第1話 <後編> 彼は。
晴れた青い空。広大な大地。そこには植物や動物の面影はなく、ただひび割れ荒廃した地面が続くだけの場所。
そこで俺は、目覚めた。
「-………」
「?」
状況を理解できなかった。
夢の続きのようなふんわりした感覚で、その場から1歩も動かず座り込んでいた。遥か先に見える地平線を、意味もなく、何も考えずに眺めながら。
と、そんな夢心地は背後からのやかましいうめき声に突如として邪魔された。
振り返り見てみるとどうやら女性が2人、そのうち1人は地面に転がって悶絶している。目を抑えていることやこの場所が砂っぽいことから目に砂でも入ったのだろうか。
もう1人の方はこちらに背を向けているのだが、転がっている女性と同じような体格からおそらく年下だろう。女性というか少女だった。
「フアン、涙出して、」
立っている方の少女が無機質な声で言う。
「ちょっとまってぇナシュぅ!今それどころじゃ」
尚も地面を転がり続けながら赤髪の少女は答えた。俺も経験したことがあるから余計に痛そうだ。
「涙出せば取れる。」
「あ!確かにぃ」
「ん?」
俺は「涙を出せば」というフレーズに違和感を覚える。だってそうだ。普通涙って出すものってより出るものじゃないか?まぁ泣こうと思えば泣ける人もいるらしいが。
泣くことを制御するなんで俺にはできないことだ。人の葬式に、親友の葬式に泣けなかった奴が思い通りに泣ける訳がない。
「……」
話を戻そう。この2人は何者なんだろうか。
先程悶絶していた少女がネコ耳をつけている点から何かの芸を行っている人なのか?
でも周りには人がいない。というかそもそもこんなに人がいないのは何故だ?さらにここはどこ?彼女らは青い目をしている。ということは日本ではない…のか?
さまざまな疑問が浮かび、しかしそれに満足いく答えを出せずにいた時、赤髪の少女が目を開けた。
その瞬間俺は「何か」を感じ取った。何かはわからない。だが、確かに感じたのだ。
すると、一瞬少女の目の色が失われ、澄んだ青色に戻ったと同時に涙が出てきた。
!?
俺は驚きで声も出せなかった。目の色が自由に変えられる人種なんで今まで聞いたことがない。さらにその直後に涙が出てきた辺り、何か関係性があるのか?
俺が瞬間的に抱いた感情は、「恐れる」というものだった。狂った研究者ならこの状況を楽しむだろうが、俺にはそんな精神力はない。
見つかるのはまずい。体が咄嗟にそう感じた。
幸いまだあちらには気づかれてはいない。今のうちに隠れなければ。
必死に辺りを見渡すが、ここには植物一本すらない。
それでも頭を必死にフル回転させ周りの状況から逃げ出せる要素を探していると、運悪く彼女らの会話が耳に入ってしまった。
「やっぱり涙は便利だねぇ。世界に涙がなかったらどうなってなんだろぉ。」
「涙がなかったら世界は出来てない。」
「もぅナシュは固いなぁ!もしものはなしだよもしもぉ。」
は?
世界?涙がなければ世界は出来てない?
ただでさえ破裂寸前の情報を詰め込まれていた頭はこの一撃でとどめを刺された。思考が停止し、制御する理性がいなくなる。それにより自由になった俺の口が必然的に開く。
「何を…言っているんだ?」
その言葉で2人は意表をつかれたようにこちらを見る。明らかに敵を、自分達の害を見る目だった。
あぁ、…終わった。
涙を流すことがあるのなら、きっとこんな状況を指すのだろう。
決して救いなどない、この世界。そんなことは知らず、俺は情けなくも目の前の2人の少女に命を奪われる恐怖に怯えていた。
涙を流すことがあるのなら。 優芽 ひと @yu_kaku1119
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