第三七話 第四師団の作戦計画

 第四師団は一時マラリヤの蔓延により、作戦遂行を危ぶまれたが、四月下旬より回復を見せ始めて何とか決行できることが判明したが、ただ諸準備と訓練は十分にできなかったことは確かであった。

 そんな状況下であったが、第四師団は作戦遂行に向けて四月十九日攻略計画の大綱を発表した。


   第一 方 針

一、師団は砲飛の緊密なる協力の下に先づ一部を以て「コ」島尾部に急襲上陸し

 て地歩を獲得したる後主力を以て「コ」島頭部に上陸し一挙に「コ」島を攻略

 す

   第二 上陸点及上陸日時竝に乗艇地

二、上陸点及上陸日時

 X日(五月五日)夜有力なる一部を以て歩兵岬東方海岸にX+一日夜主力を以

 て「モリソン」岬砲台付近に上陸す

三、乗艇地

 「ラマオ」付近とす

   第三 上陸準備

四、一部を「シシマン」湾付近より「カブカーベン」付近に亙る海岸の要点に配

 置して敵情地形の捜索に任ぜしめ主力を「アモ」川以北の地区に集結して隠密

 に「コ」島上陸を準備す又主として「キャビテ」付近海岸に於て所要の上陸訓

 練を行い併せて「キャビテ」半島方面より上陸する如く敵を欺瞞す

 上陸準備間特に企図の秘匿に注意す

   第四 上陸戦闘部署

五、軍隊区分別紙の如し

六、右翼隊砲台岬「モリソン」岬付近上陸以後に於ける両翼隊の戦闘地境を

 (ニ)海岸東南端「もも」陣地南端(衛戌病院南端)を連ぬる線とそ線上は右

 翼隊に属す

七、各隊の任務

 1、左翼隊

  ㋑Xー一日「ラマオ」川下流河谷に集結しX日日没迄に「ラマオ」付近海岸

   に於て乗艇艇隊群を編成し薄暮(概ね二十時)機動を開始し「カブカーベ

   ン」付近に於て隊勢を整えて発進し二十三時一部を以て騎兵岬付近主力を

   以て㋩海岸に急襲上陸す

  ㋺左翼隊上陸せば一部を以て速かに飛行場付近を占領確保せしめ主力を以て

   一挙「さくら」高地に向い突進し払暁頃迄に之を占領するに努む

  ㋩「さくら」高地を占領せば同高地北側及西側北岸の近戦砲台、側防機能を

   撲滅して右翼隊の上陸を容易ならしむると共にX+一日夜の「サンホセ」

   付近の突破竝に「サンホセ」西方台地に対する夜間攻撃を準備す

  ㋥X+一日日没後砲兵射撃に引続き「サンホセ」地峡を強行突破して「サン

   ホセ」西側高地を夜襲し爾後右翼隊の上陸に伴い之を相連繫し重点を右翼

   に保持して「うめ」「ふじ」方向に戦果を拡張し当面の敵を撃滅す

  ㋭本攻撃間「カバロ」「フライレ」要塞の敵の砲撃に対し特に警戒す

 2、右翼隊

  ㋑X日「ラマオ」川下流河谷に集結しX+一日夕より左翼隊に準じて行動し

   二十三時三十分主力を以て砲台岬東西海岸に一部を以て「モリソン」岬付

   近に強行上陸す

   戦車を基幹とするものは東部(ニ)海岸に強行上陸す

  ㋺右翼隊上陸せば払暁迄に概ね射撃場南方砲台「まつ」高地の線に進出し引

   続き左翼隊と相連繫し重点を右に保持して「たけ」「もも」の方向に戦果

   を拡張し当面の敵を撃滅す

 3、状況に依り主力を以て左翼隊正面より戦果を拡張することあるを予期す

 4、両翼隊地上の敵を撃滅せば其の都度地下施設内の敵を掃蕩す

 5、砲兵隊は「アラサシン」川より「バブヤン」川付近に亙る海岸地区に陣地

  を占領し当初左翼隊の戦闘に次いで右翼隊の上陸に伴い主力を以て右翼隊一

  部を以て左翼隊の戦闘に協力す

  Xー三日よりX日に至る間軍砲兵司令官の指揮に依り攻撃準備射撃を行う

  又X日及X+一日軍砲兵司令官の指揮に依り上陸部隊の達着前約三十分間上

  陸海岸に対し急襲射撃を実施す

 6、予備隊はX+一日夜「ラマオ」川下流河谷に集結し爾後の乗船を準備す

 7、海上作業隊は師団の揚陸作業及海上掩護所要に応じ上陸掩護竝に別に示す

  所に拠り陽動に任ず

 8、両翼隊は特に敵火点に対する肉薄攻撃の準備を十分ならしめ又歩兵砲及海

  上作業隊は煙の利用に遺憾なきを期す

 9、戦車第七連隊(一部欠)はX+一日夜以後「リマイ」付近に集結待機す

 ⒑ 師団通信隊は主力を以て師団戦闘司令所と行動を共にし通信連絡に任ず

 ⒒ 輜重隊兵器勤務隊第四野戦病院防疫給水部(半部欠)はX+二日以後「ラ

  マオ」川下流河谷病馬廠は主力を以て「リマイ」付近に集結す 

 ⒓ 師団戦闘司令所をX日よりX+一日夜右翼隊の上陸時迄X八三一・二ーY

  一八四五・三高地に開設し爾後「サクラ」高地北側に推進す

  師団司令部の残余はX+一日夜「ラマオ」川河口付近に集結し爾後の上陸を

  準備す

 ⒔ 上陸日程左の如し

  X日夜 左翼隊全部

     砲兵隊の連絡観測機関の一部

  X+一日夜 右翼隊

     師団戦闘司令所

     砲兵隊の連絡観測機関の一部

     師団通信隊の主力

  X+二日 右翼隊の歩兵一大隊

    基地所要の兵力(当時の状況に依り定む)

   第五 他部隊の協同

八、任務

 1、攻撃準備間軍砲兵隊は好機を捕捉し敵高射砲近戦砲台、照明機関、側防機

  能艦艇を破壊す 軍砲兵司令官はXー三日より師団砲兵隊の指揮を統一し第

  二十二飛行団の爆撃と協調して攻撃準備射撃を行い「コ」島及「カバロ」島

  に於ける主として近戦砲台及側防機能を破壊し一部を以て我行動を妨害する

  敵砲兵を制圧撲滅す

  上陸部隊上陸せば爾後の戦闘に直接協力すると共に海上交通を掩護す

 2、第二十二飛行団は攻撃準備間一部を以て適宜爆撃す 上陸前全力を以て特

  に海軍航空部隊と協同しXー六日より主として「コ」島及「カバロ」島の対

  北方遠戦砲台及「コ」島北海岸の近戦砲台其他の諸施設を破壊して敵を圧倒

  震撼す

  上陸部隊上陸せば爾後の戦闘に協力す

 3、爆撃及攻撃準備射撃の実施に方りては特に上陸時機の欺瞞に着意す

 4、第十六師団主力は成るべく速かに「キャビテ」州に転進し所要に兵力を以

  て南方より「コ」島其他に上陸する如く陽動す

九、上陸準備

 1、軍砲兵隊は主力を以て「カブカーベン」西方地区に一部を以て「マラゴン

  ドン」付近に陣地を占領す

 2、軍砲兵隊は上陸準備間好機を捕捉し敵高射砲、近戦砲台、側防機能、照明

  機関、敵艦艇等を求めて破壊すると共に随時上陸時機竝に地点を秘匿する如

  く砲撃す

 3、第十六師団主力は成るべく速かに捜索第十六連隊の警備地区に転進し捜索

  第十六連隊を併せ指揮し所要の兵力を以て南方より「コ」島其他に上陸する

  如く陽動す

 4、軍砲兵隊及第二十二飛行団は前項第十六師団の陽動に策応し一部を以て

  「カラバオ」「フライレ」「カバロ」島及「コ」島南岸を砲爆撃す

十、上陸実施

 1、第二十二飛行団はXー六日よりX日に亙り主力を以て「コ」島北岸の近戦

  砲台、対北方遠戦砲台(「カバロ」島のものを含む)特に「さくら」高地を

  爆撃して破壊し且つ敵を震撼す

 2、軍砲兵隊はXー三日よりX日に亙り攻撃準備射撃を実施し主として「モリ

  ソン」岬騎兵岬間の残存せる近戦砲台、側防機能、照明機関等を破壊す 又

  適時「さくら」高地に火力を集中し特に之を破壊震撼す 本攻撃準備射撃は

  間断を与え又攻撃準備射撃間所要の兵力を以て夜間要点に急襲的の火力を集

  中し上陸時機の秘匿に勉む

  一部を以て「カバロ」島を制圧す

  攻撃準備射撃に於ては第四師団砲兵の指揮を統一す

 3、軍砲兵隊及第四師団砲兵は軍砲兵司令官統一指揮下に左翼隊達着前約三十

  分間「歩兵」岬東方上陸海岸付近の敵に急襲的に火力を集中し上陸を支援し

  上陸直前射程を延伸し引続き之に協力す

 4、X+一日軍砲兵隊は左翼隊の戦闘に直接協力し特に「カバロ」島を制圧す

  ると共に「砲兵」岬「モリソン」岬付近及「まつ」高地「ラムサイ」砲台の

  高地の敵術工物の破壊制圧を行う又X+一日夕特に「サンホセ」西方台地に

  火力を集中し左翼隊の攻撃を容易ならしむると共に該方面に敵を牽制す

 5、軍砲兵司令官は軍砲兵隊及所要の第四師団砲兵を統一指揮し右翼隊上陸直

  前約三十分間上陸海岸の敵を急襲射撃し上陸を支援し上陸直前射程を延伸し

  引続き之に協力す

 6、第二十二飛行団はX+一日左翼隊に協力すると共に「コ」島頭部を爆砕震

  撼す


別紙

  軍隊区分

 右翼隊

   長 第四歩兵団長  谷口少将

   第四歩兵団司令部

   歩兵第八連隊の一大隊

   歩兵第三十七連隊

   戦車第七連隊の一部

   独立山砲兵第三連隊(一大隊と三小隊欠)

   独立臼砲第二大隊の一中隊

   独立臼砲第十四大隊

   迫撃砲第三大隊(一中隊欠)

   工兵第十六連隊(一中隊欠)

   師団無線一分隊

   衛生隊半部

   第一野戦病院(半部欠)

   防疫給水部の四分の一

 左翼隊

   長 歩兵第六十一連隊長  佐藤大佐

   歩兵第六十一連隊長

   戦車第七連隊の一部

   山砲兵第五十一連隊第三大隊(一中隊欠)

   独立臼砲第二大隊の一中隊(二門)

   独立臼砲第十五連隊

   迫撃第三大隊の一中隊

   工兵第四連隊(二小隊欠)

   師団無線一分隊

   衛生隊(半部欠)

   第一野戦病院の半部

   防疫給水部の四分の一

 砲兵隊 

   長 野砲兵第四連隊長 井上大佐

   野砲兵第四連隊

   山砲兵第五十一連隊第三大隊の一中隊

   独立山砲兵第三連隊の三小隊  

   独立臼砲第二大隊(二中隊(四門)欠

 予備隊

   長 歩兵第八連隊長 森田大佐

   歩兵第八連隊(一大隊と五号無線一分隊欠)

   工兵第四連隊の二小隊

 海上作業隊

   長 独立工兵第二十三連隊長 小池大佐

   独立工兵第六連隊の一小隊

   独立工兵第十連隊の一中隊

   独立工兵第二十一連隊(一中隊(三分一欠)欠)

   独立工兵第二十三連隊(一中隊(三分一欠)欠)

   独立速射砲第三中隊

   独立速射砲第九中隊

   野砲兵第二十二連隊の二中隊

    独立山砲兵第三連隊の一大隊

    野戦高射砲第四十七大体の一小隊

    師団無線一部隊

    第三海上輸送監視隊

  輜重隊

    輜重兵第四連隊

  師団直轄部隊

    戦車第七連隊(一部欠)

    師団通信隊(師団無線三分隊を欠き軍無線一小隊

       歩兵第八連隊の五号無線一分隊を属す)

    兵器勤務隊

    陸上勤務隊

    第四野戦病院

    防疫給水部(二分の一欠)

    病馬廠


 四月二十日に軍が知り得た「コ」島の情報は次の如く配られた。

一、「マニラ」湾口要塞の敵は最後の抵抗を企図しあるものの如く「バタアン」

 半島南部、「マニラ」湾口南岸に対する射撃及対空射撃を実施しあるも一般に

 活発ならず

 「ロサンゼルス」十六日発A・P電に依れば「ウエーンライト」将軍は去る十

 二日部下の要塞守備隊に訓示して「コレヒドール」島は飽くまで維持可能にし

 て又維持する旨明にして要塞司令官「ムーア」少将も亦同意なりと

二、俘虜の言を綜合するに「マニラ」湾口要塞の敵兵力は約五、〇〇〇と言い約

 二〇、〇〇〇と称するも、概ね五、〇〇〇乃至一〇、〇〇〇なるものの如く其

 の大部は米人なるものの如し

三、火砲は最大なるものは十四吋砲二門あるものの如く其の他は平時調査と大差

 なきものの如し

 高射砲は二ケ連隊にして各連隊は自動火器大隊一を有するものの如し

 機関銃は最小限三〇〇挺を有すと

四、軽砲砲座の外「コレヒドール」湾岸には若干の「コンクリート」銃座あるも

 一般に「コンクリート」掩蓋を有する特火点は少きものの如し

五、障碍物は予想上陸海岸付近に鉄条網を構築しあるも電流鉄条網は無きものの

 如し

六、判明せる地下「トンネル」の主要なるもの付図第二の如し(図省略)

 1、「インファントリー」岬と「アーティラリー」岬間に入口を有するものは

  敵軍の一九三六年の設計図に計画しあるも、現存するや否や明ならず

 2、「マリンタトンネル」には従来敵軍司令部位置しありたり「マリンタトン

  ネル」に連接せる南側のものを「海軍トンネル」と呼称しあり

 3、「コレヒドール」湾西南側に入口を有するものは設計図は入手しあるも未

  だ俘虜により確認せられず

 4、砲兵兵舎南側付近のものは俘虜の言に依れば存在は概ね確実なるも位置明

  確ならず

  要塞司令部は本「トンネル」内に在るものの如し


 軍砲兵隊はバターン要塞より「マニラ」湾口の「コ」島要塞等の砲撃準備を進め、十八日には移動陣地構築を完了していた。そして、十九日以降、試射も含め射撃を開始した。そして二十四日から二十九日にかけて本格的に重砲を以てする砲撃を開始した。

 第二十二飛行団も戦闘計画により、二十九日から本格的爆撃を開始した。

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