第十二話 リンガエン上陸部隊出撃

 開戦から一週間以上が経過し、日本軍の進攻作戦は十分すぎる位順調に進んでいた。マレー作戦は奇襲上陸といえたが、フィリピン作戦は全体の進行具合からいえば、正攻法による作戦といえた。近代戦における航空戦による制空権の確保により、台湾比島間の島嶼を押さえ、南東のレガスピー、南方のダバオを確保し、比島の攻略部隊の輸送船団を安全に護送するという方式であった。


 第十四軍がルソン島の米比軍の情況について知り得た情報は十二月十七日現在次の如くであった。


一、米比軍は主力を中部ルソンに集結し、リンガエン湾に対するわが上陸作戦及

 北部ルソン方面からの増援に備で、一部を南部ルソンの要点に配置して、ラモ

 ン湾からバタンガス湾にわたる南部地区へのわが上陸に備えている。

二、米比軍主力の兵力配置は次の如く

 第十一師団 ダグバン、サンファビアン、ポソルビオ付近

          (リンガエン湾東南岸)

 第二十一師団 リンガエン及タルラック

 第三十一師団 イバ付近

 第七十一師団主力 ストッチェンバーグ付近

          (タルラック南方五〇キロ)

 第九十一師団主力 スビク付近

 駐比米師団  マニラ

三、比島の米空軍は、開戦以来連日にわたるわが航空撃滅戦により、その大部は

 壊滅したが、なお残存兵力(戦闘機約三〇、大型機約一〇)は、わが哨戒の隙

 間に乗じ潜入を企図している模様である。

          (戦史叢書「比島攻略作戦」朝雲新聞社より)


 海軍比島部隊指揮官の高橋中将は、米軍の状況を次のように把握していた。

一、マニラ周辺の航空基地群に配備されていた米航空部隊の大部は既に壊滅し、

 その一部は比島中南部に逃避し、少数機がマニラ周辺に残存しているに過ぎな

 い。

二、米アジア艦隊水上部隊の主力はわが作戦海域に全く出現せず、飛行機の偵察に

 よればマニラ湾方面に駆逐艦以下の小艦艇を数隻認めたに過ぎない。米水上機

 部隊主力はわが索敵圏外のスール海方面または蘭印方面に退避したものと思わ

 れる。

三、開戦前二十数隻と判断された米潜水艦は、比島周辺海域に分散配備している

 模様であるが、開戦後船舶が雷撃を受けたのは、アパリ方面とレガスピー沖で

 各一回に過ぎず、その作戦は一般に低調である。しかし今後米潜水艦は、開戦

 の混乱から立ち直って積極的作戦を推進する公算が多く厳重な対潜警戒を必要

 とする。 

         (戦史叢書「海軍進攻作戦」朝雲新聞社より)


 高橋中将はこれらの情勢から、第十四軍主力のリンガエン湾、ラモン湾への上陸は計画通り、十二月二十二日と二十四日実施することに決した。

 それに伴い、海軍比島部隊の護衛戦力を次のように編制した。


 第三艦隊

  司令長官 中将 高橋伊望

  第十六戦隊 重巡 摩耶、 山陽丸、 讃岐丸

  護衛部隊

   指揮官 第五水雷戦隊司令官 少将 原顕三郎

第一護衛隊

   第五水雷戦隊

    軽巡 名取

    第五駆逐隊 駆逐艦 朝風、春風、松風、旗風

    第二十二駆逐隊 駆逐艦 皐月、水無月、文月、長月

   第十一掃海隊

   第三十掃海隊

  第二護衛隊

   第四水雷戦隊

    軽巡 那珂

    第四駆逐隊 駆逐艦 嵐、萩風、野分、舞風

    第二十四駆逐隊 駆逐艦 海風、山風、江風、涼風

    漁船 五隻

  第三護衛隊

   第二根拠地隊

   駆逐艦 山雲

   水雷艇 燕、鴎

   漁船 五隻

  南比支援隊

   第五戦隊 重巡 妙高、那智、羽黒

   第四航空戦隊

    空母 龍驤 駆逐艦 汐風

   第十一航空戦隊

    水上機母艦 千歳、瑞穂

   掃海艇 第三十八号、第三十九号

   漁船 十五隻

   呉二特別陸戦隊(二コ中隊)

  第四護衛隊

   軽巡 長良

   第一根拠地隊

   第二十四駆逐隊

   第十六駆逐隊第一小隊 駆逐艦 雪風、時津風

   哨戒艇 第一号、第二号

   早鞆

   佐連特別陸戦隊(二コ小隊)


 リンガエン湾に上陸する陸軍部隊は三つのグループに分けられ、馬公、高雄、基隆に集合出港した。

 第一輸送船隊  輸送船 二十四隻

  第一分隊 606はあぶる丸、春光丸、130はあぶる丸、

       長順丸、武洋丸、日明丸

  第二分隊 ぶらじる丸、前橋丸、しどにい丸、

       喜山丸、ぱしふぃっく丸、玄海丸

  第三分隊 但馬丸、北明丸、常盤丸、隆南丸

       天平丸、毘山丸

  第四分隊 えりい丸、武豊丸、津山丸、へいぐ丸

       山菊丸、旺洋丸

  輸送指揮官 歩兵第四十七連隊長 大佐 柳 勇

   第四十八師団

    歩兵第四十七連隊主力

    戦車第四連隊主力

    捜索第四十八連隊 他

   軍直轄部隊の一部

 第二輸送船隊  輸送船 二十八隻

  第五分隊 太山丸、ぜのあ丸、旭光丸、あらすか丸

       帝海丸、ころんびや丸、蓬莱丸

  第六分隊 宝永山、日和丸、対馬丸、麗洋丸、

       香洋丸、あとらす丸、ありぞな丸

  第七分隊 平安丸、はんぶるく丸、宮殿丸、亜丁丸

       乾山丸、あさか丸、薩摩丸

  第八分隊 安洋丸、銀洋丸、梁殿丸、りま丸、

       熱田丸、満屋丸、保津川丸

  輸送指揮官 第四十八師団長 中将 土橋勇逸

   第四十八師団司令部

   第四十八歩兵団司令部

   台湾歩兵第一連隊

   戦車第七連隊

   野戦重砲兵第一連隊

   軍直轄部隊 

    上島支隊(歩兵第九連隊一コ大隊基幹)

 第三輸送戦隊  輸送船 二十一隻

   第九分隊 仁山丸、ひまらや丸、美洋丸、

        甲南丸、桃山丸、民領丸

   第十分隊 楠山丸、もんとりる丸、白鹿丸

         披南丸、高岡丸、北辰丸

   第十一分隊 うえいるす丸、八重丸、打出丸、楽洋丸

   第十二分隊 あるぐん丸、加洲丸、米山丸、

         巴洋丸、民島丸

   輸送指揮官 電信第二連隊長 大佐 山田信一

    第四十八師団

     師団直轄部隊の一部

    軍直轄部隊

     菅野大隊(歩兵第九連隊第三大隊基幹)


 総兵力は人員約三四、二〇〇名、戦車三十三台、火砲七〇〜八〇門に及ぶ。マレー作戦と違い、陸路がないために、全部が輸送船での搬送になることで、七十三隻もの輸送船が必要となった。

 陸海軍協定は十一月三十日に、台湾台南に於いて第四十八師団長土橋中将と護衛部隊指揮官の原少将との間で締結された。


 その中で上陸点については、

  第一輸送船隊は「アゴウ」西方海岸地区

        但し車両類は「アリンガイ」南北海岸地区

  第二輸送船隊は「カバ」南北海岸地区

  第三輸送船隊は「ロングビーチ」地区

 上陸部隊の部署については、

  第一輸送船隊が右翼隊で長は柳勇大佐。

  第二輸送船隊が左翼隊でで長は安部孝一少将。

  第三輸送船隊が左側支隊で長は菅野浄少佐。

  第二輸送船隊の上島支隊(上島良雄大佐)。

 それぞれの行動概要は、

 右翼隊が、「アゴー」に奇襲上陸し爾後主力を以て「アゴー」ー「テロバオ」ー「プゴー」ー「キャンプワン」ー「ボボナン」ー道を「ボボナン」付近、一部を以て「アゴー」ー「ダモルティス」ー「マビリオ」道を「マガ」北方地区に進出し師団主力の集結を掩護す

 左翼隊が、「カバヤ」に奇襲上陸し所在の敵を撃破し爾後は約二分一を基幹とする部隊を以て上陸点を掩護せしめ主力は海道及「アリンガイ」河谷道を併用し「アモリティス」「ロザリオ」間の地区に兵力を集結す

 左側支隊は、上島支隊を引続き上陸し速かに「ナギリアン」飛行場占領し次で「バギオ」に向進撃す

 上島支隊は「ロングビーチ」に奇襲上陸し「サンフェルナンド」を攻略す


 十二月三日、原少将は海軍護衛部隊に対し機密菲島部隊護衛部隊命令第一号を令した。

 その中で各護衛隊に対し

㋑第一護衛隊

 ⑴開戦初頭の急襲作戦後概ねX+七日頃高雄に集合作戦準備を完了しX+一〇

 日午後別紙第一護衛隊要領に依り高雄を出撃爾後第一輸送船隊を護衛し概ね第

 一航路を執りX+十三日〇五〇〇C点付近に達し「リンガエン」湾に入泊す

 ⑵漁船はX+一〇日(時刻後令)高雄発概ね予定航路を警戒航行し所要に応じ

 救難に任じ上陸点に回航す

  名取艦長は指揮官一(准士官以上)及下士官兵一〇名以内をK+九日迄に乗

 船せしむ(携行兵器軽便電信機一基拳銃小銃其他適宜)

㋺第二護衛隊 第三護衛隊

 ⑴別紙第一護衛要領に概ね基き各護衛隊指揮官の定むる所に依り第二護衛隊は

 第二輸送船隊を護衛して馬公を 第三護衛隊は第三輸送船隊を護衛して基隆を

 出撃概ね第一航路を執りX+十三日〇五〇〇C点付近に於て第一護衛隊に合同

 し爾後第一護衛隊に引続き第二、第三護衛隊の順序に「リンガエン」湾に入泊

 す

  C点付近に於ける合同時の占位を左の通とす

  第一護衛隊 ー(5〜7k)第二護衛隊ー(5〜7k)第三護衛隊

 ⑵此の間第三護衛隊は機密菲島部隊命令第一号に基き陸軍輸送船一隻を「アパ

 リ」に護衛し又「バタン」島の2bgを撤収して本隊に合同せしむ

 

 と指示している。


 その後十五日、高橋中将は、第一、第二護衛隊の航路を西方迂回航路から東偏航路に、第三護衛隊の航路を台湾の東回り航路から西回り航路に改めた。米軍の航空機の脅威が大幅に減少したことにより変更をしたのである。

 十七日〇九〇〇、第三護衛隊は第三輸送船隊の輸送船十七隻を護衛して基隆を出撃した。第三護衛隊は出撃後台湾海峡を南西に進み、十八日夕刻には馬公の北西約六〇浬に達した。

 この間、海軍航空隊は第一航空隊が十七日陸攻七、十八日陸攻四で掩護し、台南航空隊も十八日零戦五機、陸偵五機で以て上空から掩護した。


 第二護衛隊は第二輸送船隊二十八隻、第三輸送船隊四隻を護衛し十八日正午馬公を出撃した。当日の馬公は一七メートルの北東の風が吹いて海上は大荒れ、こういう天候は特に潜水艦に注意する必要があった。


 第一護衛隊は二十四隻の輸送船を護衛して十八日一四〇〇高雄を出撃した。高雄では讃岐丸と山陽丸が十六日に港外六〇浬圏内の対潜哨戒を実施し、出撃する十八日にも延べ二〇機で港外の対潜哨戒を行った。

 船団は十八日一七〇〇に護衛する長月が潜望鏡を発見し爆雷攻撃を実施したが、効果不明。二四〇〇まで同付近にて潜水艦の制圧を行なった。

 天候は最悪で海上は一五メートルの北東風が吹き荒れ大しけであった。当然視界も悪く大船団の航行には相互の視認が重要であった。


 十九日も天候は悪く、上空の哨戒掩護をするが、半数は船団を発見できなかった。

 夕刻に艦位の測定を行うと、計画より四〇浬も進んでいたために、原少将は時刻調整のために一旦迂回航路をとったが、今後の天候予報によれば、熱帯性低気圧から勢力を増した台風が南西約四〇〇浬にあって北西に進んでおり、更なる天候悪化が懸念された。


 二十一日朝には第一護衛隊から第三護衛隊まで一三〇隻以上の大船団部隊が集合し終え、リンガエン湾めざした。台風の最悪の危険も去った。風は南風に変わり、風速八メートル、午後には六メートルに弱まった。

 海軍の水上機部隊はビガンに水上機基地を二十日に設置し、讃岐丸、山陽丸、各巡洋艦の水上偵察機は、ビガンを基地として作戦に従事することになった。

 そして、陸上基地に展開する第五飛行集団の第二十四戦隊と第五十戦隊は終日船団上空の警戒にあたった。

 二十一日午後、船団は陸岸の視認できる位置に達しているはずであったが、陸影を見ることができず、原少将は一四三〇船団に対し九〇度に変針するよう命じた。一五三〇には駆逐艦「旗風」に対し

「夕刻サンフェルナンド灯台の二二〇度六千メートルに占位して、先頭隊入泊時白色導灯を点灯する」よう命じた。


 二二一〇原少将は泊地進入隊形を制形するよう命じ、二三〇〇時船団は隊形を整え泊地へ突入した。前路は機雷に対応するために掃海部隊が掃海を行なった。

 球磨川丸に乗船中の第二通信隊では米潜水艦の電話を傍受し、第三護衛隊指揮官は

『「リンガエン湾口」西端付近に敵潜水艦二隻がある模様』

と警報を発した。


 日付が変わり二十二日〇一一〇第一輸送船隊、〇一四〇第二輸送船隊、〇四三〇第三輸送船隊が次々と投錨した。

 海上はうねりが残っており、舟艇への移乗は困難を極めたが、右翼隊は〇五一七アゴー西方海岸、右翼隊は〇五三〇アリンガイ河口付近に上陸を果たした。

 船団は米潜水艦の襲撃を受ける。〇三一五駆逐艦「朝風」はサンフェルナンド灯台の三四〇度十五浬に浮上潜水艦を発見。潜水艦は潜航したために爆雷攻撃を行なったが、成果は不明。〇七五五、第二砲艦隊の特設砲艦神津丸は潜水艦から五本の雷撃を受けたが、魚雷は船尾近くを通り抜けて命中せず。この潜水艦は特定不明である。

 〇九一〇には第三輸送船隊の巴洋丸が雷撃を受け、魚雷一本が命中して沈没した。人的被害はなかった。

 アメリカのウェブサイト「Naval History and Heritage Command」の中によると、雷撃したのは潜水艦S38号で、〇七五八時に「HAYO」丸(五、四四五トン)に対し二本の魚雷を発射し、一分後に大爆発を起こしたとしている。S38はその後爆雷攻撃によって八〇フィートまで潜水して海底にじっとして難を逃れたが、プロペラを損傷したとなっている。

 原少将は湾内に侵入した潜水艦の徹底掃蕩を命じ、護衛駆逐艦、掃海艇などを動員して湾内の対潜掃蕩を実施した。


 では陸軍部隊から見てみよう。第二輸送船隊で揚陸した上島支隊の第九連隊第一中隊の戦闘詳報が遺されているから、それからその当時の模様を見てみよう。


 第九連隊は十二月八日開戦の日を馬公碇泊中輸送船亜丁丸内にて迎え、海軍が米艦隊に甚大なる打撃を与えたことを聴く。

 船内には「同盟ニュース」が配布されていた。「同盟ニュース」は同盟通信社が海外情報の蒐集及対外放送をしていた。戦後の共同通信社である。

 十一日上島支隊長の訓示が行われた。その訓示内容は次の様である。


    訓示

緒戦に臨み上島支隊の将兵に告ぐ

昭和十六年十二月八日対英米宣戦の詔勅渙発せられ茲に世紀の戦争は開始せらる

忽ちにして布哇に星港に比島に先制の大空襲は戦史空前の戦果を収め洋々たる皇国の前途を暗示するに似たり

我等母国を去って船中に待機すること既に一ヶ月脾肉の嘆に堪えざりしも今や機到残余の朦朧船舶相連ずして南支那海を掩い米国の対東洋野望の根拠地たる比島を急襲して一挙に首都「マニラ」を屠らんと洵に同慶に堪えず

我連隊の将兵は固より新に縁ありて予の隷下に入りし部隊も一連托生己れを空しくして相融け相結び赫々たる我軍旗の下勇戦奮闘大に支隊の名誉を発揚せざるべからず万一上陸に及ばずして敵機敵艦による最悪の事態に際会するが如きことあるも沈着剛胆一兵と雖も敵岸に泳ぎ着きて突入し我支隊の存在を天下に誇示すべし

若し夫れ予期の如く上陸せしが果敢神速に直ちに所命の要地「サンフェルナンド」を奪取して敵の心胆を寒からしめ以て反転「マニラ」を攻略するの余威を示すべし

予は皇国百年の運命を決すべき未曾有の大作戦に参加せるを無上の光栄とし御稜威の下諸子と共に一死奉公負荷の大任を完遂せんことを期す

庻幾くば支隊将兵の上に神明の加護あらんことを

   昭和十六年十二月十一日 於馬公 はんぶるぐ丸

  第十四軍上島支隊長  陸軍大佐 上島良雄  


 馬公に碇泊中は上陸訓練の日々が続く。狭い船内にいるよりはいいだろうが、遠浅の海で陸岸より七十メートルほど沖合から飛び込み上陸演習をしていた。

 十八日輸送船はようやく馬公を出撃。出撃後、支隊命令を開封して部隊の行動命令を知る。機密保持のため、上陸地点の詳細は出港後である。出港後、東方に向遥拝式を行う。

 十九日、二十日と輸送船は波浪の中を進むが、船内の陸軍兵は船酔いに悩まされたようである。

 二十一日上陸を前にして携行品の確認を行う。その規定によると

 小銃   一銃に付き  一二〇発

 軽機関銃  同     一、〇〇〇発

 重機関銃  同     普通実包 三箱

             徹甲弾  一箱

 重擲弾筒  一筒    一六発

 大隊砲   一門に付    二〇〇発

 連隊砲    同      一二〇発

 速射砲    同      四八〇発

 発射発煙筒          二五本

 小発煙筒           三〇本

 代用発煙筒          一〇本

糧秣

 携帯口糧  甲    一日分

 携帯口糧  乙    一日分

 弁当食        二食分(上陸当日昼夕食)

と記載されている。


 第一大隊命令

一、大隊上陸点竝に「サンフェルナンド」付近には点々と軍事施設あるものの如

 し大隊将兵は天皇の軍隊たるの本分を自覚神武必勝の信念に燃え敵地に奇襲上

 陸し「サンフェルナンド」付近の諸施設を掃滅せんとす

二、第三中隊(三分の一欠)は右第一線、第一中隊(三分の一欠、四分の一機関

 銃属)は中第一線、第三中隊(三分の一欠、四分の一機関銃属)は左第一線と

 なり達着点付近の敵を撃滅したる後「サンフェルナンド」付近に向い前進せん

 とす

 第二中隊は「サンフェルナンド」南方本道両側高地に向い先遣隊を準備しある

 べし

 上陸当初大隊の基準中隊は第一中隊とす

三、岡野少尉は部下一ヶ分隊を以て将校斥候となり「サンフェルナンド」岬付近

 の敵情を捜索すべし

四、機関銃主力及速射砲小隊は第一中隊の後方を前進すべし

五、配属通信隊は第一線両中隊並に連隊本部との連絡に任じ先遣隊との通信連絡

 を準備すべし

六〜九 (省略)

一〇、各隊は左の如く弾薬を携行すべし

  小 銃(一銃に付) 一五〇発  重擲弾筒 一六

  軽機関銃(同) 一、五〇〇発  大隊砲  五〇

  重機関銃(同)         速射砲  48

     普通実包 一八、〇〇〇発

     徹甲実包  六、〇〇〇発

一一、糧秣は当日二食分(昼夕)及携帯口糧甲乙各一日分携行すべし

一二、余は第一回に上陸し第一中隊後方を前進せんとす

        大隊長   堀尾少佐

 大隊命令によって小銃弾薬は規定よりも多く持つよう指示されている。これは激戦が予想されたためであろう。


 第一中隊命令によれば、

「白井少尉は部下三十六名を以て第一舟艇に、松尾少尉は部下五十二名(指揮班を含む)を以て第二舟艇に、富田少尉は部下十九名を以て第三舟艇に、中西曹長は命令受領者として第四舟艇に、橋本軍曹以下十九名は第五舟艇に、東伍長以下二十名は第六舟艇にそれぞれ輸送船投錨後移乗すべし」

としている。

 二十一日一六〇〇時第一中隊長は全員を甲板上に集合させ、出陣の乾杯を行い訓示をして任務の完遂を誓った。

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