白いチロと赤いマフラー

紫 李鳥

白いチロと赤いマフラー

 



 ぼくは野良犬、白い犬。


 名前はあったけど、……忘れちゃった。


 あのころは幸せだった。


 暖かかった。


 でも、ちっちゃかったからよく覚えてないんだ。




 ぼくは今、一匹ぼっち……


 寒い冬を、人ん家の床下やビルの隙間で寝てるんだ。




 そんなある日。


 ぼくが、だれもいない公園の滑り台の下で震えていると、マフラーをした女の子が話しかけてきたんだ。


「わー、かわいいワンちゃん」


 そう言って、ぼくの頭を撫でたんだ。


 ぼくはすごく嬉しかった。


 だって、ぼくは汚れてたから、触ってくれる人なんていなかった。


「わたしのおうちにくる?」


 そう言って、女の子はぼくを抱っこしてくれたんだ。


 嬉しかった。


 暖かかった。


「ふるえてるわ。マフラーまいてあげるね、チロ」


 女の子はぼくのことをチロって呼んだんだ。


 それで、ぼくの名前はチロになった。


 女の子からもらったマフラー。


 嬉しかった。


 暖かかった。




 それからのぼくは、とても幸せだった。


 女の子のパパやママも優しかったしね。




 だけど、幸せは続かなかった。


 女の子が突然、……天国に行っちゃったんだ。


 生まれたときからずっと病気だったんだって……。


 ぼくはそんなことも知らないで、いつも甘えてばかりいた。


 ぼくは哀しくて、やりきれなかった。


 だからまた、放浪の旅に出たんだ。


 女の子にもらったマフラーをして。


 だから、北風が吹いても寒くなんかなかった。




 あの町、この町、さ迷い歩いた。




 けど、クリスマスのころになって、不思議なことが起こったんだ。


 どこの町に行っても、みんなが優しくしてくれるんだ。


 ぼくは嬉しかった。


 それに、寂しそうにしている子がいてもぼくが行くと、明るく笑って、元気になるんだ。


 だからぼくは、いろんな町に行って、みんなに元気をあげたんだ。





 今日もまた、知らない町にやって来たとこ。


 雪が降っていた……


 そしたら、だれかがぼくのことを、こう呼んだんだ。












「犬のサンタさ~ん!」










      おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白いチロと赤いマフラー 紫 李鳥 @shiritori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説