人殺し

 後ろには無数の屍が積み上がっている。

 地面は紅く染められ。刀も紅く、古い輝きは消えていた。


 一人。

 青年がいる。


 縛る鎖は解けかけて。

 目の光は、いつに失われたのだろう。






 ※※※※※






「ぜぇっぜぇっ 」



 荒く肩を上下させながら、俺は刀を突き立てる。

 肉を切り裂く、心地いい感触が刀を通して伝わった。

 そいつは、地面に崩れ落ちた。



「やはり、儂の予想通り。君は、儂すらも凌駕する力を付けてきた 」

「・・・・・ 」

「とはいえ、タダではやられぬがね。何事にも、代償は付き物だ 」



 ・・・・そいつを倒した代償が、左腕と肩の切り傷であるらしい。

 まあいい。

 中々に楽しかった。左腕と肩など、くれてやってもいいと思えるほどに。


 ついでに、たしか俺の目的も果たせたはずだ。

 人ならざる者を殺すのが、俺の、責務? だった?


 ・・・・・。


 分からない。

 少し前のことが、靄がかっている。まるで、遠い夢を見ているかのようだ。



「良いことを教えてやろう。どうして、人ならざる人外が生まれたのかを 」



 鎖はひび割れて、緩まった理性の縛りはさらに解けていく。

 何か、が暴れ出す。止める術は無くなりかけていて、とてもじゃないが抑えられない。



「人ならざる者の祖先は元は人間だった。彼らはそれぞれ四つの神獣の因子を取り込み、理性で縛り付けたという 」



 それと同時に、飢餓のような感覚を覚えた。

 飢えている。

 足りない。

 まだ足りない。

 もっともっと、快楽へと沈んでしまいたい。



 殺しが、足りない。



 何かが消えていく。

 何も見えない夜の闇に、とても大事なものが薄れていく。

 俺が消えていく。カケラですら、許されない。

 消える。

 消える。



「獣の因子自体は、人の内から生まれる存在でな。誰であれ、人間である限りみな持っている。内の獣を飼い慣らすことに失敗し、理性の鎖を食い千切った時、 」

「・・・・・ 」



 消える。



「人は獣へと成り果てるのだよ 」



 消え—————



「己を殺し。獣に身を堕とした君の行き先は、何処なのだろうな 」







 ※※※※※






 四つの人ならざる者は、姿を消した。

 しかし、その代償はとても大きく。


 いずれ世界は、災厄に呑まれるだろう。

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人外殺しは、人外の夜に何を思うか 菅原十人 @Karinton

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