第二十話 第三十八師団南部スマトラ占領
船団を護衛する第三水雷戦隊を中心とする護衛隊は、上空の敵機そして敵船を警戒しながら航行していた。
十三日川内の索敵機が南東に小型商船を発見し爆撃して被害を与えたのを皮切りに、次々と敵船と遭遇してこれを撃沈破もしくは拿捕した。一覧にすると次に様になる。
十三日一四〇三 駆逐艦初雪、白雪
英中型商船(四千トン級) 撃沈
同 一四〇四 駆逐艦吹雪、朝霧
英特設敷設艦(二千トン級) 撃沈
同 二二四五 軽巡川内、由良
特設巡洋艦(三千トン級) 撃沈
十四日〇〇四六 駆逐艦吹雪、朝霧
英特設砲艦 撃沈
同 一八五〇 軽巡由良 駆逐艦朝霧、吹雪
英特設砲艦 撃沈
十五日〇三三〇 駆逐艦白雪
小型商船 拿捕
十五日〇四三三 駆逐艦白雪、駆潜艇第七号
武装商船(千五百トン級) 拿捕
同 〇八〇〇 第一掃海隊
英魚雷艇 撃沈
同 〇八二〇 駆逐艦吹雪
英特設敷設艦 擱座自爆
同 一三〇〇 第一掃海隊
英大型内火艇 拿捕
同 一七一五 駆逐艦吹雪
駆潜艇 擱座
同 二〇四五 軽巡由良 駆逐艦朝霧
英雑役船 撃沈
十六日〇一四〇 軽巡川内
英哨戒艇 撃破
同 〇八二五 軽巡川内
英監視艇 捕獲
同 〇九〇〇 掃海艇第五号
魚雷艇 撃沈
哨戒艇 航行不能、武装解除
(英 スプナー少将捕虜)
同 〇九四〇 吹雪
英高速艇二隻 捕獲(英少佐)
同 〇九四五 軽巡川内 駆逐艦吹雪
英油槽船(二〇〇トン) 拿捕
同 一三〇〇 第十一駆潜隊
英監視艇 捕獲
同 一三三〇 駆逐艦初雪
英駆潜艇 撃破航行不能(士官一、
兵二十二)
同 一六三〇 軽巡由良、駆逐艦朝霧
英砲艦 捕獲
十七日〇七三〇 第一〇駆潜隊
英文通艇 拿捕(将校一、兵五)
同 〇八三〇 駆潜艇八号
英監視艇二隻 捕獲(士官六、下士官兵
十一、陸兵十二)
同 一七一〇 掃海艇三号
英汽船 拿捕(陸兵五十三)
同 二二五〇 軽巡由良
特務艦 撃沈
十八日〇〇〇〇 駆逐艦白雪
英掃海艇 捕獲(士官五、下士官兵十三、
陸兵約三十、婦女子十数名)
同 〇九〇〇 駆潜艇七号
蘭汽艇 拿捕(陸兵四〇)
同 〇九三〇 軽巡川内
英駆潜艇 捕獲(陸兵五十二)
以上の戦果を挙げたのである。
上陸部隊を乗せた輸送船団は、何回もの敵機の襲撃を受けながら航行していたが、被害はなかったのが幸いであった。日中は味方戦闘機の上空掩護があったのも被害を防げた。船団は上空だけでなく、浮遊機雷にも注意しなければならず、護衛艦艇はその処分をしながら航行した。
先遣隊の輸送船団は十四日夜ムントク泊地に進入し、先遣隊主力は舟艇にてムシ、テラ、サレ河口に向かい、折田大隊は対岸のバンカ島に向かった。同大隊は、十五日朝ムントクに上陸して飛行場を占領し、十八日までにバンカ全島を占領した。
上陸前の予測では、バンカ島にはシンガポールより脱出した英国兵と現地守備の蘭軍が駐留しているものと判断された。
折田大隊は兵力は、歩兵第二百二十九連隊第一大隊を基幹とし、連隊砲、工兵各一小隊、高射砲一中隊、第三十三飛行場中隊からなり、大発四、小発一を以て「ムントク」海岸に一部は小発二隻を以て灯台付近に上陸した。上陸した海岸には敵兵が若干存在したものの、抵抗はほとんどなく、上陸部隊は〇七三〇灯台を占領し、〇八三〇にはムントク市街及び飛行場を占領した。連合国混成部隊将兵約二千五百名がほとんど抵抗せず捕虜となった。部隊は十八日バンカルピナンを占領し、十九日までには全島の戡定を終了した。
折田大隊長は竹内第一中隊をバンカ島に残置し、残りを率いて二十三日パレンバンに向かった。
先遣隊主力は、宮澤少佐指揮の右縦隊、田中連隊長指揮の中央縦隊、岩淵中佐指揮の左縦隊の分かれ、〇三〇〇頃より泊地から遡江を開始した。
宮澤隊は右、方位から言えば西側のテラ河を、田中隊は中央のムシ河を、岩淵隊は左、東側のサレ河を遡江していった。
田中連隊長は〇三〇〇折田部隊のムントク上陸成功を確認したあと、各部隊に前進を命じた。〇六〇〇から〇六四〇にかけて各部隊は各河川の河口に到着し、遡江を開始し、右縦隊は十五日夕刻パレンバン飛行場方面に進出し、陸軍空挺部隊との連絡を果たした。田中部隊は遡江後パレンバン市街と入り、十六日宮澤隊と合流した。
岩淵隊は上陸後パレンバンには向かわず南方のマルタプラに向かった。
第三十八師団の主力部隊は、上陸のために十六日一八四五にようやくムシ河口泊地に入泊した。その直前、佐野師団長は麾下部隊に対し師団命令を発した。
沼作命甲第一二号
第三十八師団命令 二月十六日一六〇〇
「スマトラ」東方洋上銀洋丸
一 先遣隊の一部は昨十五日〇二三五「バンカ」島上陸に成功、〇六四〇ムント
ク飛行場を占領し、其の主力は左遡江部隊を以て〇六四〇右及中遡江部隊を以
て「ムシ」河口に到着、夫々遡江を開始せり 又空輸挺進団は一昨日一一二六
「パレンバン」飛行場及「パレンバン」精油所付近に降下完了せり
尚第三飛行集団の戦闘一中隊は昨十五日一三〇〇頃「パレンバン」飛行場に躍
進せり 先遣隊船団並に遡江部隊は屢々編隊を以てする敵飛行機の攻撃を受け
あるものの如し
二 師団の企図故の如し 新に第一挺進団は其の「パレンバン」到着の時を以て
又第二海上輸送監視隊は其の「ムントク」到着の時を以て予の指揮下に入らし
めらる
三 先遣隊は自今田中支隊となり第一挺進団と協力し一部を「パレンバン」「リ
マウ」「アバブ」付近に残置し主力を以て成るべく速かに南方に突進し「マル
タブラ」「タンジュンカラン」航空基地の占領整備に任ずると共に「ランプ
ン」湾に於ける敵海軍基地を掃滅し軍の爪哇攻略を容易ならしむべし 此の際
特に有力なる部隊を以て舟艇に依り「パレンバン」ー「マルタブラ」河川を遡
江せしめ速かに「マルタブラ」に進出し敵を捕捉せしむるを要す 新に左記の
者及部隊を其の「パレンバン」到着と共に支隊長の指揮下に入らしむ
又「バンカ」島攻略部隊及独立無線第十三小隊を師団の「パレンバン」到着と
共に予の直轄たらしむと共に師団無線二分隊を「パレンバン」に於て原所属に
復帰せしむべし
左記
親泊参謀
歩兵第二百二十九連隊第三大隊
戦車第四連隊第二中隊(連隊段列三分の一属)
独立自動車第四十五大隊(二中隊欠)
四 参謀長親泊参謀山本副官及師団司令部の一部は本夕主力船団の「ムーシ」河
河口到着に伴い特大発を以て「ムーシ」河を遡江「パレンバン」に向い先行す
べし
其の遡江竝に揚陸は揚陸作業隊をして之に任ぜしむ
五 親泊参謀は「パレンバン」到着と共に田中支隊長の指揮下に入るべし
六 細川参謀は師団の「パレンバン」到着と共に師団に復帰すべし
七 兵器部長は兵器部の一部、兵器勤務隊の一部を以て依然田中支隊と同行し其
の戦闘を容易ならしむべし
爾余の先遣隊と同行しあるものの同行の任務を解除す
八 経理部長は経理部の一部を以て依然田中支隊と同行し其の戦闘を容易ならし
むべし
爾余の先遣隊と同行しあるものの同行の任務を解除す
九 第一挺進団は「パレンバン」飛行場及同地精油所を確保すべし
田中支隊をして其の任務に協力せしむ
十 折田部隊(「バンカ」島を攻略せる折田大隊長の指揮する歩兵約二中隊及其
の配属部隊)は自今予の直轄として依然現任務を続行すべし
十一 歩兵第二百二十九連隊第三大隊は「パレンバン」到着と共に田中支隊長の
指揮下に入るべし
之が為大隊本部及約一中隊は本夕主力船団の「ムーシ」河河口到着に伴い特大
発を以て「パレンバン」に向い前進すべし
其の遡江竝に揚陸は揚陸作業隊をして之に任ぜしむ
十二 戦車第四連隊第二中隊(連隊段列三分の一属)は「パレンバン」到着と共
に田中支隊長の指揮下に入るべし
之が為軽戦車約六は本夕主力船団「ムーシ」河河口到着に伴い特大発を以て
「パレンバン」に向い前進すべし
其の遡江竝に揚陸は揚陸作業隊をして之に任ぜしむ
十三 独立自動車第四十五大隊(二中隊欠)は「パレンバン」到着と共に先遣隊
長の指揮下に入るべし
(十四以降省略)
二十二 予は本夕師団司令部の一部と共に特大発に依り「ムーシ」河河口を出発
「パレンバン」に向い前進す
師団長 佐野忠義
この命令により田中連隊長は、パレンバンに二ケ中隊を残置して、残りの主力部隊を率いて南端のタンジュンカランに向かい前進するために、現地調達した自動車、トラックなどを利用して十七日午後パレンバンを出発。軍の井戸田参謀と師団の親泊参謀もこれに同行した。
宮澤隊はタランジュール油田を占領したのち、警備隊を残して主力は南下した。ここタランジュール駅で利用可能な機関車一台を入手し、これに歩兵一小隊、連隊砲一門を載せ、追撃させた。
田中連隊長は自動車がないために、揚陸された自動車を利用して十九日〇五〇〇マルタプラ飛行場に到着した。
岩淵隊は十九日〇四〇〇過ぎにマルタプラ飛行場に進出して、これを占領し、其後宮澤隊、田中隊が到着した。
翌日払暁タンジュンカランに進出し海岸にある町テロックンベトンに進出したが、連合国部隊の殿軍部隊は砲艦二隻にて脱出したところであった。砲兵隊の到着がまだであったので、この逃走を眺めているだけであった。
翌日軍の井戸田参謀は、付近の探索の結果飛行場を発見したが、未造成に近く、長さは七百メートルほどしかないために、田中連隊長の指揮のもと、建設作業に着手し、二十五日までに長さ八百メートル、幅二十五メートルの滑走路を完成させ、同日午後には第三飛行団の戦闘機が進出した。
師団長以下の主力部隊を乗せた船団は、船団を遡江させるために掃海隊で先に掃海遡江させたが、敵機の度々の空襲と海底の障害物、そして機雷の処分にあたったために、揚陸作業は遅れ遅れとなった。師団司令部は、海防艦占守により先行してパレンバンに到着しこれを上陸させ、掃海作業が完了したのち、ようやく船団は遡江してパレンバンに二十日午後に到着し、二十八日揚陸作業を完了させた。
佐野師団長は十七日占守によりパレンバンに上陸し、十九日今後の作戦行動について命令を下した。
重要なラハト油田の占領と、各地に飛行場の確保を命じた。もはや敵部隊は降伏後のため交戦する敵兵には会敵せず、油田、飛行場などを順調に占領していった。
三月四日、最後の重要拠点ジャンビー油田を占領し、第三十八師団の作戦任務を完了した。
占領した油田施設の損害は少なく、作戦は成功と思われたが、十九日以降襲来した連合国軍機の少数の爆撃により、油田施設は大きな被害を蒙った。十九日、二十日、二十一日と続いた爆撃で、精油所のタンクが炎上し、三〇基近くあったタンクは悉く炎上してしまった。
落下傘部隊の投入は結局は無駄になってしまった。輸送船の到着が機雷処分などのために遅れて高射砲部隊の揚陸が遅延したのと、飛行場の整備が間に合わず、戦闘機部隊の進出が遅れた事が大きな要因であった。
挺進団が損害を受けながら、ほぼ無傷で手中にした精油所が結局は灰塵に期したことは遺憾な事態となったのである。
特に貯蔵タンクの炎上は大きな痛手であった。南スマトラ地区の一九四〇年に於ける年産は四〇〇万トンに及ぶとされていたから、生産施設の早期復旧は見込まれても、タンクの炎上喪失は大きい問題であった。
挺進団占領後調査による精油所の状況は十八日に報告されているが、それには原油約十五万トン、精油約四十万トンを確保したこと、タンクの焼失は一個のみであることが報告されており、精油所確保の作戦はこの時点では大成功であったといえる。だが、大きな災いに見舞われたのである。
ボルネオ島、セレベス島、バリ島、南部スマトラ島の占領により、ジャワ島攻略に対する包囲態勢は整ったのである。
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