第二九話 第二次バターン攻撃計画

 第十四軍司令部の参謀は十名だったのが七名に削減されて補充もなかった。その上で増加兵力、作戦資材が徐々に増加しつつあり、司令部内は多忙を極めてきた。特に作戦を遂行するに牧作戦主任参謀が転出で後任は不在というのが問題であった。

 代わりを務める佐藤参謀はデング熱でやられ病床に伏していた。情報参謀を務める中島中佐がその役目を果たすことになった。中島中佐は作戦計画の立案にとりかかった。中佐は作戦要務令に精通しており、見事に作戦計画を作り上げた。


 第四師団の編入は紹介したが、永野部隊(第二十一師団・永野少将指揮の歩兵一個連隊基幹)は、馬公から比島へ転進し、二月十日に第十四軍の指揮下に入った。ボルネオ攻略に当たっていた川口支隊長は左記部隊を率いて三月十五日付にて第十四軍の指揮下に入った。


  歩兵第三十五旅団司令部

  歩兵第百二十四連隊

  野戦重砲兵第二十一大隊の一中隊

  独立工兵第二十六連隊の一中隊(二小隊欠)


 永野部隊の歩兵一個連隊は第六十二連隊(富山)である。川口支隊は後にガ島へ転進となる部隊である。


 砲兵隊も有力な砲兵部隊の派遣が決まった。

 

 第一砲兵司令部

 砲兵情報第五連隊

 独立臼砲第二大隊(十五糎臼砲一二門)

 同 第十四大隊(九八式三十三糎臼砲一二門)

 追撃第三大隊

 第一手押軽便鉄道隊

 陸上勤務第百一中隊

 第百十六兵站病院


 心強いのは軍砲兵司令官には北島驥子雄きねお中将が任命されたことだった。北島中将は重砲兵の第一人者だったからである。


 また、十四軍隷下部隊に対する補充兵も、第六十五旅団が三月一日から四日にかけて、第十六師団が八日、九日にかけてリンガエン湾に上陸して配属となった。

 また補給物資も続々と届けられていた。三月十四日に纏められた弾薬整備表によると、三八式小銃実包が約一千万発、九二式重機普通実包が六百六十万発、八九式重擲弾筒榴弾が二十万発、九二式歩兵砲榴弾が五万三千発、九四式三七糎砲弾各種十万七千発、四一式山砲弾各種計二万四千発、九四式山砲弾各種五万七千発、改造三八式野砲弾各種十三万二千発、九一式十榴弾三万三千発、九六式一五榴弾二万六千発、四五式二十四榴弾二百発、九二式十加納砲弾各種一万一千発、八九式十五加納砲砲弾各種一万八百発、九八式臼砲榴弾四九〇発、戦車用三十七ミリ、五十七ミリ砲弾各種七万七千発も備蓄されたのである。


 軍は三月四日新計画を実施するにあたり命令と下した。

渡集作命甲第三一九号

   第十四軍命令  三月四日 二三〇〇

           サンフェルナンド

一、敵情別紙情報記録第十四号の如し

二、軍は「バタン」半島及「コレヒドール」要塞に蟠踞する敵を殲滅する目的を

 以て近く攻撃を再興し先づ主力を以て「バンチンガン」川付近より「サマッ

 ト」山東麓に亘る敵陣地の攻略を企図す

  之が為逐次第一線を推進し攻撃を準備すると共に本攻撃に先立ち一部を以て

 主として「バンチンガン」川以西地区の敵陣地の一部を奪取し本攻撃を容易な

 らしめんとす

  一部の攻撃開始をX日頃本攻撃の開始をX+五日頃と予定す

三、第十六師団は三月十日より行動を開始し遅くも十五日迄に其第一線を以て

 「バガック」川北側「バランガ」「バガック」間分水嶺付近に進出し攻撃の目

 的を以て前面の敵情地形を捜索すべし

  特に第六十五旅団の右翼と連繫すべし

  又右に伴い「バタアン」半島東海岸方面より師団進出線に通ずる後方連絡線

 を速に整備すべし

四、第六十五旅団は三月十日より行動を開始し遅くも十五日までには其第一線を

 以て概ね「マルヂカ」川両側台端の線に進出し攻撃の目的を以て「バンチンガ

 ン」川両側台上の敵情地形を捜索すべし

  特に第十六師団の左翼と連繫すべし

五、永野支隊(第二十一師団の一部)は三月十日より行動を開始し遅くも十五日

 迄に一部を以て「アボアボ」付近より「ニューマルヤ」付近を経て「ピラー

 ル」付近に亘る線に進出し当面の敵情地形を捜索すると共に軍の左翼を警戒す

 べし

  支隊主力は現在地にありて攻撃の為訓練を行うべし

  訓練の細部に関しては軍参謀長をして指示せしむ

六、第四師団は主力を以て依然渡集作命甲第三〇九号に基く訓練を実施すべし

七、作戦地域の境界左の如し

   第十六師団

          縦座標八一八・三の線

   第六十五旅団

          縦座標八二三の線

   永野支隊

八、軍砲兵隊は第一線兵団の推進に伴い要すれば一部の陣地を推進し敵情捜索に

 任ずると共に所要に応じ第六十五旅団及永野支隊に協力すべし

九、各部隊は推進に方り特に企図の秘匿に留意すべし

十、軍飛行隊は主として整備を実施すると共に一部を以て地上協力に任ぜしめ特

 に「サマット」山北側及「カボット」台上の敵陣地を偵察すべし

十一、予は「サンフェルナンド」に在り三月中旬「オラニ」に推進の予定


 三月十八日、第十四軍の第二期作戦計画が立案された。


  第二期作戦計画

   第一 作戦方針

一、軍は海軍と協同し増加兵力及資材大部の集結を待ち主力を以て「バタン」半

 島及「マニラ」湾口要塞の攻略を再興し同地に蟠踞する敵軍主力を撃滅す

二、右に策応し一部の増加兵力を以て先づ「ビサヤ」諸島次で「ミンダナオ」島

 各要域を攻略す

   第二 作戦指導要領

一、「バターン」半島及「マニラ」湾口要塞に対する攻撃再興期日を三月下旬乃

 至四月上旬と予定す

二、主力を以て「バターン」半島敵第一線陣地帯の攻略に一部を以て「ビサヤ」

 諸島及「ミンダナオ」島の攻略に指向し攻撃開始時機を努めて近からしめ以て

 敵軍首脳に与うる打撃を大ならしむ又別に同時期航空重爆戦隊主力を以て直接

 「コレヒドール」島要塞を爆砕す

三、「バターン」半島攻撃は十分なる攻撃準備を整えたる後歩砲飛の密接なる協

 同の下正面を限定し縦長を大にし逐次拠点攻略の方式に依り穿貫せんかん

 的に敵陣地を突破し先づ其の第一陣地帯を攻略す

 攻撃の重点をS山付近を経て其の東南方に指向す

四、第一陣地帯を奪取せば更に態勢を整え后方連絡線を確保し攻撃準備を整えた

 る后第二陣地帯を攻略す 主攻正面は「マリべレス」以東地区とす 攻撃の重

 点は状況に依り定むるL山付近と予定す

 状況に依り一部新鋭兵力を以て敵の後退に尾し海岸道方面より一拠敵第二陣地

 帯を突破せしむることあり

五、第二陣地帯攻略後「マリべレス」に向う攻撃要領は当時の状況に依り之を定

 む

六、「コレヒドール」島要塞に対する攻撃は「バターン」半島攻略後所要の準備

 を整えたる後之を行う

七、前記作戦は呼応し海軍と協同し陸海両正面の封鎖を強化し「バターン」半島

 及「マニラ」湾要塞に対する敵の後方補給路を完全に遮断するに努む

八、呂宋島内の治安維持は要点に徹底し前記作戦絡結迄最小限の兵力に止むるも

 のとす

九、南方軍より新に増加せられたる兵力を以てする「ビサヤ」諸島及「ミンダナ

 オ」島の攻略作戦期日は為し得る限り軍主力の攻撃期日に策応せしめ敵軍首脳

 に与うる打撃を大ならしむ

   第三 兵団の部署及行動

一、「バターン」半島方面作戦

⑴第十六師団第六十五旅団及永野支隊の一部は三月十日行動を開始し遅くも三月

 十五日迄に概ね其第一線を「バガック」「テイアベ」「タリサイ」河北岸地区

 に推進し敵情地形を捜索せしめ第四師団及永野支隊主力は「ナチブ」山東麓地

 区に於て主として訓練を実施せしむ

 第一線兵団の作戦地境を左の如く定む

  第十六師団

        縦座標八一八・三

  第六十五旅団

        縦座標八二二・〇

  第四師団の一部

        縦座標八二七・〇

  永野支隊一部

 又此の間逐次到着する増加兵力資材の戦場推進を迅速にならしむ

⑵三月三十日頃迄の間に第十六師団第六十五旅団第四師団は夫々其の第一線位置

 に展開し攻撃を準備せしむ但第十六師団は陽攻準備とす

 軍砲兵隊は所要に応じ陣地を推進し攻撃準備に遺憾無からしむ

 軍隊区分を予定すること別紙第一の如し

作戦地境を左の如く変更す

  第十六師団

           縦座標八一九・〇

  第六十五旅団   

           縦座標八二二・〇

  第四師団    

           縦座標八二七・〇

  永野支隊一部

 永野支隊主力は一部を以て軍の左翼を警戒せしめ主力は「アブカイ」付近に集

 結し軍予備たらしむ

⑶第十六師団はX日頃前面の敵陣地に対し主として火力を以てする陽攻を開始し

 て当面の敵を牽制せしめ次で第六十五旅団及第四師団を以てX日+三日より本

 攻撃を開始せしむ 但し「パンチンガン」河以西に於ては第六十五旅団の一部

 をして之に先じ適時一部の攻撃を行わしむ

 攻撃の重点を第四師団右翼正面とす

 軍砲兵隊はX日+三日以降其全火力を第六十五旅団第四師団正面に集中し以て

 攻撃重点正面の敵陣地を覆滅す

 軍飛行隊は軍偵・軽爆の主力及重爆の主力を以てX日乃至X+二日頃主として

 第十六師団正面の、X+三日頃以降主として第六十五旅団、第四師団正面の敵

 陣地を爆砕震憾し我攻撃を容易ならしむ

 別に重爆の主力は総攻撃開始前約一週間海軍と協同し「コレヒドール」及敵後

 方施設を爆砕震憾す

 X日を三月三十一日と予定す

 敵第一線陣地隊攻略所要日数を約十日と予定す

⑷第一線兵団敵第一線陣地帯を突破せば概ね別図第一に示す地線に進出し当面の

 敵情地形を速に捜索すると共に態勢を整え後方連絡線を確保し砲兵陣地を推進

 する等万般の攻撃準備を整う

 此際特に主力方面に在りては戦果を「カポット」南方台上に拡張し以て東海岸

 方面敵第一線陣地を全面的に崩潰せしむるに努む

 敵若し其第一線陣地より潰乱して退却するが如き状況に在りては永野支隊を機

 を失せず東海岸道より急追せしめ敵をして「リマイ」付近第二陣地帯に拠らし

 むること無く戦局を一挙に決せしむ

 第十六師団はX+三日以降現態勢を保持し情況の推移に応ぜしむ

⑸推進準備の進捗に伴い第六十五旅団、第四師団両兵団は逐次敵第二陣地帯に近

 く其位置を推進す

 攻撃の重点をL山方向に予定するも状況に依り「マリべレス」山頂北側地区に

 指向することあり前者の場合に在りては第六十五旅団をしてS山西方稜線を直

 路「マリべレス」山頂北側に向わしむると共に第四師団及永野支隊を以て概ね

 CD自動車路に沿いL山方向の敵陣地を攻撃せしむ

 第十六師団は一部を「バガック」北方地区に残置して「モロン」方面を掩護せ

 しめ主力を「リアング」東北地区に集結し軍予備たらしむ

 右残置兵力は第十六師団第一線進出に方り適宜他兵団の部隊と交代せしめ之を

 師団に追及せしむ

 状況特に第一線陣地奪取の景況に依りては之が主力を転用すること無く一一三

 五・九高地方向に向い攻撃前進せしめ第六十五旅団と策応し「マリべレス」山

 頂要点を奪取せしむることあり

⑹敵第二陣地帯に対する攻撃準備及攻撃実行の細部に関しては追て之を定む

二、「マニラ」湾口要塞方面作戦

⑴「カラバオ」「フライレ」両島の攻略を延期し単に砲撃のみに止む

⑵「マラゴンドン」西方山地に展開せる早川砲兵隊をして成るべく速かに「カラ

 バオ」「フライレ」両島要塞に対する破壊射撃を行わしめ両要塞の機能を徹底

 的に覆滅す

 右終了後早川砲兵隊は一部(十五加二門又は十加一中)を残置し湾口を監視せ

 しめ主力を「バタン」半島方面に転進せしむ

 右砲兵中攻城砲兵主力の使用は第二陣地帯の攻略以後と予定す

⑶「カラバオ」「フライレ」両島攻略に予定しありたる歩兵第三十三連隊主力は

 速かに原所属に復帰せしむ

三、輸送路封鎖作戦

⑴海軍と密接に協同し即時「バターン」半島及「マニラ」湾口要塞に対する敵補

 給路を完全遮断に努む

 之が遮断の重点を「ビサヤ」諸島方面よりする外海よりの補給と「マニラ」湾

 北岸湿地帯よりする内湾よりの補給に置く

⑵独立工兵第三中隊「マニラ」防衛司令部捜索第十六連隊及第四十四碇泊場司令

 部をして「マニラ」湾内部及呂宋島南部よりする敵補給路を陸上及水上より遮

 断せしむ

⑶独工二十一連隊をして海軍と協同し「マニラ」湾海上に於て第三海上輸送監視

 隊をして「スビック」湾及「バターン」半島西海岸方面に於て第四十四碇泊場

 司令部をして海軍に協力し「ベルデ」海峡方面に於て夫々海上輸送を遮断し利

 敵人員船舶を覆滅せしむ

⑷又封鎖強化後及「ビサヤ」作戦準備の目的を以て成るべく速かに第四十四碇泊

 場司令部をして「ミンドロ」島「サンホセ」付近を占領せしむ

四、治安及警備

⑴呂宋島内治安は主として兵站部隊鉄道隊及捜索連隊を主体とし之を担任せしむ

 之が為北部呂宋地区は第六十三兵站地区隊(半部欠)及第五十二碇泊場司令部

 中部呂宋地区は呂宋兵站司令部南部呂宋及「ミンドロ」島地区は第六十三兵站

 地区隊半部及第四十四碇泊場司令部をして担任せしむ

 北部呂宋地区に在る第六十五旅団一部其の主力を原所属に復帰せしむ

⑵警備は要点に徹底し特に後方重要兵站線は之が確保するに努むるものとす

 特に「タモルテス」ー「タルラック」ー「サンフェルナンド」ー「バターン」

 半島及「サンフェルナンド」ー「マニラ」線は之を確保す

 又状況之を許す限り一部を以て「マンカノヤン」「マンブラオ」「サンタクル

 ーズ」等資源地域を確保するに努む

⑶「マニラ」市の治安は捜索第四連隊歩兵第三十七連隊の一大隊、野砲兵第二十

 二連隊の約一大隊を主体とし之に航空地区隊兵站諸部隊の一部を加え以て治安

 警備に任ぜしむ

⑷「マニラ」東方山地「カバナツアン」東北地区及「カガヤン」河谷方面の敵に

 対しては最小限の兵力を之に充て本格的粛清は「バターン」半島及「コレヒド

 ール」要塞攻略戦終了後に於て之に着手す

五、島内作戦

⑴河村支隊(5d)及川口支隊(18d)を以てする「ビサンヤ」諸島及「ミンダナ

 オ」島に対する攻略作戦実施の要領に就きては別途計画す

(註・十四軍の綴にはスペイン語の「コレヒドール」ではなく英語読「コレキド

 ール」となっているが、一般通用として「コレヒドール」と改めます)


  軍隊区分

 第十六師団

   配属部隊

    戦車第七連隊の一中隊

    野戦重砲兵第一連隊の一中隊

    独立臼砲第十四大隊の一中隊

    独立無線第五十四小隊(二分の一欠)

    独立輜重兵第五十一中隊

    陸上勤務第百二十四中隊の一小隊

    患者輸送第五十四小隊

 第六十五旅団

   配属部隊

    独立速射砲第三中隊

    戦車第七連隊の一中隊

    独立山砲兵第三連隊(一大隊欠)

    独立臼砲第十四大隊(一中隊欠)

    追撃第三大隊の一中隊

    独立工兵第二十三連隊の一中隊

    軍通信隊の無線一小隊(二分の一欠)

    臨時駄馬中隊

    陸上勤務第百十中隊の一小隊と一分隊

    第六十三兵站地区隊勤務中隊の一部

    患者輸送第五十三小隊

 第四師団

   配属部隊

    速射砲第九中隊

    戦車第七連隊(二中隊欠)

    独立山砲兵第三連隊の一大隊

    独立臼砲第二大隊

    独立臼砲第十五大隊

    迫撃第三大隊(一中隊欠)

    独立工兵第二十三連隊

    軍通信隊の無線一小隊(二分の一欠)

    第六十三兵站地区隊勤務中隊の一部

    第二十五野戦防疫給水部の二分隊

 永野支隊

    歩兵第二十一旅団司令部

    歩兵第六十二連隊

    山砲兵第五十一連隊第三大隊

    工兵第二十一連隊(第二中隊欠)

    第二十一師団通信隊の無線三分隊

    第二十一師団衛生隊の三分の一

    第十六師団第二野戦病院の約半部

    軍通信隊の無線一小隊(二分の一欠)

    第二十五野戦防疫給水部の一分隊

 軍砲兵隊

    第一砲兵司令部

    野戦重砲兵第一連隊(一中隊欠)

    野戦重砲兵第八連隊(一中隊欠)

    独立重砲兵第九大隊

    重砲兵第一連隊(第三牽引自動車隊を属す)

    気球第一中隊

    砲兵情報第五連隊

 軍飛行隊

    第十独立飛行隊本部

    独立飛行第五十二中隊(軍偵)

    独立飛行第七十四中隊(直協)

    独立飛行第七十六中隊(司偵)

    飛行第五十戦隊第三中隊(戦闘)

    飛行第十六戦隊(軽爆)

    飛行第六十戦隊(重爆)

    飛行第六十二戦隊(重爆)

「JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14020496200、第2期作戦計画(案)(防衛省防衛研究所)」


 軍司令部は、作戦計画の練り直しについて情報収集に努め、捕虜の尋問、飛行偵察、各兵団の捜索内容について検討を加えて第二次作戦計画を立案したのであった。この間で有力な情報はマッカーサー司令官が側近らと脱出して濠州に逃走したということで、後任はウエーンライト少将が務めた。

 マッカーサー脱出の件は後に記したい。


 軍の作戦計画は策定されたが、一番問題となったのは、攻撃開始時期であった。開始時期は三月下旬から四月上旬に予定された。最初の案では三月下旬であったが、四月上旬まで範囲を広げたのであったが、実際に準備期間に入りその日程は四月二日ないし三日と予定され、最後には三日と正式決定した。四月三日は神武天皇祭であり、ちょうど縁起の良い日であった。神武天皇祭とは神武天皇が崩御された日であるが、天皇の偉業を讃え奉る祭典の日である。橿原神宮では毎年「神武祭」が開催されている。

 そして、軍は三月二十二日、バターン半島の攻撃計画を発表した。

  第十四軍「バタン」半島陣地攻撃計画の大綱

          昭和一七、三、二二 サンフェルナンド

     方 針

軍は歩砲飛の密接なる協同の下に正面を限定し縦長を大にし逐次拠点攻略の方式に依り穿貫的に敵陣地を突破し「バタン」半島の敵野戦軍を殲滅す攻撃開始の時機は四月上旬とし攻撃の重点を第四師団右翼正面に保持し「サマット」山付近を経て其の東南方に指向す

     指導要領

一、軍は主力を以て三月末日頃迄に攻撃準備の線を概ね「テイアベル」川「タリ

 サイ」川の線に推進すると共に一部を以てバタン半島西半部地区に行動し該方

 面に敵を牽制せしむ

 此の間軍飛行隊は海軍と協同し「コレヒドール」島及敵後方施設を爆砕し且敵

 砲兵を制圧せしむ又攻撃準備の末期より敵の第一陣地帯を爆撃して敵の志気を

 沮喪せしむ

二、軍主力方面に於ては「テイクパ」川「パンテインガン」川の合流点付近より

 「サマット」山麓に亘る敵陣地に対し四月上旬攻撃を開始し第一陣地帯を突破

 して先づ「サマット」山南麓東西の線に進出す 第一線兵団は当面の敵情を捜

 索すると共に態勢を整え後方連絡線を確保し砲兵を招致する等第二陣地帯への

 推進を準備す

 バタン半島西半部方面に行動しある兵団主力は「リアング」西北方地区に之を

 集結し第二線兵団とす

三、「カポット」南方地区の敵陣地に対しては攻撃初期に在りては砲兵火力及爆

 撃に依り制圧するに努むるも状況に依り一部の兵力を以て軍主力の左翼に連繫

 し之を攻撃せしむることあり

四、軍主力は「サマット」山南麓東西の線に態勢を整うるや第二陣地帯に近く進

 出し次で第二線兵団を加えて攻撃を準備し第二陣地帯を突破す 攻撃の重点は

 状況に依り定まるも「リマイ」山東麓地区と予定す

五、第一陣地帯の敵全線を挙げて潰乱する如き状況に在りては軍主力の進出線を

 統制することなく敵をして第二陣地帯に拠り得ざる如く追撃す 此際一部を以

 て海岸道方面より「リマイ」方向に突進せしめ敵の退路を遮断せしむることあ

 り

六、第二陣地帯突破後に於ける軍の行動は状況に依り定む

   戦闘各期に於ける兵団の部署及行動

攻撃準備間

一、第十六師団は三月三十一日より当面の敵陣地に対し主として火力を以てする

 陽攻を行い敵をバタン西海岸方面に牽制し軍主力の作戦を容易ならしむ

二、第六十五旅団は四月一日迄に「ティアベル」川左岸台端付近の攻撃準備の位

 置に就き「サマット」山西北麓の敵陣地に対し攻撃を準備す

三、第四師団は四月一日迄に第六十五旅団に連繫し「ティアベル」川左岸台端付

 近の攻撃準備の位置に就き「カルノ」川左岸高地及「サマット」山北麓の敵陣

 地に対し攻撃を準備す

四、永野支隊の一部は三月三十一日頃第四師団左翼に連繫し「コロニュサン」川

 の線に進出し軍の左翼を警戒す

 永野支隊主力は同日頃迄に「アブカイ」付近に集結し軍予備隊となる

五、第一陣地帯突破迄の作戦地境を左の如く定む

    第十六師団

                 ×八一九の線

    第六十五旅団    「カピタン」ー(X八二一・五ー

          Y一八六九)ーX八二二ーY一八六七)

          ーX八二二の線

     第四師団

                X八二七の線

     永野支隊の一部

六、軍砲兵隊は軍主力方面に於ける第一線兵団の攻撃準備に協力し特に之を妨害

 する敵砲兵を求めて制圧撲滅すると共に四月二日迄に主力を以てバランガ西方

 よりナチブ山東南麓に亘る地区に展開し軍主力の攻撃に協力する如く準備す

七、軍飛行隊は重爆の主力を以て三月二十四日以降約一週間海軍と協同して「コ

 レヒドール」及敵後方施設を爆砕震撼す 又所要の兵力を以て敵情の捜索に任

 ずると共に敵戦力要素の破壊特に我が第一線兵団の行動を妨害する敵砲兵を制

 圧す

八、軍隊区分別紙の如し(省略)

   第一陣地帯の突破

一、第六十五旅団は四月二日夜「ティアベル」川河谷の敵を駆逐して四月三日朝

 迄に「ティアベル」川右岸台端に確乎たる地歩を獲得し四日より攻撃を続行し

 「パンテインガン」川右岸台上より先づ「サマット」山西南側地区に進出し爾

 後態勢を整え「マリべレス」山方向に向う前進を準備す

二、第四師団は当初重点を右翼方面に保持し第六十五旅団に連繫して「カルノ」

 川右岸高地及「サマット」山北麓陣地を攻略せしめ先づ「サマット」山東南麓

 付近に進出す 午後「カポット」南方の敵に対し戦果を拡張すると共に態勢を

 整えCD自動車道に沿い「ママラ」川右岸台地への進出を準備す

三、第十六師団は軍主力の攻撃進捗に伴い一部を「バガック」北方地区に残置し

 て「モロン」方面を掩護せしめ主力を以て「リアング」西北方地区に集結し第

 二線兵団たらしむ

 転進開始の時機は四月八日と予定す

四、永野支隊は前任務を続行す 第四師団の作戦進捗に伴い軍主力の左翼方面よ

 り戦果を拡張せしむることあるを予期す

五、軍砲兵指揮官は主力を以て第四師団及第六十五旅団の攻撃に直接協力すると

 共に一部を以て対砲兵戦を続行せしむ

 軍主力の突破進捗に伴い所要の兵力を第四師団に配属し且陣地を逐次前方に推

 進す

六、軍飛行隊は砲兵射撃に連繋し主力を以て第六十五旅団及第四師団正面の敵陣

 地を爆撃震撼す 又両兵団の攻撃進捗に応じ密に協力して敵第一線を爆撃し且

 一部兵力を以て活動する敵砲兵を制圧す

七、軍飛行隊及軍砲兵隊の対砲兵戦に関する戦斗区域を左の如く定む

    軍砲兵隊   Y一八五九以北の地区

    軍飛行隊   Y一八六三以南の地区

  「サマット」山南麓東西の線より第二陣地帯への推進

一、第六十五旅団は「マリべレス」山北麓三叉路付近の要点を確保し為し得れば一部を以て「マリべレス」山頂を占領す

二、第四師団は「パンダン」△一四二一・〇一の線に予想する敵陣地を突破し

 「ママラ」川左岸台端に進出し攻撃を準備す

 第十六師団の進出と共にC道を開放し背後連絡線をD道とす

三、第十六師団は概ね第四師団前進開始の時機に行動を開始しC道を前進して

 「ママラ」川の線に進出し第二陣地帯に対する攻撃を準備す

 「バガック」北方地区に残置せる部隊は之を原所属に復帰せしむるに勉む

 第十六師団方面に重点を保持す

四、永野支隊は第四師団の左翼に連繋し「ママラ」川左岸台地に進出し第二陣地

 帯に対する攻撃を準備す

五、第一線兵団の状態を考慮し所要に兵力を抽出して之を軍予備隊とすると共に

 四月上旬上陸する第十独立守備隊の二ケ大隊を「サンフェルナンド」付近に集

 結す

六、作戦地境は当時の状況に依り之を定む

七、軍砲兵隊は成るべく多くの兵力を「サマット」山東麓地区に推進し第四師団

 に直接協力すると共に一部を以て敵砲兵を制圧し第二陣地帯に対する攻撃を準

 備す

八、軍飛行隊は敵をして第二陣地帯に拠り得ざる如く第二陣地帯要部を爆撃する

 と共に第四師団当面の敵及敵砲兵を爆撃す

  第二陣地帯に対する攻撃及戦果の拡張

一、第十六、第四師団及永野支隊は第二陣地帯を突破し以後「マリべレス」方向

 に追撃せしむ

二、第二陣地帯に対する攻撃の重点は「リマイ」山東麓地区に指向す

三、其の他の事項は当時の状況に依り之を定む

「JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14020496900、第14軍「バタン」半島陣地攻撃計画の大綱 昭和17年3月22日(防衛省防衛研究所)」


 十四軍はバターン半島の攻略所要期間は約一ヶ月間とし、第一陣地帯突破の予定所要期間を六日間とした。

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