第十五話 ウエーキ島攻略作戦

 ウエーキ島は、北太平洋西部、北緯十九度十八分、東経百六十五度三五分にある、環礁からなる島で、長径一〇キロ、短径五キロ程の中に、ビール島、ウエーキ島、ウイルクス島の三つの平坦な島からなっており、ウエーキ島が一番大きく、総面積八平方キロ程である。

 ウエーキ島は太平洋の洋心にある無人の孤島で、一八九八年、米西戦争のあとアメリカはフィリピン、グアム島をスペインより奪取したあと、一八九九年ウエーキ島の占有宣言を行なっている。その後長く放置されていたが、一九三五年、パン・アメリカン航空の太平洋横断空路の飛行艇の中継給油基地として使い始め、礁湖の浚渫工事、ホテルの建設等を始めた。一九三九年には大統領令によって島が海軍の管轄となり、一九四〇年にはミッドウエー島とともに海軍航空基地ならびに潜水艦根拠地として強化する方針が議会を通過した。


 一九四一年、急速防備強化の方針が定められた。四月十八日、キンメル海軍大将は、ウエーキ島の防御設備の急務についてスターク作戦部長に上申した。そして、同島の警備担当司令官ブロック海軍少将も、防備状態の不備などを指摘した。

 六月二十三日、スターク作戦部長は、在ハワイ海兵隊の第一防禦大隊の一部をウエーキ島の守備隊に充当することを発令し、これに伴い、第一防禦大隊では、ルイ・ホーン少佐以下の百七十八名を派遣することを決め、八月一日輸送船レギュラス号(四、八六〇トン)に乗船し、十九日ウエーキ島に上陸した。

 この八月、長さ五、〇〇〇フィート、幅二〇〇フィートの滑走路が完成している。


 十月十五日付にて、ホーン少佐に替わり、ジェームス・デヴェルクス少佐が後任となり、それに伴い、新たに約二〇〇名の海兵隊員が増員され、十一月中旬輸送船カストロ号(六、〇八五トン)により到着した。

 航空基地設営のためには、海兵隊第二一航空隊の参謀ベイラー少佐と、コンダーマン少尉が指揮する海兵隊員四九名が、VMF二二一飛行中隊の地上整備員と共に、水上機母艦ライト(八、六七五トン)により十一月二十九日ウエーキ島に上陸した。この艦には同島の指揮官であるカニンガム中佐も乗艦して上陸している。開戦間近の赴任であった。

 二二一飛行中隊のF4Fグラマン戦闘機十二機は、空母エンタープライズに着艦収容して、ウエーキ島近海まで輸送されて、四日に空母から発艦してウエーキ島飛行場に着陸した。戦闘機を水上機母艦で運ばずに、エンタープライズを使用したことが、真珠湾攻撃の際に、真珠湾に同空母は在泊せず、被害を免れるという幸運をもたらしていた。


 十二月八日、開戦時の所在人員は、将校三八・下士官兵四八四・民間人一、二一六で、計一、七三八名であった。防備兵器としては、戦闘機一二機・五インチ海岸砲九・三インチ移動砲一七・機銃四六で防備されていた。


 「ウ」攻略部隊命令作第一号が十一月二十四日トラックにある第六水雷戦隊旗艦「夕張」から梶岡司令官により発令された。

 旗艦「夕張」であるが、軍艦製造で著名な平賀譲中将の設計であり、五、五〇〇トン軽巡の見直しによりより小型ながら同程度の攻撃力航洋性を持つ軍艦として試験的に建造されたもので、艦橋構造物の筒型の採用、前後二本の煙突を屈強させて一本に結合した誘導煙突のデザインで、三、一四〇トンの排水量でまとめられた当時としては画期的な軍艦であり、大正十二年七月に竣工している。

 

  「ウ」攻略部隊命令

一、作戦方針

 ㋑ 先づ航空部隊の協力に依り「ウ」の偵察竝に連続反復航空攻撃を実施し極

  力敵兵力の撃殺を策す

 ㋺ X+一日以後潜水艦を以て「ウ」に隠密偵察、監視を実施すると共に有力

  なる敵艦艇の行動するものあらば之を攻撃せしむ

 ㋩ X+三日天明前奇襲上陸を決行速に全島を攻略す

  但し情況に応じ天明後航空部隊の攻撃と相俟て徹底的に敵を砲撃制圧したる

  後強襲上陸を決行することあるべし

 ㋥ 攻略完了せば急速前進航空基地を設営す

  設営作業終らば機宜「マーシャル」方面に移動主として「ウ」守備隊の支援

  に任ず

二、兵力部署

 ㋑ 第一軍隊区分(作戦行動開始より攻略完了迄)

  別表第一

 本隊

  第六水雷戦隊司令官  海軍少将 梶岡定道

        首席参謀 海軍中佐 小山 貞

  軽巡 夕張

 第一攻略隊

  第二九駆逐隊(第二小隊欠)

    駆逐艦 追風  疾風 

  第一特別陸戦隊(舞特陸一ケ中隊)

 第二攻略隊

  第三十駆逐隊

   駆逐艦 睦月  如月  弥生  望月

  哨戒艇  第三十二号  第三十三号

  第二特別陸戦隊(六根特陸一ケ中隊)

 潜水部隊

  第二十七潜水隊

     呂六五  呂六六  呂六七

 設営隊

   特設巡洋艦金剛丸(八、六二四トン、十七ノット) 

   基地設営班

   監視艇三

   漁船五

 付属隊

   特設巡洋艦金龍丸(九、三〇九トン、十七ノット)

   高角砲隊    

 ㋺ 第二軍隊区分(攻略完了後設営作業概ね完了迄)

  別表第二 (省略)

三、各部隊の行動

○本隊、第一攻略隊、第二攻略隊

 1、本隊(dg欠)金龍丸及第三十二号、第三十三号哨戒艇は本職之を率い

  「ミルー」水道を出撃す

  水道出撃時刻を概ね左の通りとし特令なければ第一案とす

  第一案(第一航路の場合)

     X日一六〇〇

  第二案(第二、第三航路の場合)

     X+一日〇一〇〇

  第三案(第四航路の場合)

     X+一日〇四〇〇

 2、駆逐隊は先任司令之を指揮し右に先ち機宜出撃「ミルー」水道外敵潜掃蕩

  を実施すべし

 3、各隊は「ミルー」水道外に於て警戒航行序列(別令)に占位すべし

 4、事後別項揚陸計画に応ずる如く行動す

 5、予定航路  別図

○潜水部隊

 1、指揮官所定に依りエックス+一日以後「ウ」の偵察監視竝に敵艦艇攻撃に

  任ずべし

  X+二日夜特令して別に定むる要領に依り攻撃部隊の接岸誘導に任ぜしむる

  ことあるべし

 2、攻略部隊接岸せば特令する迄之が外方掩護に任ずべし

○水上偵察機隊

 第一法(「クエゼリン」より空輸の場合)

 「クエゼリン」「ポカアック」要すれば「ピキンニ」「ロンゴラップ」を基地

  とし左に応ずる如く行動すべし

 ⑴攻略部隊出撃時の警戒

 ⑵X+一日(予定航路第三、第四案の場合はX+一、X+二日)昼間攻略部隊

  前路竝に上空警戒

 ⑶令により4F輸送艇の誘導に依り「ウ」に集結

  第二法(「クエゼリン」より金龍丸、金剛丸に搭載の場合)

  搭載艦艦長と協力し左の任務に応ずる如く行動すべし

  fsr×2(金龍丸搭載)

 ⑴特令に依りX+二日攻略部隊前路竝に上空警戒

 ⑵X+三日揚陸作戦協力

  fsr×2(金剛丸搭載)

 ⑴X+一、X+二日攻略部隊前路竝に上空警戒

 ⑵X+三日揚陸作戦協力

○設営隊

 [金剛丸]

 機宜「クエゼリン」発概ねX+三日一二〇〇設営班及高角砲隊の揚陸開始に応

 ずる如く行動令に依り揚陸を開始すべし

 水上偵察機隊の一部搭載の場合は右の外之が任務遂行に協力するに便なる如く

 行動すべし

 [監視艇三]

 X+一日天明迄に「ポカアック」島(二隻)及「ピキン」島(一隻)に補給準

 備を完成し水上偵察機隊に対する補給警戒に任ずべし

 右任務終了後の行動は特令す

○石廊

 適宜「クエゼリン」発特令なければ

 X+四日〇六〇〇 N17°0’ E164°40’ に達する如く行動別令に依り攻略部隊の

 補給に任ずべし

 爾後の行動は特令す

四、揚陸計画

 ㋑方針

 ⑴特別陸戦隊は天明前島嶼の過半を占領水陸航空基地を獲得し得る如く揚陸

  す  

  但し情況に依り天明時又は天明以後揚陸を開始することあり

 ⑵艦船陸戦隊の揚陸に関しては特令す 但し情況必要と認むる場合第一、第二

  攻略隊は当該指揮官所信に依り揚陸することを得

 ⑶援護部隊(2D/18S)は作戦全般の積極的支援に任じ情況に依り陸戦隊を揚陸

  す

 ㋺揚陸地点

       第一攻略隊       第二攻略隊

  第一案  ウエーキ本島南岸    ウイルクス島南岸

  第二案  ウエーキ本島南岸及東岸 ウイルクス島南岸

  第三案  ウエーキ本島南岸    ウエーキ本島東岸

  第四案  ウイルクス島南岸    ピアル島北岸

  第五案  ウエーキ本島東岸    ピアル島北岸

  第六案  主力 ウエーキ島本島  ウイルクス島南岸

       一部 ピアル島北岸

 別法

  昼間上陸決行に当り「ウイルクス」島「ピアル」島間の水路進入可能にして

  情況之を有利とし上陸点を「ピアル」島南岸若は「ウイルクス」島北岸に撰

  定揚陸せしむる場合を各案(第三案を除く)別法とす

 (備考)

  揚陸地点は概ね前日一五〇〇迄に決定す特令なければ第一案とす

 ㋩接岸、泊地漂泊、上陸開始時刻等

  接岸時刻             二二三〇

  泊地漂泊(舟艇泛水開始)時刻   二三三〇

  上陸開始時刻           〇〇三〇

  第一回上陸部隊着岸時刻      〇二〇〇

 ㋥接岸揚陸要領

 ⑴接岸隊形を以て隠密に接岸し島嶼を最初に発見せる艦は規約信号(山川燈又

  は微光力方向信号燈)を以て通報す

 ⑵各隊は令に依り左の要項に依り陸戦隊を揚陸せしむ

  ①揚陸法第一法(海上平穏なる場合)

   揚陸地点視界外に於て舟艇を泛水し陸戦隊を乗船せしめたる後適宜の位置

   迄駆逐艦誘導し上陸海岸に向わしむ

   ②揚陸法第二法(海上波浪ある場合)

    波浪の状況上陸舟艇の行動に差支なき程度に接岸し舟艇を泛水し陸戦隊

    を揚陸せしむ

  (備考)

    特令なければ第一法とし極力企図の秘匿に努むるものとす

  ㋭揚陸援助作業

   ①夕張は特令に依り内火艇「カッター」各一宛を以て夫々各攻略隊の揚陸

    作業(陸戦隊揚陸舟艇誘導)を援助す陸戦隊揚陸せば夕張短艇は速に復

    帰す

   ②援護部隊(2D/18S)は情況に依り揚陸作業を援助す

  ㋬上陸戦闘部署

    別令

  ㋣警戒

   ①本隊は攻略隊の外方及翼側を警戒す

   ②潜水部隊は「ウ」島より概ね三〇浬付近に在りて哨戒す

   ③援護部隊(2D/18S)は機宜攻略隊の外方を警戒す

  ㋠上陸掩護射撃

   ①上陸は奇襲上陸を本旨とし上陸部隊着岸前は敵の照射砲撃を蒙りたる場

    合の外砲撃(照射砲撃)は行わざるものとす

    但し情況に応じ特令して飛行場及上陸点付近の主要砲台に対し上陸前砲

    撃(照射砲撃)を実施せしむることあるべし

   ②上陸後の射撃の始終は特令ある場合の外各隊指揮官所信に依る

   ③上陸掩護射撃実施区分

      (省略)

   ④側方観測

    艦船又は陸上観測班を以てする側方観測は各隊毎に実施するものとす 

    但し情況に依り特定の艦を指定(依頼)して実施す

  ㋷牽制陽動

   ①上陸部隊着岸前適当の時機より援護部隊は陸戦隊を揚陸せざる方向に対

    し煙幕(情況に依り照射砲撃)等に依り牽制陽動を実施す

   ②状況に依り本隊所属駆逐艦をして牽制陽動を実施せしむることあり

  (以下省略)


 十二月一日付の戦時編制の改定により、軽巡「天龍」「龍田」の二隻からなる第十八戦隊が編成され、ウエーキ島攻略掩護隊として第六水雷戦隊を掩護協力する任務についた。

 第十八戦隊司令部

   司令官  海軍少将  丸山邦則

   参謀   海軍中佐  篠原多磨夫

   軽巡  天龍

   軽巡  龍田


(天龍、龍田は天龍型軽巡洋艦として、第一次対戦後の八四艦隊の一隻として建造された、軽巡洋艦であった。基準排水量三、二三〇トン、全長一四二・六五m、速力三四・二ノット、航続距離 五〇〇〇浬・一四節。開戦時の兵装は、五〇口径三年式十四糎砲四門、四〇口径三年式八糎高角砲一門、一三ミリ単装機銃二挺。五三糎三連装発射菅二基、六年式改二魚雷一二本、八一式爆雷投射機二基)


 また、ルオットに進出を終えた千歳航空隊の陸攻三十六機がウエーキ島爆撃に協力することになっていた。


 十二月四日、クエゼリン環礁内に集合した。五日、第二十七潜水隊の各艦は艦名を抹消する作業をし、別に艦橋両舷に六五潜は「ク」六六潜は「フ」六七潜は「イ」とカタカナを入れることになり、六日その作業は完了した。

 七日一〇五〇、「ウ」攻略部隊信令作第三号が令された。

⑴本職十二月八日一五一五、六水戦、金竜丸、金剛丸、第三二

 号、第三三号哨戒艇を率い「ルオット」泊地発「ミルー」水

 道より出撃す 駆逐隊は先任司令官之を指揮し予定の如く行

 動すべし

⑵右各隊は「ミルー」水道外に於て第七警戒航行序列に占位す

 べし 夕張の針路二九〇度速力一五節、金剛丸及哨戒艇は成

 るべく続行する如く行動すべし

⑶石廊は九日便宜出港別令に依り行動すべし

⑷第二号監視艇は適宜「ルオット」発九日日没時迄に「ピキン

 ニ」に回航第七号第四号監視艇と共に行動すべし


 八日開戦の報が発令されるや、ウエーキ島攻略部隊は、準備を整えて作戦計画に従い行動を開始し、一三四五駆逐隊が出撃し、「ミルー」水道外の敵潜を警戒掃蕩する任務についた。続いて、旗艦夕張が一五一五錨をあげ、金龍丸、金剛丸、哨戒艇が続いて出航していった。


 攻略部隊が把握していたウエーキ島の敵情は、十二月四日の偵察及び八日の陸攻隊の攻撃時のものとで次のように把握していた。

⑴「ウ」島には水陸航空基地及飛行艇陸上機若干を有し、海兵

 隊約三〇〇名、人夫約一〇〇〇名在ること略々確実なり

⑵上陸前日迄の航空戦隊の総合情報

 ①戦闘機尚一、二機程度残存す

 ②陸上防空砲火は熾烈なるも「ピーコック」岬「ウイルクス」島砲台は概ね壊

  滅せり

 ⑶天候及海上の模様に対する判断

 北東貿易風地帯たること及天気図二十四航戦偵察等に徴するに「ウ」方面は当今概ね東北東十米付近にて島の東側は波浪相当大なるべし 然して風向島の形状洋上の孤島たる点に鑑み風下側たる南西側と雖も相当波浪あるべきを予期せらるるも一般の天候に於ては上陸可能なるべしと判断しあり

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