第十四話 バリ島攻略とバリ島沖海戦

 バリ島は小スンダ列島の西端に位置しており、西にはジャワ島があり、その間のバリ海峡は三キロほどである。面積は約五六三〇キロ平方、島の北部側を火山帯が走り、標高三一四二米のアグン山やバトゥール山などの火山がある。南部は丘陵地から平地となっており、農業に適した土地ともなっている。戦前には「最後の楽園」のキャッチコピーで欧米の芸術家たちがバリ島を訪れた。


 バリ島と敵情判断としては、敵の航空兵力はジャワ島を本拠地として、クーパン、バリ島からポートダーウィンの線で増強を務めていたが、その大部はわが航空部隊の攻撃により相当の損害を被っていると思われたが、バリ島は敵航空基地からも近いことから、敵航空兵力による反撃も予想された。敵の水上艦船については、四日のジャワ沖海戦による航空部隊の攻撃により打撃を受けており、有力艦艇の出現を見ていないが、小艦艇による奇襲攻撃に警戒が必要である。潜水艦の配備については厳重な警戒を要する。バリ島のデンパッサル飛行場は陸攻の使用に適すると判断する。また、バリ島の守備隊は約一コ大隊であり、その主力は北部のシンガラジャにあり、飛行場の守備は歩兵一コ中隊程度と判断していた。


 参加する陸軍の攻略部隊は以下の通りである。

 指揮官 台湾歩兵第一連隊第三大隊長 金村亦兵衛少佐

 兵力  台湾歩兵第一連隊第三大隊(一コ中隊欠)

     山砲一コ小隊

     独立工兵一コ小隊、他

 海軍部隊

 第一根拠地隊司令官

  軽巡 長良

  第二十一駆逐隊

 攻略隊

  第八駆逐隊

    駆逐艦 大潮、朝潮、満潮、荒潮

  第五設営班、他

  輸送船 笹子丸、相模丸


 バリ島攻略作戦を支援する航空制圧は十四日以降開始されたが、天候不良が続いて天候偵察自体ができず、航空攻撃も実施できないまま日時が過ぎていった。蘭印部隊指揮官高橋中将は、一日作戦延期を命じた。だが、十七日も天候不良で攻撃が実施できず、根拠地部隊指揮官久保少将はこれ以上の延期は戦機を逸するものと判断して、十八日攻略発動、十九日に上陸決行を命じた。

 

 十八日攻略隊を乗せた輸送船笹子丸と相模丸は、第八駆逐隊の「大潮」「朝潮」「満潮」に護衛され〇一〇〇マカッサルを出撃した。途中、対戦掃蕩のために先行していた駆逐艦「荒潮」が〇四〇〇頃合同し、カンゲアン島東端に向けて、針路二四五度、速力一六節で航行した。

 船団は日出から讃岐丸の水偵による対潜哨戒と三空の零戦による上空掩護を受けながら航行し、一五三〇頃にはカンゲアン島付近に達しロンボック海峡に向け針路を変えた。日没頃にはスラバヤから二〇〇浬圏内に入ったので警戒を厳にし、泊地進入のために、駆逐艦「荒潮」が先行し、船団は二三〇〇何事もなく泊地進入の針路をとった。


 十九日、「荒潮」はサヌール泊地を掃海して機雷の存在を認めず、船団は泊地に進入し、第一回上陸部隊は〇一〇〇には舟艇を発進させ、上陸に成功した。敵からの反撃はなかった。

 第八駆逐隊司令は

「予定地点に上陸成功 敵の抵抗なし十九日〇一〇〇」

 と報告した。


 〇七二二の日出後、敵機の空襲が頻繁となった。〇八〇〇頃に爆撃機三機が来襲し船団が爆撃を受けたが幸い命中弾なし。だが、〇八三〇爆撃機(機数不明)が襲来して相模丸が船体中央に被弾した。一〇〇〇頃に再び爆撃機四機から五機、一〇三〇から飛行艇三機、爆撃機四機が襲来した。幸い被弾はない。

其後一時間おきに少数機が襲来し、笹子丸が至近弾による損傷があったが、それ以外は被害はなかった。相模丸は調査の結果で片舷航行は可能であるとの報告を発した。

 一六三〇今度は泊地警戒中の駆逐艦「大潮」が敵潜望鏡を発見し、魚雷四本の攻撃を受けたとし、爆雷攻撃を加えたが、効果は不明であった。

 輸送船側は揚陸作業が夕刻には完了したため、空襲と潜水艦の攻撃を避けるために、一七二五に抜錨してロンボック海峡北方に退避、相模丸は第八駆逐隊の駆逐艦二隻が護衛して、七ノットでマカッサルへ向かい、笹子丸は反転して泊地内で舟艇を収容するために、二一〇〇頃再び入泊した。

 笹子丸と駆逐艦「大潮」「朝潮」は入泊後舟艇の収容を行い、収容後二三五〇頃に抜錨するころ、当時は月齢四、曇天で視界は八キロ程度であった。


 そんなおり、警戒していた駆逐艦「朝潮」が南約六キロの洋上に艦影を発見、その後、北上してくるジャバ型巡洋艦二隻と判断された。接近してきた敵艦は、午前零時、距離約二〇〇〇メートルの地点から「朝潮」に向って射撃してきた。「朝潮」もすかさず応戦し、同航砲戦のかたちとなったが、航行をはじめてまもなしであったため速力があがらず、砲戦二分ほどで敵を見失った。「朝潮」は敵が南方に反転したものと判断し、増速して南方に向った。劈頭のこの戦闘では「朝潮」の探照灯に弾片があたったほかは被害はなく、われの射撃効果は不明であった。

 このとき「大潮」は「朝潮」の前方二~三キロにいて、「朝潮」の交戦を知って砲戦に参加すべく航進をおこしたが、間に合わなかった。しかしすぐに南方約六〇〇〇メートルの距離に駆逐艦らしき一隻を認め、一五〇〇メートルの至近距離まで迫って砲撃を開始した。敵は応戦を避け、煙幕を展張しながら南へ逃れようとした。「朝潮」がこれを追跡中、さらに遠方に別の駆逐艦二隻が現れるのを見た。


 「朝潮」はこの駆逐艦を一応放置して、先の駆逐艦一隻をさらに追い詰めて魚雷を発射、命中撃沈と認めた。「朝潮」が魚雷発射のために回頭している間に、僚艦「大潮」は「朝潮」の左前方に出た。両艦は先に視認した敵を探して南下すること数分で、右舷二〇〇〇メートルに同航する米駆逐艦二隻をみとめ、ただちに砲撃をあびせたが、敵は応戦しながら煙幕を張りつつ逃げ去った。両艦がこの敵を求めて北上するうち、午前零時四十五分、左前方三五〇〇メートルに駆逐艦二隻を発見、ただちに砲撃を加えて四十七分には一隻は火災を起こし沈没、他の一隻も火災を生じており、さらに砲撃を加えつつ反転南下し、再び反転北上する頃には火災中の敵艦の姿はなく、二隻とも沈没したことを確認した。

 その後、「大潮」と「朝潮」は北上して午前一時四十分ごろサヌール沖に戻り、ロンボック海峡の中央を東西に哨戒を続けた。この間に、舟艇の収容作業を終えていた「相模丸」は、単独でマカッサルにむけ北上を続け、先にいったんマカッサルに向かっていた「満潮」「荒潮」は海戦の報を受けて午前一時四十五分反転、ロンバック海峡に向った。


 サヌール沖にあった「大潮」「朝潮」は、ふたたび南方から高速で北上してくる敵巡洋艦二隻、駆逐艦一隻を認めて、五分後距離三二〇〇メートルで砲戦を開始、さらに八分後水中爆発音を聞き、魚雷命中と判断したが、それ以後の敵の情況は、背景となったバリ島上の山影にかき消えた。

 その後「大潮」と「朝潮」は見失った敵影を追ってバダン海を東へ走り、レンボガン島北西にさしかかった午前三時四十一分、左前方三二〇〇メートルの距離に同航するトロンプ型巡洋艦を発見し、ただちに左舷同航砲雷戦を開始した。敵も応戦してきて、数分間近距離の砲戦が続いた。われの魚雷の効果は確認できなかったが、両艦の砲弾多数が敵艦に命中するのを認めた。しかし、三時四十六分敵弾一発が「大潮」の二番砲塔付近に命中した。かなりの手傷を負ったとみられう敵はその後も東航を続け、おりから北方より反航してきた「満潮」「荒潮」と砲火を交えつつ砲煙の中に姿を消した。


 北方から反航してきた「満潮」「荒潮」は、はるか左前方に砲戦の閃光を認めて前進するうち、砲火とは別に右前方のバリ島の陰から突然米駆逐艦らしき二隻が反航してくるのをみとめ、午前三時四十七分、三五〇〇メートルの距離で彼我ほとんど同時に火ぶたを切った。

 砲撃開始後、約二分で敵一番艦の沈没を認めたが、相打ちとなり、「満潮」は機械室に命中弾を受けて蒸気が奔騰して航行不能におちいった。両艦が右舷の駆逐艦と砲戦をまじえるのと同時に、左舷一六〇〇メートルの至近距離に突然、これも駆逐艦一隻が反航体勢であらわれ砲火を放ってきたが、すぐに砲煙の中に姿を消し、続いてそのあとから巡洋艦一隻が三〇〇〇メートルの距離で反航してきた。「荒潮」がこの巡洋艦に砲火を浴びせて、短時間ながら命中弾を確認したが、敵はそのまま砲煙の中に消えた。機械室に被弾した「満潮」は、そのほかにも数発の命中弾を受けて機関長以下六四名の戦死傷者を出したが浸水個所はなく、しばらく漂泊して応急処置にあたった。

 第八駆逐隊の各艦が消耗した砲弾は次の通りである。

  「大潮」 約三六斉射  二百十七発

  「朝潮」 約五二斉射  三百十発

  「満潮」 約一〇斉射  六十二発

  「荒潮」 約一二斉射  七十三発


 連合国側は、蘭巡洋艦「デロイテル」「ジャバ」蘭駆逐艦「ピートハイン」、米駆逐艦「フォード」「ポープ」が最初参加し、次に蘭巡洋艦「トロンプ」、米駆逐艦「スチュワート」「パロット」「エドワーズ」「ピリスベリー」が参加。沈没したのは駆逐艦「ピートハイン」、巡洋艦「トロンプ」が中破、駆逐艦「スチュアート」が小破したのが正確な損害であった。日本軍側は「満潮」が大破、「大潮」が小破した。


 駆逐艦満潮乗員であった渡辺大二一等兵曹の回想からこの海戦の模様を見てみたいと思う。

 

『相模丸を護衛して先行中の二小隊、満潮、荒潮は、泊地にて奮戦中の僚艦、大潮・朝潮の「われ、敵艦と交戦中なり」

との情報をキャッチしたので、午前一時三十分、相模丸を先行せしめて反転し、索敵しつつロンボック海峡を急ぎ南下する。

 遠く夜陰に探照灯の点滅するのが見え、砲戦の轟きが聞える。その時点の測距離は、約二万五千メートルであった。いよいよ「戦闘開始」と敵愾心を燃やしつつも、武者震いがする。

 いまだ距離的にも間があると思いきや、艦橋から突然

「右、白波!」

 鋭い怒声にも似た声がひびく。右、四十度ぐらいであったろうか。反航体勢である。瞬時にして、艦内には緊迫した空気がみなぎる。

ただちに、

「照射はじめ!」

の号令一声。暗い洋上に探照灯が照らされ、その敵艦を捕捉する。映し出された艦影を見た瞬間、筆者は、

(敵巡洋艦!)

と思った。ねずみ色より少し白っぽい船体であった。

 鮮明に照らし出された敵艦を確認するや、

「四十七、四十七!」

 と筆者は、瞬時に二回発唱した。測距離四千七百メートルの意である。わが照射と同時に、敵艦より発砲があり、つづいて魚雷が発射された。虚をつかれたかたちで、先制攻撃を浴び、大いに動揺する。艦長の

「面舵一杯」

「前進、全速航行」

「撃ちかたはじめ」

 の号令にも、転舵による傾きのため、弾が出ない。俯角一杯なのである。つぎの瞬間、

(被弾のため、艦は沈みつつあるのでは?)

と思いめぐらしたほどである。

 そんな光景を目前にして、地団太を踏み、やむなく機銃にて応戦する。

 やがて体勢変化で、艦の姿勢も正常位置に戻り、待望の初弾が発砲された。これが、ものの見事に命中する。

 敵の艦橋付近が炎上して、赤々と火炎を噴き上げている。そして、あたりは、そちこちに炸裂する砲弾、稲妻のごとく閃光を発して飛び交う砲弾等々で、まさに壮烈極まりない戦場と化していた。(中略)

 艦橋の下の応急員の伝令が、

「二番砲塔に一発被弾!二番砲塔員全滅」

と叫んでいる。弾薬が誘発して、その火災による戦死傷者が多数出たのである。

 つづいて艦橋に一発被弾する。この敵弾は探照灯長の股をくぐり抜け、前部電信室を破壊して、艦橋を撃ちぬいたものであった。艦長の小倉正身中佐も、この一弾で負傷した。

 暗闇のなかの艦橋からは、瀕死状態の兵士たちの悲愴なうめき声が、そちこちより聞えてくる。いま、まさに死と直面し、末期の水を欲しがる真野雄太郎水兵長は、

「興亜の礎に先立ちます。分隊長、分隊士、さようなら」

 そして、詩吟の「城山」を朗々と吟じつつ、いくばかりかのちに息絶えたのである。彼の胸中を察するとき、とめどなく涙の流れるのを禁じえなかった。しかし、それは、いつわが身にふりかからないとも限らない。

 中甲板をふり向けば、発射管の魚雷に火の手があがるのが見える。

(あわや、あと数秒で、艦は火の海か)

 と一瞬、背筋の凍る思いがする。期せずして、一下士官の懸命な消化活動により、この危機を回避することができたのである。(中略)

 小康状態をとり戻したので、先ほどの艦橋に立ち戻って見ると、そこには両足を切断された真野雄太郎水兵長の遺体が横たわっていた。生きながら地獄を見た思いであった。

 機関部に三発被弾し、それによる蒸気噴出のため、機関部員、缶部員は全員戦死した。ほとんどの者が全身熱傷である。補機部員にも、戦死傷者が多数でた。電源も停止して、方位盤射撃が不能となり、砲側照準に切り換えられた。また舵取機の故障で、航行がまったく不能になる。

 しかし、いつしか砲声もやみ、艦は潮の流れるままに漂流するしか方策がなかった。艦としての機能を、すでに失ってしまったのである。

 付近の海面には、敵兵の漂流者も群がっているのか、そちこちに人間の気配が感じられた。

 いつしか、苦しく、長かった夜が明けようとしていた。中・後甲板は沈下して、水面すれすれに位置している。艦は二番砲塔の下あたりから、いまにも半分ちぎれそうな状態であった。

 前部、後部ともに通信不能であった。付近の海上には、敵の姿も、また味方の艦影も見当たらない。昨夜までのあの激戦が嘘のように、何事もなかったかのような静かな夜明けであった。

 上甲板は、戦死傷者で足の踏み場もないくらい雑然としている。そこには、毛布につつまれた五十余名の戦死者の遺体が横たわっていた。戦死者といっしょの毛布から、のこのことはい出してきた負傷兵もいて、みなを驚かせたりした。

 束の間の解放感もそこそこに、今度は敵機の朝がけの来襲である。動くこともできず、潮の流れるままのわが「満潮」にたいしてである。

 大砲を撃てば、それこそその震動で、真っ二つになってしまいそうだったが、雲を天に任せ、砲側照準で発砲する。「乾坤一擲」の祈りをこめた砲弾一発は、みごと軽爆一機を撃墜する。

 その舷側に墜ちた敵機の破片が、艦に飛びこんでくる。それでもなお、これでもかこれまでもかと、執拗なまでの敵機の襲

来がつづく。

 このとき、至近弾を受け、三名の兵士が海上に放り出されたが、彼らを助ける余裕がない。

「頑張れ、あとで助けに来るぞ」

 と励ましながら、小銃一挺とビスケットを乗せたカッターボートを切り落とし、これを海上に流す。同僚に対する精一杯の手向けであった。

 はるかに艦影が見える。間違いなくこちらに向かってくる。とっさに、

(敵艦か?)

との思惑がよぎる。

(もう駄目か)

(いよいよ最後のときが来たか)

と誰もがそう思ったにちがいない。

 満身創痍の満潮では、とうてい立ち向かうこともできない。

(どうする、どうしよう、何かできるか?)

 しかし、たどりつく結論は、絶望でしかなかった。やがて悲壮感とともに、無念の言葉が口をついて出る。もはや、あきらめの境地であった。しかるに、わが目に映ったのは、予期もしない僚艦「荒潮」の雄姿ではないか。敵艦船とばかり思い込んでいたあの艦影が、二小隊二番艦の荒潮であったとは!しばしわが目を疑ったほどである。

「やったあ、助かった!」

 誰もがそう思ったにちがいない。とにかく、九死に一生を得た思いであった。(中略)

 荒潮によって、午前九時五十分、曳航作業がはじまる。ワイヤーロープが満潮を曳航するのである。しかし、ようやく動き出したところへ、またもや爆撃である。この爆撃によって、命のツナのワイヤーが切断されてしまった。

 激しい攻防戦が展開される。

 ワイヤーはしかし、このあと苦労してつなぎ合わされ、ふたたび曳航がはじまる。

 荒潮にとっては、片肺飛行ならぬ片肺航行で、難航この上もなく思われたことであろう。にもかかわらず、満潮と運命を賭して迎撃に奮戦する荒潮の雄姿は、じつに雄々しく、筆者も感極まり、感涙にむせんだものである。これは、生涯、忘れることができない。

 戦火の合い間をみては、浸水している倉庫から缶詰等を引き揚げてきて、皆に配る。うまいはずのバイン缶が胸につかえて、食べることもできない。

 身体じゅうに血のりが付着していた。しかし、落とそうにも、水を使うことができない。飲むこともできない。ひたすら夜になるのを待つばかりであった。

 重い物はすべて海中に投棄し、いくらかでも艦への負担を軽減すべく配慮する。なかには、双眼鏡の前蓋まで捨ててしまい、叱られる者も出る。誰もが呆然自失の態であった。

 かくて悪戦苦闘の末、やっとの思いで二月二十三日、荒潮に曳航されながら、セレベス島マカッサル港にたどりつく。(中略)

 マカッサルの埠頭に横付けした満潮は、まず戦死者、機関長以下五十三名を、マカッサルの地にて荼毘に付した。(中略)他方、重傷者は、マカッサルの占領した病院に収容する。満潮の船体には砲弾が五発、それに爆撃による至近弾、機銃弾が、艦の至るところに蜂の巣のごとく撃ちこまれていた。浮いていることの方が不思議なくらい、さんざんな状態であった。』

(渡辺大二著『第八駆「満潮」バリ島沖海戦記』丸別冊 「太平洋戦争証言シリーズ⑧ 戦勝の日々」 潮書房)

 

 大本営はこの海戦について次のように報じた。

『大本営発表 二月二十一日午後三時十五分

「バリ」島方面陸海協同作戦実施中、帝国海軍水雷戦隊所属○○駆逐隊駆逐艦二隻ハ二月二十日午前零時同島東方「ロンボック」水道ニ於テ、巡洋艦二隻、駆逐艦三隻ヨリ成ル敵米蘭連合部隊ニ遭遇スルヤ直ニ攻勢ニ転ジ、午前零時四十分砲火ヲ開キ戦闘十分ニシテ敵駆逐艦二隻ヲ撃沈他ノ一隻ヲ大破セシメ、更ニ逃走ヲ企テタル敵巡洋艦二隻ヲ急追、午前三時十五分ニ至リ再度コレト交戦セリ、又分離行動中ノ同隊駆逐艦二隻モ急遽南下シ来リ、コノ敵ヲ攻撃セシガ、敵ハ我砲雷撃ニヨリ損害ヲ受ケ蒼惶そうこうトシテ夜陰ニ紛レ我視界外ニ遁走セリ。本戦闘ニ於テ我方駆逐艦一隻損害ヲ受ケタルモ戦闘航海ニ支障ナシ』


 後に、第八駆逐隊は連合艦隊司令長官より感状を授与されている。


   感  状

        第八駆逐隊

 昭和十七年二月十九日「バリ島急襲攻略作戦」ニ際シ同日夜半「ロンボック」海峡ニ於テ我ガ上陸ヲ阻止セントシテ来襲セル敵巡洋艦二隻及駆逐艦五隻以上ト遭遇スルヤ寡勢克ク勇戦忽チ敵駆逐艦四隻ヲ撃沈シ同巡洋艦二隻及駆逐艦一隻ヲ撃破遁走セシメタルノミナラズ、爾後此ノ戦闘ニ於テ損傷ヲ受ケタル僚艦ヲ曳航翌昼間ニ於ケル敵機ノ猛爆ヲ冒シテ之ヲ味方泊地ニ移シ遂ニ救出ノ目的ヲ達シタルハ其ノ武勲顕著ナリト認ム

仍テ茲ニ感状ヲ授与ス

     昭和一七年一二月八日

                 連合艦隊司令長官 山本五十六

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