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2月27日○○朝刊 地方面
26日午後5時30分ごろ、S市のS市総合病院近くの雑木林で、子供の死体があるとの110番通報があった。S県警S署の捜査により、雑木林内の木に寄りかかる形で、男児の遺体が発見された。歯の治療痕から遺体の身元は近くに住む12歳の小学6年生である事が分かっており、警察は事件、事故両面での捜査を行っている。
しかしながら遺体の状態から死後1週間は経過していると見られており、その間捜索願等の提出もされていない事から、家族含めて何か事件に巻き込まれた事も考慮に入れ捜査を行っている。
最近、S市では「T島町猟奇殺人事件」と言われている連続殺人事件が発生しており、この事件との関連性も含めて捜査を実施する方向であるとの関係者の証言もある。
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担任教師の証言
--菊池雄太君ですよね。はい、私のクラスの生徒です。クラスでも特に問題も起こさない良い生徒でした。勉強はできて、運動は少し苦手かなと思いますが、まったく問題ない生徒でしたね。通信簿でも五点評価で、平均四点くらいとってましたから。
--最近の様子ですか? そうですね、そう言えば一か月前くらいにインフルエンザがクラスで流行して学級閉鎖が有ったんですけど、その後、くらいかな。ちょっと様子がおかしくなって。いや、その時はあまりおかしい様には感じなかったんですが、今改めて考えると、すこし、ええ。
--具体的にですか。そうですね、例えば口数が少なくなったり、中の良い友達と外で遊ばなくなったり、今になって思えば何か悩み事があったのかもしれません。あの時聞いてあげられればもしかしたらこんな事件にも巻き込まれなかったかと思うと、自分の不甲斐なさが情けないです。
--他にもですか。そうですね、ああそう言えば学級閉鎖から十日くらいたった頃ですかね、クラスで飼っていたハムスターが居なくなりまして。ハムスターが居なくなる前日に雄太君が飼育箱の近くで何かやっているのを見た子がいたらしく、彼が雄太君を犯人呼ばわりして、クラス中がそれに同調するような状態になってしまったらしく。雄太君も引くに引けなくなったのか、自分がハムスターを埋めたなどと言い始めたりして。いや、私は信じてないですよ、恐らく周りの空気に中てられてやっても無い事をやったと言わされたようなものだと思います。
--あと、クラスでも素行が悪いと言うか、まあぶっちゃけ不良と呼ばれる中学生達と付き合いのある生徒がうちのクラスに居まして、彼と喧嘩になってと言う事もありました。雄太君は普段は大人しく優しい子だったので、突然喧嘩を始めたので驚きました。職員室に居たところでその騒動を知りまして、私が止めに入りました。とりあえず、不良と付き合いのある生徒を生徒指導室に連れて行って話を聞いたところ、突然雄太君から殴りかかってきたと言っていましてね。彼を生徒指導室に残したまま、教室に戻って雄太君に話を聞こうと思ったらもうすでに帰宅した後らしく誰もいませんでした。
--はい、それから一度も学校には登校していません。警察にも聞かれましたが、どうやらこの喧嘩の後に雄太君事件に巻き込まれたみたいですね。あの時雄太君の方を優先して話を聞いていれば、もしかしたら事件に巻き込まれる事も無かったかもしれないかと思うと、残念でなりません。
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看護師の証言
--はい、確かにその月の金曜日は私の担当でした。警察の方にも聞かれたんですが、一日に何十人も担当しますので、個人個人、どのような人が居たのかは覚えていません。はい、すみません。しかし、カルテを見ますとどうやら私が担当していた時間帯に来ていたみたいですので、私が担当したのだと思います。
--はい、そうです。インフルエンザの検査だけですね。ご存知ですか、綿棒を鼻の穴に入れる迅速診断キットを使って検査をしました。カルテを見ると、陰性ですね。あ、そう言えば熱も出ていないのに検査に来るのは珍しいなとは思いました。あの子が被害者の方だったのですね。
--そうです、検査はインフルエンザの検査だけですね。結果は翌日にお母さまだけが来られて聞いていったとの事です。
--入院患者ですか? 警察の方にも聞かれましたがここ一か月の間でその患者さんの名前は有りません。えっ、裏の雑木林で見つかったとは聞いていたんですが、寝間着姿だったんですか。ああ、だからうちの入院患者じゃないかと警察の方も聞いていたんですね。
--すみません、何のお役にも立てずに。
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兄の証言
--すみません、父も母も参ってしまっていてインタビューに答えられそうもないので俺が代わりに。
--悔しいです、まさか弟が雄太があの猟奇殺人事件に巻き込まれるなんて、犯人を見つけたら俺が相手を殺してやりたいです。
--えっ、猟奇殺人事件とは関係が無いんですか。はあ、調査中だから分からない。いや、絶対そうですよ、弟が何の理由も無く死ぬなんてありえません。弟の死体見ましたか? あんなに惨い状況にされて、こんなの普通の人間がやる様な事じゃないですよ。
--死体の特徴ですか、あまり思い出したく無いんですが…。母は錯乱していたので、俺と父親だけで警察に行って弟の死体を見ました。正直酷かったです…。
--すみません、思い出したら気分が…。はい、弟の身体は綺麗なものでした。傷一つなく、黒子の位置や痣の位置等、俺が覚えている弟の特徴と一致していました。歯型ですか、歯医者にも行ってたのでそことも照合できたみたいであの死体は弟だと確定できたみたいですね。
--顔は見なかったのか、ですか。済みません、隠すつもりは無かったのですが、思い出したくなかったので。顔は有りませんでした。いや、正確に言うなら、顔の皮が全て剥がされていて…、ええ、もう弟の見る影も無く。事前に警察からは覚悟して見てくれと言われていましたが、はい、見た瞬間に父親と一緒にトイレに駆け込んでしまって。弟には悪い事をしたと、まともに顔も見てやれなかったと…。
--捜索願ですか、そうですね。出していません。俺は、雄太が居なくなった日にすぐに出すように言ったんですが、両親が必要ない、すぐに帰ってくると言うばかりで。こんなことなら俺が出しておけば良かった。なんで出さなかったのか…、すみません、俺には分かりません。
--いまだ犯人は見つかってないんですよね、もうあれから半年も経ってしまって…。お願いです、少しでも情報が分かったら教えてください。犯人を見つけないと、弟も浮かばれないと思うんです。
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フリージャーナリスト 新城誠①
始めは「T島町猟奇殺人事件」との関連を追って取材していた、菊池雄太君の殺人事件であったが、関係者から話を聞いていくに従い、別の事件ではないかと思い始めている。一旦ここで取材メモをまとめてみようと思う。
事件の概要は以下の通り。
2月26日午後5時30分頃、S市総合病院裏の雑木林で菊池雄太君の遺体が発見される。通報者は男性で、声の感じから青年から壮年ごろの年齢では無いかと言われているが、未だ本人は名乗り出てきてはいない。
遺体は寝間着姿で雑木林の中の大木に寄りかかるように座らされていたが、身体には特に外傷も無く首などにも索状痕等は存在せず、外因的な死因は発見できなかった。警察は毒殺も含めて胃の内容物の成分分析なども進めていたが、その情報は入ってはいない。
死後約一週間が経過しており、遺体の状態で特徴的な事が一点、先ほど外傷はないと記載はしているが、一部分のみ死後遺体損壊を受けている。一部分とは、遺体の顔の皮が全て剥ぎ取られているという状態である。前面すべての皮が剥ぎ取られ、表情筋が見れる状態で安置されていた。当然のことながら、外見による人物紹介は困難を極め、歯の治療痕及び、身体の特徴を親族に確認してもらい遺体が菊池雄太であることが確認された。
皮剥ぎの件に関しては、今後模倣犯が出る事も考えられるため、マスコミ関係者などには公開されておらず、一部の関係者のみ知りえる情報である。私は菊池雄太君の兄から情報を偶然得る事が出来た。
これも一般には知られていないが、T島町猟奇殺人事件の殺害方法とは大きく違う事から、警察関係者はすでにこの事件を猟奇殺人事件と結びつける可能性を放棄しており、個別の事件として扱っている。
菊池雄太君の生前の行動について、親族、担任教師、クラスメイトなどから聞き得た情報を以下に記載する。
一月末から二月上旬にかけて、雄太君が在籍していたクラスでインフルエンザが流行し、約一週間の学級閉鎖が決定される。学級閉鎖期間は、雄太君は家から一歩も出ずに友達と遊ぶことは無かったと言う。友人Tの話によると、菊池家に電話を掛けても母親に断られたと言う事である。
学級閉鎖期間、一歩も出ないと言ったが一日だけ例外がある。金曜日に雄太君は母親に連れられて、自宅から少し離れたS市の総合病院にインフルエンザの検査の為に通院している。守秘義務を盾にカルテは見せてもらえなかったが、看護師の話からすると検査を受けてすぐに帰宅したとの事である。翌日の検査結果の確認には母親のみがやってきた。
遺体のあった場所と、寝間着姿である事から、S市総合病院の何らかの関与も疑われたが、特に関与が決定づけられるような事象は発見されていない。
学級閉鎖解除後の週明けからどうやら雄太君は様子が変わったらしい。担任教師やクラスメイトの話によると、普段の社交的な性格は鳴りを潜め、大人しくあまり周囲に関わらないような生活を送っていたらしい。特に仲の良かった友人Tは「いつもは休み時間になると、クラスの別のグループの人達とも連れ立ってサッカーやドッチボールをするのだが、それも無くなり昼食後はすぐに何処かへ行ってしまう。帰りもいつの間にか帰宅してしまっている」と言っていた。
そのような状況が続きある日クラスで事件が起こる。クラスで飼っていたハムスターが居なくなっていた。居なくなった当日、クラスの飼育委員が珍しく最後まで残っていた雄太君を目撃している。彼はハムスターの檻に近づきじっとハムスターを見ていたとの事だった。
そして翌日ハムスターが居なくなり、雄太君が犯人とされた。クラスメイトから問い詰められる中、雄太君は「自分が殺した。そして庭に埋めた」と犯行を認める発言をしている。後日雄太君のお兄さんの許可を得て庭を確認させてもらったが、特にそれらしい痕跡は発見できなかった事を追記しておく。
ハムスター事件もあり、雄太君はますますクラスから孤立していく。不良との付き合いがある事から同じく孤立していたクラスメイトのHが雄太君にちょっかいを掛けていたが、それにも取り合わなかった。
しかしある時、執拗にちょっかいを掛けるH対して突然殴りかかると言う事件が起きる。小学生同士の喧嘩のため、特に大きな怪我などは無かったが、普段の素行不良からHに対して自宅謹慎が言い渡される事になる。雄太君に対しての特別なお咎めは無かったが、この日以降雄太君が失踪してしまったため、処分をする余裕が無かっただけかもしれない。
この日の足取りを追うと、喧嘩後、Hが教師に生徒指導室に連れていかれた直後に雄太君が帰宅する姿を友人Tが目撃している。喧嘩の事もあり、その後ろ姿に声を掛けたが反応は無くそのまま遠ざかっていったとの事だ。
その後、通常通り家に帰り夕食を取り部屋に入ったことまでは母親が証言している。食事時には、父親は仕事、お兄さんは部活で一緒の食卓を囲むことができなかったため、最後に雄太君の姿を確認したのは母親と言う事になる。
翌朝、雄太君が一階に降りてこない事を不審に思った兄が雄太君の部屋に入ると、そこはもぬけの殻だったとの事である。特に荒らされた形跡も無く、寝間着から普段着に着替えた後も無く、ただただ雄太君の姿が無くなっていたとの事であった。窓には鍵がかかっており、深夜に不審者が入り込むことも難しいと考えると、雄太君自らが夜中に外に出た可能性が高かった。
それを裏付けるように、昨夜締めたはずの玄関の鍵が開いていたとのことだった。
そしてその後、S市総合病院裏の雑木林で遺体として発見されるまで、一週間の間雄太君の姿を見た人物は確認できていない。
また、死体が発見されるまでの間、雄太君の捜索願が出されることも無かった。お兄さんは捜索願を出すように両親に進言していたとの事だが、捜索願が出される事が無いまま雄太君の遺体が発見された。
ここまでメモをまとめて見たが、数点の謎が浮かび上がってくる。
・雄太君はいつ、どこで殺されたのか。
死後一週間と言う事を考えると、行方不明になったその日に殺されていると思われる。
・雄太君の顔の皮を剥いだ目的は。
不明。その後、類似した事件も発生していない。
・雄太君の性格が変わった理由は
不明。インフルエンザでの学級閉鎖後から雄太君の様子が変わっている事が見受けられる。
・インフルエンザの検査に関して
熱も出ていない雄太君をなぜ、自宅から離れたS市総合病院に連れて行ったのか。
母親からの証言は得られていない。
・遺体発見現場がS市総合病院裏の雑木林である事は偶然か
不明。
ここで無理やり推理を進めてみると、インフルエンザによる学級閉鎖により雄太君は病院へ検査に行った。その後、雄太君は人が変わったかのように変貌してしまう。この原因が、検査の為か、その他の要因があるのかは判断できない。
その後、人が変わったような雄太君は学校内で暫し事件を起こす。
ある日、雄太君は自ら寝間着姿のまま夜中に家を出て、運悪く犯人と出会ってしまい殺され顔の皮を剥がされてS市総合病院裏の雑木林に遺棄されてしまった。
流石に無理のあるストーリーである。
引き続き情報収集に努める。
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フリージャーナリスト 新城誠②
新情報が手に入ったため追記を行う。
正直混乱している。
昨日、雄太君の遺品整理手伝いの名目で菊池家を訪れる事が出来た。色々と相談に乗ってあげている事からか、雄太君のお兄さんの信頼を随分と得る事が出来たようだ。
雄太君の部屋の整理に積極的では無かった両親を説き伏せて、お兄さんが率先して遺品整理を行い、その場に渡しも立ち会うことになった。雄太君の部屋は事件当時と変わらずそのままにされていた。ビニールに入れられた真新しい中学校の制服が掛けられているのが哀愁を誘う。
遺品整理とは言ったが、何か状況を動かす新事実が無いかの確認である。
まずは学習机から調査を行った。教科書やノートと共にテストのプリント等学校で使う道具類が纏めておかれている。成績等は担任教師が言う様にそれほど悪いわけでは無い様だった。
特に手掛かりも無く、本棚や戸棚等を探してみる。その年代の子供が好きそうな漫画やカードゲーム等が雑多に置かれている。携帯ゲーム機なども置かれていた。どうやらお兄さんのお下がりらしい。
その他の収納や押し入れ、ベッドの下まで探してみたが有用なモノは発見できなかった。
しかし、最後にお兄さんが雄太君が寝ていたベッドのマットレスとフレームの間にノートを一冊発見した。
そのノートは日記のようなもので、雄太君が遺体として発見される一か月余りの期間書かれていたものらしい。
素人目で照合しても、雄太君の字で間違いない様だった。
ひどく長い文章になるので、ここでは掻い摘んでメモにまとめる。
本物は全ページ写真に納めさせてもらっている。
2月4日 月曜日
インフルエンザのおかげで学級閉鎖になる。
午前中に家にかえると母親の様子がおかしい、こころここにあらずといた感じだ。
午後友達と遊ぼうと思ったら断られた。学級閉鎖中は家で大人しくしてろと言う事らしい。
夜中、一階に降りると両親が何か話していた「とりかえっこ」としか聞こえなかった。
2月8日 金曜日
検査の為に病院へ行く事になった。なぜか近所の病院では無く、大きな総合病院に行った。
鼻に綿棒を突っ込まれただけでなく、血液検査などいろいろと検査をさせられた。
途中おばあさんに奇妙な事を話しかけられたが、聞き取れなかった。
看護師さんは綺麗だった。
2月11日 月曜日
学級閉鎖が解除された。
健治と翔太のグループはインフルエンザ明けなのか元気が無くよそよそしい。
2月14日 木曜日
ハムスターが居なくなった。竹原さんが何かしたんじゃないかと話題になっている。
2月15日 金曜日
飼育委員の竹原さんが、自分がハムスターを埋めたと言っていた。
先生から、具合が悪くなったハムスターを家に持って帰って看病していたら死んでしまったので埋めたと聞いた。
2月18日 月曜日
古市君が健治に食って掛かって喧嘩になった。
先生に連れられて行く古市君が去り際に何かを叫んでいた。
「俺は知ってるんだ、お前らもう違ってるんだろ」と言う言葉が印象的だった。
雄太君が失踪する直前までの日記がここまでである。
私が聞いた情報とは大幅に違っている事が分かる。しかし、そのすべてが客観的に雄太君を見た場合に得た証言であり、雄太君の主観では決してない。これは雄太君の主観を見るうえで良い資料になるかもしれない。
しかし、客観で見た場合と主観で見た場合で、見える景色が百八十度違ってくる。ここまで違うと、雄太君の残した日記が妄想ないしは創作なのではないかと疑ってしまう。
何より、それを補強するような情報がこの後に記載されていた。
2月19日 火曜日
古市君は学校に来なかった。また、友達のよーちんがインフルエンザに罹った。
給食がソフト麺だったが、味がしなかった。何を食べても味がしない。
家に帰るとまたお母さんの様子がおかしい。
夕食も味がしなかった。
2月20日 水曜日
午前中に学校を休んで病院へ検査に行った。
前と同じS市総合病院である。また同じ看護師さんであった、これはラッキーであった。
しかし、色々と検査をされたが結果はまだもらえないとの事だった。
古市君を病院で見かけた。なんの病気だろうか。
2月21日 木曜日
学校へ行く。みんながよそよそしい。
相変わらず食事は味がしなかった。
2月25日 月曜日
学校へ行くが、誰も話しかけてこない。
学級閉鎖以降、誰かしらが休んでいてクラスメイトが全員そろったことが無い。
夕食は味がしなかった。
夜寝る前にこの日記をつけているが、一階から何か音がする。
この日記には彼が失踪してから死体が発見される前日までの分まで記載があった。
お兄さんとも確認し、部屋に合った他の文書の文字とも比較したが、素人目ながらこれは雄太君の文字で間違いないと思う。
と、すると雄太君は遺体発見のギリギリまで死んでいなかったことになる。
しかし法医学的には死後一週間が経過しているとの結果も出ている。
ここで齟齬が出てしまっている。
おかしな点は他にもある。
雄太君のノートを起点とすると、性格が変わったのは雄太君では無くクラスメイトの方であるとみられる。特にハムスター事件、古市喧嘩事件の二つは雄太君は一切関係が無い事になっている。
病院の検査に関して、インフルエンザの検査だけでなく、その他血液検査等も行っていたと記載されている。また、失踪後にも一度病院を訪れているらしい。
そして、味がしなくなったとの記載が最後の一週間の間で散見されるようになる。雄太君が失踪したタイミングとノート内で味がしなくなったタイミングが同じである事は何か関係があるのか。
各種証言と、雄太君のノートの記述に関して、特徴的な事象に性格が変わると言うのがある。各種証言では雄太君が、雄太君のノートでは他のクラスメイトが、性格が変わっていると言う。
この現象に関して一つ思い出したことがあった。
チェンジリング、日本語では取り替えっ子と呼ばれる現象だ。
ヨーロッパの伝承で、子供が誰にも気づかれずに連れ去られ、その代わりに人間以外の生物、フェアリーやトロール等の子供に交換させられていると言う伝承である。取り替えられた子供は今までとは違う言動や態度を取り、次第に人間とはかけ離れた見た目になっていくと信じれれている。
近代では暫しは知的障害や奇形児の成長しない子供たちの特異性を説明するために、このような伝承を用いて取り替えっ子と言うレッテルを貼られる事になる。
仮に、雄太君が何か別の人物に取り換えられてしまったとしたら。あるいは、雄太君以外のすべてのクラスメイトが別の人物に取り換えられてしまったとしたら。
では何と取り替えられてしまったのか。人なのか、それとも人ではない別の何かなのか。
雄太君の剥がされた顔の皮は別の何かが被って雄太君に成りすましているのでは。
考え出すときりが無かった。
そもそも取り替えっ子と言う概念自体が間違えている可能性の方が高い。
あり得ないと思いつつも、不可思議な事象に考えがまだ理解できそうな範疇へ流れてしまいそうになる。
情報が不足していた。
今回の調査は一旦打ち切りとしたいと思う。
また、新たな情報が手に入り次第、調査を再開できればと思う。
警察発表ではいまだ犯人は捕まっていない。
チェンジリング ー集団交換ー 大鴉八咫 @yata_crow
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