第四話 タラカン攻略

 タラカン島はボルネオ島の北東岸沖にある南北二十三キロ、東西十五キロ、面積三〇三㎢の小さな島であるが、石油の産地であり、年産八十万トンの石油を産出。油質も良好で燃料油やディーゼル油として使用でき、潤滑油にも適していた。港湾施設も整い、一万トン級の油槽船が楽々と入出港できたことから、重要な占領すべき重要な拠点であった。


 機密蘭印部隊第一護衛隊命令作第一号

  昭和十七年一月四日マララグ旗艦那珂

      第一護衛隊指揮官 西村祥治

   蘭印部隊第一護衛隊命令

 第一、敵情竝に友軍の情況

   機密蘭印部隊命令第三号の通

 第二、第一護衛隊は陸軍坂口支隊竝に呉鎮守府第二特別陸戦隊を「タラカン」

  島に急襲上陸せしめ飛行基地の整備確保重要資源地帯の確保に任ずると共に

  付近海面の警戒に任ぜんとす

 第三、軍隊区分

  主隊 第四水雷戦隊

      旗艦 軽巡 那珂

      駆逐艦

  掃蕩隊 第二十四駆逐隊

       駆逐艦 海風、江風、山風、涼風

      第九駆逐隊(山雲欠)

       駆逐艦 朝雲、峯雲、夏雲

      第二駆逐隊(村雨欠)

       駆逐艦 夕立、五月雨、春雨

      第十一掃海隊  掃海艇四

      第三十掃海隊  掃海艇二

      第三十一駆潜艇隊 駆潜艇四

  輸送船隊 

   第一分隊 敦賀丸(六、九八八トン)

        りぱぷーる丸

        日照丸(五、八五七トン)

        漢口丸(四、一一二トン)

        愛媛丸(四、六五四トン)

        国川丸(六、八六三トン)

        鹿野丸(八、五七二トン)

   第二分隊 はばな丸(五、六五一トン)

        帝龍丸(四、八六一トン)

        呉竹丸(五、一七五トン)

        日愛丸(五、四三九トン)

        香久丸(八、四一七トン)

        国津丸(二、七二一トン)

        洛東丸(二、九六二トン)

  陸戦隊 特陸司令

 第四、各隊の作戦要領左の通定む

  一、「ダバオ」出撃要領

   ㋑掃蕩隊派〇八〇〇「マララク」錨地を出撃指揮し所定により別図第一所

    定海面の敵潜掃蕩を実施したる後一八三〇A点付近にて第三警戒航行隊

    形に占位す

   ㋺2dg(村雨欠)p 36、p 37、p 38は〇九〇〇マララク錨地発

    一〇四五「ダヴァオ」沖着輸送船隊は一一〇〇分隊順序にダヴァオ泊地

    を出撃那珂及第三十一駆潜艇隊、第十一掃海隊、第三十掃海隊は一〇〇

    〇「マララク」出撃適時輸送船隊の前程に就き一八三〇頃A点にて第三

    警戒航行隊形に占位す(針路一六〇度速力八節)

  二、護衛要領

  ㋑予定航路  別図第三(省略)

  ㋺航行速力

     原速力  八節

     半速力  七節

     微速力  六節

  ㋩警戒航行隊形

   昼夜間警戒航行隊形の変換時は特令なければ日出三十分前及日没時とす

  第一警戒航行隊形(昼間)

  第二警戒航行隊形(昼間)

  第三警戒航行隊形(夜間)

   (いずれも図は省略)

  ㋥対潜水艦護衛

   ⑴敵潜水艦に対しては探信儀、聴音機の活用を図ると共に見張を厳にし探

    知(聴音)発見せば徹底的に攻撃し之が撃滅を期するものとす

   ⑵輸送船隊航行中は令により之字運動を行う

  ㋭対航空機護衛

   ⑴対空防禦砲火の発揮は各艦艇長の所信に依る

   ⑵敵機の大空襲に対して輸送船隊の分散を令することあるも単機又は数機

    の空襲に対しては各艦艇の防空砲火の発揮に依り之が撃攘に努むるもの

    とす

  ㋬対水上艦艇護衛

   敵水上艦艇の来襲に対しては主として那珂及駆逐隊之に当る

   輸送船隊は哨戒艇之を嚮導し機宜非敵側に回避したる後成し得る限り予定

   の航行を続行す

  ㋣輸送船故障又は遭難時の処置

   ⑴輸送船遭難せる場合は速に列外に出で護衛隊指揮官指定の艦船之が救難

    に当るものとす

   ⑵故障落伍船は極力応急処置を以て輸送船隊に追求するの原則とし故障復

    旧に長時間を要したる場合は間接護衛の下に単独上陸点に直航せしむる

    を例とす

  三、泊地進入要領

  ㋑c7|10に至らば警戒隊は令なくして解列泊地に先行別図第二の通昼間第

   一泊地日没後第二泊地の探掃を実施すると共に付近海面の敵潜探信(聴

   音)を行う

   又駆潜艇二を目標艇として別図の位置に配す

   (第二目標艇は二一〇〇以後方向性白白灯を上下に連掲す)

  ㋺泊地及碇泊隊形  別図第二の通 (図省略)

   予定投錨時刻   十日一九三〇

  (ハ〜ホの項目省略)

  四、警戒  (省略)

  五、「リンガス」泊地の掃海

   特令に依り左に依り「リンガス」泊地を掃海す

      第十一掃海隊  

      第三十掃海隊

   六、呉鎮守府特別陸戦隊、第五設営班及第二防衛班は坂口部隊と協力し飛

     行基地の整備確保及重要資源地帯の確保に任ず

   七、「ホロ」陸軍部隊の輸送

     涼風は輸送船呉竹丸の揚陸作業終了次第令に依り同船を護衛し「ホ

     ロ」に至り坂口支隊「ホロ」作戦部隊を同船に収容したる後速に「タ

     ラカン」に護衛帰投す

  第五 通信  (省略)

                  以上


 坂口支隊長は五日支隊命令を下した。


  坂口支隊命令  一月五日〇八〇〇

           「ダリヤオ」

一 皇軍は一月三日「マニラ」を完全に占領し引続き敗敵を撃滅中なり 「ダバ

 オ」付近要域の戡定は殆んど之を終了し治安は概ね恢復し在留邦人の大部は現

 在地に復帰せり

 「ホロ」支隊は尚「ホロ」島に在りて同島の戡定を概ね完了し陸戦隊と其の警

 備を交代中なり 蘭印政府は我攻撃を予想し徹底抗戦を呼号し其の艦艇航空機

 は我軍を屢々攻撃せり

二 支隊は明六日一一〇〇「ダバオ」を出港し九日夜「タラカン」島に上陸し之

 を攻略して航空基地を占領すると共に石油資源を獲得せんとす

三 野戦高射砲第一中隊は支隊の「ダバオ」出港後乙支隊の指揮下に入るべし 

 指揮転移の時機は乙支隊「ダバオ」入港の時とす

四 両翼隊及支隊直轄部隊は別冊第一「タラカン」島攻略要領並に別冊第二坂口

 支隊「タラカン」島上陸計画に準拠し「タラカン」島の攻略に任ずべし

五 細部に関しては参謀をして指示せしむ

六 予は「ダリヤオ」に在り明六日一〇〇〇帝龍丸に乗船す


別冊 軍隊区分

右翼隊 長 連隊長 陸軍大佐 山本恭平

 歩兵第百四十六連隊(第二、第三(二中隊欠)大隊、連隊砲、速射砲

  各半部欠)

 工兵第一中隊(一小隊欠)

 衛生隊(半部欠) 無線

左翼隊 長 大隊長 陸軍少佐 金氏堅一

 歩兵第二大隊(第六中隊欠)、連隊砲、速射砲隊の各半部

 工兵一小隊 無線

直轄部隊

 支隊司令部(三号無線三分隊欠)

 歩兵第六中隊

 装甲車隊

 野砲兵第一大隊(一小隊欠)

 野戦高射砲第四十四大隊(一中隊欠)

 輜重兵第二中隊(一分隊欠)

 衛生隊半部

 第一野戦病院

 独立無線第六、第七小隊

 第三十三固定無線隊

 独立工兵第一中隊(二小隊欠)

 第四十五碇泊場司令部の一部

 船舶通信第十六小隊

 配属憲兵隊

別冊第一 「タラカン」島攻略要領

   第一 方針

一 支隊は「アマル」及「バツー」両海岸に奇襲上陸し夜暗に乗じ主力を以て一

 挙に「タラカン」油田並に「リンカス」地区を一部を以て「カロンガン」流域

 各砲台を各々占領したる後飛行場を攻略す

二 「タラカン」島上陸後「ホロ」支隊を招致し全島戡定終了後速かに警備を海

 軍陸戦隊に引継ぎ支隊主力は「タラカン」付近に集結し「バリクパパン」攻略

 の準備をなす

三 支隊はX+三十日「ダバオ」を出港し海軍艦艇及航空機護衛の下に自らも亦

 対空対潜警備を厳にして一路蘭領「ボルネオ」「タラカン」島に向い航行しX

 +三三日夕「アマル」沖「アダットリーフ」南方海面付近に到り仮泊す

四 右翼隊は「アダットリーフ」南方海面付近に於て速かに舟艇に移乗し「アマ

 ル」海岸に奇襲上陸し「アマル」付近敵監視部隊を捕捉撃滅し上陸完結を待つ

 ことなく企図を秘匿しつつ速かに湿地密林を濾過踏破して夜半「ベムシャン」

 油田を急襲占領一部を以て之を確保せしめ主力は引続き水源地兵営無電台主要

 工場「リンカス」桟橋等を一挙に占領し敵の破壊企図を破摧し払暁迄に敵軍隊

 を捕捉撃滅す

五 左翼隊輸送船は適時「アダックリーフ」南方海面付近を出発「バツー」東方

 沖に仮泊しX+三四日未明「バツー」付近に上陸したる後払暁迄に「ベムシャ

 ン」河以東各砲台を急襲占領して之を確保す

六 海軍陸戦隊牧内部隊(上陸時より「タラカン」要域戡定に至る迄の間作戦に

 関し坂口支隊長の指揮を受く)は未明右翼隊に引続き「アマル」付近に上陸し

 態勢を整えたる後前進を開始し「タラカン」を経て飛行場を攻略し飛行場及

 「バットドア」油田を占領確保す 状況に依り「リンカス」桟橋付近に上陸す

 ることあり

七 右翼隊は大隊長の率いる約二中隊を基幹とする部隊をして陸戦隊の後方を前

 進せしめ陸戦隊の飛行場及「バットドア」油田占領後之に膚接して特に対空連

 絡に注意しつつ「ジョタワ」及「ブーンチャンコル」両油田を占領確保す

八 装甲車隊は「バツー」付近に上陸し状況許す限り陸戦隊の飛行場攻撃に協力

 し次で「ジョタワ」油田攻略大隊の該油田攻略に協力したる後「タラカン」に

 待機す 状況に依り「リンカス」桟橋付近に上陸することあり

九 支隊司令部、歩兵第六中隊は払暁後「バツー」付近に上陸しBPM会社事務

 所に到る 状況に依り「リンカス」桟橋付近に上陸することあり

十 遺棄物収集班は右翼隊と共に上陸し爾後右翼隊進撃に随伴し兵器弾薬諸軍需

 品の収集整理を実施す

十一 右翼隊は全島攻略間の配属技術部隊をして敵の破壊設備の発見排除並に防

 火に努む

十二 「タラカン」島攻略進捗せば状況許す限り速かに呉竹丸を「ホロ」島に派

 遣し「ホロ」支援の帰還輸送に任ぜしむ

十三 「タラカン」島要域を戡定せば速かに其の警備を海軍と交代し主力を「タ

 ラカン」付近に集結し「バリクパパン」攻略を準備す

十四 「タラカン」島攻略間海軍は払暁時航空機を以て「ジョワタ」の敵陣地を爆撃し其の艦船と共に同地付近より敵の北方への退路を遮断す

十五 夜間に於ける合言葉を「山」「川」と定む

 (歩兵第百四十六連隊は長崎・大村が編成地で、この連隊を基幹に坂口支隊が編成された)


 一月七日〇八〇〇掃蕩隊の任務をもつ駆逐艦七隻がマララグ湾を出撃。続いて輸送船隊(坂口支隊九隻、呉二特二隻、設営班防衛班三隻、十一航艦二隻の計十六隻)が一一〇〇に同泊地を出発した。四水戦の旗艦那珂、駆逐艦一〇隻、掃海艇六、駆潜艇三、特設砲艦一、輸送船一六隻からなる船団である。

 七日、八日、九日と何事もなく航行した。十日讃岐丸の水偵が敵船を発見し電報を発した。


『〇八一〇「タラカン」灯船の165度28分に於て商船ベイナンを爆撃命中弾を得ず〇九〇三「タラカン」灯船を発見銃撃す 人影を認めざるも船側に短艇を繋留しあり我れ繰返し之を攻撃せんとす』


 三十一駆潜艇隊は一〇三〇国籍不明の商船を260度方向約一〇キロに発見し一〇五〇にこの商船を拿捕した。これは先に讃岐丸が発見した商船であり、臨検の結果飛行機一機の積載を認めた。

 一一一〇敵大型爆撃機二機が讃岐丸を爆撃したが、損害はなかった。泊地に到着した護衛隊は泊地海域の掃海を行い、機雷がないことを確認した。駆逐艦夏雲はタラカン灯船を拿捕して十三名を捕虜とし、通信施設を封じた。

 一三五三には三十一駆潜艇隊より「敵砲艦らしきもの」がタラカン港より出港したというので、那珂は駆逐艦三隻を率いてこれを追撃したが、小型汽船と判明したのでこれを拿捕して連行した。


 十日一七五〇に敵爆撃機三機、戦闘機二機が襲来、一八一八にも爆撃機三機が襲来したが、損害はなく一九〇〇には第一泊地に投錨した。

 二一三〇坂口支隊の右翼隊第一次上陸部隊が上陸点めざして発進、二二〇〇には陸戦隊呉二特の部隊が発進していった。

 一方左翼隊の輸送船隊は十一日の〇〇三〇に第一泊地発、〇一一〇第二泊地着して、〇二二〇左翼隊上陸部隊は発進を開始した。


 オランダ軍は日本軍の上陸を察知するや油田施設に放火を開始し、夜になると地上一帯は炎と煙で覆われ、上空も紅く染まっていた。上陸する舟艇隊からはその炎のせいで島影がよく見えた。

 右翼隊は午前零時、陸戦隊は〇〇三〇に上陸に成功した。だが、上陸地点はズレていた。火災の油田の場所の位置を誤認していたため、予定地点より四キロから六キロも北に上陸していいた。気がついた時にはもう遅く、海岸伝いにアマル河口に向けて前進していった。河口に到着した時は払暁で明るくなっていたが、同地付近にあったトーチカ陣地を攻撃して駆逐し、インドネシア兵を捕虜とした。捕虜への尋問からオランダ軍の配置を知り、ジャングル地帯を突破してタラカン油田へと進出した。この時すでに一一〇〇となっていた。

 この頃からオランダ軍の反撃は始まり、右翼隊はオランダ軍の銃砲撃にさらされた。夜間に入りオランダ軍の逆襲や右翼隊も負けじと夜襲を行ったが、一部占領を果たすも、猛射撃により原位置まで戻るという事態にもなった。

 坂口支隊長は一七〇〇に海軍に対し

⑴右翼隊及呉二特はタラカン東方高地まで進出せるも有力なる敵砲兵陣地の阻止

 にあい前進渋滞今夜夜襲をもって該陣地を突破の予定

⑵左翼隊の状況は不明

⑶タラカン市街外人住宅東方砲台陣地及タラカン島北端のジョワタ砲台、西方孤

 島サドウ島の爆撃を希望すと連絡した。航空隊は十一日の爆撃は間に合わない

 ので、十二日早朝に爆撃実施と通知した。


 左翼隊は上陸後ジャングル内で方向を失い、通信も不能の状態となっており、十二日正午頃にようやくカロンガン砲台の背後に達したものの、砲台の位置を把握できず、結局砲台の占領を果たすのは十三日一七一〇であった。

 だが、戦況は一転した。十二日払暁攻撃を再開した後、オランダ軍の守備隊司令官は軍使を派遣して降伏を申し入れてきた。右翼隊長山本大佐は坂口支隊長に

「〇八二〇司令官以下全員投降を申し出でたり。よってすみやかに支隊長のリンカス桟橋よりの上陸を望む」

と連絡した。


 リンカス水路の掃海を開始すべく第三十掃海隊と第十一掃海隊は掃海を開始すべく港内に向かいたるや、カロンガン砲台より猛烈なる砲撃を受け、掃海艇十三号と十四号は被弾沈没した。この二隻の掃海艇の戦闘の模様については、該当掃海艇の戦闘詳報でなく、旗艦那珂から目撃した戦況について記述したものであり、四水戦の戦闘詳報に遺されている。


『掃海隊は掃海準備隊形となり「メンガチュ」方面砲台及機雷に対する警戒を厳にし総員を配置に就け戦闘準備を整え第十三号掃海艇先頭に占位し港内に向えり 一二〇〇頃「メヌルン」島の北側より港内に向け変針するや「カロンガン」の隠蔽砲台(山の脚にあり巧に迷彩偽装を行い占領後接岸之を望見するも視認容易ならず)は距離約二粁にて急に砲撃を開始し先づ第十三号掃海艇を目標とせり 之に対し第十三号艇直に反撃せしも敵の弾着は三斉射目位より急に精度良好となり先づ中部水線付近命中弾を受く 第十四号掃海艇、第十三号艇に引続き反撃を開始す

 敵亦著しく射撃速度を発揮し砲戦激烈を極む 第十三、十四号掃海艇は敵弾を受くるも依然として砲撃しつつ(増速せしものの如く)内港に向け航行す 後続しありたる第十五、十六号掃海艇以下は速力を下げ敵の射界外に変針回避せり

 第十三号掃海艇は続いて第二弾を艦橋付近に受け炸裂の焔と黒煙物凄く上りたるも依然各砲は猛烈に砲撃を続く 暫くして漸次取舵に変針尚艇尾付近数発の敵弾を受け所々に火災を生じ蒸気奔騰せしも遂に離隔運動に成功せしものの如く見えしも速力急激に低下し一度停止次で後進にて避退運動を開始せしも意の如くならざりしものの如く暫時にして再び前進を懸け艇は取舵に回頭し始めたり 此の時一時避退に成功するかの如く見え稍安堵の感を抱かしめたるも艇は取舵の儘再び港内に向首せり

舵故障せるものの如し 之より先第十四号掃海艇は第十三号掃海艇に続行中第十三号艇被弾により速力低下し漸次取舵に変針せしを以て第十四号掃海艇は第十三号掃海艇の稍前方に出で今迄第十三号掃海艇に集中しありし敵の砲火は第十三号掃海艇の離隔運動に移りし頃より第十四号掃海艇に転換され全弾殆ど命中 艦橋、中部、後部各処に火災を生じ蒸気噴出し特に後部の命中弾は爆雷誘爆せしものの如く黒焔天に沖して後檣付近にて切断されたるかの如く見ゆ 又前部一番砲塔付近の命中弾は砲を吹飛ばしたかとも見え凄惨を極む 然れ共艇は急に針路を転じ敵砲台に向首せしものの如く速力も一杯となせしならん 急に増速せる如く舷側より蒸気を盛に吹きつつ猶も一番砲は砲撃を続け敵砲台目掛けて突入してゆく 那珂艦橋より見て軈て「メンガチュ」岬に艇の隠れんとする頃又も水面付近に大水柱上り宛も機雷に触れたかの如く急に速力低下し艏より沈みつつ海岸に肉迫せるも軈て一番砲の砲撃の止みし頃艇は「メンガチュ」岬の隠にて沈没せり 正に一二〇五なり

 此の間第十三号掃海艇は敵の砲撃を一時避け前述の如く行動しありしが第十四号掃海艇沈没の時宛も第十三号掃海艇は僅に後進にて後退したる時なりしも既に意を決したるものの如く舵故障の儘前進にて再び港内に向首せしを以て敵砲火は復第十三号掃海艇に集中せり 艇は漸次速力低下し之に反し敵の砲火は愈正確となり殆んど全弾命中各所に火災を起し中にも艦橋付近の命中弾は実に悲惨を極む 又前部砲付近の命中弾に依り一番砲全滅かと思われしも暫時にして砲撃を再開せり 斯くて水線付近の命中弾に依り艇は殆んど停止のまま左に傾斜し艏より漸次沈み間もなく艉を立て遂に壮烈なる最後を遂げたり 時に一二一五なり 此の間他の掃海艇四隻は命に依り軈て後退せり 第十三、第十四号掃海艇の勇戦敢闘寔に壮烈鬼神を哭かしむるものなり』

 二隻の掃海艇の戦死者は司令山隈中佐以下百五十六名にのぼり、五十三名が救助されたのみであった。


 夜になり脱出しようとする敵敷設艦「プリンス・ファン・オラーニエ」を駆逐艦山風、三十八号哨戒艇が捕捉し二三三二約七分間に及ぶ砲撃を加え撃沈した。敵兵五名を救助した。

 船団は数回に渡り敵爆撃機の攻撃を受けたが、直撃弾はなかったものの、陸上の飛行場のわが陸戦隊を爆撃したため、陸戦隊は、軽傷准士官以上二名、戦死下士官兵五名、重傷二十二名、軽傷三名を生じた。

 十三日午後、ジュワタ砲台の武装を解除し、タラカン島の占領を完了した。タラカン飛行場の整備が開始されたが、同飛行場は土質が不良であり、拡張工事も周囲の土壌も軟弱であり、早急の拡張工事は困難であったが、十六日はなんとか戦闘機九機が「ホロ」より進出してきた。

 タラカンにいたオランダ軍は歩兵八百、砲兵四百、工兵七十、其他百の約千四百名であったことが判明し、捕虜は八百七十一名であった。

 陸軍坂口支隊の被害は、戦死者八名であった。

 十九日迄に収容した敵の遺棄死体は約三〇〇、負傷した兵は約四〇名と報告された。また、島の住民は約二、六〇〇名であったが、男性ばかりであり、婦女子は攻撃前には島外に避難させていたことが判明し、島民にて治安維持会を設立して、家族の復帰にあたらせた。


 肝心な油田施設の状況はどのようであったのか、調査の結果十七日に報告された(防衛機密第一三番電)のでは

一、重油貯蔵「タンク」「パモシアン」地区

  容量一〇〇乃至一〇〇〇噸のもの全部破損残存重油なし

  「ジュワタ」地区容量一〇〇〇噸のもの八基の内一基爆破残七基の爆破装置

  は之を当班にて撤去完全残存重油約三〇〇〇噸にして「ドラム」缶に依る輸

  送可能

二、油井(「バモシャン」及「ジュワタ」地区)採油動力全部破壊採油の大部分

  は汲揚「ポンプ」棒を落し使用不可能爆破せるものは極めて少数なり 櫓は

  全部完全なり 自噴井を認めず

三、送油「ポンプ」は全部破壊送油菅は大部分使用不可能積出管は大破使用不可

  能

四、発電装置は全部破壊修理不可能

五、油田給水路略略完備

六、重要図面の大部及重要書類の一部押収保管中


 油田の多くは破壊されていたが、残存する重油は使用可能であった。施設に復旧には時日がかかるものと予想された。操業を再開できたのは十七年六月であった。

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