第5球 異世界での起床
夕焼け。
親父とキャッチボールをしていた夢だ。
よく見る夢。
母の声がする。
海外の血が入っている母の髪は少し色素が薄い。それが夕陽を受けて煌めく光景が好きだった。
親父を振り返ると、その姿が消え、グローブとボールが地面に落ちるところだった。
「おとうさん?」
と。
不安そうに親父を呼ぶ――
その瞬間、まるで舞台装置のライトが全て落ちたように景色が消えた。
何かあるとこんな夢を見る。
昔は泣いて起きることもあったが、今は精々寝起きが悪くなる程度だ。
「んぉ・・・・・・?」
肺に溜まった息を吐き出し、辺りを見回す。
どうやら、大きなベッドの上にいるらしい。
ビジネスホテルのようなものではなく、もっと、お姫様チックな・・・・・・
「天蓋付き・・・・・・」
少女趣味。
体を起こすと、いつの間にかヒラヒラな寝間着を着ていることに気付く。
全身をチェックすると、
「やっぱり俺、女だ」
頭がおかしくなったかのような台詞が口から飛び出して、一人で苦笑する。
「さて、どうするか・・・・・・」
ベッドから降りた時だった。
「おはよう!」
「おわ!?」
大きな扉をバーン! と開け放ちペトラが姿を見せた。
「お、おま! なんだよびっくりしたぁ!」
「驚いた? 驚いた?」
「驚いたけど」
「6時間くらい鍵穴から見張ってた甲斐があったわ」
「もっとやり甲斐のあることした方がいいと思うぞ」
ペトラは装飾が施された白いワンピースのようなものを着ていた。
あまり服の種類に詳しくはないが、ルネサンス時代に描かれる古代の貴人が身につけていたような服だ。何となく歴史の教科書で見たことがある。異世界らしいファッションとあの野球用ユニフォームとのギャップを感じてしまう。
髪をアップに纏めており、煌めく緑色の宝玉が髪留めとして使われていた。
「ところでペトラ」
「なに?」
鳥のように小首を傾げるペトラに俺は約束の事を尋ねた。
「俺、あの試合に勝ったんだよな」
「勝ったわよ?」
間違いないよな。夢じゃない。
「じゃあそろそろ元の世界に――あの甲子園に返してくれないか?」
「・・・・・・え?」
「え?」
しかしペトラは驚いたと言った風に目を開けていた。
「な、なに・・・・・・?」
「あの、翔・・・・・・まさか勘違いしてる?」
「勘違いって? 試合には勝ったし、お前達のチームを助けたよな?」
「あぁ~」
ペトラは得心したようにポンと手を叩いた。
そして、
「あれじゃないのよ」
とんでもないことを言った。
「はああ!?」
「ちょっと! 大きい! 声おっきぃ!」
「そりゃ声大きくなるだろ! じゃあ何だよ! あの試合じゃなきゃどの試合だよ!」
「ごめんごめん。ちゃんと説明してなかったよね。今度の試合を助けてってこと。三日前の試合はチェレ・・・・・・ピッチャーが逃げちゃったから仕方なく最後の抑えだけ貴方に頼んだのよ」
「三日前!? 俺三日も寝てたの!」
「そうよ? って思い出した! 言いたいことあったんだ。貴方! もうちょっと加減して投げられないの!? 最大出力の風陣防幕使っても死にかけたんだから! あんなのまともに受けたら北境のレッドドラゴンだって気絶するんだからね!」
「知るか! 俺は普通に投げただけだっての!」
「知らないとは言わせないんだから! ほら! ほら! ここ!」
ペトラは眉を怒らせながらワンピースの裾を思い切り捲り、お腹を見せてくる。
臍の辺りには確かに[[rb:痣 > あざ]]が見える――いやそれより!
「お前ー! 見えっ! パンツとか見えてる!」
白く細い肢体と、肉付きの良い腰周りに張り付くような白い下着が目に飛び込んでくる。
あまりにもな光景に俺は思わず背を向けてしまう。
「こら目を逸らすな! 自らの罪に向き合いなさい!」
「しかし回り込まれてしまった!?」
心の悲鳴が口をついて出てしまった。
「やめて、ほんと見せないでそういうの恥ずかしいから。俺男だから! そういうのダメダメ!」
「あ」
ペトラはようやく気付いたように、持ち上げていた裾をぱっと離すと、みるみる顔を真っ赤にする。
「し、し、」
「しし? 獅子?」
「しね! 変態!」
「はー!?」
思わず悲鳴のような非難の声が全身から溢れだした。
「お前が痴女ってきたんだろうが!」
「ち、痴女!? 痴女って言った!? わたし大球神の神子なんですけど! 最高位の!」
「もう何なんだよ! お前そもそも何しに来たんだよ。自己紹介でもしに来たの!?」
「違いますー! 貴方が目を覚ましそうだから歓迎会を始めますよっていうお知らせに来たんですー!」
「明らかに歓迎してる雰囲気じゃないよね!?」
「ふゥー! ふゥー!」
「呼吸が怖いっ」
猪のような呼吸を吐き出しながら、ペトラは徐々に落ち着きを取り戻していく。
「・・・・・・ふぅ。大変失礼しました。勇者大山大地の息子、大山翔。貴方を我らが
「3分くらい前にその雰囲気出して欲しかったな」
「ちっ」
「舌打ちすな・・・・・・・」
かくして俺はペトラに招かれ、歓迎会とやらに参加することとなった。
異世界野球譚 グランボール! メイクウォー! @ootori
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