人外殺しは、人外の夜に何を思うか

竜人殺し

「人狼も、吸血鬼も、妖狐も、災厄の手で殺されたという噂が最近流れているようだ 」

「厄災・・・・。そうか、人外殺しですね 」

「ああ、恐ろしいこと極まりない。もし噂が本当なら、残る人ならざる者は我らだけ。何故、このような真似をするのだろうか 」

「・・・・・どうせ、聖協会が原因でしょう。奴らは人ならざる者を、異常なほどに嫌っています。私達は世界の異物であるらしいですよ、奴らに言わせれば 」

「異物、か。我らがいなければ、人間が生き残ることも、発展することも無かったというのに。もう、その恩を忘れたか 」

「・・・・・父上。噂をすればやってきたようです 」

「まさか、 」

「守護隊が、正体不明の人間と戦闘中の模様です 」

　※※※※※

　おかしな話だった。

　人間は、人ならざる者より勝ることはない。

　なかったはずだ。

　今までの歴史を顧みても、そのような出来事を聞いたことすらない。

　だというのに。

　この現実はなんだ。

　どうして、他の仲間がいとも簡単にやられている。

　人間は、人ならざる者に劣るのではなかったのか。

　そいつは笑みを浮かべながら、心底楽しそうに殺していく。

　まるで、遊んでいるかのように命を葬っていく。

　こっちだって全力で応戦しているのに、それでも阻むことすら出来ない。

　これを、人間と呼んでいいのか。

　いいや、違うはずだ。こんなもの、人間などではない。

　確かに人の成りはしているが、違う。

　これは、もっとおぞましい何かだ。

「・・・・・化け物が、 」

　最後に、今までにないくらい強い眠気が襲ってきた。

　※※※※※

　俺の外見は血にまみれ、全身真っ赤になってしまった。

「ふぅ 」

　ひとまず気持ちを落ち着ける。

　大方、襲ってきた集団は殺し尽くした。気配を探ってみても、先程交戦した集団ほど強い者はいなさそうだ。

　だから、後始末は難しくないだろう。

　刀に付いた血を払う。

　始めの頃、あれほど重く感じたというのに、今となっては驚くほどに軽い。重さなど、どこかに捨ててきたかのようだ。

「竜人を殺した後は、吸血鬼の始祖を殺す。それでようやく、責務は終わる 」

　ため息を吐く。

　嬉しいような、虚しいような。

　・・・・・悲しいような？

　俺が責務を果たしたとして。

そうなった時、俺には一体何が残るのだろう？

　俺は責務のことしか頭にない、はずだ。

俺にとってそれは全てだと思う。

けれど。全てすら無くなった時、俺は何を思うのか。

いや、今はその考えを取り払う。

まだ、俺にはやるべきことが残っている。

「魔殺しの刃よ、 」

　長い間、ずっと愛用していた刀を構える。

　元々、この刀は無銘だった。銘なんて、かつて無かった。

　けれど、いつしかそう呼ばれ始めていた。

　誰が言い出したのかは、覚えていない。

「この俺を、忌々しき人ならざる者の場へと導け 」

　刀は俺の命令に従い、俺を導いてくれる。

　それになされるがままに、俺は向かっていく。

　人ならざる者の元へと、静かに向かっていく。