第十七話 第二次攻略部隊出撃

 攻略部隊指揮官は、ウエーキ島攻略の再挙について、次のような腹案をもっていた。

 出撃準備期間は一週間以内とし、速やかにウエーキ島攻略を再興する。ウエーキ島の航空機を友軍機で撃滅する。水上機母艦、陸戦隊兵力増援を要請する。金剛丸、金龍丸は乾舷が高いので、洋上での大発移乗が困難のため、上陸作戦に使用しない。最悪の場合、哨戒艇二隻を擱座させて、陸戦隊を揚陸する。


 ウエーキ島攻略部隊は十二月十三日、ルオットに帰着してから二十一日の出撃まで、次のような訓練作業を実施した。

一、六水戦、十八戦隊、二十四航戦各司令部間の作戦研究会。

二、上陸必成のため、第三十二号、第三十三号哨戒艇は、擱座上陸を前提とし

 て、不要物件陸揚げ等、艇内処理を行うとともに、大発卸し方や乗員の上陸訓

 練を実施。

三、金龍丸は風浪大なる場合にも、大発を迅速にかつ容易におろし得るよう、施

 設方改良。

四、被害局限対策として、予備魚雷の実用頭部を除去するほか、魚雷頭部および

 爆雷に弾圧よけを付し、可燃物は最小限度にとどめる等の措置。

五、隊内通信訓練を通じて、特定規約信号および略語等に慣熟すること。


 機密「ウ」攻略部隊命令作第一一号

   昭和十六年十二月十六日「クエゼリン」旗艦夕張

      「ウ」攻略部隊指揮官 梶岡定道

   「ウ」攻略部隊命令

一、「ウ」島の防備は相当厳重にして平射砲高角砲機銃陣地等の活動は未だ活発

 を極め戦闘機数機尚残存せるものの如し

 南洋部隊航空部隊は引続き「ウ」島残存敵兵力を攻撃中にして機動部隊兵力の

 一部亦之に参加の予定なり

二、当部隊は機を見て出撃支援部隊及援護隊と密接なる連繋を保ちつつ「ウ」島

 に近接天明前奇襲強行上陸を決行速に全島を攻略基地を設定せんとす

三、兵力部署 (攻略完了迄)

 本隊 第六水雷戦隊司令官

  軽巡 夕張

  駆逐艦  夕凪 望月

 第一攻略隊

  第三十駆逐隊司令

   駆逐艦 睦月 弥生

   哨戒艇 第三十二号 第三十三号

 第二攻略隊

  第二九駆逐隊司令

   駆逐艦 追風 朝凪

   輸送船 金龍丸

 第一水上機隊

  水上機母艦 聖川丸

 第二水上機隊

  第十七分遣隊

 設営隊

  金剛丸  基地設営班

  第二号監視艇

  第四号監視艇

  第七号監視艇

 付属隊

  天洋丸

四、各部隊の行動

○本隊

 一、本隊、金龍丸、聖川丸及第三十二号第三十三号哨戒艇は本職之を率い十二

  月二十一日〇五〇〇「クエゼリン」発「ミルー」水道より出撃す

 二、駆逐隊は先任司令之を指揮し右に先ち機宜出撃水道外敵潜掃蕩を実施すべ

  し

 三、各隊(艦)は水道外に於て第一警戒航行序列に占位すべし

 四、爾後別項揚陸計画に応ずる如く行動す

 五、「ウ」航空部隊残留隊は攻略部隊出撃時水道外対潜警戒を実施すべし

 六、予定航路 別図(省略)

○設営隊

  (金剛丸)

   機宜「クエゼリン」発概ね二十四日〇八〇〇AAに達する如く行動すべし

  (監視艇)

   先任艇長之を指揮し二十一日「クエゼリン」発「ロンゴラップ」に進出待

   機すべし

   本行動中無線待受に注意すべし

○付属隊

  特令ある迄「クエゼリン」に待機すべし

五、揚陸計画

㋑ 方針

 ⑴特別陸戦隊は天明前島嶼の主要部を占領特に陸上航空基地及「ピーコック」

  砲台を速に確保し得る如く揚陸す

 ⑵艦船陸戦隊の揚陸に関しては特令す

  但し情況必要と認むる場合第一第二攻略隊は当該指揮官所信に依り揚陸する

  ことを得

㋺ 揚陸地点

      第一攻略隊         第二攻略隊

 第一案  ウエーキ本島南岸     ウイルクス島南岸

 第二案  ウエーキ本島南岸及東岸  ウイルクス島南岸

 第三案  ウエーキ島南岸    ウエーキ本島東岸

 第四案  ウイルクス島南岸   ピアル島北岸

 第五案  ウエーキ本島東岸   ピアル島北岸

 第六案  主力 ウエーキ本島  ウイルクス島南岸

      一部 ピアル島北岸

  (備考)

 揚陸地点は概ね前日一五〇〇迄に決定す

 特令なければ第一案とす

㋩ 接岸揚陸要領

 ⑴接岸序列を以て隠密にA・Aに接近し島嶼を最初に発見せる艦は規約信号

 (山川燈又は微光力方向信号燈)を以て通報す

 ⑵各攻略隊は令に依り解列左の要領に依り陸戦隊を揚陸す

  ①揚陸法甲法(海上平穏なる場合)

   哨戒艇及金龍丸搭載の大発五隻及夕張内火艇カッター各二隻を使用揚陸す

  ②揚陸法乙法(風浪大なる場合)

   第一攻略隊

    第三十二号哨戒艇を着岸せしめ情況に依り之に第三十三号哨戒艇を横

    付して揚陸す

   第二攻略隊

    金龍丸を風下側適当の位置に誘導し極力大発を卸し揚陸す

 ⑶揚陸法丙法(風浪大にして情況特に之を必要とする場合)

  第一攻略隊

   第三十二号第三十三号哨戒艇を機宜着岸せしめ揚陸す

  第二攻略隊

   金龍丸を風下側適当の位置に誘導し極力大発を卸し揚陸す

  (備考)

 揚陸法乙法を令したる場合と雖も情況特に必要と認むるときは第一攻略隊指揮

 官若は連合特陸指揮官独断揚陸法丙法に転換することを得

㋥ 接岸上陸部隊着岸時刻等

 揚陸法に応じ特令するも概ね左を標準として行動するを例とす

  接岸時刻          二二〇〇

  上陸部隊着岸時刻

     哨戒艇着岸に依るもの 二三〇〇

     大発に依るもの    〇一〇〇ー〇二〇〇

㋭ 揚陸援助作業

   (省略)

㋬ 上陸戦闘部署

 第一攻略隊

  陸戦隊本部  第三十三号哨戒艇

   第一中隊

    本部銃隊三ケ小隊 付属隊の一部 第三十三号哨戒艇

    機銃小隊 付属隊の大部     睦月

    右以外             金龍丸

   第三中隊

    本部及銃隊ニケ小隊 機銃一ケ小隊

    付属隊の大部          第三十二号哨戒艇

    右以外             金龍丸

  舟艇使用

    大発 二

    ゴム浮舟 一六

    夕張内火艇 二 カッター 二

 第二攻略隊

  第二中隊

    全員 追風

  舟艇使用

    大発 二

    ゴム浮舟 三

 (以下省略)


 十八日には陸戦隊指揮官田中中佐より命令一号により、陸戦隊の任務が発令された。

○各隊の任務

 ⑴内田中隊

 イ、内田中隊は概ね二十二、二十三地区(ウエーク島南岸中央部)付近に上陸

  を強行し上陸点の確保竝に友隊の上陸掩護をなすと共に先づ速に上陸点以東

  十四地区(飛行場北東端)に至る敵軍事施設の破壊占領に任じ爾後「ウ」本

  島全島を攻略し「ビール」島との橋梁を確保し両島の連絡を断ち次で「ビー

  ル」島攻略に転ずる如く行動すべし

 ロ、内田中隊長は適宜の兵力を以て決死隊を編成し速に赤屋根付近宿舎地帯に

  隠密進出せしめ陽動竝に後方撹乱をなさしむべし

 ⑵板谷中隊

 イ、板谷中隊は内田中隊に引続き上陸 内田中隊に代りて上陸点の確保竝に本

  部の上陸を掩護すると共に主力を以て「ウエーク」島の上陸点以西の軍事施

  設の破壊占領竝に水道の確保に任ずべし

 ロ、本任務終了せば一部を以て敵の後方撹乱に備え爾余は予備隊となるべし

 ハ、状況により上陸点を二十五、二十六地区(ウエーク本島南岸の西端)に変

  更することあるべし 此の際は直に内田中隊との連繫に努むべし

 ⑶高野中隊

 イ、高野中隊は「ウイルクス」島三地区(中央部)付近に上陸を強行し先づ

  四、五地区(西側)次で一、二地区の占領竝に軍事施設の破壊を行い水道の

  確保に任ずべし

 ロ、中隊長は本島攻略完了せば独断専行「ビール」島攻略を決行すべし


 一方、米軍はウエーキ島の日本軍撃退の報告に救援すべしとの声が上がったのは言うまでもないことである。

 真珠湾攻撃による被害を免れた米空母三隻、ホーネット、エンタープライズ、サラトガを使用して救援、そして反撃を加えるチャンスがあると思われたからだ。だが、色々な原因、つまり、訓練の未熟、燃料補給、潜水艦の脅威などにより、実際の運用は不可能だった。


 開戦前にエンタープライズにより到着したグラマン戦闘機十二機は、開戦日の十二月八日、グラマン四機が空中哨戒にあたっていたが、飛来した日本海軍の爆撃機には気づかなかった。空中にある四機以外の八機は滑走路に並べられていた。陸攻隊の爆撃により地上にあったグラマン八機は粉砕された。七機は完全に破壊され、一機が被弾していたが、かろうじて修理が可能であった。海兵飛行隊の地上員のうち、二十三名が戦死し、十一名が負傷する被害を生じていた。

 翌日、二十七機の爆撃機を残っているグラマン全機を発進させて迎撃し、一機を撃墜し、高射砲も一機を撃墜、一機に被害を与えたと報告した。実際には、日本側に報告を見ると被弾機はあったが、撃墜された機はなかった。

 十日の空襲には、二機の爆撃機を撃墜したと報告したが、実際失ったのは一機だった。

 十一日、日本の攻略部隊の船団を発見したが、沿岸砲は日本の護衛艦艇が陸上砲撃をする中、反撃の砲撃を浴びせ、照準装置は破壊されて動作しない中、目測で日本の駆逐艦に連続射撃を浴びせ、その一弾が駆逐艦疾風に命中し、偶然にも爆雷が魚雷を誘爆させ、疾風は中央部から前後に分断される形であっという間に沈没した。米軍は歓声をあげた。

 今度は、飛び立ったグラマンが小型爆弾を駆逐艦如月に命中させ、今度も爆雷を誘爆させたか、こちらもあっという間に沈没してしまった。

 其後、数百名以上の戦死者を出した日本軍部隊は引き上げていき、これに比べ米軍は戦死一、負傷四名という被害だけですみ、海兵隊は一時戦争に勝った気分に浸った。

 孤軍奮闘していたウエーキ島の海兵隊ではあったが、ハワイの司令部は結局ウエーキ島の放棄を決定し、出撃していた米空母部隊はハワイへの帰還を命じられた。

 島に残されたグラマンは部品を廃棄された機体から集めて修理し、まだ二機が飛行可能であった。この二機で日本軍の第二次攻撃を迎え撃つのであった。

 地上の施設も爆撃により結構破壊されていたが、沿岸砲はまだ残っており、高射砲も残っていた。だが、弾は不足に陥っていた。


  十二月二十一日、攻略部隊は行動を開始。午前四時三十分、第二十九駆逐隊(追風、朝凪、夕凪)、第三十駆逐隊(睦月、望月、弥生)は抜錨出撃し、ミルー水道外において敵潜水艦の制圧掃蕩を実施した。

 午前五時、主隊の旗艦夕張、金龍丸、第三十二号哨戒艇、第三十三号哨戒艇が出撃した。さらに五時二十分、掩護隊の第十八戦隊が、ついで六時には、支援部隊の第六戦隊(青葉、加古、古鷹、衣笠)が、それぞれ出撃した。

 攻略部隊は午前五時四十五分、第一警戒航行序列を成形した。掩護隊は攻略部隊の後方を続航、支援部隊は攻略部隊の東方おおむね視界内を北上した。

 今次の航路は、哨戒艇や駆逐艦に多数の陸戦隊員を配乗しているので、それらの疲労を考慮して、直航路を進撃した。


 一方、連合艦隊司令長官は十五日機動部隊の一部派遣を決めた。南雲長官は一旦全兵力を率いてトラックに入港し、南洋部隊指揮官と打合せを行いウエーキ攻略作戦に協力することを決めたが、連合艦隊司令部は、その後に予定しているラバウル攻略作戦の時期との関係もあり、また、南洋部隊は十二月二十日から二十三日にウエーキ攻略を実施したい計画であったから、結局は、南雲長官は、第二航空戦隊の空母蒼龍、飛龍。第八戦隊の重巡利根、筑摩。第十七駆逐隊の駆逐艦谷風、浦風を派遣協力することに決定し、残りの機動部隊は内地に帰還して次期作戦に備えることとなった。分派された各隊は一時的に南洋部隊指揮官の指揮下に入れられた。

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