五章 4
美菜子の言葉をだまって聞きながら、蒼嵐はその無気味さに寒気を感じた。
「……待ってよ。春木さん。それ、おれたちの学年に一人だけ、化け物がまざってるってこと?」
「そうよ」
「それ、誰かわからないの?」
「わからないのよね」
重い口調で、往人も言う。
「わかるだろ? だって、それって“アイツ”だよ」
「アイツ……」
蒼嵐はドキッとした。
そうだ。きっと、アイツだ。
ふつうの主婦やおばあさんを虫ケラみたいに殺してまわっている、あの少年。
薔子もうなずく。
「あの人、自分以外のことを化け物だと思ってたよね。とうぜんだよ。自分のほうが化け物なんだもん。わたしたち人間は、化け物から見たら“化け物”でしょ?」
つまり、かえごとは、替え子。とりかえっ子のことだったのだ。
蒼嵐は以前、煌から聞いたことを思いだした。
「前にさ。煌が話してた。ほら、あいつ、ゲームオタクだったから、魔物とか幻獣とかに詳しかったんだよね。なんか西洋では、妖精が自分の子どもを人間に育てさせようとして、赤ん坊ととりかえていくんだって。妖精って言ってもキレイなやつじゃなくて、ゴブリンとか、ホビットとか、あんなやつだったと思うけど。だから、見ためが人間とはぜんぜん違うわけで、人間の親は一目で自分の子どもじゃないってわかるんだ。
でも、そんなとき、わざと残されていた妖精の子どもを熱湯の煮えたつ鍋のなかに入れたり、火焙りにするマネをするとさ。妖精の親があわてて、自分の子どもをとりかえしに出てくるんだって。あれ? ほんとに殺しちゃうんだったかな。偽物の子ども……」
「おれたちの町じゃ、替え子のほうが人間、殺してるよ」
「ごめん。なんか思いだした。似てるなって」
「そうかもね」と言ったのは、美菜子だ。
「もしかしたら、日本にも、そんな妖精みたいなのものがいて、異空様はそういう生き物なのかもね」
薔子が思案がちな目をして言う。
「でも、それじゃ、とりかえられた本物の子どもは、どこに行ったの?」
美菜子はあっさり告げた。
「殺されたんじゃないの? 異空様に」
往人は納得いかないようすだ。
「だけど、おかしいよ。町の大人は、なんのために、そんなことするんだよ? 自分の子どもをつれていかれて殺されるんだろ? なんのメリットもない。てか、悪いことしかない」
「だから、言ったじゃない。この町で石油とか金鉱とか見つかるのは、異空様のおかげなのよ。魔神も神のうち。たとえ、やってることは悪魔と同じでもね。神様っていうのは、そこに存在するだけで周囲に強い運気を呼びよせるの。この町の人たちは、金で子どもを売ったのよ。取り引きよね。こっちは魔物の子どもを養育する。そのかわりに、みんなに大金が入ってくる。そういう契約ってことよ」
そう言われると、ぐうの音も出ない。
蒼嵐は弱々しく反論した。
「おれたちが殺されるのは、なんで? 替え子は神様の子どもなんでしょ? 殺されるなんて、おかしいよ。それに、たとえ替え子がなんかの理由で殺さないといけないんだとしても、ほかの子どもは人間なのに」
「替え子は子どものうちは人間と同じなの。だけど、成長するにしたがって人間離れしていく。人間にはない不思議な力を使い、あばれだす。殺戮が始まるの。だから、替え子が血に狂う前に殺すのよ」
往人がよこから口を出す。
「じゃあ、おれたちが殺されるのは? 替え子が誰か見わけられないからか?」
美菜子はうなずく。
「それもある。けど、それだけじゃない。君たちだって自覚してるでしょ? 変な夢を見たり、超能力みたいな力が自分にあるような気がしない?」
ギクッとして、蒼嵐はだまった。
そうだ。昨日からとつぜん見だした変な夢。
それに、薔子は予知夢を見ると言った。
美菜子は蒼嵐たち三人の目を順番にのぞきこむ。
「替え子と生贄は通じているの。魂が結ばれているのよ。生贄は替え子を通じて異空様の神通力をほんのちょっとだけ使える。でもね。逆もある。生贄は替え子に心をのっとられて、体をあやつられることがあるのよ」
「体をあやつられる……?」
蒼嵐は思いあたった。
「それって、死体になっても?」
「死体になっても。というより、たぶん、自我のなくなった死体のほうが操作しやすいんじゃない?」
「拓也や杉本の死体が動きまわったのは、そのせい……?」
「でしょうね」
「心臓をとりだしたのは?」
「なんでかわからないけど、ヤツらの霊魂は心臓に宿るの。えぐりだされると、活動を停止する」
なるほど。多くのことがわかった。
少なくとも、これで、蒼嵐たちが両親に殺される理由は判明した。説明のつかない異常なことと思っていたゾンビ化の原因も理解できた。
「……おれたち、だけど、どうやったら生きのびれるのかな?」
蒼嵐のつぶやきに、薔子の声がかさなる。
「美菜子さん、言ってましたよね。美菜子さんの生贄としての役目は終わったから、もう町に帰っていいんだって」
「生贄が恐れられるのは、替え子にあやつられるからよ。替え子が死んでしまえば、生贄と異空様とのつながりは断たれる。ただの子どもにもどるってわけ」
往人がハッと息をのむ。
「替え子を殺せばいいんだ! そうしたら、おれたちが殺される理由はなくなる」
薔子もはずんだ声を出した。
「そのとおりね!」
たしかに、それは現状を解決できる、ひとすじの光明だ。
おそらく、それ以外に解決法はない。
(だけど……替え子って、誰なんだろう?)
それを見わける方法はないのだろうか?
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