九章 4
*
神社の境内には、数は少ないものの外灯があった。
その明かりのもと、おびただしい数の死体が倒れている。
石段の途中で血を吐き、木々の枝にひっかかり、あるいは鳥居によりかかるようにして。
みんな、町の大人だ。蒼嵐たちを捜索していた連中に違いない。いったい、ここで何があったというのか?
蒼嵐は崇志をながめた。
往人も崇志を見る。
「崇志さん。これ、あんたがやったの?」
「いや、おれじゃない。美菜子でもないな。おれたちが、おまえらを追いかけてるときじゃないのか?」
「でも、素手でひきちぎられたみたいな死体だ。あんたたちのやりかたに似てる」
「……そうだな」
往人と崇志の会話を、蒼嵐は呆然と聞く。
すごい惨状だ。もうたいていのことは見なれたが、それでも目を見はる。町のなかに凶暴な人喰い熊が十頭以上もウロついていれば、こんなふうになるだろうか。
おそらく、町の主立った男はほとんど殺害されている。自警団や、消防隊や警察官、若くて力のありそうな連中は、すべてだ。
「誰が……こんなこと、したのかな?」
「誰がって言うより、何がだろ? こんなの人間の仕業じゃない」
答える往人の顔もこわばっている。
崇志が「しッ」と蒼嵐たちを制した。
「まだ近くにいるかもしれない」
これをした何者かが、という意味だとわかって、蒼嵐は全身が寒くなった。
慎重に石段をおりていく。
風で木々の葉が音を立てただけで、蒼嵐はとびあがるほど、おどろいた。
石段をおり、鳥居をくぐる。
鳥居の外にも死体があふれていた。銃や刃物を持った人々の死体だ。
「そら。おまえ、武器ないだろ? これ、持っとけよ」
往人が大ぶりのとびだしナイフをひろいあげて手渡してくる。
新品なのか、刃こぼれもなく、刃が月光にギラついた。
言われたとおり、蒼嵐はそれをポケットにおさめた。
往人自身もあたりを物色して、巡査の死体から拳銃をとりあげる。
「銃なんて、使いかたわかるの?」
「ドラマでよく見るだろ? なんとかなるよ」
死体の山をふみこえるようにして、神社まわりの森のなかを歩いていく。今のところ、不審者の姿はない。
「崇志さん。これから、どこへ行くんですか?」
たずねると、
「この調子なら、町から逃げだすことじたいは難しくないな。もう追ってこれるヤツは残ってないんじゃないか?」
「そっか。あわてて逃げまわる必要はなくなったんだ」
往人が会話にわりこんできた。
「でも、ここにある死体は多くても百人だ。まあ、七、八十人ってとこ? 町の大人全部が死んだわけじゃないから、油断はできないよ。年寄りでも猟銃を持ってれば、おれたちくらい、あっけなく殺せる」
「まあ、そうだな」と、その点は崇志も認める。
「これまでのように、夜間のパトロールや各所の見張りに立つことができる連中が減ったのはたしかだが。やっぱり、替え子を始末してしまうのが一番いい」と言う。
やはり、安平は替え子ではなかった。蒼嵐たちの替え子との共有感覚も続いているし、これだけ不思議なことが続いて起こるのも、そのせいだ。
だとしたら、いったい誰が替え子なのだろうか?
しらみつぶしに、まだ生きている同級生たちを探しまわるしかないのかもしれない。幸いにして、見まわりをする大人が減って、比較的自由に町のなかを歩ける。
そんなことを考えていたときだ。
森の前方に、ふらりと人影が現れた。
まだ生きている大人がいたのか、それとも……。
蒼嵐たちは立ちどまり、目をこらした。
樹木のあいだを月光をあびて歩いてくる人影。
大人ではない。細身の体形は蒼嵐たちくらいの少年であろう。
「あッ——」
その顔を見て、蒼嵐は恐怖を感じた。
安平極魅の整ったおもてを見て。
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