第十六話 木村支隊レガスピーから西へ
レガスピーを占領確保した木村支隊は、「ダラガ」目指して進撃し、十一日にダラガの敵兵営に達したが、敵は退却して空であった。
十三日〇九〇〇第三十三連隊鈴木大佐が木村支隊長命令により新たな命令を下達した。
鈴作命甲第六号
歩兵第三十三連隊命令 十二月十三日〇九〇〇
ダ ラ ガ
一、「レガスピー」及「ダラガ」には全く敵影を認めざるも「ソルソゴン」付近
には有力なる海岸警備隊及憲兵隊あるものの如く又「ナガ」付近にも若干の軍
隊及憲兵隊あり
支隊は「レガスピー」及「ダラガ」に兵力を集結し海軍航空基地整備に協力
すると共に「ソルソゴン」及「ナガ」方面の敵情を捜索し爾後の作戦を準備す
右側支隊は依然「スロク」に位置し「タバコ」方向の敵情を捜索す
挺身隊は依然「カクアグナン」を守備し「ナガ」方向の敵情を捜索す
「アルバイ」飛行場は海軍陸戦隊之を守備す
二、歩兵第三十三連隊は歩兵隊となり「レガスピー」及「ダラガ」付近を守備す
ると共に主として「ソルソゴン」方面の敵情を捜索し同地の粛清に任ぜんとす
三、第二大隊は「レガスピー」付近に兵力を集結し主として南方に対し警戒すべ
し
又其の一小隊を「レガスピー」港に位置せしめ兵站司令部新納中佐の区処を受
けしむべし
四、第三大隊は「ダラガ」付近に兵力を集結し主として南方及西方に対し警戒す
べし
又明十四日主力を以て自動車部隊を編成し「ソルソゴン」方面に出動し敵情捜
索 金融其の他政府機関の接収及自動車燃料其の他資材の押収竝に比島民の宣
撫工作及海底無線の調査に任ずべし
歩兵団司令部より所要の自動車部隊を配属せしめらるる筈細部に関しては別に
指示す
五、両大隊の捜索警戒地境は「アルバイ」東端を南北に連ぬる線とす
六、第十一中隊は軍旗中隊とす
「ダラガ」旧兵営に位置すべし
七、通信隊は連隊本部と歩兵団司令部右側支隊挺身隊兵站司令部間の通信に任ず
べし
又勉めて既設線の利用に勉むべし
八、予は「ダラガ」旧兵営北端 憲兵隊兵舎に在り
歩兵第三十三連隊長 鈴木大佐
十四日木村支隊長は新たに命令を下し、それに伴い鈴木連隊長は命令を下した。
右側支隊長の峯岸中尉には「タバコ」方面の敵情捜索を命じ、そのために自動車四両を峯岸支隊を輸送し、「タバコ」方面に向かわせた。
第二大隊は二四〇〇時「ナガ」に向け前進を開始。第三大隊は〇五〇〇「ソルソゴン」に向け前進を開始した。
第二大隊の安田少佐は次の報告を送った。
報 告 安田少佐
一、大隊の行動を報告する為十四日〇八〇〇より無線通信を開始せるに不通にし
て止む得ず飛行機を以て報告せり
二、戦闘経過
自動車中隊より配属自動車は故障頻発し払暁迄の行軍は無燈行軍なりし為特
に甚だし
予定の時間に到着し得ず
〇九五五「ナガ」を占領せり
三、「ナガ」付近の敵情及状況左の如し
1、退却せる敵は「ナガ」より「ブマナン」を経て「ルセナ」に遁走せるもの
の如く其の兵力少くも二万人を降らずと(日本人会長の言)
2、カマリネ州山岳地帯は「ネグリスト」ー「ルセナ」道は未完成にして自動
車を通ぜず 本年三月完成の予定なりしも基礎工事のみ
3、「シポコット」ー「タバタス」間は道路なし
4、「ナガ」より「マニラ」に前進せんとせば現在の処鉄道に依るか或は一部
舟筏に依るの外なし
5、「シポコット」ー「ダエー」道は良好にして北方海岸線には米国人経営の
鉱山(金鉄銅マンガン)多数あり
6、「ダエト」「パラカル」「シオセバガニパン」には多数の在留邦人監禁せ
られあり(以上確度甲)
四、判決
「レガスピー」より「マニラ」に行かんとすれば鉄道に依るか或は海岸線を利
用するのみなり
「ナガ」占領後に於ける状況左の如し
⑴ 〇六三〇「イリガ」にて米国人経営自動車会社を襲撃し乗用車自動貨車二
十数輌を押収「ガソリン」相当多量
⑵ 「ナガ」には主要物左の如し
1、ガソリン 二〇〇〇ガロン以上(政府命令にて爆破せらる予定のもの
を確保)
2、米 白米少量
籾 二万袋以上(概数)
3、重油 ドラム缶 六〇缶以上
4、発電所及銀行の確保
5、元県知事現衆議院議員等有力者(何れも親日家)に対し聖戦の真意を説
諭し協力を要望せり
6、軍隊進入と共に市民約三千中央広場に群集し万歳を叫び他に見ざる壮観
を呈せり
但し多数の不偵分子潜在しあるを認め宣撫工作に特に留意しあり
7、在留邦人の監禁せられある者六十余名狂喜し之を解放軍に絶大の協力を
なしあり
結論
後続部隊来着迄一兵も残置せずして前進する時は多数の押収物資は或は爆破せられ又散逸すべし
一、「シポコット」付近には本日密偵を以て捜索せしに敵兵なきものの如し
二、「ビコール」河渡船所材料敵手に依り破壊せられ明十五日□部及工兵をし
て偵察せしむると共に渡河材料を蒐集せんと企図しあり
三、鉄道に沿う地区は徒歩兵の外通過を許さざる状況なり
判決
挺身隊は渡河準備完了を待ち「シポコット」に前進するの要あるを認む
然れ共「マニラ」平地に進出は陸上交通前述の如く不通の状況にあり(日本人
及「ナガ」有力者の言確度甲)
峯岸隊、第三大隊は現地到着し付近の捜索をしたが、敵兵は見当たらず「ダラガ」に帰還した。
十六日、木村支隊長は「ルセナ」付近に有力なる敵が存在する情報を得て、第二大隊(安田隊)に対し敵情を捜索するよう命じた。木村支隊長は、南部地区の掃蕩を終え敵兵が存在しないことを確認し、ラモン湾上陸戦に策応するために西上することを命じた。
先遣隊は「ビコール」河の橋梁が破壊されたいたためその修復のために半日ほど足止めをしてしまった。
十七日連隊長は〇九三〇に「ナガ」に達して第二大隊長に合し、命令を伝えた。
「第二大隊は隷下に復帰し、即刻シポコットに前進し、前進路の偵察に任じ、爾後の前進を準備すべし」
第二大隊は小田小隊をナガに警備に残し配属された第九中隊を併せ指揮して一七一〇に出発して「ビコール」河を渡河して二三三〇にシポコットに到着した。第二大隊はビコール河の渡河は船はほとんど破壊され使用できないため、舟筏を蒐集して渡河準備をしたが、その苦心は大変なものであった。
マングラオという町より来た住民からの情報で、この先の
「マングラオ」に米の兵舎があり、五十名程が駐屯しているとのことであった。が、それ以外の敵情については何も得られなかった。
十八日第二大隊は引き続きこの先の「ロペス」に向い前進を開始した。この日木村支隊長は「ナガ」に到着。工兵隊の努力により、車両以外は渡河を完了し、車両関係の渡河を完了させその集結を待って前進する準備をした。
第二大隊の尖兵中隊は十九日朝「ダエト」に入り、後方の工兵隊は道路の補修の任務を遂行しつつあったが、道路の補修完成には三、四日かかる見込みであった。
為に自動車での前進は早急に困難で在り、徒歩部隊を以て前進することが主力となった。
第二大隊との無線連絡が不通となっていた。先遣隊である第二大隊との無線連絡が途絶えたことは、前線の情報が入らず、作戦の遂行に支障をきたしていた。無線機の調子がよほど悪かったのであろう。二十日になっても連絡はつかない状況が続いた。
連隊本部は工兵隊により橋梁修理の完成を待っていた。
二十一日、ようやく第二大隊との連絡があり、尖兵中隊の第七中隊が二十日深夜「ラボ」に進入したとの報告であった。
そして一四〇〇には第二大隊より連絡将校が連隊本部に到着し、第七中隊の戦闘の模様と、第二大隊の状況を報告した。
二十三日の第二大隊の戦闘概要報告
鈴報告第四七号 十二月二十三日一二〇〇 ラボ
一、第二大隊主力戦闘の概要
1 第五中隊第一小隊は昨二十二日二二〇〇マラタグ東方を前進中敵銃撃数発を聞き警戒しつつ更に前進し同地橋梁に於て敵約三十名と交戦直ちに小隊は展開し攻撃之を撃退前進中
2 敵の兵力土民軍約三十名と判断す
3 第五中隊の損害
峯岸中尉以下五名戦傷
鈴報告第四九号 十二月二十三日一九三〇 タラボチブ
一 昨二十二日夜第五中隊と交戦したる敵は比島第五軍管区歩兵第五十二連隊第
一戦闘部隊約三〇名にしてMG一を有す
敵の遺棄死体 一
小 銃 一
銃 剣 六
爆 薬 三箱
二 敵情判断
「ダバヤス」付近に集結せし敵の一部は支隊前進を妨害する「ダエト」平地に
在る一部の者と合統し逐次山地道の諸橋梁を破壊しつつ退却しあるものの如し
其の兵力約一〇〇名にして無線器及機関銃若干を有するものの如く逐次退却後
土民軍又は土民を唆かし橋梁を破壊するものの如し
負傷した峯岸中尉は野戦病院に収容されたが、傷病内容は
「左上膊骨折貫通銃創兼右膝蓋骨擦過銃創」であった。
そして報告第五四号では
戦死者は第七中隊 田中少尉以下 二十四名
第二機関銃中隊 西少尉以下 六名
負傷者 両中隊を合して十六名に達し、「フラットトップ」に収容した。
二十四日第二大隊本部の岸田曹長が連隊本部へ到着し安田大隊長からの報告をした。
報告 十二月二十四日 〇八〇〇
「ネグリスト」西方六粁
至急 連隊長殿 安田少佐
一、昨二十三日未明より大隊先遣隊たる第七中隊及1|4MG(西少尉)は「マ
ニラ」より道標二九二粁の地点密林隘路内にて敵と遭遇し奮戦力闘夕刻迄交戦
せり
二、敵は少くも三百有余MG四、LG六、自動小銃多数を有するものの如く地
形を利用し頑強に抵抗せり
三、十五噸自動車三(通信車一、発電車一、アンテナ車一)バス二十数量を遺棄
し潰走せるものにして其の収容陣地と判断せらる
四、大隊は交戦状況を昨二十三日一五〇〇頃承知し急遽出発準備を整え急行軍に
より本二十四日〇七〇〇戦場に到着す
五、敵の一部は今尚陣地に現在しあるも大部は自動車に依り退却中なるものの如
し
六、第五中隊及機関銃主力を側方より迂回「ジャングル」地帯攻撃せしめんとし
あり
七、第七中隊の状況
中隊長は戦闘開始と共に主力(一小)を以て右側高地より迂回攻撃前進せしも
未だ連絡なく状況不明なり
八、「ジャングル」内に於ける軽傷者は逐次道路上に夜明集合せしも戦死者重傷
者は目下捜索中なり
九、戦死と判明せるもの
幹部 2MG 西少尉
七 田中少尉
七 久保准尉
七 東 曹長
兵 MG 分隊 一ケ分隊
七 の戦死者不明 相当多数ある見込み
1、以上の如く多数の幹部及兵以下を死傷せしめ誠に申訳なし
2、大隊は一部を以て追撃せしめ主力を以て現在地を確保し爾後の前進を準備せ
んとす
安田大隊長は連隊長に対し、衛生将校と下士官を派遣してほしいこと、患者後送のための資材と兵員、糧秣の欠乏を訴えている。
鈴木連隊長はすぐさま第三大隊長を呼び、状況を説明して第三大隊の衛生下士官を第二大隊に配属するよう命じた。
三十三連隊は少数の比軍と戦いながら前進をしていくが、連隊にとって一番の損害は二十二日から二十四日にかけての第二大隊の戦闘であった。特に尖兵中隊の第七中隊と第二機関銃中隊が手痛い被害を受けた。
第二野戦病院の業務日誌によると、先発隊は二十七日の二二〇〇時に難行軍の末に「フラットトップ」に到着して病院を開設し負傷者十五名と戦病者一名を収容した。時がかなり経過していたために、創口は化膿していたため繃帯交換を行い、かつ破傷風血清注射などの処置を行なっている。
二十八日、ラモン湾に上陸した第十六師団本部は、松長参謀がレガスピーに上陸した木村支隊とようやく連絡がなり、師団の作戦状況を支隊長、連隊長に説明し、木村支隊はここで十六師団麾下に復帰し、以後の作戦を遂行することになった。
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