第六話 大本営政府連絡会議(一)
ここでちょっと話を現場より中央の政治軍部の動きについてみてみたい。第一航空艦隊は開戦に向け密かに訓練に励んでいたが、戦争が発起しないことが良いのに決まっていることは間違いない。しかし、政府は戦争するかしないかで揺らいでいたことも事実である。
近衛内閣は和平の方向に挫折し、十月十六日総辞職し、翌日十七日東條英機前陸軍大臣に組閣の大命が下された。
東條首相は「国策の大本を決定するについては、九月六日の決定にとらわれることなく、内外の情勢をさらに深く検討して慎重なる考慮を加えるように」との陛下の御内意に基づき、九月六日の『帝国国策遂行要領』を白紙に戻し、極力日米交渉の打開を図る意図のもとに十月二十三日から連日大本営連絡会議を開いて、外交、軍事、物動、財政等の面から情勢の再検討を行った。
『機密戦争日誌』を見ると、十月二十三日の所には、
「一、午後二時より歴史的連絡会議開催される」とあるが、この日は顔見せ程度であったという。そして
「先ず統帥部情報部長の欧州戦局の見透に就き二時間に亘り説明あり次で両統帥部長より作戦準備の概況を説明し速かなる開戦決意の要切なるを述ぶ右を以
て本論に入らずして散会す」
となっている。
その議論内容は杉山メモと呼ばれる「大本営政府連絡会議議事録」に残されている。(カタカナ文を平仮名に改め旧漢字を新漢字へ改)
以下に登場する人物は名字だけになっているが、永野修身海軍軍令部総長、杉山元陸軍参謀総長、岡
十月二十三日(木) 第五十九回連絡会議
国策遂行要領再検討に関する件
午後二時新内閣と統帥部初会議を行う
午後五時半終了
一、情報交換として岡本前田両部長より「欧州戦争の見透し」に就て説明あ
り
前田少将、独「ソ」戦に於ける独の勝利と英国の国力培養により欧州戦
は逐次長期化する公算大なり
英は「スエズ」及新嘉坡の確保に力を入れて居る。独の近東進出と共に
何れ遠からず近東にて作戦起るべし。米は十七年末両洋作戦を許す戦備
の整う迄は日本を戦争に参加せしめざる如く努むるならむ
二、右終り午後四時連絡会議に入る
永野 海軍の現況を説明した後に
「十月のが今となったので研究会議も簡単にやられ度一時間に四百
屯の油を減耗しつつあり、事は急なり。急速にどちらかに定められ
度」と強く述ぶ
杉山 仏印進駐よりの陸軍の状況と述べ「既に一ヶ月延引せられ研究に
四日も五日もかけるのは不可早くやれ」と強調す
東條 統帥部の急ぐべきことに就ての力説はよく承知しあり政府として
は海軍、大蔵、外務等新大臣もあり十分に検討して責任をとれる
様にし度い
九月六日決定を其儘にて政府が責任とれるか又は新しき立場にて
考えねばならぬかを検討致し度い、統帥部異論なきや
統 異存なし
東條 然らば方法如何幹事が一案つくっては如何
武藤 幹事の一案はなかなか纏まらぬ大体今迄研究した問題ばかりだ
岡 然らば此席上担当の各省にて見解を述べそれに対し夫々意見を述
べてあとで主務の幹事が之をまとめて綴る様にせば如何
全員 右に同意す
賀屋 自分の納得ゆく様に教えて貰い度い戦争遂行して物資が如何にな
るか、戦争せずに現在のままなれば如何になるか、米との交渉不
成立の場合は如何になるか等を研究すればよろしかるべく予算は
物資の需給関係さえ定まれば之にて決せらるべく予算其ものは大
した問題でないと思う
○、 此の十三の研究問題を逐次研究すれば其辺は判然とする
東條 本日は之にて終了金午後、土午前、月午後と研究し度
右にて終了す即国策再検討は本日は本論に入ることなし
こう重要な連絡会議ではあるが、国家の大事たるを前にして何と軽々しい会議の開始であることか。しかし、これが実際のことであった。
二十四日と二十五日も会議は開かれ、それは議事録として残っているので、
紹介する。
国策遂行要領再検討に関する件
十月二十四日午後二時開会午後八時二十分終了
十月二十五日午前九時開会正午終了す
一、第二問題「対米英蘭戦争に於ける初期及数年に亘る作戦的見透し如何」
陸軍は研究案の通り説明す
海軍 初期は大丈夫長くなれば国際情勢と国民の覚悟による海軍に対し
所要の物資をくれと再三述ぶ
島田、賀屋 支那の戦面を整理する考ありや
塚田 なるべく戦面は保持し度く考えあるも情勢により整理す、特に北
方起れば整理せざるを得ざることあるべし
杉山 南方作戦の大部は四ー五ヶ月を要す
伊藤 海軍は六ー八ヶ月を要す
(本件陸、海軍間に作戦的見解に相異ありし如き印象を全般に与
えたり)
二、第三問題「今秋南方に開戦せば北方に対する関係的現実如何」
本問に関しては陸海外共に大同小異戦争当初より積極的大攻勢はなし、然
し米が「ソ」の軍事基地を利用することあるべく又「ソ」が米英にそその
かされて、策動することもあるべし、戦争永続せば情況に依り日「ソ」戦
なしとせず
三、第四問題「船舶の消耗量如何」
陸軍は研究案の通り述ぶ
海軍は艦政本部総務部長説明せり要旨左の如し
新造は左の見込なり
第一年 四〇万屯
第二年 六〇万屯
第三年 八〇万屯
但次の条件を必要とす
1 所要資材の優先取得
2 工作施設の損害確実補填
3 輸送力労力の優先取得
4 造船造機施設の充実
5 陸軍は九〇万屯常時使用に低下すること
6 船舶行政機構の一元化
7 三千屯十二節の標準型とし多量生産を可能ならしむること
例えば六〇万屯の船新造の為三六万屯の鋼材を要すべく海軍も別に相当量
の鋼を所要とす果して之を許すや其他施設製造所の拡張、工作機械の割当
輸送力労働力の確保等も希望の通り之を許すや
東條 大体の造船能力如何
総務部長 大体第一年 四〇万屯
第二年 六〇万屯
島田 若いものは楽観に過ぐ 海軍艦船の修理もあり造船は総務部長の
述べし半分二〇万屯一三〇万屯ならむ
五、第五問題 主要物資の需給見込
企画院研究案を説明す
賀屋 予算は物と労力が出来ればどうでもなる
戦争遂行上国民生活を維持し且第二代国民の育英をやることが出
来れば心配ない
占領地は銀行をつぶして軍票でやれば可なり
支那と異り案外安い
島田 海軍としては 十七年九四億
十八年九五億
以後 毎年一〇〇億
の予算を要すがよろしいか
六、本日迄は第四、第五問題の決定を見ず
第二問題戦争の見透しに就ては第一段戦は勝つも敵を屈服せしむる方法如
何との問答に於ては左の如きことあり 武力のみにては之を許さず外交に
よるを要す又英が屈服せる後に英の艦隊が極東に活躍することなどは出来
ず又独の力は信用すべく独の国力に対する信頼は之を強く考えあるもの多
し
但独に対する帝国との協力に於ては我施策が独の利害に大なる関連を生じ
たる場合彼の出方は警戒を要すべく独は信頼し難しとするもの多し
二六日は開催されなかった様で、二七日に開催。二七日の会議の結果を「機密戦争日誌」から見るとこう記している。
「総長、次長至急結論を求むべきを強硬に発言す 総理之を諒とするも実行に移らず漫々的にして作戦的戦機を逸しつつあり (中略)総理の決心には変化なきが如きも鈴木総裁には疑念あり 賀屋は真面目海相最も消極的岡局長は非戦論なり独り総長次長強硬に発しあるが如く軍令部総長及次長の発言は少し 此くして遂に二十七日に至るも「ラチ」あかず決意は前途遼遠なり」
再び「杉山メモ」より
十月二十七日(月)第六十二回連絡会議
再検討に関する件
午後二時開始午後六時廿分終了
一、第五問題「主要物資の需給見込如何」
賀屋 南方作戦の場合国家需要物資に関し左記承り度
1 所要数量を全部(軍、官、民)を含めありや、特に軍需は数
年先を見透したる数量なりや
2 右に対する国家の供給力を考えありや(生産力「ストック」
等を含む)
鈴木 1に就て
日本には国防国家態勢整わず、物的関係の永年計画なく年度年度
毎に国の供給力と各方面の所要量をにらみ年々配分しあるが現状也
十七年の為の所要資源供給力は十六年度の九割を見込みありて供給
力からせば「ストック」全部を尽すこととなる但綿花のみは「スト
ック」の残りと支那からの購入により十八年迄はつなぐことを得
生産の細部に就ては官民需の圧迫は現在を以て絶頂とす之以上圧縮
せば国の生産力は減ずべし
船三〇〇万屯常時使用を許すなれば現在程度の物的国力の維持可能
なるも三〇〇万屯の船舶維持の為には、十七年四〇万屯、十八年六
〇万屯の造船を必要とす、然るに若し島田海相の言の如く造船能力
が半減するに於ては、第三年には総動員民需の為一九〇万屯となり
国力の維持に不安あり
東條 陸軍としては対「ソ」戦備に重点をおきて準備せり、南方用資材は
其一部に過ぎず陸軍は従来の予算の中約六割を軍需品として蓄積し
来れり十七、十八年度分迄は従来通りの配当あれば何とか賄い得べ
し、但右は統帥部の要求には満たさるものにて此点統帥部に我慢を
して貰って居る次第なり十九年度以後の如き先きのことはわからぬ
杉山 陸軍は「ソ」の一七〇師の相当数が極東に来る積りで準備をすすめ
来り未だその途中にあるので不十分だ然し物の不足は情況の推移を
見て機を促え且作戦の妙とを以て補うことが出来る、算盤通り物が
無いからとて戦争が出来ぬと言うことはない
海軍次官、岡局長、整備局長等の賀屋に対する応答及押問答を総合すれば
左の如し
海軍は南方をやる以上は米国の⑤⑥軍拡計画に対応出来ねばならぬ
故に鉄量は到底十六年度程度では困る
海軍艦船の新造予定案は(十七年 十八万屯)、(十八年 二五万
屯)、(十九年 二七万屯)、(二〇年 三〇万屯)、(二一年
三七万屯)、(二二年 三四万屯)、(二三年 三三万屯)なり岡
局長曰く之は軍令部案にして海軍省としては必ずしも同意出来ぬが
鉄は十六年度分などでは足らず
山田整備局長
十一月開戦せば航空揮発油は蘭印よりとるものを加えて三〇ヶ月、
三月開戦の場合には、二一ヶ月。又現状維持なれば航空揮発油は三
四ヶ月自動車燃料は二六ヶ月で共に零となる
賀屋 私が質問するのは海相の言によれば海軍予算は九〇億との事故陸軍
も約一五〇億位を要求せらるべく陸海軍の既定経常費以外に一五〇
ー二〇〇億の大予算となり物資が二倍以上無ければ駄目と言うこと
になるので物の事を質さざるを得ず、物が無ければ予算は出来ぬ
二、第七問題「独伊に対し協力せしめ得べき限度如何」
外務は大なる期待をなし得ずと言いしも参本案を主として取り入れ判決
す其要旨左の通り
判決 大なる期待をかけ得ざるも我決意を知らしめ作戦協定を提議する
場合には差し当り左の事項を約諾せしめ得べし
(イ)対米宣戦
(ロ)単独不媾和(参本案の通りと永野主張す)
(ハ)近東作戦の強化により対日呼応
(ニ)通商破壊戦に対する協力
尚「ソ」に打撃を与うることは現にやりつつあるを以て之を強く要求せ
ば却て我方にも要求せらるることも多かるべく之は省くを可とす英本土
攻略に就ては将来約諾せしむることとし差し当りは之を省くこととなれ
り
海軍側の言によれば日本と独との海上の担任境界は「コロンボ」南北と
黙諾せられある趣なり
第八問題「米英蘭可分なりや不可分なりや」
外務及海軍にて説明す
陸軍は作戦的に見れば必ずしも不可能ならざるも海軍作戦が不可能なれ
ば陸軍作戦も勿論不可能となる旨を付加せり
一、本日総長より統帥上の見地からは時日切迫しあるを以て検討を急がれ度
き旨申入れ総理は政府としても統帥部の急がるる要望は承知しあるも政
府としても十分に検討して責任をもち度き故此点を諒せられ度と述べた
り総長は政府も無論責任とるも統帥部としては現実的に責を負わざるベ
からざるを以て急速に進むることに就ては特に配慮あり度き旨を重ねて
要望するところあり
観測としては
(イ)総理の決意は不変なる如し
(ロ)海相は依然判然とせず発言は大体消極的のこと多し
(ハ)海軍全般に物資取得の宣伝をやる節あり
(ニ)外相は率直簡明にして相当自信もあり大体論議も一貫しあるもの
と見らる
二八日の「機密戦争日誌」にはついに「小田原評定続く」と書かれている。
十月二十八日(火)第六十三回連絡会議
再検討に関する件
午後二時開始午後六時終了
一、第九問題(イ)「三月戦争発起の場合対外関係の利害如何」
外務参本の案を勘考し対外関係のみからは戦争開始時機、国際関係を大き
くにらみ現在よりもよい場合が来るかも知れぬと判決せり
外務 「ソ」の北よりする脅威は今よりも軽くなる
参本 必ずしも然らず冬期間に彼は整頓し米と結合して明春対日積極行
動とることあるべきは第三問題にて研究の通りなり
外務 情勢によっては独「ソ」和平を斡旋するも可
参本 可なり
外務 明年三月迄は米参戦せざるも其参戦準備は整う然し逆に軍事的に
は大西洋に之を用うることとなるべく又国内にも稍々困難なる問
題起り結局之は大したことなかるべし
参本 之に反し害は益々大となるべし即対日包囲陣は強くなり又「ソ」
に対する日本の関係は不安大となる、油其他の物資は滅し対手の
軍事的整備は強化す
(伊太利の参戦する時に独は喜ばざりし由なり先方からやってく
れと言わざるに明年三月迄開戦を伸ばしたからとて冷却すると迄
はならぬだろうとて本件は省くこととせり)
二、第九問題(ロ)「三月開戦の場合物の需給見込如何」
昨日研究の通り
三、第九問題(ハ)「三月開戦の場合作戦上の利害如何」
開戦は十一月なるを要即本十月三十一日迄には開戦を決意するを
要す
海軍は物の関係上致命的なりとて参本、軍令部強調す右の如くし
て参本軍令部案を殆んど無修正可決
四、第九問題(ニ)「人造石油で油は解決し得ざるや」
鈴木 結論として言えば
四百万竏生産の計画によれば設備の為鉄一〇〇〇万屯、石炭二五
〇〇万屯、費用二一億、三年間にて工場設備を終わる、此の如き
を以て国家としては強力権力非常手段をとらざるべからず
生産は「十六年三四万竏、十七年五五万竏、十八年一六一万竏、
十九年四〇〇万竏」となる計画なるも実行には大なる難点あり
海軍整備局長
右人石をやられると海軍は戦術軍備は半分おくれる国際関係を無
視してこんなことをやられては困る、実行上困る、又油は人石の
みを以て解決せざるものあり
賀屋 戦争やった場合とやらぬ場合の物資需供関係は何れかよいのか、
数量的に知り度い
五、第十一問「重慶に与うる影響如何」
参本、陸軍省、外務の案を勘考し判決せり
賀屋 南方に出て所要のものは軍に取って貰うか物的に陸海軍の戦力を
補給し得るか否かが問題だ概念論でなく大体此辺との判定をし度
い
六、本日は総理より両総長に対し再審議の進度遅くし相済ますとの断りあり
二九日、三〇日の連絡会議の結果。「機密戦争日誌」を見ると、
「問題全部の検討を終る」とあり、連絡会議での検討会は終わるとあるので、いよいよ戦争するかどうかの最終判断の時となった。
十月二十九日(水)自午後一時至午後十時 第六十四回連絡会議
十月三十日(木) 自午前九時至正午 第六十五回連絡会議
再検討に関する件
第五問題は第九問題「物の見透し」並第十問題「外交の見透し」に付研究す
○第五、第九問題
一、鈴木総裁説明
(イ)液体燃料に付人石によるのは如何
早急にはつくれぬ又之にて燃料に関する国防の安全は期待し得ず
(ロ)南方作戦遂行の場合液体燃料如何
或程度の遺り繰りをすれば
「第一年二五五」「第二年十五」「第三年七〇」万竏残る但航空用
燃料は第二年末より第三年には危くなる場合もある
(ハ)鉄
十七年需要は十六年物動を基礎とし賄える
但船三〇〇万屯を要す而して三〇〇万屯の船舶維持する為には、毎
年六〇万屯の船を新造するを要し之が為三〇万屯の鉄を必要とす
○海軍の⑤計画を伺い度
二、艦政本部総務部長
海軍としては造艦は逐次増加すること次の如く、鉄に対する不安あり又
造艦を六〇万屯行はんとせば七つの条件を要す
一七年 九五万屯
一八年 一〇〇万屯
一九年 一二〇万屯
二〇年 一〇〇万屯
二一年 一〇〇万屯
三、賀屋
鉄と船に就ては不安あり尚考える必要あり
○第十問題
一、「日米交渉の見込如何」
何れも短期間に成功の見込なし、海軍省は二週間でも見込なしと言う
二、「各条件の譲り得る限度如何」
本問題の就ては問題に論議ありて、結局「幾何迄に譲り得るや」との議
題に変更せり
論議の結果
イ 三国条約ー従来通り、変更せず
ロ 四原則の適用は、今迄米側に述べしことは已むなしとすも東郷は
「条件付にて主義上同意」と言うことも不可と考えある旨述ぶ
ハ 支那通商無差別待遇は「無差別原則が全世界に適用せらるるに於
ては」との条件を付して「南西」を省くも可と定まれり
本件に就ては参本は猛烈に、変更せざる如く頑張りたるも、総理
より、政府側の反対強く此妥協案を申し出づ
永野総長は突然「通商無差別などやったらどうだ太っ腹を見せて
はどうか」と言えり
ニ 仏印撤兵問題は今迄通り
ホ 駐兵撤兵
今迄通り、但し外交上の応接としては所要期間を概ね二十五年と
応酬するも可、と定まれり
本件に関しては杉山、塚田は強硬に不同急を操り返し東郷は「撤
兵するも経済はやれる否寧ろ早く撤兵する方可なり」等現実を忘
れたることを主張せり海軍も駐兵に熱意なく参本が極力主張し論
議沸騰す
総理は「永久に近い言い表わし方」により年数を入るることを提
議し、九十九年、五十年、三十年、二十五年等の外交上の表現法
に付二十五年を採用する如く提議し次長は二十五年などと年数に
触れる弱気を見せることに特に不同意を表明せり
(米は二十五年、二十年、十年でも恐らく受託せざるべしとの観
測多し)
三、「米提案を全的に容認する場合日本はどうなるか」
外務省を除く全員は帝国は三等国となるべしと判決せるも、外相は条件
を少し低下して容認せば何でも好転すると判決し一同に奇異の感を懐か
しめたり
○次に明三十一日再会することを主張せる賀屋は「一日考えさせてくれ」東
郷は「頭を整理し度い」等とて一日延期を希望し総長は一刻も遅延を許さ
ざることに関し約三十分に亘り説明し永野も急ぐことを主張せり
○総理より十一月一日には徹夜しても決定すべく左記に関し研究しては如何
と述ぶ
第一案 戦争することなく臥薪嘗胆す
第二案 直に開戦を決意し戦争により解決す
第三案 戦争決意の下に作戦準備と外交を併行せしむ
(外交を成功せしむる様にやって見たい)
○本日の会議に於て
外相は外交をやって見たい口吻を洩せり、海相は依然はっきりせず、賀屋
質問多きも真面目なり
永野は戦争準備を行い外交は外交でやれと述ぶ
期日に就ては政府側は統帥部の言うこともわかるが、私共も困る不審は納
得出来ねば困る一日には徹宵しても解決し度故明日は休み度しと哀願的に
希望し之も無理に引きはなすを得ざりし次第也
○議論は参謀総長、次長が専ら強硬論に主張し、孤立無援の形にて東條は陸
軍大臣としての発言と総理としての発言を区分すること困難にて特に陸相
として参謀本部を支援する程度にて、結局に於ては陸相として参本と同意
見の主張をなすよりも総理として参本と政府側の意見の折衷妥協を提議す
ること多き状況なりき
(続く)
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