第六話 初陣海軍落下傘部隊

 陸戦隊への命令第一号は一月七日に発令された。


機密横須賀鎮守府第一号特別陸戦隊命令作第一号

   昭和十七年一月七日

     横須賀鎮守府第一特別陸戦隊司令 堀内豊秋

   陸戦隊命令

一、敵情

 情報に依れば「カカス」には約百名「ランゴアン」には約五十名内外の敵正規

 兵あるものの如く「ランゴアン」東方方敵飛行場には友軍飛行機の着陸を阻止

 せんが為若干の防備を施しつつあるものの如し

二、友軍の情況

 第一空襲部隊の戦闘機隊は我降下戦闘に協力す

三、本陸戦隊は一月十一日〇九三〇を期し「ランゴアン」敵飛行場に落下傘降下

 を敢行し付近の敵を撃攘したる後同飛行場及「カカス」敵水上飛行基地を占領

 確保し以て爾後の航空作戦を容易ならしめんとす

四、各部隊の任務行動

 ⑴第一次降下部隊

  一月十一日〇九三〇「ランゴワン」飛行場に降下当面の敵を撃攘後各隊は左

  に依り行動すべし

  ㋑第一中隊は「ランゴアン」を攻略す

  ㋺両余は本職之を率い「カカス」敵水上基地を攻略す

 ⑵第二次降下部隊

  一月十二日〇九三〇「ランゴアン」飛行場に降下爾後の行動は別令す

  天候其の他の情況に依り同日降下し得ざる場合は別に定むる所に依り「カ

  カス」に進出す

 ⑶葛城丸輸送部隊

  別に定むる所に依り行動す

 ⑷医務隊の大部は一月十一日「ダバオ」発飛行艇便に依り「カカス」に進出す

 ⑸爾余の諸隊は葛城丸第二次輸送便に依り「カカス」に進出す

五、通信  別紙に定む

六、合言葉は「東郷」「乃木」とす

七、降下後余の所在は概ね軍艦旗を以て示す。

                (終)


 降下する編成は次のようであった。

   第一次降下部隊

    大隊本部    四四名

    通信隊     一四名

    第一中隊   一三九名

    第二中隊   一三七名

   第二次降下部隊

    第三中隊   一七三名

   ケマ進出部隊

    第一中隊    七四名

    第二中隊    六六名

    運輸隊     一三名

    医務隊      一名

    主計隊     一五名

   トンダノ湖進出部隊

    主計隊      一名

    医務隊     一一名

    速射砲隊    一〇名

   メナド進出部隊

    第一中隊     二名

    第二中隊     六名

    第三中隊     五名

    主計隊     二一名

    工作隊     一二名

    運輸隊     一六名

    医務隊      二名

降下員数及兵器梱包

  各機降下員数十二名  投下器懸吊梱包五個

  機体内梱包二(内一は糧食梱包)

降下要領

  一航過を以て兵器人員の順に降下す

  降下時機速一〇〇節  実高度一五〇米

  人員兵器間は空中錯綜を避くる為三秒を開けり


 第一次降下部隊は一月十一日にランゴアン飛行場に降下する。当面の敵を撃破した後、第一中隊はランゴアンの攻略にあたり、他はカカス基地の攻略へ向う。第二次降下部隊は一月一二日にランゴアン飛行場へ降下し、その後は司令部の指示に従って行動する。

 ケマ進出部隊は一月六日に輸送船葛城丸でダバオを発ち、ケマに上陸して軍需品の輸送に任じ、その後は本隊と合流する。

 トンダノ湖進出部隊は唯一の重火砲である一一年式平射歩兵砲一門をもって一月十一日に飛行艇でダバオを発ち、カカス基地のあるトンダノ湖に降着後、速やかに本隊と合流することになっていた。


 メナド攻略部隊の準備が整った船団は、第二護衛隊の掩護を受けて一月九日マグナガ湾を出港した。

 九日〇一〇〇第一梯団出港。〇六〇〇本隊が出撃し警戒航行で針路一七〇度、速力一二節。〇七一五マララグ湾内の長良より敵飛行機三機来襲し爆弾投下、被害なし。警戒厳重体制。一〇〇〇に第二梯団出港。


 十一日〇一〇〇、攻略部隊は被害もなく第一漂泊点に達し、舟艇を降ろして、〇三一五陸戦隊の第一次上陸部隊が出発し〇四〇〇に上陸に成功した。部隊は森大佐に率いられた佐一特の千八百名で、オランダ軍約四百名と交戦してこれを撃退し、〇八三〇にはメナド市を占領した。其後一部を残して、トモホン方面に向い、敵を排除して一九三〇にはトモホンを占領した。

 ケマ方面には橋本中佐率いる佐二特の約千四百名が〇四二〇に上陸を成功し、約七十名のオランダ軍と交戦しこれを撃破したのち、アデルマデデ方面に進撃、同付近で敵約三百の敵と交戦しこれを撃退し、一四〇〇同地を占領した。

 重油タンク群は上陸前に放火されており、その火炎煙は天高く立ち昇っていた。


 湾内の船団には早朝より頻繁に敵爆撃機が来襲した。〇六二〇には双発爆撃機四機がケマに来襲して投弾したが、船団には被害なし。〇六三五には重爆六機がメナドに来襲。「おは丸」が爆撃されたが、被害なし。〇六五〇には双発爆撃機六機が「神通」を狙って爆撃したが、被害なし。〇七〇〇には飛行艇三機が来襲して銃爆撃を繰り返したが、被害なし。午後一四三〇には双発爆撃機五機がケマに来襲し銃爆撃をしたが被害なし。一五四〇爆撃機三機がメナドに来襲。天城山丸が爆撃を受け、至近弾により損傷。一六二八にもケマに双発爆撃機四機が来襲したが、被害なし。

 攻略部隊は頻繁に敵爆撃機の攻撃を受けたが、重大な損傷を受けることはなかった。


 いよいよ落下傘部隊の初陣である。 


 一月十一日〇六三〇時、横一特の第一次降下部隊三二四名は第一〇〇一部隊の九六式輸送機二七機に分乗し、フィリピン・ミンダナオ島のダバオ飛行場を飛び立った。各機には一二名の降下員が搭乗し、投下梱包五個が乗せられていた。

(註・九六式輸送機は、九六式陸上攻撃機の輸送機版である)

 第一編隊

  一番機 大隊長   堀内豊秋中佐  十二名

  二番機 大隊副官  染谷秀雄大尉  十二名

  三番機 小隊長   小林芳雄兵曹長 十二名

  四番機 分隊下士官 阿部留七一曹  十二名

  五番機 通信隊長  小笠原久亮兵曹長 十二名

 第二編隊

  一番機 中隊長   牟多口豊中尉  十二名

  二番機 小隊長   米原三郎少尉  十二名

  三番機 小隊長   吉田松雄兵曹長 十二名

  四番機 分隊下士官 下重善重二曹  十二名

  五番機 小隊長   大久保正明兵曹長 十二名

 第三編隊

  一番機 小隊長   栄喜貢助兵曹長 十二名

  二番機 分隊下士官 飯尾良助三曹  十二名

  三番機 分隊下士官 五十嵐伴次一曹 十二名

  四番機 小隊長   吉田清兵曹長  十二名

  五番機 分隊下士官 大槻文蔵二曹  十二名

 第四編隊

  一番機 中隊長   斎藤実中尉   十二名

  二番機 小隊長   阿部善吉兵曹長 十二名

  三番機 小隊長   高橋太郎兵曹長 十二名

  四番機 分隊下士官 岩岡正義三曹  十二名

  五番機 分隊下士官 亀川田豊三曹  十二名

 第五編隊

  一番機 小隊長   三浦正善少尉  十二名

  二番機 分隊下士官 新井荘一郎二曹 十二名

  三番機 分隊下士官 新井勝美三曹  十二名

 第六編隊

  一番機 小隊長   及川叡兵曹長  十二名

  二番機 小隊長   福居藤照兵曹長 十二名

  三番機 分隊下士官 関谷捨五郎二曹 十二名

  四番機 分隊下士官 佐藤孝雄三曹  十二名


 降下時の携行武器は、準士官以上が軍刀に拳銃。下士官兵も拳銃、銃剣、手榴弾という軽装であった。戦闘で使用する三八式騎兵銃はその名が示す通り、三八式歩兵銃の銃身を騎兵用に短くしたため、軽量で操作しやすく、取扱いが楽なカービンだった。ところが降下員が降下時に携行していたのは拳銃だけで、三八式騎兵銃や軍刀は機関銃などと同じように投下梱包の中にまとめられてしまったのである。横一特の降下要領では、梱包と兵員の空中錯綜を避けるため、まず兵器類の入った梱包を投下し、それから兵員が降下することになっていたのだが、これが後に苦戦する原因となったのだ。


 第一空襲部隊の戦闘機隊に掩護された輸送部隊は五機ずつの編隊を組み、メナドへと向った。だが突然、セレベス島北端にさしかかったところで水上機に攻撃され、第四編隊の五番機が撃墜された(北緯一度三七分、東経一二五度十四分)。降下員一二名、搭乗員五名が機と運命をともにした。五番機を銃撃したのは、水上機母艦「瑞穂」から発進した零式水観であった。このような不運に見舞われながらも降下部隊は目的地に到達した。輸送機はランゴアン飛行場の北方から一五〇メートルの低空で進入し、〇九五二時に降下を開始した。


 オランダ軍は四〇〇名の守備隊をランゴアン飛行場に配備していたが、守備隊は落下傘部隊に関するパンフレットを配布掲示し、空挺降下を警戒していたのであった。飛行場の要所にトーチカを八箇所構築し、三〇〇余のバリケートと無数の竹杭を立てて防備を固め、両翼に装甲車二台、機関銃八挺を配備していた。またカカスには、兵力一五〇名、装甲車一台と速射砲一門を配備していた。

 白昼の降下だったため、降下員は飛行場守備隊の銃撃に晒されることになった。特に飛行場西側陣地からの機銃掃射が、被害を続出させた。降下員は一〇二〇時までに全員が降下し、着地とともにオランダ軍守備隊と戦闘を交えたが、肝心の武器は一〇〇メートル以上も離れた落下しており、多くの降下員が拳銃と手榴弾だけでトーチカと戦闘を交えなければならなかった。血に染まった白い落下傘が、滑走路のあちこちに散華した。


 一〇五〇時、降下部隊は何とか武器を手に入れて態勢を立て直すと、飛行場北方の陣地に攻撃重点を指向し、漸次包囲態勢をとりつつあった。ところが一〇五五時、敵装甲車一台が飛行場の北東に延びる道路から進入し、降下部隊の背後から機銃掃射を加えてきた。重火器を持たない降下部隊は側背からの攻撃に苦戦したが、ひるまずに突撃し、オランダ軍左翼陣地の奪取に成功した。続いて正面からも各陣地に突入を開始。翼側を衝かれ、防備の崩れたオダンダ軍は浮き足立ち、敗走を始めた。


 降下部隊は一一二五時にようやくランゴアン飛行場一帯を制圧することに成功した。堀内部隊長は第一空襲部隊司令部に向け電文を送った。

「ワレメナド飛行場ヲ占領ス。目下、町ハ燃エツツアリ、敵ハニゲツツアリ」

 一三〇〇時、ランゴアン飛行場を確保した降下部隊は飛行場に二個分隊および通信隊を残し、水上機基地のあるカカスに向かうと、装甲車一、速射砲一を含む約一五〇名の敵と交戦しこれを撃退し、一四五〇時にカカス市街を占領し、一五五〇時から水上機基地に対する攻撃を開始した。一八〇〇時までに同基地を占領した降下部隊は第二中隊をカカスに残し、主力はランゴアン飛行場に戻ってオランダ軍の逆襲に備えた。


 山辺雅男中尉(当時)の手記がある。

『三十数機の大編隊が整然たる隊形を整えて空の彼方へと消えていった。機外に眼を転ずれば広大な椰子林が、ダバオ湾が、絵のように展がっている。雲また雲。急に寒さが加わってくる。兵の中にはじっと眼を閉じている十八歳そこそこの少年兵もいる。あと数時間後には敵陣に突っ込むのだ。

 偵察員の右手が動いた。

「セレベス島近し」の手先信号だ。

「いよいよきたぞ」

 ジャケット(救命胴衣)を脱ぎ、格納袋から落下傘を取り出し、点検して背中に装着する。そして、互いに背中の落下傘を点検しあい、肩をたたいて力強く「よしッ」と叫び交わす。

 朝日が高く登り、まばゆいばかりに機内に差し込んでくる。機はすでにメナド上空だ。

 機はガラバット火山上空。水平飛行の編隊を解いて突撃隊形をとる。部隊本部を乗せた第一編隊はすでに遥か下方。続いて第一中隊を乗せた第二、第三編隊。第二中隊を乗せた第四編隊が続く。編隊距離一、〇〇〇メートル。全員機内に立って自動曳索のフックを機体に引っかける。西方の密林の山々が機より高くなってくる。降下コースに入った。高度は百から百五十メートルか。「トン、トン、トン」降下用意を示すブザー短三声。先頭の岩岡兵曹が降下孔に身体を乗り出す。

 間髪を入れず、ブザー長一声。「ツー」降下信号だ。

「えイッ」と叫んで、分隊下士岩岡兵曹につづいて軽機射手の荒木兵長が上空目がけてふみ切る。つづく分隊員十一名。鉄カブトの重みで空中で真っ逆さまになる。白い傘が伸びるのが見える。とたんにガタンとショックを感じて真っ逆さまの身体が、百八十度ひき起こされた。地面が斜になってグングン持ち上ってくる。ダダダダダ・・・・ピューン、ビューン・・・・敵弾が身体を掠め、落下傘を貫いて行く。飛行場一帯敵味方の乱戦だ。味方零戦が地上スレスレに突っ込んでくるが、敵みかたの混戦では射撃も出来ない。空しく引き帰していく。時刻は〇九五五。味方本部は敵トーチカの約三十メートル直前に降りてしまった。至近距離からの機銃弾は正確で、弾道は低く、パパイヤを打ち倒し、草を薙ぎ倒し、地面スレスレに伏せて前進する味方に迫る。蜂の巣のように射ち抜かれた落下傘が、鮮血で真紅に染まり、主人の落下傘兵をつけたまま、泥にまみれ凋んでいる。(後の調査によれば、落下傘の被弾の最高は、第一編隊に搭乗した大隊本部小隊員の九十六発)

 滑走路上に着陸した味方は大半射たれ、生き残った兵は鉄カブトの縁とジャック・ナイフで地面を掘り、頭だけ隠すのに精一杯。

 副官染谷大尉(兵学校六十二期)が手榴弾を発火して猛然と立ち上り、何糞ッ!と、敵トーチカの銃眼目がけてこれを振り上げた時、敵弾は蜂の巣のように大尉の身体を貫いた。

「副官しっかりしろ」

 傍で叫ぶ堀内部隊長も、敵銃眼の三十メートル直前で身動きさえ出来ない。先頭編隊の大部分が同じ運命であった。

 宮本兵長は空中で股を射ち抜かれ、着地したが立てなかった。大隊付士官戦死、大隊指揮小隊長重傷。伝令の佐久間上水も頬を射貫かれて戦死した。また一人の伝令高木兵長がベルグマン短機関銃を連射しつつ救援に近寄ってきたが、股を射貫かれてバッタリ倒れた。後のオランダ将校と組み討ちしてこれを刺殺した柔道三段の猛者、新木兵曹が匍匐して救援にきたがすでにこときれていた。

 この敵弾雨飛の中で、敵の射撃のなくなるのを待つか、それとも味方後続編隊の降下来援を待つか。

 しかし着々と武装を整え、立ち直って来た味方は、漸次敵を圧迫しはじめた。味方の弾が敵のトーチカを包んで土煙りをあげはじめた。味方輸送機が、次々と落下傘兵を降下させていく。

 第六、第七編隊の落下傘兵がトーチカ群の真上を背後にかけて降下した。原田上水の下から、パッパッと敵弾が傘を貫いていく。下は椰子林。敵味方の乱戦である。拳銃を構えたが、どれが敵だかわからない。椰子の葉が足をかすめたとたん、高い椰子林にぶら下げられてしまった。思い切りブランコをやって椰子の大幹に抱きつき、幹を伝って地面に降りた。トーチカのすぐ背後だ。敵の自動車があったので、エンジンに拳銃弾を打ち込み、付近に降下した味方と一緒になってトーチカの背後から攻撃をかけた。意外の奇襲に敵はびっくりしたと見え、手をあげてトーチカの外へ飛び出してきたがこれを射殺。

 ある若い兵は、敵はトーチカの真上に降下した。滑走路では味方が突撃に立ち上がったところだ。俺は味方にやられるんじゃないか、と不安になったが、思い切って交通壕から敵トーチカの中へ手榴弾を投げ込み、ポケットから日章旗を取り出して懸命に振り続けた。味方がこれを見て、間髪を入れず走り上ってきた。

「おい、よくやったぞ」

 トーチカの中を覗いてみたら十人位の敵兵が折り重なって倒れていた。背後と直上からの味方の奇襲に、トーチカの敵は浮足立った。銃火は次第に減っていった。

「いまだ」

 第二中隊長斎藤中尉が、白刃を閃めかせて立ち上る。続く及川二小隊長、高橋中隊付き生き残りの面々。この時、はじめて味方突撃のラッパが勇ましく鳴り響いた。倒れる味方を飛び越え、トーチカに殺到する。遂に死角に入った。各所で陣内戦が展開されている。

 これより先、カカス街道に向った大隊指揮小隊の斥候小林兵長は、前方百メートルの路上で敵装甲車と遭遇し、単身これと射ち合った。敵弾は土煙りをあげて小林兵長の周囲を包んだが、歯を喰いしばってこれと応戦。遂に敵銃眼に命中させて運転兵を倒し、なおも車上の敵を射ってこれを占領、味方尖兵がこれを逆用して新たな戦力を加えた。

 午後二時、二中隊はカカス市街入口に達した。急造の敵トーチカが火を噴く。これに応えて九二式重機銃が前進して連続斉射を浴びせる。空気を引っ裂くような破裂音・・。

 中隊長斎藤中尉は市街戦の命令を発令。

「味方射ちに気をつけろ。十字路では必ず左右の連絡をとれ」

 西方から東方へ向って逃亡する敵は、遂に市街に火を放った。兵舎が、学校が、弾薬庫が、燃料タンクが・・。焼けつくような無風の空に黒煙を吹きあげながらメラメラと炎上していく。折しも暮れかかる湖上に、味方九七大艇二機が、砲隊、医務隊、報道員を乗せて着水。

 かくて二中隊はカカス市街および水上基地を完全占領し、トンダノ湖桟橋に軍艦旗を掲揚した。』

 (山辺雅男著「海軍空挺部隊初陣の勝利を飾ったメナド降下部隊の決戦」丸エキストラ版第四一集。潮書房)


 染谷大尉の戦死の詳細であるが、昭和十七年十月に発行された読売新聞社編纂の「海戦(大東亜海戦記)」の手記を見ると、○○兵曹長と氏名は隠してあるが、内容の状況から判断すると、染谷大尉機に搭乗して降下負傷した花澤兵曹長の手記と思われる。その中には次のように記している。


『染谷大尉は降下するなり拳銃をもって身近の敵数名を倒したが、同時に敵の一弾は大尉の口に入り後頭部を貫通した。大尉は一たん倒れたものの、すぐ起き上り「弾丸が来なくなったぞ、突撃、突撃!」と絶叫しつつ敵弾下を突進した。大尉の不思議な言葉に頭をひねりながらもその気魄にひきずられて二三名の兵が、弾丸がこないどころか、息もつけぬほどの凄まじい弾幕のただ中を大尉のあとにつづいた。十メートルと行かぬうち曳痕弾の矢が大尉の胸部を突きさした。倒れた大尉の上に部下たちが折り重なってうつ伏した。口から後頭部に抜けた敵第

一弾は大尉の聴覚を奪い去り、大尉の耳には敵弾の音が聞こえなかったのであろう。敵弾幕のなかを拳銃をふりかざして突っ込んで行った大尉の鬼神のごとき奮迅の姿がまざまざと見えるようであった』


 いずれにせよ、見事な最期であった。降下前機上でリンゴを二つに割ってその片割れを兵曹長に渡した大尉はもはや靖国へと旅立ってしまったのであった。


 翌一二日〇六三〇時、横一特第二次降下部隊一八五名がダバオを飛び立ってランゴアン飛行場に降下し、第一次降下部隊と合流した。

 第二次降下部隊

 第一編隊

  一番機 中隊長   園部竹次郎特務中尉 一〇名

  二番機 小隊長   久保田正明兵曹長  一〇名

  三番機 小隊長   鎌田健太郎兵曹長  一〇名

  四番機 分隊下士官 上野良一三曹    一〇名

  五番機 分隊下士官 鈴木健一三曹    一〇名

 第二編隊

  一番機 小隊長   三邊興二兵曹長   十一名

  二番機 分隊下士官 小早川亀吉三曹   十一名

  三番機 分隊下士官 太田亘一曹     一〇名

  四番機 分隊下士官 原田嘉六三曹    十一名

 第三編隊

  一番機 小隊長   小野栄吉兵曹長   十一名

  二番機 分隊下士官 大木熊吉二曹    十一名

  三番機 分隊下士官 高橋良二曹     十一名

  四番機 分隊下士官 広井将二二曹    一〇名

  五番機 分隊下士官 滝本新一三曹    一〇名

 第四編隊

  一番機 小隊長   星野英雄兵曹長   一〇名

  二番機 分隊下士官 槙栄三二曹     一〇名

  三番機 分隊下士官 竹田竹次郎三曹   一〇名

  四番機 分隊下士官 早川君夫三曹     九名

  

 増援を得た横一特は、ただちに主力をもってランゴアン市街およびトムパソ一帯の攻撃を開始した。すでにオランダ軍は戦意がなく、ほとんど戦わず退却した。一一〇〇時、横一特はトムパソなどでメナドに上陸した佐世保陸戦隊と合流した。

 横一特は初の降下作戦で、作戦に参加した三九八名のうち戦死三十二名、戦傷三十二名という損害を出しつつも、作戦目的を達成した。大隊副官染谷秀雄大尉を失ったのは大きな痛手であった。戦死者のうち一二名は降下前に友軍機に誤射撃墜されたものであり、その他士官だった牟多口豊中尉、三浦政善少尉も戦死した。


 上陸した佐世保連特部隊の戦死者は十二名、負傷者百五十四名であった。敵軍の遺棄死体は一四〇、捕虜四八(内オランダ人十一)。捕獲品八センチ野砲一〇門、機銃四等であった。

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