第三話 米比軍の軍備

 一方、フィリピンの米比軍はどのような態勢であったのであろうか。

 フィリピンは独立に向け、一九三五年に独立準備政府として初代大統領にマヌエル・ケソンが就任し、十年後の完全独立を目指していた。

 ケソン大統領はフィリピン軍の創設にあたって、米陸軍参謀総長だったダグラス・マッカーサーを招聘して、総司令官に任命して、新国軍の基礎となる司令部をたちあげた。

 フィリピンは米軍にとっても太平洋の要衝の地であったが、日本がフィリピンとハワイとの間にあるミクロネシアを統治していたことは、日米戦争が勃発すれば、フィリピンの孤立化は明白であった。


 守備を計画する上で、米軍の戦力は乏しく、フィリピン軍の戦力に期待するしかなかったが、同軍の幹部要員の訓練教育に費やす必要があり、民兵の戦力にも依存する必要があった。また多くの島を有するために、全土を防衛することは不可能であり、首都マニラを中心とする防衛を策定する方針であった。

 マニラ防衛に努めている間に、ハワイからの援軍を待つ持久を考える必要があった。

 特に首都マニラを防衛する拠点として、マニラ湾口に存在するコレヒドール島などの要塞化であった。米軍はスペインからフィリピンの統治権を得ると、マニラ湾口にフォート・ドラム(エル・フレイル島)、フォート・ヒューゴス(カバロ島)、フォート・ミルズ(コレヒドール島)、フォート・フランク(カラバオ島)が永久要塞に相応しく建設された。


 フォート・ミルズ(以下コレヒドール要塞と呼称する)には、三〇糎カノン砲八門、三〇糎榴弾砲十二門、二五糎カノン砲二門、二〇糎カノン砲一門、一五糎カノン砲二〇門を備え、其外にも上陸を阻むために二〇数門の中小砲があった。

 フォート・ドラムには、三六糎砲四門、一五糎砲四門を備え、フォート・ヒューゴスには大小十七門、フォート・フランクには二十一門の大小砲が設置され、四個の要塞島がマニラ湾を堅固に守っていた。

 日本軍もこのために、マニラ湾への上陸作戦構想が当初から省かれていた。


 米軍はレインボー計画は昭和十五年十月より再検討が開始され、翌年四月に「レインボー五」の指令が示された。米英の軍首脳会談で、米英は一致してドイツに対してを主におき、太平洋地域は防衛態勢を取るに留めることにしたのである。


「米英、英国およびフランスは連合して戦争すると想定する。

 まず西半球の防衛を確保し、米軍部隊をすみやかに東大西洋と、アフリカおよび欧州大陸の、いずれかまたはその両者に納入し、ドイツとイタリアを屈服させるため、英国その他の連合国と協同して攻勢作戦を実施する。

 欧州の枢軸諸国に対する作戦の成功によって、主力部隊を大平洋に振り向けることができるまでは、日本に対し太平洋においては戦略防勢をとる」

 ことに決定した。これにより、現状戦力で米軍はフィリピン、グアム、ウエーキを守備することになった。


 それでも、米陸軍参謀本部は、フィリピン防衛に向けて、最低限の防衛支援として、砲兵やB17爆撃機の増援、最新鋭のP40戦闘機の配備を決定した。B17の進出は、日本の統治領を避けるために、ハワイからミッドウェー、ウエーキ、ポートモレスビー、ポートダーウイン経由という大回りをしてフィリピンに進出した。


 マッカーサー将軍は防衛態勢を強化する方策をとり、米軍の地上部隊以外に比軍の戦力増強を開始したが、開戦が予想時期を昭和一七年春と見越していたために、比軍の動員は予定の三分の二程度であり、その訓練も全く十分ではなかった。


 十一月中旬、日本側が入手していた敵情は次のように掴んでいた。


一、兵力

 比島駐屯米陸軍正規軍の兵力は従来約一二、〇〇〇(米人約五、五〇〇、比島人約六、五〇〇)であったが、七月ごろ以来国際情勢の緊迫に伴い兵力を増強(米人五、五〇〇人、比島人約六、〇〇〇)し計約二三、〇〇〇に達し、これを一個師団、航空部隊、要塞部隊等に編成している。なお比島国防軍約一一万(これを一〇コ師団に編成)及び巡警隊を、米極東軍としてマッカーサー大将の統一指揮下におくこととなった。

二、配置の概要

 ⑴陸軍部隊

   駐比米正規軍

     極東陸軍司令部 一コ師団及び軍直部隊

        主 力  マニラ

        一 部  バギオ、タルラック

     要塞部隊

        主 力  コレヒドール島

        一 部  右以外の要塞及スビク要塞

   比島国防軍

     第十一師団   北部ルソン

     第二十一、第三十一、第四十一、

     第七十一、第九十一師団   中部ルソン

     第五十一師団  南部ルソン

     第六十一師団  パナイ島

     第八十一師団  セブ島およびボホール島

     第一〇一師団  ミンダナオ島

   巡警隊

     各州に分散

 ⑵航空部隊

   ①陸軍 

     ニコルス 飛行場  戦闘及偵察機  一〇八機

     クラーク 飛行場  戦闘及偵察機   七八機

     其の他  飛行場  戦闘及偵察機   二〇機

   ②海軍

     オロンカボ 哨戒機     一八機 

     キャビテ  哨戒及艦載機  五二機

 ⑶海軍艦艇

   巡洋艦四、水上機母艦四、駆逐艦一四、潜水艦三〇

   他に海兵隊若干名

三、軍事施設の状況

 ⑴防備施設

 比島の防備施設は、コレヒドール要塞(マニラ湾口要塞)及スビク湾要塞の二つで、特にコレヒドール要塞は、米人自らアジアのジブラルタルと称して難攻不落を誇っており、コレヒドール島を核心として、その南方マニラ湾口南水道に散在するカバロ、フレイレ、カラバオ各島の防御力と相まって完全に湾口を制し、バタアン半島南部のマリべレス山は湾口の北壁をなし、密林でおおわれ、全然重材料の運搬及攻城砲兵の展開を許さない。湾口南壁のキャビテ州の西端は突こつとした山地で、わずかにテルナテ付近及その以北の地区が、乾季、重材料及攻城砲兵の展開を許すに過ぎず、真に天険の要害である。スビク湾要塞は同湾中央に位置するグランデ島に防御施設がある。

 ⑵飛行場

 全比島の飛行場は一般に幅員狭小で、大型機の使用に適する飛行場は少ない。しかしながらその数は一〇〇を越え、かつ、畑地、原野などを利用してこれを拡張することは容易である。


 日本の判断していた米比軍の情況は、実際に比べてそれほど差がある判断ではなかった。      

 

米比軍の実際の兵力配置は、ルソン島に

  北部 米第二六騎兵連隊、野砲三中隊、

     比軍第一一、第二一、第三一、第七一師団

     (兵力約三・五万)

 が駐屯し、その主な任務は、飛行場掩護と中部平地及マニラに至る道路網に通じる上陸地点に対する敵の上陸阻止、もし敵上陸成功したならばその撃滅にあたる。海岸陣地の撤退は認めない。

  南部 米軍野砲一中隊、

     比島第四一、第五一師団

      (兵力約一万)

 が駐屯し、飛行場掩護と敵の上陸阻止にあたる。海岸からの撤退は認めない。

 ビサヤ、ミンダナオ部隊

  比軍第六一、第八一、第一〇一師団

      (兵力約二・五万)

  任務は飛行場の掩護、敵の上陸阻止をし、市街地重要施設を掩護する

 港湾守備隊

  米軍第五九、第六〇、第九一、第九二、

  第二〇〇海岸砲兵連隊

 任務はマニラ湾の防衛。

 

 空軍は、ルイス・H・ブレリトン少将が司令官としてニコルスに司令部を置き、戦闘機隊は第五防空戦闘隊第二四駆逐隊をヘンリー・B・クラゲット准将がクラーク基地に司令部を置き、

   第三スコートドロン  P40E型一八機  イバ

   第一七スコートドロン P40E型一八機 ニコルス

   第二〇スコートドロン P40B型一八機 クラーク

   第二一スコートドロン P40E型一八機 ニコルス

   第三四スコートドロン P36型一八機  デルカルメン

 P40B型は武装が七・七ミリ銃二挺、一二・七ミリ機関砲二門であったが、E型は一二・七ミリ機関砲六門に強化されて、発動機も向上し、最高速度も十キロほど向上している。 

 爆撃隊は超空の空の要塞と言われたB17が配備されており、その航続距離、爆弾搭載量、防弾設備から空中での撃破は相当難しいと判断され、地上での撃破破壊をしておく必要を日本軍とては考えていた。

  第一九爆撃連隊

    第一四スコードロン B17八機   デルモンテ

    第九三スコードロン B17八機   デルモンテ

    第三〇スコードロン B17八機   クラーク

    第二八スコードロン B17八機   クラーク

    本部スコードロン  B17三機   クラーク

 それ以外に旧式の爆撃機が二十機程度あるだけで、米空軍の期待は、P40戦闘機とB17であった。

 比軍の航空部隊は旧式のP26一〇機と、B10中型爆撃機三機の他に練習機があるのみで、貧弱であった。


 米アジア艦隊の指揮はトーマス・チャールズ・ハート大将が勤め、本拠地はマニラ、重巡一、軽巡二、駆逐艦一三、潜水艦二九、魚雷艇六を保有し、哨戒機としてPBY三二機、水上機母艦四をもっていた。

  第五任務部隊

   重巡 ヒューストン

   軽巡 ボイス、マーブルヘッド

   第二九駆逐隊 駆逐艦 五

   第五七駆逐隊 駆逐艦 四

   第五九駆逐隊 駆逐艦 四

   駆逐母艦 ブラックフォーク

   砲艦 アシュビル、タルサ、イザベル

   掃海艇 ラーク、ホイップアウイル

   補給船 ペコス、トリニティ

  潜水部隊 指揮官 ドイル少将)

   第二一潜水隊  六隻

   第二二潜水隊  六隻

   第二〇一潜水隊 五隻

   第二〇二潜水隊 四隻

   第二〇三潜水隊 七隻

   潜水母艦 ホーランド、オータス

  第一〇哨戒飛行隊

   水上機母艦 ラングレー、チャイルズ

         ブレストン、ヘロン

  第四海兵連隊  約千六百名  


 マーシャル参謀総長は、ハル長官がハルノートを手交した翌日の十一月二十八日、マッカーサーに対して電報を送った。

「日本との交渉継続の可能性はほとんどない。実際上は交渉は終了した。日本はいつ戦闘行動に出るか判らないが、米国は日本が最初に歴然とした犯行を侵すことを希望する。ただし、この政策は比島の防衛が危うくなるように貴官の行為を制限するものではない。貴官が必要と考える偵察あるいはその他の処置を、日本の攻撃に先じて執るよう命令する。処置を報告せよ。

 戦闘を開始したならば、改訂レインボー第五計画に示す任務を実施せよ。本件は海軍作戦部長同意、貴官はハート米アジア艦隊司令長官に通報せられたい」


 二十九日以降、米空軍はB17を以て、ルソン島北方海域の哨戒を開始した。イバ基地にあるレーダーは警戒態勢に入った。

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