第二一話 ジャワ島攻略作戦計画

 ジャワ島はインドネシアの中心部にあたる島で東西約一千キロ、南北の最大幅で約二百キロ、面積約十三万二千二百平方キロの島で島の東西を活火山からなる山脈が走り、東部に最高峰のスメル火山(三六七六メートル)が聳える。富士山より百メートルほど低い。

 第十六軍の作戦計画は東西より中核師団を上陸させる作戦である。東西一千キロであるから、マレー半島縦断一千キロの縦断作戦と距離的には同じ距離であるが、北から南へ一気と、東西から挟撃する形で攻めるのとは状況が違う。また、ジャワ島はマレー半島のように鉄壁の陣地は構築されてはいない。


 第十六軍の主力部隊は二月十八日カムラン湾を出発したが、当時軍が掌握していた敵情は次のように判断していた。

一、航空兵力ついて

 二月十日南方軍は蘭印軍機は合計で約四〇〇機と判断していた。大本営は敵側の情報から六日現在シンガポール、スマトラ、ジャワの敵航空兵力は爆撃機一九〇機、駆逐機二〇〇機で、毎日爆撃二機、毎週駆逐機三六機の増派を受けつつあると報じた。

 二月十四日パレンバン飛行場を占領したが、十八日現在小スンダ列島は連合軍の勢力下にあり、損耗は補充されつるあるものと判断された。

二、艦隊兵力について

 東部ジャワ方面において、二月四日ジャワ沖海戦で巡洋艦七隻、駆逐艦九隻中、巡洋艦三隻を撃沈(実際は撃沈なく、損傷)され、避退した連合軍艦隊の所在は不明であった。天候不良のために航空偵察が妨害されていたからである。

 西部ジャワ方面においては、二月十五日南部スマトラ上陸作戦時ガスパル海峡に反撃態勢をとっていた後に撤退した巡洋艦三隻、駆逐艦五隻はバタビア付近にあるものと思われた。

 しかし確実な動向は、天候不良などで偵察が行き届いておらず、攻略部隊は不安を感じてもいた。それゆえに、各護衛隊指揮官は、巡洋艦部隊の掩護や、できれば空母龍驤の参加も要請していた。

三、陸軍兵力について

 昭和十六年十一月に得ていたジャワ方面の蘭印軍の兵力は、約十万と想定され、正規軍七・五万、義勇兵一・五万、現地兵一万の構成であった。

 タラカン攻略戦で得た捕虜の証言によれば、中部ジャワに一コ師団が増員され、ジャワは三個師団となっており、司令部はバンドン、東部ジャワ一個師団、中部ジャワに一個師団、西部ジャワに一個師団である。


 一月二十七日、ジャワ攻略(H作戦)に関する陸海軍協定が取り交わされた。


 H作戦に関する陸海軍間協定覚書

      第十六軍司令官  陸軍中将 今村 均

      第二師団     陸軍中将 丸山政男

      東海林支隊長   陸軍大佐 東海林俊成

      第五水雷戦隊司令官海軍少将 原 顯三郎

第一 輸送船の集合到着期限及集合地に於ける行事竝出発期日

一 集合地及到着

 ㋑ 高雄次で「カムラン」

 ㋺ 輸送船は二月五日迄に逐次高雄に到着し左の予定に依り二月十日迄に「カ

  ムラン」湾に集合す

  輸送船監督将校及船長は各回次毎高雄出港前日一〇〇〇布施部隊司令部に集

  合し 護衛艦指揮官と「カムラン」湾回港に関する打合せを行うものとす

 第一回 二月一日一〇〇〇高雄出港

    護衛艦 駆逐艦長月  水無月

    輸送船 香洋丸、日和丸、北明丸、神州丸

        ころんびや丸、あとらす丸、隆南丸

        玄海丸、桃山丸、ぱしふっく丸、麗様丸

 第二回 二月三日一〇〇〇高雄出港

    護衛艦 駆逐艦春風  旗風

    輸送船 喜山丸、津山丸、しどにい丸

        龍野丸、梁殿丸、武豊丸

        伏見丸、ぶらじる丸、東福丸

        東宝丸、大光丸、甲陀谷丸

        ぐらすごう丸、宏山丸、三池山丸

        軍需船二

 第三回 二月五日一〇〇〇高雄出港

    護衛艦 駆逐艦文月  皐月

    輸送船 赤城山丸、前橋丸、ぜのあ丸

        宝永山丸、大日丸、常盤丸

        平安丸、天平丸、大山丸

        瑞祥丸、えりい丸、東生丸

        大平丸、熱田丸、豊岡丸

        第三大源丸、ねーぶる丸、諏訪丸

 第四回 二月六日一〇〇〇高雄出港

    護衛艦 駆逐艦朝風  松風

    輸送船 綾戸山丸、佐倉丸、蓬莱丸

        瑞穂丸、龍城丸、信濃川丸

        山月丸、秋津丸

第二 上陸点及其の偵察

 一、上陸点及上陸地区の称呼

  ㋑一号方面

   甲地区上陸部隊 歩兵二大隊及捜索隊基幹 メラク南側

           長 那須少将

   乙地区上陸部隊 歩兵二大隊基幹     メラク北側

           長 福島大佐

   丙地区上陸部隊 師団主力及軍直部隊の主力 バンタン

           長 佐藤大佐      湾西側海岸

  ㋺二号方面

   東海林支隊   歩兵二大隊基幹     パトロール

           長 東海林大佐      海岸

 二、偵察

    上陸点の事前偵察は特に実施せず

第三 上陸開始期日及時刻並に上陸日程

 一、上陸開始期日  H日

   H日はX+七五日と予定しHー九日一二〇〇迄に決定

   せらる

 二、上陸開始時刻並に上陸日程

  投錨予定時刻  H日〇〇〇〇頃

  上陸開始予定時刻  〇二〇〇頃

  上陸日程

   甲乙地区上陸部隊  概ね五日

   丙地区上陸部隊   概ね七日

   二号方面      概ね五日

  状況に依り二号方面はH+二日以後上陸部隊を一号方面に回航し揚陸するこ

 とあり 其の実施は第十六軍司令官、第五水雷戦隊司令官と協議決定す

第四 輸送船隊区分輸送船隊行動並に指揮官所在

 一、輸送船隊区分

  第一船隊  香洋、日和、北明、神州、ころんびや

        あとらす、隆南、玄海

  第二船隊  秋津、桃山、はしふいつく、喜山、麗洋

        津山、しどにい

  第三船隊

   第一分隊 龍野、染殿、武里、平安、赤城山、蓬莱

   第二分隊 熱田、龍城、伏見、信濃川、綾戸山

   第三分隊 太山、大日、宝永山、東生、大平、ぜのあ

   第四分隊 ぶらじる、東福、豊岡、瑞穂、佐倉

   第五分隊 前橋、常盤、天平、三池山、軍需船一

   第六分隊 えりい、瑞祥、軍需船一、東宝、岐阜

  第四船隊  第三大源、ねいぶる、甲陀谷、ぐらすごう

        諏訪、宏山、山月

 二、輸送船隊の行動

  イ、航路

     別図第二の通(図省略)

  ロ、航行速力

     原速力   八節

     半速力   七節

     微速力   六節

 三、指揮官所在

    第十六軍司令官   龍城

    第二師団長     熱田丸

    東海林支隊長    諏訪丸

    護衛隊指揮官    名取

第五  海上護衛

 一、方針

   直接護衛兵力を附し護衛す

 二、護衛兵力

  主隊 

   指揮官 第五水雷戦隊司令官 少将 原顕三郎

    軽巡 名取

    第十一駆逐隊

    第一掃海隊

    白鷹  妙高丸  第一防備隊の半数

  第一嚮導隊 

   指揮官 第五駆逐隊司令 中佐 野間口兼知

    第五駆逐隊

  第二嚮導隊 

   指揮官 第二十二駆逐隊司令 中佐 杉野修一

    第二十二駆逐隊

    第十二駆逐隊

    第二十一水雷隊第一小隊

  第三嚮導隊

   指揮官 軽巡由良艦長 大佐 三好輝彦

    軽巡 由良

    第六駆逐隊第一小隊

    第二十二駆逐隊第二小隊

    第一掃海隊掃海艇一

 三、警戒航行隊形

  図省略

 四、輸送船自衛兵器の使用

   (以降省略)

 

 また、作戦に参加する第四十八師団はフィリピン攻略に従事していたため、別の護送計画が必要であり、これは第四水雷戦隊と第四十八師団との間で協議された。それは次の通りである。


一、行動の概要

 上陸開始日I日はX+七七日(二月二十三日)と予定し、Iー七日ホロ発、I

 日〇一〇〇投錨、同日〇二〇〇上陸開始、但し泊地に機雷があってその処分に

 時間を要する場合は、二月八日リンガエン湾発、二月十二日又は十三日ホロ

 着、同地において所要の準備を整えたのちIー七日ホロ島発、Iー一日夜上陸

 点泊地に進入する

二、集合地における行事

 二月七日 一三三〇リンガエン湾、船長、通信打ち合わせ

 二月十四日 〇九三〇ホロ、護衛隊、船隊細部打ち合わせ

       一三三〇ホロ、船長打ち合わせ

三、リンガエン湾からホロへの回航要領

四、輸送船隊区分

 第一分隊  山菊 乾坤 へいぐ 南光 亜丁 甲南

 第二分隊  浄宝縷 高岡 和蘭 北光 旭盛 大永

 第三分隊  乾山 ひまらや はあぶる ありぞな

       安山 朝光

 第四分隊  日秀 美洋 伊太利 あさか 加州 米山

 第五分隊  白鹿 帝洋 はんぶるぐ 丁抹 

       あらびや 徳島

 第六分隊  宮殿 仁山 うえいるす すえず

       多聞 靖川

 第七分隊  薩摩 民領 保津川

 列外    相模 笹子

五、上陸点、上陸兵力区分

  クラガン㋑地区

   今井部隊  歩兵二大隊、山砲一大隊

   北村部隊  捜索連隊

  クラガン㋐地区

   安部部隊  歩兵三大隊、戦車二中隊、山砲二大隊

   田中部隊  歩兵二大隊、山砲一大隊

六、上陸日時、上陸日程

 1 上陸日時

  上陸開始日I日はX+七七日(二月二十三日)と予定し、Iー七日ホロ発、

 I日〇一〇〇投錨、同日〇二〇〇上陸開始、但し泊地に機雷があってその処分

 に時間を要する場合は、この終了を待って入泊することがある。

 2 上陸日程

  おおむね五日とし、軍需品揚陸の関係上I+二日以降ベント岬以東地区に転

 錨する

七、護衛要領

  (省略)

 

 同日に立案された第十六軍の攻略計画は次の通りであった。

一、作戦方針

 1 第十六軍主力は海軍と協力して、第一次輸送部隊をもってH日未明西部ジ

  ャワ(メラク、バンタム湾、パトロール)に上陸し、敵を撃破してすみやか

  にまずバタビアを、引き続きバンドンを攻略す

 2 第四十八師団はI日未明東部ジャワ(クラガン)に上陸し、まずスラバヤ

  次いでマランを占領し、すみやかに東部ジャワを平定する。

 3 東部ジャワ攻略時、海軍航空基地を推進する目的をもってIー五日、第四

  十八師団の一部をもって海軍と協同しバリ島を急襲同地の飛行場をすみやか

  に占領整備する。

二、西部ジャワ攻略部署

 1 第二師団(歩兵七コ大隊、野砲三コ大隊、野戦重砲一コ大隊、戦車一コ連

  隊基幹)

  ⑴ H日未明一部はメラク付近、主力はバンタム湾に上陸し、まずすみやかに

   チュジュン河の線に進出する

  ⑵ 有力な一部兵力をボイデンゾルゲに急派し、バタビア、バンドン両方面の

   敵を分断し、バンドン攻略のため努めて前方に地歩を獲得する

  ⑶ 師団主力はセランータンゲランーバタビア道に沿う地区をバタビア及ぼそ

   の南方地区に向かい前進し、すみやかにこれを攻略する

 2 東海林支隊(第三十八師団の歩兵二コ大隊、山砲兵一コ大隊基幹)

  ⑴H日未明パトロールに上陸すみやかにカリジャチィ飛行場を占領確保する

  ⑵チタムル河の渡河点を制扼してバンドン、バタビア両方面の敵を分断し、

   状況により一部をもってバタビア攻略を行なう

 3 東部ジャワ攻略部署

   第四十八師団(歩兵八コ大隊、山砲四コ大隊基幹)

  ⑴I日未明クラガンに上陸し、敵を撃破してすみやかにスラバヤを攻略する

  ⑵有力な一部兵力をすみやかにチラチャップに挺進させ、敵の退路を遮断す

   る

  ⑶スラバヤ攻略後すみやかに同地に上陸、根拠地を設定するとともに東部ジ

   ャワを戡定する


 軍の作戦計画を受けて、第二師団の作戦計画は次のように立案した。


    第二師団作戦要領

  第一 方針

一、師団は西部爪哇に上陸し敵を撃破して速かに「バタビア」を攻略す

二、爾後主力を以て「ブルワカルタ」「スバン」並に其の以東の地区より一部を

 以て「チャンジュール」及其の南方地区より速かに「バンドン」を攻略す

   第二 指導要領

三、師団はH日未明主力を以て「ボジョネゴロ」付近一部を以て「メラク」南北

 地区に上陸し速かに一部を以て「ランカスビドン」及「クラギラン」付近の渡

 河点を占領確保すると共に有力なる一部を「ボイテンゾルグ」に急派し「バタ

 ビア」「バンドン」両方面の敵を分断して其の退路及増援を遮断したる後軍爾

 後の「バンドン」攻略の為勉めて前方に地歩を獲得せしむ

四、師団主力は其の上陸完結を待つことなく速かに先づ「セラン」付近に進出、

 次で「セラン」ー「タンゲラン」ー「バタビア」道に沿う地区を「バタビア」

 及其の南方地区に向い急進し速かに之を攻略す

 東海林支隊は速かに「チタルム」河渡河点(「クラワン」)付近に進出し「バ

 ンドン」「バタビア」両方面の敵を分断し且爾後の「バタビア」攻略を準備す

五、「バタビア」を攻略せば師団は主力を以て「ブルワカルタ」及「スバン」方

 面より、一部を以て「チャンジュール」方面より速かに「バンドン」を攻略

 す。

 状況に依り「チャンジュール」方面より前進する一部を以て東海林支隊と策応

 して師団主力の来着に先だち「バンドン」を攻略することあり

六、爾後第四十八師団と策応して爪哇全土を戡定す


 東海林支隊は次のように作戦計画をまとめた。


   東海林支隊作戦要領

    第一 方針

一、支隊は「パトロール」付近に上陸し速かに「カリヂャチイ」飛行場を占領す

 ると共に「チタルム」河渡河点を制扼して「バンドン」「バタビア」両方面の

 敵を分断す

二、爾後第二師団に策応して「バンドン」東北方地区より之を攻略す

    第二 指導要領

三、支隊はH日未明「パトロール」付近に上陸し、速かに一部を以て「カリヂャ

 チイ」飛行場を占領すると共に、「クラワン」付近に進出し「バンドン」「バ

 タビア」両方面の敵を分断す

四、爾後逐次「スバン」「ブルワカルタ」「チカンベック」等の要衝を占領し爾

 後の「バンドン」攻略を準備す。状況に依り一部を以て「バタビア」攻略に参加

 せしむることあり

五、第二師団主力の進出に伴い「スバン」東南方地区に前進し「チクラマス」方

 面より「バンドン」東方地区に向い敵の退路を遮断する如く之を攻撃す

六、状況に依り支隊は第二師団主力の来着に先だち「チャンジュール」方面より

 進出せる部隊に策応して「バンドン」を攻略することあり

七、「バンドン」攻略後第二、第四十八師団に連繋して「ジャワ」全土の戡定に

 任ず


 第四十八師団の作戦計画の綴りは遺失したものか、「戦史叢書」にも記載されておらず、陸海軍協定での計画した以外にはよくわからない。


 第十六軍主力部隊は輸送船五十六隻に分乗し、十四隻の護衛艦に護られ、二月十八日カムラン湾を出撃した。第四十八師団を乗せた三十八隻の輸送船は、護衛艦二十二隻に護られ十九日ホロを出撃した。

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