第12話 『まだ視えぬチームメイト』
教室で合流した一同はグラウンドを目指す。道中で朱里から野球部の現状の説明を受ける。学校の規定で部活動と認定されるには部員が最低五人必要とされており、下回る場合は同好会という形で創設が認められている。同好会でも専用のグラウンドが用意される校長の太っ腹ぶり。現在はマネージャーの雛を含めての部員四人では同好会の創設もままならない。
「てっきり俺以外の選手も勧誘しているものとばかり思っていました」
「基本、当校では生徒の勧誘といったことはしないの。だから遠夜君は例外。勧誘した時に伝えた通り創設するに当たってリーダーシップの取れる子が必要だと思って私が校長に無理言ったの」
「へぇー、遠夜って推薦組だったのか。右眼が見えないのに凄いな!」
「ちょ、ちょっと!」
躊躇いなく俺の右眼に触れた話題を持ち出したアーサーに対して朱音が敏感に反応した。その事にアーサー本人は呆けた顔をする。彼からすれば右眼を失明した状態で推薦を勝ち取った遠夜の事を褒めているつもりだ。ちなみに話題の渦中にある当人、即ち都筑遠夜こと俺は一切、気にしていない。こういう話題は他人の方が敏感になっているというのが相場である。
「朱音、ありがとう。それとアーサーもな。正直、右眼を失った俺が推薦されたなんて今でもびっくりしているぐらいさ」
勧誘の理由をいくら説明されたことで納得はできたが理解が出来ないのいうのが本音である。そんなことを声にすれば朱里に失礼だから黙ってはいるが、俺が彼女の立場であれば間違いなく勧誘はしない。まして創設を考えているなら戦力として確実性のある生徒を選ぶ。
俺たちの会話を聞いていた朱里は言うべきか悩みながらも口を開いた。
「こんなこと本人の前で言うべきではないのでしょうけど、実績どころか今年から始動する野球部に来てくれるのは何かしら事情がある選手だけなの」
「ちょっと! お姉ちゃん、何言ってるのよ⁉」
こちらの顔色を窺いながら朱音は姉を叱る。先程から怒っている朱音が気の毒になってきた。ただ他人の為に怒って叱れるのは誰にも出来ることではない。まさしく朱音の人柄が良く分かる。
「まさしく異色の野球部ですね!」
「……まあ、そうなるな」
雛の言葉は的確についていた。右眼を失明した捕手に女性投手。ハーフの右翼手に病弱のマネージャー。ここまで特徴のある選手が揃うことも珍しいだろう。こうなってくると一癖二癖ある仲間を集めたくなってしまう。
「それよりもう一人、部員集めないといけないんだろ? 何かあてとかあるわけ?」
アーサーの一声で脱線していた話から復帰した。
「それなら問題ないよ!」
朱音は集団の一歩前に出て体を翻してから言った。反動でスカートがふわりと弧を描いて健康的な肌色の太股が露わになる。そこのところを一切気にする素振りを見せない辺り彼女の活発さを表していた。
「私の中学時代のチームメイトがグラウンドで待ってて、その子も入部するって言ってたの」
「チームメイトってことは女の子ですか?」
「そうだよ。ポジションは
雛の質問に朱音は元気よく答えた。
「そうか。それは楽しみだな」
まだ視えぬ三塁手にしてチームメイトへの期待が込み上げてきた。朱音の元チームメイトなら彼女に感化されて超が付く程の野球好きだろう。そうなでなければ高校で野球を続ける決断をするのは難しいものだ。
「――ふふ、グラウンドが見えてきたわよ」
朱里が差す指先を追う形で全員が視線を送った。その先には創部前の段階の部活に与えられる規模ではないグラウンドが広がっていた。ただしグラウンドは整備されていない荒地ではあるが。そしてその中央に二人の生徒が立っていた。
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