第15話 選択肢

「そうとなれば話は早い。奴を殺す」


 鈴木と名乗る男が転生者とわかるや否や渡はすぐに背中の剣に手をかけ、空き地の中へと突撃しようとする。

 俺はそれを見てすぐに腕を横に広げ、渡を制止させた。


「なんだこの手は。どかせ、俺は奴を討ちに行かなければならん」

「待て、渡。何もそんなに急いで戦いをする必要はないだろ。まだこのゲームのことが全部わかったわけじゃないんだ。何が裏があってもおかしくはない。参加者同士で無暗に争って命を落とすような真似は」

「何呑気なことを言っている。お前がどう思っているかは知らんが俺は戦う。このゲームがどうだとかは知ったことではない。俺の内には何か現世でやり残した強い意思がある。それを果たすためにこのゲームで生き残らなければならないんだ」

「でも、まだ何かわかったわけじゃない。俺たちは既に一度死んだ身なんだ。その人間がもう一度命を落としたらどうなるかお前も知ってるんだろ。なのに、素直にゲームにのっとって戦いを始める気か? 一度冷静になってからでも……」


 渡は俺の腕をどかし、確固たる意志を持った目でこちらを見た。

 

「俺は俺の本能に従っているだけだ。その考えが間違っていることなのか、今は誰にもわからない。参加させられた以上、このゲームを進める以外に何か前に進む方法はないんだ。お前だって薄々気付いているだろ、望」

 

 俺は言い返すことができなかった。

 ゲームとは名ばかりでこれは人間間の命の奪い合い。俺たちはそれを強制されているが、なぜこんなことをさせられているのかは不明のまま。

 ただ一つはっきりしているのは、最後の一人まで生き残れば現世に生き返ることができるということ。俺たちは何か強い願いを持ったまま死んだ。その何かを果たすために生き返ることができる。

 でも、そのためには他九人の生きたという存在そのものを抹消しなければならない。

 自分が命を取り戻すために他を犠牲にする。俺たちはケープの男に言われるがままこんなゲームを続けていいのだろうか。

 俺にはそれがわからない。


「このままでいても何かゲームが進行するわけじゃない。だったら俺たちはやり合うしかないだろ。例えケープの男に駒のように扱われていたとしてもそれはそれで構わない。やらなきゃ自分がやられるだけだ」

「渡……」

「それに、今の奴は戦いを知らん。消すなら今の内にした方がいいだろう。お前とは一時休戦している、だから戦わない。だが、あいつは違う。ならば俺のとるべき行動は一つだ」


 そう言った後、渡は俺の制止を振り払い、鈴木という男の方へと駆けていってしまった。

 俺はその姿をただ見ていることしかできず、二人が交戦し始めても止めに行くことができないままその場に立ち尽くしてしまった。


「なあ、蘭」

「なんですか?」

「俺は、間違ってるのかな。このゲーム、やっていることは結局命の奪い合いだよ。究極的に考えれば自分のためなら他人は犠牲になってもいいってことだ。この戦いには何か裏がある気がする。それが判明するまで、待つっていうのは選択肢にならないのかな」


 こんなこと蘭に聞いても明確な答えが返ってこないのはわかり切っていた。

 それでも聞かざるを得なかった。俺に仕えると言っていた蘭なら自分が求めている答えを返してくれるはずだと思ったからだ。俺はただこの感情を共感してほしかっただけなのかもしれない。


「望の言うことは間違っていないと思います」

「そう、か?」

「でも、あいつの言うことも間違っていません。私は望の考えに従いますが、あいつの言うことにも一理あります」

「蘭……」


 俺が求める答えは返ってきているようで、返ってこなかった。


「望のこのゲームの謎を解き明かしてから考えるという意見も、あいつのわからないのなら突き進むという意見も間違っていない。だって、私たちには正解がわからないのです。わかろうとしたって自分の記憶はほとんどない、でも何か現世に強い願いを残したことだけはわかっている。ならば、はっきりとしているその事実に向かって走るあいつの行動原理は間違っていませんよ」

「でも……でもさ……」

「望の言いたいこともわかります。されどこれは命の奪い合い。相手を脱落させるということはそのまま命を奪うということ。人間なのです、常人ならば葛藤することは必然でしょう。でも、渡はそれを理解した上でゲームを進めようとしています。どちらも正しくて、どちらも間違っているかもしれないんですよ」


 蘭の答えはとても中立的なものだった。

 最後の一人になれば生き返ることが出来る。それは嘘か本当なのかはわからない。

 それでも、最後の一人になれば何かが起きる。本当に生き返ることができて現世に戻り、やり残したことを達成することができるかもしれない。

 渡はただそのためだけに戦おうとしているのだ。他に何もわからないのならば、はっきりとしているそれに従う。そのために真っ直ぐ他の転生者とぶつかろうとしている。


「俺は……どうするべきなんだろう」

「それはさっき望自身が述べていましたよ。何かがわかるまでは生き残るしかない、でしょう? 望の言う通り、このゲームに何かがあるという可能性は否めません。だから、それがはっきりとするまでは生き続ければいいのです」

「生きる、か」

「はい。大丈夫です、私がいる限り望を死なせたりなんてさせませんから」


 俺はただ渡が戦う様子を見ていることしかできなかった。

 止めるべきなのか、このまま見ているべきなのか、はたまた加勢すべきなのか。

 どれも間違ってはいない選択肢、どれを選ぶかは俺の自由。でも、どの選択が正解なのかは誰にもわからない。


「このままこうやっているだけでも、それは無情な行為なのかもな……」


 俺が選んだのはこのまま見ていることだった。

 二人が戦えばどちらかが命を落としてしまうかもしれない。俺はそんな状況を受け入れてしまったのだ。

 隣にいる蘭も俺に同調してくれている。なんだか、自分がどうしていいかだんだんわからなくなってきてしまった。


 


 

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Revive or Delete~10人の異世界転生者のバトルロイヤル~ 遊希 類 @rui-yuki

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