第十九話 第三十八師団 スマトラ南部攻略作戦

 第三十八師団は香港攻略戦後、東海林支隊はジャワ作戦参加、以外の主力はスマトラ作戦参加の命令を受け、一月末にはカムラン湾に集結していた。

 師団の香港攻略戦における死傷者は、約千二百名であり予想よりも少ないものであったが、兵員の補充は広東地区にあった第百四師団(編成地大阪)よりまかなわれた。

 といっても、師団主力のスマトラ作戦参加兵力は、四コ大隊を基幹とするものであった。


 日本軍が得ていたスマトラ南部の敵情については、

「スマトラには約一〇、〇〇〇の蘭印軍あって、要地に一大隊ずる配置していると思われ、英濠軍の一部も増援されているようであり、うち南部スマトラの地上兵力は約三、〇〇〇と判断される」という見通しだった。

 そしてパレンバン付近には「司令部、歩兵大隊、機関銃、歩兵砲若干、軽戦車約五両、高射砲、飛行機若干などが存在する」ということで、地図は、南部スマトラ五十万分の一、パレンバン付近五万分の一、航空写真などが配布されていた。

 パレンバンの占領確保といっても諸問題が存在していた。それは上陸部隊は河を遡上して部隊を輸送しなければならず、敵がどのような阻害の手を打つか、色々な障害を考慮して対処することも考えなければならなかった。

 落下傘部隊により奇襲作戦があっても、兵力的には不足であり、部隊の安否のことも考えなければならなかった。


 そのために第三十八師団は次にような作戦計画を立案した。


一 兵力部署

 先遣隊(輸送船八隻)

  長 歩兵第二百二十九連隊長 大佐 田中良三

    「ムントク」上陸部隊

    長 歩兵第二百二十九連隊第一大隊長 大尉 折田優

    「ムシ」河遡江部隊

    長 歩兵第二百二十九連隊長 直卒

      歩兵一大隊  歩兵一中隊基幹

    「サレ」河遡江部隊

    長 工兵第三十八連隊長 中佐 岩淵経夫

      歩兵、砲兵、工兵各一中隊基幹

    「テラ」河遡江部隊

    長 歩兵第二百二十九連隊第二大隊長 少佐 宮澤重蔵

     歩兵半大隊、砲兵一小隊基幹

  師団主力

    歩兵二大隊、砲兵一大隊、工兵一中隊基幹

二 戦闘指導の要領

 1 「ムントク」上陸部隊はL日〇三〇〇頃「ムントク」飛行場南岸に奇襲上

   陸し 先づ飛行場を占領整備すべし「バンカ」島要衝を占領す

 2 「パレンバン」遡江部隊(「ムシ」「サレ」「テラ」河遡江部隊)

   先遣隊主力は「ムントク」泊地に於て舟艇に移乗したる後L日〇七〇〇頃

  「ムシ」河、「サレ」河、「テラ」河各遡江部隊を以て遡航を開始し、挺進

  団と協力して先づ「パレンバン」付近の資源及重要施設を占領す (海軍は

  大発一、小発十を以て「ムシ」河より「パレンバン」鉄道桟橋上流三哩迄の

  水路啓開に任じ輸送船六隻は水路啓開後「ムシ」河を「パレンバン」迄遡航

  す)

  爾後速かに「マルタプラ」「タンジュンカラン」飛行場及「アバブ」「リマ

  ウ」付近油田地帯を占領すると共に「ランプン」湾及「スマンカ」湾に於け

  る敵海軍基地掃滅を準備す

  「マルタプラ」占領をL+六日「タンジュンカラン」占領をL+九日と予定

  す

 3 師団主力はL+二日「ムシ」河口に到着本船の儘「ムシ」河を遡航し「パ

  レンバン」付近に上陸し先遣隊の戦果を拡張す

三 第三十八師団に同行する飛行場部隊及航空資材別紙第一の如し 

               (別紙省略)


 一月三十一日、カムラン湾にて海軍小沢中将と佐野師団長との間で、陸海軍協定の打合せが行われ、それに基づき二月一日に佐野師団長と護衛指揮官橋本信太郎少将と遡江部隊指揮官平岡粂一少将との協定がとりかわされた。 


  L作戦に関する陸海軍間協定

第一 上陸点遡江河川及其の偵察

 一 上陸点(「ムントク」上陸部隊)

   「ムントク」飛行場南方海岸

 二 遡江河川(「パレンバン」遡江部隊)

  先遣隊 ムーシ河 サレ河 テラン河

  主力  ムーシ河

 三 上陸点遡江河川等の偵察

  陸海軍飛行機に依り隠密空中写真偵察を行う外之を行わず

第二 上陸部隊の兵団部署

 一 先遣隊      長  田中大佐

  「ムントク」上陸部隊 歩半大隊    長  折田大尉

  「ムーシ」河遡江部隊 歩一大 砲一中 長  田中大佐

  「サレ」河遡江部隊  歩一中 砲一中 工一中

                     長  岩渕中佐

  「テラン」河遡江部隊 歩半大隊 砲一小

                     長  宮澤少佐

 二 揚陸作業隊   大発二七 小発三〇 特発四

                     長  森本中佐

 三 主 力     歩二大 砲一大 工一中

                     長  師団長

第三 輸送船の集合点出発期日上陸(遡江)開始日時及上陸日程

 先遣隊 ムントク上陸部隊 輸送船二隻

     出発期日  Lー六日 一九〇〇

     上陸(遡江)点到着  L日〇〇〇〇 ムントク

     上陸開始日時     L日〇二〇〇頃

     上陸日程       約十日

     パレンバン遡江部隊 輸送船六隻

     出発期日  Lー六日 一九〇〇

     上陸(遡江)点到着  L日〇〇〇〇

                次で舟艇機動に依りL日〇

                七〇頃夫々「ムーシ」「テ

                 ラン」「サレ」河口着

     上陸開始日時  L日〇七〇〇頃各河口遡江開始

             輸送船は適時「ムーシ」河口へ転

             錨、同河の水路啓開次第「パレン

             バン」迄遡江す

     上陸日程    約二週間

 主力      輸送船 十四隻

     出発期日  Lー四日 一八〇〇

     上陸点到着 L+二日〇〇〇〇頃

           「ムーシ」河口着

     上陸日程    約二週間

第四 輸送船隊区分指揮官の所在

 護衛隊指揮官

 第一護衛隊指揮官  橋本少将

 遡江部隊指揮官   平岡少将

 先遣隊 第一分隊  但馬丸(六、九九五トン) 岩渕中佐

           たこま丸(五、七七二トン)

           満星丸(七、七七〇トン)

           旺洋丸(五、四八四トン) 宮澤少佐

     第二分隊  安洋丸(九、二五六トン) 折田大尉

           あらすか丸(七、三七八トン)

           鬼怒川丸(六、九三六トン)田中大佐

           佐渡丸(七、一八〇トン) 防空船

 第二護衛隊指揮官  三好大佐

 主力  第三分隊  あるべん丸(六、六六一トン)

           新嘉坡丸(五、八五九トン)

           新京丸(五、一三九トン)

           楽洋丸(九、四一八トン)

           りま丸(六、九八九トン)

           銀洋丸(八、六一三トン) 師団長

           対馬丸(六、七五四トン)

     第四分隊  明元丸(五、四三五トン)

           武津丸(五、四四六トン)

           乾瑞丸(四、一五八トン)

           まかつさ丸(四、〇二六トン)

           第一真盛丸(五、八七九トン)

           扶桑丸(八、一九六トン)

           宏川丸(六、八七二トン)

第五 海上護衛

 一 護衛兵力

  ㋑ 直接護衛兵力

    第一護衛隊 3sd[川内、11dg、朝霧]10dg、11chg

    第二護衛隊 由良、占守、20dg(朝霧欠)、第七、

          第十二昭南丸、駆潜九

  ㋺ 間接護衛兵力

    初鷹  永興丸

 二 航 行

  ㋑ 航 路

   基準航路を別紙第一の如く定め特令なければ第一航路を執る 但し敵情天

   象海象の情況等に依り護衛隊指揮官に於て右航路を変更することあり

  ㋺ 航行速力

    原速力  八節

    半速力  七節

    微速力  六節

  ㋩ 航行隊形 

    第一航行隊形 (図省略)

    第二航行隊形 (図省略)

 三 護衛要領

  ㋑ 「カムラン」湾出撃時護衛隊の大部を以て港口付近一帯の対潜掃蕩を行

   う

  ㋺ 輸送船隊警戒航行序列

    (図省略)

  ㋩ 敵艦艇出現の状況に依りては掃海艇駆潜艇をして輸送船隊を直接護衛誘

   導せしめ軍艦及駆逐艦は一時敵艦艇の攻撃に任ずることあり

 四 会敵時の処置

  ㋑ 敵潜水艦又は飛行機襲撃の懼ある場合は各分隊毎に嚮導艦誘導の下に四

   十五度外方に開進し両側分隊の間隔を二〇〇〇米とすることあり

  ㋺ 敵の空襲又は敵潜水艦の襲撃を受けたる場合は護衛隊指揮官(又は嚮導

   艦艦長)の令に依り各分隊は一斉回頭を以て回避するを例とす

    但し両分隊の横間隔二〇〇〇米以上なる場合に於ては僚艦(船)に危害

   を及さざる範囲に於て独断短時間の単独回避を行うことを得

  ㋩ 第二航行隊形にて航行中敵潜水艦飛行機又は魚雷を至近距離に発見した

   る場合は嚮導艦艦長の令に依り又は情況に依り独断回避を行わしむること

   あり

 五 輸送船自衛兵器の使用

   輸送船自衛兵器の使用に関しては護衛隊指揮官の特令に依る

   但し対空射撃の始終及攻撃目標は航海中は護衛艦に倣い実施し泊地進入後

   は輸送指揮官の令に依り単独之を実施するを原則とす

 六 輸送船故障又は遭難時の処置

 ㋑ 遭難船の救助応急処置の援助は差当り後続護衛艦之に任じ其の他の艦船は

  特令なき限り現針路速力を保持するものとす

 ㋺ 落伍船を生ぜる場合は次番船は其の空位を充するものとし落伍船追及した

  るときは所属分隊の後尾に入るを例とす

 七 燈火管制

  航泊を問わず非常(戦闘)管制とし航海中輸送船(各列の殿艫を除く)は所

  要の船尾信号灯を点出するものとす

  但し之が実施は護衛隊指揮官の定むる所に依る

第六 牽制陽動

 牽制陽動は之を実施せず

第七 泊地進入要領、輸送船隊の投錨時機及碇泊隊形

  (省略)

第八 上陸戦闘上陸掩護及揚陸作業援助

 一 ムントク上陸戦闘

  奇襲上陸を本則とするも情況に依り敵の陸海空軍の攻撃を排除して強行上陸

  を敢行することあるを予期す

 二 上陸掩護

  艦砲射撃を行わず

 三 揚陸作業援助

  ㋑ 海軍

  ⑴ 「ムントク」及「ムーシ」河口に於ては駆潜艇及特設掃海艇をして輸送船

   泊地付近を機宜行動警戒に任ぜしむると共に要する場合海上救護に当たら

   しむ

  ⑵ L日早朝「ムントク」に於ける輸送船転錨泊地の掃海を行う

  ⑶ 先遣隊の「パレンバン」遡江部隊が「ムントク」より「ムーン」「テラ

   ン」両河及「サレ」河口に向い舟艇機動を行う場合は小艦艇二隻をして

   夫々右河口迄舟艇隊の嚮導を行わしむ

 (註)① 舟艇隊集合点

     鬼怒川丸(「ムーン」「テラン」河口行舟艇)

     但馬丸(「サレ」河口行舟艇

    ② 舟艇集合点発(舷側発)予定時刻

     L日〇三〇〇頃

  ㋺ 陸軍

    陸軍は永興丸の「ムントク」に於ける水上基地物件揚陸を援助するもの

   とす

第九 「ムーン」河水路に関する陸海軍の協同

 一 永興丸は「ムントク」投錨後速に小発九隻の艇員を鬼怒川丸に大発一隻、

  小発一隻の艇員を旺洋丸に派遣し陸軍より大発一隻、小発一〇隻を受領す 

  但し大(小)発の機関運転員は陸軍より派出するものとす

  右大(小)発は水路啓開完了後「パレンバン」停車場桟橋付近に於て陸軍側

  に退却するものとす

 二 水路啓開区域

  海軍遡江部隊は「ムーシ」河口より「パレンバン」鉄道桟橋上流三浬迄の水

  路啓開に任ず

 三 水路嚮導

  「ムーシ」河に於ては輸送船の水路嚮導は行わざるを原則とするも危険区域

  は適宜海軍側に於て嚮導に任ず

 四 海軍遡江部隊は水路啓開に状況を鬼怒川丸に通報するものとす命令

第十 通信

   (以下省略)


 第三水雷戦隊司令官橋本信太郎少将は同日第一護衛隊指揮官としての命令を下した。

 機密馬来部隊第一護衛隊命令作第三号

  昭和十七年二月一日「カムラン」湾旗艦川内

    馬来部隊第一護衛隊指揮官 橋本信太郎

   馬来部隊第一護衛隊命令

一 馬来部隊、第一、第二護衛隊は機密馬来部隊命令作第一七号に基き左の任務

 を達成せんとす

 イ、第一護衛隊

  陸軍L作戦先遣隊の輸送船隊を「カムラン」湾より「ムントク」沖迄護衛し

 之を「ムントク」に揚陸せしむると共に之が舟艇船舶を「ムーシ」「サレ」河

 口迄嚮導護衛す

 ロ、第二護衛隊

  陸軍L作戦主力の輸送船隊を「カムラン」湾より「ムーシ」河口迄護衛す

二 兵力部署

 第一護衛隊

   直接護衛隊

     軽巡  川内

     第十一駆逐隊

     駆逐艦 朝霧

     第十一駆潜隊(第九号欠)

   掃海隊

     第一掃海艇隊

 第二護衛隊

   軽巡 由良

   海防艦 占守

   第二十駆逐隊(朝霧欠)

   第四一掃海隊第一小隊

   第九号駆潜艇

三 (以下省略)


 陸海軍協定に基づき、佐野師団長は二月二日、L作戦に関する師団命令を下達した。

  沼作命甲第一〇一号

    第三十八師団命令  二月二日一八〇〇

              「カムラン」銀洋丸

一 軍は蘭領印度に於ける敵を撃破して其の根拠を攻略し併せて軍事及資源の要

 域を占領確保す

二 師団は第一南遣艦隊と協同し南部「スマトラ」を攻略石油資源を獲得確保す

 ると共に速かに「バンカ」島「パレンバン」「マルタプラ」「タンヂュンカラ

 ン」付近の航空基地を占領整備し且「ランプン」湾及「スマンカ」湾に於ける

 敵海軍基地を掃滅軍の爾後に於ける作戦を容易ならしめんとす

 第三飛行集団は師団の作戦に緊密に協力す

 第九根拠地隊第三水雷戦隊との協定覚書別冊の如し

 新に海上「トラック」五漁船約七十を配属せらる筈

三 先遣隊は別命する日次に「カムラン」湾出発L日零時頃「バンカ」島「ムン

 トク」南方海上に到着大隊長の指揮する歩兵約二中隊を以て同島に上陸せしめ

 先づ「ムントク」飛行場を占領整備し且つ「パンカルピナン」等の「バンカ」

 島要衝を占領せしむると共に主力を以て該海上付近に於て舟艇に移乗概ね左記

 部署に依り「テラン」「ムーシ」「サレ」の三河川を遡江し「パレンバン」を

 攻略既に同地に到着しある予定の空輸挺進隊と協力先づ「パレンバン」飛行場

 の占領整備該地に於ける製油所発電所其の他重要施設及「アバブ」「「リマ

 ウ」付近油田地帯の占領確保に任じ且「マリタプラ」「タンヂュンカラン」航

 空基地の占領並に「ランプン」湾及「スマンカ」湾に於ける敵海軍基地の掃滅

 を準備すべし

 第一南遣艦隊の第三水雷戦隊及第九根拠地隊其の「バンカ」島上陸戦闘及「パ

 レンバン」に到る遡江に協力す

   左 記

 1、「テラン」河遡江部隊

  大隊長の指揮する歩兵約二中隊砲兵約一小隊基幹

 2、「ムーシ」河遡江部隊

  先遣隊長の指揮する歩兵約三中隊砲兵約一中隊基幹

 3、「サレ」河遡江部隊

  工兵連隊長の指揮する歩兵約一中隊砲兵約一中隊基幹

四 細川参謀は先遣隊と同行し其の戦闘を指導すべし

五 兵器部長は兵器部の主力を以て兵器勤務隊の一部と共に先遣隊と同行し其の

 戦闘を容易ならしむべし

六 経理部長は経理部の主力を以て先遣隊と同行し其の戦闘を容易ならしむべし

七 軍医学部長は軍医部の一部を以て先遣隊と同行せしめ其の衛生業務を容易な

 らしむべし

八 揚陸作業隊は一部を以て先遣隊の「バンカ」島上陸戦闘に協力すると共に主

 力を以て「テラン」「ムーシ」「サレ」河川の遡江に協力し且先遣隊及師団主

 力の「ムントク」及「パレンバン」付近揚陸作業に任ずべし

 尚有力なる一部を以て「ムントク」及「パレンバン」付近に於て船舶資材を押

 収すると共に揚塔施設を確保すべし

 海上「トラック」五、漁船約七十を「ムントク」付近に於て配属の予定

九 第七飛行場中隊長は先遣隊長の区処を受け其の「パレンバン」飛行場占領整

 備竝に「マリタプラ」「タンヂュンカラン」飛行場等の占領準備に協力すべし

 飛行場設定の為に苦力約六〇〇を配当す

十 第三十三飛行場中隊長は先遣隊長の区処を受け先づ其の「ムントク」飛行場

 の占領整備に協力すると共に先遣隊の「パレンバン」攻略に伴い其の「パレン

 バン」飛行場の占領整備竝に「「マリタプラ」「タンヂュンカラン」飛行場等

 の占領準備に協力すべし 飛行場設定の為に苦力約九〇〇を配当す

十一 第二十五航空通信隊の一部及野戦気象第二中隊の一部は先遣隊長の区処を

 受け各一部を以て「ムントク」各主力を以て「パレンバン」に位置し第九、第

 十項飛行場の占領整備及飛行場の占領準備に協力すべし

十二 船舶通信連隊第二中隊は主力を以て先遣隊一部を以て本隊と同行し航行間

 に於ては船団間の通信連絡に任じ先遣隊の上陸戦闘及先遣隊本隊の揚陸に方り

 ては船団上陸部隊揚陸作業隊間の通信連絡に任ずべし

十三 採油隊は其の主力を以て先遣隊と同行し石油資源の獲得に任ずると共に成

 るべく速かに操業を開始し得る如く準備すべし

十四 本隊たる各部隊は別命する日次に「カムラン」湾出発L+二日未明「ムー

 シ」河河口に到着同河を遡江し「パレンバン」に向い前進すべし

十五 歩兵第二百三十九連隊第三大隊は「パレンバン」到着に伴い速かに先遣隊

 長の指揮下に入るの準備あるべし

十六 戦車第四連隊光岡隊は「パレンバン」到着に伴い速かに先遣隊長の指揮下

 に入るの準備あるべし

十七 高射砲第二十三連隊(二中隊及照空中隊欠)は航行間及泊地進入間の防空

 に任ずべし

十八 独立自動車第四十五大隊(二中隊欠)は「パレンバン」到着に伴い速かに

 先遣隊長の指揮下に入るの準備にあるべし

十九 軍政部長は一部を以て先遣隊長の区処を受けしめ師団占領地域の軍政施行

 を準備せしむると共に主力を以て依然現任務を続行すべし

二十 宣伝班長は一部を以て先遣隊長の区処を受けしめ師団作戦地域の宣伝業務

 に任ぜしむると共に主力を以て依然現任務を続行すべし

二十一 先遣隊及本隊は各々「カムラン」湾出港より泊地進入迄船舶通信隊七号

 無線の外厳に無線を封止べし

二十二 各部隊の特に肇国の大精神を奉行し皇軍たるの名声を中外に発揚するた

 めに万般の手段を講ずべし

二十三 予は銀洋丸に在り

 L+二日本隊と共に「カムラン」湾出発「パレンバン」に向い前進す

           師団長   佐野忠義

(アジア歴史資料センター「独立工兵第二十六連隊第二中隊第一小隊戦闘詳報」より)


 第一護衛隊は先遣隊を乗せた輸送船八隻を護衛し、二月九日カムラン湾を出撃し、第二護衛隊は主力隊の輸送船十四隻を護衛し十一日カムラン湾を出撃した。

 当時はまだシンガポールは陥落しておらず、シンガポールを入出港する敵艦船及商船などが航行しており、その警戒もしなければならず、軽巡や駆逐艦を投入して、これらの攻撃排除をしなければならず、なおかつ輸送船団は敵爆撃機の攻撃範囲を航行する為に、護衛艦艇の不足や上空掩護機の不足も考慮しなければならなかったのである。

 護衛隊は輸送船団の掩護もするが、敵艦艇の攻撃や拿捕も任務としてはあり、第三水雷戦隊の戦闘詳報によれば、二十四日迄に撃沈または擱座させたもの十五隻、拿捕又は捕獲したもの十七隻に達した。その捕獲した船の中には連合国部隊の兵士約六百名以上も含まれており、後に陸軍側に引き渡された。

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