ノブとキンカン ~歴史コメンタリー風の何か~

Katze

・本能寺について

信長「…………」

光秀「…………」

信長「……のう、キンカン」

光秀「はっ」

信長「正直、どう思う? お前」

光秀「どう、と申されますと?」

信長「いや……衰退したじゃん。織田家」

光秀「ええ、滅びましたな」

信長「滅んどらん。衰退しただけじゃ」

光秀「猿と狸を飼っていたはずが、気づけば猿と狸に飼われる有様。いっそ、本当に滅んでしまった方がマシと言えるくらい無様に衰退しましたな」

信長「……少しは言葉を選べ。キンカン」

光秀「ははっwwウケるww」

信長「…………」

光秀「まぁ、仕方ないではないですか。死にましたもん。上様」

信長「……お前のせいだけどな。ワシ、死んだの」

光秀「ははっwwウケるww」

信長「…………。つーか、お前、何で謀反したの? ワシ、結構お前には目をかけてたつもりなんだけど。そりゃ、色々厳しく当たったりもしたけど、期待の裏返しじゃん。そういうのって」

光秀「そりゃ、色々理由はありましたけどね。周りからせっつかれたりだとか、日本の未来を案じてだとか、上様の事が顔を見るのも虫唾が走るくらいに嫌いだったとか」

信長「最後の一つがすごく引っかかるが……それで?」

光秀「まー、一番の理由はアレですね……。ホラ、本能寺、あの時手薄だったじゃないですか?」

信長「まぁの。だからこそ、あっさりやられた訳じゃし」

光秀「それで、私は中国地方への援軍を率いていた訳じゃないですか」

信長「ふむ……で?」

光秀「『今、本能寺攻めたら上様殺れんじゃね?』って気になりまして。それで試してみたら、上手くいきました」

信長「そんなノリで殺されたの!? ワシ!?」

光秀「いやー、気になると試さずにはいられない質なんですよね。夜も寝られなくなっちゃうんですよ」

信長「それで永眠してたら世話ないよね!?」

光秀「いやぁ、ホントですねぇ。火遊びが仇になっちゃいました。まさか猿があそこまで早く帰ってくるとは思わなくて」

信長「……火遊びで殺されたワシの身にもなって欲しいね。マジで」

光秀「猿も柴田もガチ怒りで怖かったですねぇ。特に若様なんか烈火の如き怒りようで……。あんまり怖かったんで討ち取っちゃいましたけど」

信長「いや、普通怒るからね? 当たり前だからね? というか、ワシほどじゃないが、奇妙丸(織田信忠)討ち取った理由も酷いな。あやつも浮かばれんだろうに……」

光秀「まっ、いいじゃないですか。あんなマイナー武将。信長の野望でもいまいちパッとしませんし。つーか、上様以外の織田一族、微妙過ぎません?」

信長「どう考えてもこれからさらに功績を重ねていこうって時分に討ち取った貴様のせいじゃろうが。あと、能力値平均70超えてる奇妙丸は充分有能武将の域」

光秀「そっすか。私、平均90超えてるんで。そんな低レベルな次元の有能(笑)とか、どうでもいいです」

信長「……お前、ホント一回奇妙丸に討たれてこい。つーか、猿が討ち取ってなかったら、ワシが地獄から舞い戻って直々に討ち取ってたレベル」

光秀「おっ、第六天魔王の面目躍如って訳ですね。地獄行脚はお手の物ですか」

信長「いや、そういうんじゃないから。つーか、あれは信玄坊主へのあてつけで名乗っただけだからね。あんまりアレをワシの異名みたいに言うなし。正直、本人的には結構不満なのです」

光秀「ああ。つまり、上様の中の中二病パッションが迸って、うっかり漏れ出ちゃった黒歴史を掘り起こされるのは恥ずかしい……みたいな感じですか」

信長「人を痛々しい感じに言うのはやめい。大体、先にやったのは信玄坊主の方じゃから。ワシのはそれに対する粋な返しという奴だからね」

光秀「その粋な返しのせいで、後世の作品の上様、大体人間辞めるハメになってますよね。主人公任せて貰えた時はともかく、それ以外の配役だと基本ラスボス、闇属性じゃないですか」

信長「『裏切り者』の一言に全部が集約される貴様に言われとうないぞ」

光秀「私のイメージは次の大河で払拭される予定なので良いんですよ。きっと『日本を手中に収めんとする悪逆非道の大魔王・信長を討ち果たすべく立ち上がった義勇の将・明智光秀』みたいなイメージになります」

信長「……例え、どんな作品になったとしても、それが実はノリで主君討っちゃうような輩だとは、後世の者どもも思うまいよ」

光秀「もしかしたら『日本を悪鬼羅刹の化身・信長の魔の手から守った勇者』みたいに言われるかもしれませんよ。というか言われます」

信長「……ねぇ? 何でお前の中のワシ、そんなに扱い悪いの? 結構頑張ってたよ? ワシ。戦乱の世終わったの、ワシの功績大きいと思うよ?」

光秀「そりゃまぁ、上様は人望が無いですから。生前も散々謀反されてたじゃないですか。織田家の家臣も、大体上様の事嫌いですし」

信長「えっ? なにそれ? ワシ初耳。猿とか、ワシに結構懐いてた感じだったのに」

光秀「『いつ寝首掻っ切ったら織田家乗っ取れるかをずっと考えてた』って言ってましたよ。多分、私が謀反しなかったら猿がやってました」

信長「……なにそれ怖い。なんか、割と猿を買ってたワシが馬鹿みたいじゃない?」

光秀「馬鹿ですね。ウケるww」

信長「…………。じゃ、じゃあ、権六(柴田勝家)は? あやつは流石に――」

光秀「『お市様の兄じゃなければ視界に入る事すら許せない』って言ってました」

信長「権六ぅ!? というか、アイツ、どれだけ市の事が好きなのじゃ!?」

光秀「『あのゴキブリ以下の信長に従う恥辱も、お市様の近くにいられると思えば耐えられる』だそうです」

信長「……いや……もう。というか、待て。市は浅井に嫁に出しただろうが。それ以降も権六はワシに従っとったじゃろ?」

光秀「ええ。なので浅井に嫁に出して以降は『お市様を嫁に出すような節穴野郎をどうやって亡き者にするか』だけを考えて必死に生きてきたらしいです」

信長「そんな崖っぷちメンタルで上杉とかとやり合ってたの!?」

光秀「はい。なので、私も猿もやらなければ柴田が謀反ってます。どう転ぼうと詰んでますね。上様」

信長「……いや、待ってよ。さっきお前、ワシを討ち取ったら猿も権六もガチギレしてたって言ったじゃん? 嫌いな相手が殺されて怒るのって変じゃない?」

光秀「柴田は『俺が殺ろうと思ってたのに先に手を出しやがって!』って感じでしたね。猿は『上様はどうでもいいけど、織田の実権を明智に握らせるわけにはいかない!』って具合です」

信長「……部下に敬われなさ過ぎてて辛い。なんかもう、そんな輩に囲まれて50近くまで生きれたのが奇跡だったんじゃないかって思えてきた」

光秀「実際、奇跡じゃないですか? 人望0のくせに運だけはやたらいいですからね。上様」

信長「運も実力のうち……つーか、別に運だけでもないからね? ちゃんと色々知恵を絞った上での純粋な実力ですから」

光秀「ハハッwwワロスww」

信長「…………ところで、お前、随分他の家臣たちの事情に通じとるのう。そういうのって、当時から大っぴらに話してたの? 単にワシ嫌いで適当抜かしてるだけとかじゃないよね? お前」

光秀「織田家業務日誌に色々書かれてましたよ。ちなみに長秀は『甘党過ぎてキモい。糖尿病になれ』とか書いてましたし、一益は『もう……何か、嫌』って書いてましたね」

信長「……五郎左(長秀)も大概じゃが、切実に嫌な感じが伝わってくる一益のが一番つらいのう。娘に『生理的に無理』って言われた父親の気分。というか、何で業務日誌にワシの悪口書いてんの? ワシが見るとか考えないの? 馬鹿なの?」

光秀「どうせ上様見ないでしょ。大事な事でも立ち話で済ませちゃうくらいですし」

信長「いや、そりゃ、ワシだって忙しいからね。お前達をバリバリ働かせてたワシだけど、ワシもバリバリ働いてたからね」

光秀「ええ、ホント。無能な働き者は怠け者より質が悪いって奴でした」

信長「……今更だけど、お前のワシに対する評価、いくら何でも辛口過ぎると思う次第。尾張一国……いや、それ以下からあれだけの一大勢力築いた大名よ? ワシ。無能は流石に言い過ぎじゃない?」

光秀「大体は部下を酷使して築いた栄華じゃないですか。戦国切ってのブラック大名家でしたからね、織田家。現代日本なら労基法でお縄まっしぐらです」

信長「いや、あの時代にそんなの無いし。生きるか死ぬかを争ってる時代で労基もクソも無いよ? それに、手柄立てた者にはちゃんと報いてるからね、ワシ。福利厚生は充実してたのよ」

光秀「雇用保障は無いですけどね。佐久間とか林とか、長年尽くしてきたのに追放されましたし」

信長「……いや、そりゃそうだけど。だって、与える恩賞だって無尽蔵じゃないからね? 働いた奴にあげる褒美は働かない奴から召し上げないと出てこないんだよ?」

光秀「私なんて、筆頭家老だったのに、大事に築き上げてきた坂本周りの所領没収するとか言われましたし」

信長「いや、あれは所領替えだから、また話違うじゃん。それに、使える人材は最前線に置くのが合理的ってもんじゃん? 信長の野望とかでも最前線に有能武将集めて出撃させるじゃん?」

光秀「現実とゲームを混同させて語らないでください。ゲーム脳ですか? ぶっちゃけ引きます」

信長「先にゲームの話出したの貴様じゃのに!?」

光秀「どうせ、上様の事だから、佐久間も林もゲーム気分で追放したんでしょう? 『うわっ、こいつの能力値使えねーわ。クビな』って感じに」

信長「部下の能力値や特技が一覧で見れるなら、ワシはもっとうまくやれてた自信があるわ。……というか、秀貞はともかく、信盛の奴は結構良い数値貰ってるじゃん」

光秀「クソマイナーな若様以下でしょう? 塵と同じですよ」

信長「ねぇ? ワシだけじゃなく、奇妙丸の事も嫌いなの? お前」

光秀「いえ、特には……。まぁ、親子だけあって、顔が微妙に上様に似てるのは無性に腹が立ちますが」

信長「結局ワシ憎しなのね。……なんかもう、ここまで嫌われると、謂れがなくても土下座した方がいいのかなって気になってきた」

光秀「いいですよ。今なら頭を踏みつけて地面に抉り込ませる程度で許してあげます」

信長「いや、しないから。ワシ、お前に殺されてるし。どう考えても被害者だからね。むしろお前に土下座させるべき。まぁ、ワシは許さんけどな」

光秀「別にいいですよ。ぶっちゃけ、上様の許しとか要りません」

信長「……やっぱ打ち首だわ、お前」

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