第二六話 ジャワ島攻略作戦

 第十六軍主力として軍司令部と上陸を共にしたのは、第二師団であるが、この第二師団の作戦要領は次のように立案されていた。


   第二師団作戦要領

    第一 方針

一 師団は西部爪哇に上陸し敵を撃破して速かに「バタビア」を攻略す

二 爾後主力を以て「ブルカワルタ」「スバン」並に其の以東の地区より一部を

 以て「チャンジュール」及其の南方地区より速かに「バンドン」を攻略す

    第二 指導要領

三 師団はH日未明主力を以て「ボジョネゴロ」付近一部を以て「メラク」南北

 地区に上陸し速かに一部を以て「ランカスピドン」及「クラギラン」付近の渡

 河点を占領確保すると共に有力なる一部を「ボイテンゾルグ」に急派し「バタ

 ビア」「バンドン」両方面の敵を分断して其の退路及増援を遮断したる後軍爾

 後の「バンドン」攻略の為勉めて前方に地歩を獲得せしむ

四 師団主力は其の上陸完結を待つことなく速かに先づ「セラン」付近に進出、

 次で「セラン」ー「タンゲラン」ー「バタビア」道に沿う地区を「バタビア」

 及其の南方地区に向い急進し速かに之を攻略す

 東海林支隊は速かに「チタルム」河渡河点付近に進出し「バンドン」「バタビ

 ア」両方面の敵を分断し且爾後の「バタビア」攻略を準備す

五 「バタビア」を攻略せば師団は主力を以て「プルワカルタ」及「スバン」方

 面より、一部を以て「チャンジュール」方面より速かに「バンドン」を攻略す

 状況に依り「チャンジュール」方面より前進する一部を以て東海林支隊と策応

 して師団主力の来着に先だち「バンドン」を攻略することあり

六 爾後第四十八師団と策応して爪哇全土を戡定す


軍隊部署

メラク方面

 那須支隊

  長 第二歩兵旅団長 那須弓雄少将

   第二歩兵団司令部

   歩兵第十六連隊(第一大隊欠)

   捜索第二連隊

   野砲兵第二連隊第一大隊(第一中隊欠)

   工兵第二連隊第一中隊

   戦車一中隊

   速射砲一中隊

   自動自転車隊

   高射砲一中隊 基幹

 福島支隊

  長 歩兵第四連隊長 福島久作大佐

   歩兵第四連隊(第三大隊欠)

   独立速射砲第五大隊

   野砲兵第二連隊第二大隊

   高射砲第十六連隊第二中隊

   工兵第二連隊第二中隊

   衛生隊三分の一

   防疫給水部

 バンタム湾方面

  パンジャン島占領部隊

   歩兵第四連隊第九中隊の川村小隊

  佐藤支隊

   長 歩兵第二十九連隊長 佐藤半七大佐

    歩兵第二十九連隊

    戦車第二連隊(三中隊欠)

    速射砲一中隊

    工兵第二連隊(第一、第二中隊欠)

  砲兵隊

   長 野砲兵第二連隊長 石崎益雄大佐

    野砲兵第二連隊(二大隊半欠)

    野戦重砲兵一大隊(一中隊欠)

  工兵隊

   長 独立工兵第一連隊長 織田義重大佐

    独立工兵第一連隊主力

    独立工兵第四中隊

    独立自動車一小隊

    渡河材料二中隊(一部欠)

  防空隊

    高射砲第十六連隊主力

  予備隊

    歩兵第四連隊第三大隊(一小隊欠)


 第三飛行集団は、戦闘機約九〇、襲撃機約二〇、軽爆約二〇、重爆約三〇、司偵約十五、軍偵約四、を地上部隊に協力することで合意していた。


 第十六軍の主力部隊を乗せた大輸送船団は、二十七日〇五三〇バタビア北方百四十キロ付近で、メラク南部上陸作戦の那須支隊の輸送船八隻、メラク北部上陸部隊を乗せた福島支隊の輸送船七隻、そして今村軍司令官以下のバンタム湾上陸の輸送船三十二隻に分離した。だが、連合国艦隊出現の報告に、上陸日程は一日延期となった。

 今村軍司令官のバンタム湾上陸の船団は、二十八日二二三〇にバンタム湾に進入。泊地進入に際し敵の監視砲艦二隻がいたが、誘導艦がこれを撃退し、二三四五船団は投錨を開始した。


 三月一日〇〇三〇第一回上陸部隊が発進し、上陸成功の信号が上がった。其後、敵機六機が来襲し、敵巡洋艦「ヒューストン」と「パース」が襲来したのである。バタビア沖海戦となった。二隻の巡洋艦は撃沈したが、日本軍輸送船も被害を受け、佐倉丸が沈没、他に三隻の輸送船が大破し擱座してしまった。

 特に今村軍司令官の座乗していた「龍城丸」がやられたので、今村軍司令官は二時間以上も重油の海を漂った。それよりも軍の無線機や暗号書を喪失したのが大きな痛手となり、数日に亘り軍の命令伝達は混乱した。


 軍通信参謀の斎木中佐は上陸後戦闘司令所を開設したが、持っていたのは三号機の無線小隊だけであり、近隣の部隊との通信は可能であったが、東海林支隊や第四十八師団との連絡は不能であった。通信機器と暗号書は南方軍からの補給を待つしかないのだが、それさえも不可能であったので、南方軍宛の電報は第五水雷戦隊旗艦の「名取」に経由を依頼したが、うまくいかなかった。午後三時ごろまでには何とか固定無線機二隊を集めて、最小限の通信は確保できるまでには至った。南方軍との無線が開通したのは、二日十時頃であり、其後他部隊との連絡も順次開通していった。


 メラク方面右正面に上陸した那須支隊は自動車部隊も有していた。那須支隊長は第一回の上陸で海岸占領部隊を上陸させ、第二回目の上陸で、挺身隊としての人員車両を揚陸させた。

 挺進部隊の編成は次の通りである。


 K挺進隊(捜索第二連隊第三中隊基幹)

 上陸後速やかにチレゴンーセラン道をクラギランに突進し、チジュン河橋梁を占領確保する。佐藤支隊の一部が到着すれば、橋梁確保を引き継ぎ、野口梯団に復帰する。

 野口梯団

  捜索第二連隊主力

  自動自転車隊

  野砲一中隊(一小隊欠)

  師団工兵一小隊

  独立工兵一小隊

  独立速射砲一中隊(一小隊欠)基幹

 

 広安梯団

  歩兵第十六連隊(第一大隊、第十中隊、連隊砲一小隊欠)

  野砲兵第二連隊第一大隊(一中隊と一小隊)

  工兵一中隊(一小隊欠)

  架橋材料一小隊

  独立自動車第三十九大隊(第三、第四中隊欠)


 広安梯団は第一回上陸部隊として上陸作戦に臨み、右第一線は小野少佐の指揮する第二大隊、左第一線は諸角少佐の指揮する第三大隊で、〇二〇〇着岸して上陸を開始した。付近には約一コ中隊程度の蘭印軍がいたが、抵抗せずに後退した。部隊は直ちに前進を開始し、一コ中隊程度の蘭印軍を撃破して前進していった。其後、K挺進隊と野口梯団は広安梯団を超越して突進していった。

 野口梯団は三つの先遣隊と本隊とに部隊をわけ、先遣隊はチジュン河橋梁に突進させ、本隊はランカスピドンに向けて前進していった。

 右先遣隊(第四中隊主力) ランカスピドン橋梁へ

 左先遣隊(第三中隊の二小隊) パマラヤン橋梁へ

 宍戸先遣隊(自動自転車隊) セランに突進してセラン橋梁を確保し、第一梯

   団到着後ランカスピドンに向かい急進。

 本隊

  第一梯団 高瀬大尉 第二中隊及連隊本部

  第二梯団 櫻井大尉 第一中隊

  第三梯団 渡辺中尉 野砲兵第二連隊第三中隊


  K挺進隊と各先遣隊は〇七〇〇にセランに突入し、さらに一四〇〇頃にはチジュン河の線に達したが、クラギラン橋梁は破壊されていた。ランカスピドン占領に向かう右先遣隊は師団参謀の佐藤少佐も同行しており、途中英豪軍の約一コ中隊と遭遇戦となったが、これを撃破し鹵獲した自動車でランカスピドン橋梁に突進した。間一髪というところで半分破壊された状態で確保に成功した。

 左先遣隊はパラマヤン橋梁に到着し、橋を破壊する連合軍部隊と交戦してこれを撃退して、橋梁の確保はなった。

 那須支隊の司令部は午後セランに到着し二一〇〇同地を発ってランカスピドンに向かった。


 メラク方面左正面担当の福島支隊は一日〇一四五に上陸を開始し、何ら抵抗を受けることなく上陸に成功し、右第一線の第一大隊長生田中佐は、第二中隊にメラク山の蘭印軍を攻撃させると共に、その一部で停車場付近に進出させ、配属工兵小隊を海岸道を突進させた。それぞれ障害物を排除してメラク山上の蘭印軍を敗走させた。

 第一中隊井上中尉の指揮するメラク島攻略部隊は、メラク駅からの猛烈な機関銃を受けながら同島に上陸し、同島に先日の海戦により漂着していた連合軍海軍の水兵ら三十五名を捕虜とした。

 バンタム湾上陸の佐藤支隊は、一日〇〇四五抵抗を受けることなく上陸に成功。第一大隊の遠藤中佐、第二大隊の渡辺中佐、第三大隊の吉井少佐は上陸後、集結を待つことなく前進を開始。一五〇〇までにはトラーテに到着した。佐藤支隊長も一〇三〇にはトラーテに到着しており、支隊は夕刻同地を出発し、チジュン河右岸地区に向かい前進し、二一〇〇パンタムに到着して露営した。

 

 第十六軍司令部は、ラガスで二日の朝を迎えたが、まだ通信設備は不完全であり、東海林支隊と第四十八師団との連絡は取れていなかった。

 それでも海軍部隊を経由して東海林支隊と第四十八師団からの電報が届いた。東海林支隊からの電報は、カリヂヤチィ飛行場を占領し莫大な戦利品を得たこと、支隊の一部はクラワン橋梁に向かい前進中であるが、エレタン揚陸地点には四百から五百の装甲部隊が来襲している、ということであった。一方第四十八師団からは、捕虜になった駆逐艦長の陳述によれば、豪州の二コ師団が数日目チラチャップに上陸を完了しているということで、この内容には軍司令部は困惑した。東海林支隊は二コ大隊に過ぎず、豪州軍の二コ師団の兵力が待ち構えているとなると、大問題であった。蘭印軍であれば問題ないが、豪州軍となれば軽視することはできない情報であった。しかし、軍参謀はその情報は我が方の偵察状況からいってあり得ないことだと力説した。

 軍司令部はバンタム湾口にあるラガスでは不便であると判断し、今村軍司令官以下は街路樹が切り倒してある海岸道を南下し、途中からは舟艇を利用して、バンタム付近に上陸して、二〇時頃にはセランに到着した。


 一方ジャワ島中央部のエレタン付近に上陸予定の東海林支隊であるが、東海林支隊は、輸送船七隻により二月二十七日〇五三〇バタビア北方約一四〇浬地点で、本隊と分離し軽巡由良、駆逐艦四隻に守られ、一日〇一四〇にエレタン沖の泊地に進入した。

 東海林支隊の編成は次の通りである。

  長 歩兵第二三〇連隊長 東海林俊成 大佐

   歩兵第二三〇連隊第一大隊、第二大隊

   戦車第四連隊第一中隊

   山砲兵第三十八連隊第三大隊(一中隊欠)

   工兵一個中隊

   高射砲一個中隊


 東海林支隊の任務は

 ⑴ カリヂャチィ飛行場の急速占領確保及チタムル河渡河点の占領

 ⑵ 状況により一部をバタビア攻略に参加させる準備

 ⑶ 航空部隊の飛行場整備の援助

であった。


 東海林支隊は、入泊前に連合国軍機の攻撃を受けたが、被害もなく、一日〇三三〇第一次上陸部隊は上陸に成功した。抵抗はなかった。〇四三〇第二次上陸が行われ、支隊長も上陸を果たし、エレタン村の西端に司令部を設置した。

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