりビルマへ四〇機

  蘭印より馬来へ四〇機

  濠洲より馬来へ五〇機

  濠洲より蘭印へ三〇機

三 近く東亜方面に増派せんとするもの

  英本土及エジプト方面より 二四五機

  米国より蘭印へ 四〇機

  英本土及北阿方面より濠洲空軍帰還八〇機

四 英本土よりエジプト増加二四〇機


 第三飛行集団は二月十四日、西部ジャワに於ける作戦計画を策定した。

  西部爪哇航空作戦要領

   第一 方針

一 海軍と協同し L作戦に引続き速かに西部爪哇方面の敵航空勢力を撃破する

 と共に 第十六軍の西部爪哇に於ける作戦に密に協力す

二 前項目達成の為速かに南部「スマトラ」に 次で西部爪哇に基地を推進す

三 本作戦の末期より占領地を確保する大持久戦に転移し又は他方面に兵力を転

 用せらるることあるを予期す

   第二 指導要領

一 「パレンバン」「タンジュンカラン」飛行場の占領整備に伴い 先づ西部爪

 哇の敵航空勢力を撃滅す

二 第十六軍主力の上陸前日輸送船団の掩護に任じ爾後其の泊地防空に任ず 船

 団航行掩護は東海林支隊の分進地点以降の第二師団主力の対空警戒とす

三 第十六軍主力上陸後西部爪哇に於ける敵飛行場の占領整備に伴い速かに基地

 を推進す 又同時第十六軍所属航空地区部隊を集団に配属せらるることあるを

 予期す

四 第十六軍上陸後其の地上戦闘に直接協力す

五 陸海軍協力に関しては別に協定する所に拠る

六 状況に依り第四十八師団の東部爪哇に於ける作戦に直接協力することあり

    第三 兵力部署

一 軍隊区分を左の如く予定す

  直轄部隊

   飛行第八十一戦隊

  第十二飛行団

   飛行第一戦隊 一ケ中隊

   飛行第十一戦隊

  第三飛行団

   第十五独立飛行隊(独立飛行第五十一中隊欠)

   飛行第五十九戦隊

   飛行第六十四戦隊

   飛行第二十七戦隊(一中隊欠)

   飛行第九十戦隊

   飛行第七十五戦隊

二 右軍隊区分に基づく各部隊の任務を概ね左の如く予定す

 ⑴ 飛行第八十一戦隊

  敵飛行場の状況及船団位置捜索、上陸点の写真撮影、其の他の全般捜索

 ⑵ 第十二飛行団

  航空撃滅戦、船団航行掩護竝に泊地防空、所要に応じ要地防空

 ⑶ 第三飛行団

  航空撃滅戦、地上作戦協力、所要に応じ船団の掩護

 (以降省略)


 二月に入り、海軍航空部隊による航空攻撃により、敵の航空戦力と海軍部隊は弱体化していた。第三飛行団は二月中旬パレンバンに戦力を移し、本格的にジャワ本島の敵航空戦力に対する撃滅戦を展開することになった。


 二月十九日、第六十四戦隊の加藤戦隊長は飛行第五十九戦隊と併せて十九機を率いて、第九十戦隊の軽爆五機を掩護してパレンバンを出撃し、ボイテンゾルグ飛行場攻撃に向かったが、高度約二千五百米にカーチスP36九機を発見して交戦し、そのうち七機を撃墜した。軽爆隊は大型一六、小型四の在地機を爆撃し、うち大型機四機を炎上させて全機帰還した。

 梅本弘氏の調査によると、前下方にバッファロー八機を発見し、安間大尉の第三中隊の一〇機が格闘戦を演じ、六機撃墜を報じたが、実際はキーパー少尉機とグロート軍曹機が撃墜され戦死、シェーファー軍曹とハート軍曹は撃墜されたが落下傘降下、ディーベル中尉は被弾大破して飛行場に不時着、五機を失っていたという。(梅本弘著 オスプレイ軍用機シリーズ56「第二次大戦の隼のエース」大日本絵画)


 同日午後三時、再び加藤戦隊長は休む暇もなく、第二撃の出撃をし、今度はバンドン飛行場攻撃に向かった。一式戦二十八機、軽爆九機で出撃した。一六四〇頃、バンドン西飛行場上空でP43約二十機と遭遇空戦となった。戦闘機隊は敵一〇機(内三機は不確実)を撃墜し、爆撃隊は大型五機炎上を報告した。帰路、バンドンとバタビアの中間でB17二機を発見し、攻撃を繰り返して二機の撃墜不確実を報じたが、二機を失った。

 梅本氏の前掲書によると、バッファロー一二機と交戦し、撃墜七機、不確実三機を報じたが、蘭印側はタッカー中尉が撃墜され戦死、ダーラン軍曹、ハース中尉が落下傘降下、ティドマン大尉機も被弾大破していた。B17は隼の攻撃によりフランクリン機長機が被弾で乗員は落下傘降下して墜落。もう一機のフリーニー機長機は何とか飛行場にたどりついた。六四戦隊も横井軍曹機が被弾して無人島に不時着して救出され、五九戦隊の山口准尉はB17の射撃により墜落戦死した。

 隼も二機を喪失したが、どうにか空の要塞一機を撃墜したのである。貧弱な隼の機関銃で撃墜できたのが奇跡であった。


 二十日は戦闘機二四機、軽爆一〇機で午後二時半頃カリジャチィ飛行場を攻撃し、大型機八機炎上の戦果をあげた。敵戦闘機との空戦はなかった。

 二十一日、バンドンの再攻撃を企図するが、バンドン付近の天候不良により、軽爆隊は目標をカリジャチィに変更し、五十九戦隊の戦闘機はこの護衛につき、バンドンへは六十四戦隊の一四機のみで出撃した。六十四戦隊はバンドン上空を哨戒するバッファーローと不利な態勢で交戦した。東伍長機はアダム軍曹機と対進で撃ち合いながら接近し、両機とも回避せずそのまま正面衝突し、東伍長は分解した隼と共に落下戦死、アダム軍曹は頑丈な機体に助けられてか落下傘降下で生還した。

 空戦後、ティドマン大尉率いるバッファロー四機が加藤戦隊長の三機と交戦し、加藤戦隊長はティドマン大尉機を撃墜したが、同大尉機の火は消えたためかろうじて生還した。頑丈なバッファロー故の命拾いであった。

 軽爆隊の方は、飛行場の在地機を捕捉爆撃し、六機を炎上させた。


 二十四日、第五十九戦隊の一式戦一四機は第九十戦隊の双軽を掩護してバンドン攻撃に向かった。

 一式戦は邀撃してきたハリケーンと交戦した。優秀なハリケーンも一式戦との空戦は苦戦を免れず、ヤコブス軍曹機は被弾して不時着を余儀なくされ、ハミング少尉機も被弾して着陸時に破損、機銃掃射され機体は全損となった。P43の四機は邀撃にあがったが、デッカー少尉機はハリケーンのキャンベル少尉に日本機と誤認され撃墜された。ハイェ軍曹機は被弾不時着。ボックスマン中尉機は味方の高射砲の誤射で撃墜され、ローミンパー軍曹機は高速道路に着陸してことなきを得た。

 爆撃隊は大型機三、中型機三機の炎上を認めた。

 第六十四戦隊の一式戦と第七十五戦隊の双軽は、カリヂャチィ飛行場を攻撃したが、敵戦闘機はなく、爆撃隊は、地上の大型機十六機、小型機八機に炎上または損傷を与えた。

 同日午後にも各戦闘機隊と爆撃隊はそれぞれ出撃し、敵機に損害を与えている。

 

 二十五日午後、五十九戦隊は九十戦隊の双軽を掩護し、六十四戦隊は七十五戦隊の双軽を掩護し、二次にわたってカリジャチィを攻撃した。五十九戦隊の一式戦は上空で哨戒していたハリケーンと交戦し、キャンベル少尉機とドバイン中尉機が撃墜され、日本側は全機が帰還した。

 この日までにジャワの連合国軍機はほとんど一掃された。第三飛行団では、撃墜確実三十三機、撃破五十三機と見積もり、大小損害を与えたのは一五〇機以上に達したと記録されていた。

 

 陸軍航空部隊の次の任務は上陸船団の揚陸地点の哨戒と上陸後の陸軍部隊の掩護であった。連合国軍機は一掃されたといっても、まだ少数機による頻繁は攻撃は続いており、その掩護任務が重要であった。

 ジャワ島の制空権の確保は、東海林支隊がカリジャチィ飛行場を占領して、大幅に改善した。特に鹵獲した燃料があったことにより、航空支援に大いに役立った。通常であれば、上陸の揚陸物資からトラックで運ばねばならず、それが整備

されるにはまだ数日かかるからであった。だが、敵機も進出した日本機を撃破すべく頻繁に攻撃を仕掛けてきた。幸い少数機による襲来であるために大きな損害が出る訳ではなかったが、こちらにはまだ迎撃する対空砲火の準備もできていなかったので、上空の哨戒機がいなければ、退避するしかなかった。

 しかし、この飛行場のおかげで、蘭印軍の機械化部隊を捕捉して、撃破するこ

とができたのである。もし、それができていなければ、日本軍部隊はあくまで少数であり、機械化部隊も少数であったために、苦戦したのは間違いないからである。

 三月三日には東海林部隊攻撃に向かう蘭印軍の戦車十数両とトラック一〇〇両あまりを捕捉して、敵の進攻を阻止撃破し、翌日も進撃してくる敵戦車部隊を爆撃撃破している。

 各爆撃隊、戦闘機隊は地上部隊に協力し、残敵機の撃滅と地上部隊の撃破、敵陣地への爆撃と、休むまもなく飛び立ち、繰り返し攻撃を加えた。空地一体の攻撃であり、これほど地上部隊と一体となって作戦に寄与した事例は少ないであろう。

 ジャワ作戦は敵の降伏により終焉を迎え、三月十二日、菅原集団長は第三飛行団とその配属部隊に対して、感状を授与した。


   感 状

           第三飛行団

           同配属部隊

第三飛行団竝に其の配属部隊は第三飛行団長統率の下に「パレンバン」飛行場を基地とし 各種の困難を克服して寡兵克く西部爪哇に於ける優勢なる敵航空勢力を撃滅し 第十六軍主力の西部爪哇上陸に方りては進んで敵艦船の攻撃及兵団主力船団の掩護に任じ 以て其の上陸を容易ならしめ 東海林部隊の「カリジャチ」飛行場を占領するや機を失せず敢然同地を推進して空地に於ける執拗なる敵の反撃を排除しつつ 或は残存敵機を撃滅し或は地上兵団に協力して之を支援推進する等 終始積極果敢常に主動の地位を確保し 遂に至短期間に敵の抗戦意志を完摧し 蘭印の全面的降伏を誘致したり 其の戦果の大なるは固より全軍的作戦指導に寄与したる功績は蓋し絶大にして 武功抜群なり

 仍て茲に感状を授与す

   昭和十七年三月十二日  

                第三飛行集団長  菅原道大


 ジャワ作戦の戦果による資材兵器の接収は大きく、飛行機は飛行可能な百三十機を含め約三〇〇機、燃料は一一、三一九本、航空関係の工作機械一九五、飛行場の車両一〇八、一般車両四〇〇に及んだ。期間中の敵機撃墜は五二機、地上でも火網捕捉二一〇機、銃撃により四五機の戦果を報告しており、蘭印軍空軍指揮官の陳述によれば、約二九〇機もの損害を与えていたとのことだった。

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