第10話 生きるという意味って? 私編8
翌日、朝五時前、遠藤というあの"鬼"の腰巾着である課長さんが、ドアノックなんて何それ美味しいのってな感じで、バァんとドアをいきなり勢い良く開け、私の寮部屋にいきなりやってきて、
「オハヨ〜さん。
昨日支店長に、楯突いたんだって?」
んん〜?楯突いた要素、昨日の会話にあったっけ?何か違う奴のことか?ん〜‥‥でも課長がわざわざ私の部屋に来るんだ、気のせいじゃないかもしれないな‥
さっきから、ほぼ何時も会話を交わさない、居るか居ないかわからない同室の同僚も、目を擦りながら何か憐れみを持った目で、私を布団の中から覗き込んでいる‥そんな視線を受け流しながら‥
ナニナニ?もしかして私はやっぱり詰んでるのかな?まぁ今となっては、開き直るしかないんだが‥
そんな私の心の中の開き直りなんか、全く気も留めていないであろう、ヒョロっとした猫背で、目に真っ黒なクマを彩った課長さんは、
「なんかね、支店長が今日からおまえさんを夜勤に廻すから、最速連絡しとけって言われたもんで、まずは伝えにきたんよ‥
なんかご愁傷さんだね♪」
まぁ、他人の不幸は蜜の味よろしく、いい笑顔だこと‥クマ持ちおっさんの笑顔なんざ、需要は無いと思うが‥
「そうすね‥はは」
なんていう無意味な返事で受け流し、課長の視線から目を背け、私は着替えの服を私物ボックスからガサゴソと探しだした。
そんな私を、一瞬課長は睨みつけ、"ふんっ"と溜め息?かはわからんけど、笑顔から口をへの字に変えて、去っていった‥
ドア位閉めてけゃ、おらっ!
と私は心の中で呟いてみた‥
まぁ、なんだ‥やはり夜勤というチケットをあの"鬼"は寄越してきたか‥
夜勤とは、路線便が到着したあと、ターミナルホームに全国から集まってくる、ホーム上から溢れ出している荷物を、エンドレスに各支社向けに荷捌き、または配達区域に仕分けしていくという、賽の河原よろしく、積み上げた荷物を鬼が壊していくように、ひたすら荷物を夜通し捌いていくというもので、夜の七時から朝の六時まで、まぁ、昼勤よりは勤務時間は少なくなるが、荷捌く人数が荷物に対して全く足りてない状態で、人が荷捌ける物量を遥かに越えるお仕事をさせられる。
具体的には体育館の壇上を思い起こさせるような高さの運行バスを、もっと大きくした空間に、前から後までいっぱいの荷物が詰まっている十一トントラックが、その夜勤中約200台位が怒涛のように、ひっきりなしにやってきて、約8〜10名で約11時間制限内で捌くのだ‥普通なら気が触れる‥
あの鬼が、イジメターゲットを潰す時に良く使う手段だ‥
流石に私は壊されるのは目に見えるので、これは逃げなきゃまずい‥六年もここに居たから、おかげで危険察知能力も磨かれている。
まず、ここで大人しくしているのは阿呆の所業だ‥
さてさて、あの支店長共々この会社の連中は気が触れている。
そのまま退職届なんぞ出した処で、東京支社という間接部門で、ここの支店長に忖度して、闇に葬り始めるだろう‥それをもぅ察知していたので、ずっと前から私は準備はしてきた‥
具体的には、辞める為に四年前から会社のバイトが使用しているタイムカードに、手書きで自分の名前が入ったカードを扠し続けており、しかも運行カードの記録表は、実時間が書いているので、その記録表と、今まで書いてきた勤務表もコピーを取っている。
これらの帳票と、手渡される給与明細と照らし合わせたら、すぐに違法行為ということは白日に晒すことが出来る。
これは、サブロク協定違反だけじゃなく、労働基準法違反で、すぐ会社の管理職がアウトになるネタ‥
しかもこの会社、奴隷を絡め取るためボーナスを辞める時に返金させる契約書を、全社員に書かせてる。
これまた、労基違反且つ、勝手にお金を貸し借りする貸金業規制法違反。
あと、タコメーターの改造記録、これは運行便はタコメーターと呼ばれる路線記録の為の、記録版、あと速度制限装置が埋め込まれている測定器があるのだか、会社内の整備ボックスでは、制限解除を無法的に行っている記録も盗んでおいた。まぁ、普通に運行法違反、道路交通法違反でパクれる。
あと、会社内に[台貫]と呼ばれる、トラックの積載量を測る施設があるのだが、基本この台貫を通らないと、運行はしてはいけないのだが、ここを通らせないで運行させている記録表もゲットしとる‥つまりは、義務である台貫測量を行ってないトラック記録があるんす‥
つまりは、過積載やり放題ってことで、道路交通法違反。普通に会社は行政指導が入る。あと下手したら会社ぐるみの詐欺罪の刑事罰で、反社会的勢力ということで、吊るし挙げられる。
他にも色々あるが、これだけで真っ黒、行政か、警察にこの記録を挙げれば、会社は不法会社ということで、吊し上げが世間からくるのはほぼ間違いない。
最速、この記録を持って会社に三行半を叩きつける為に、ベッドの裏、普通はヱロ本とか隠す場所なのだが、そこから百均プラスチックパックに入った脅しネタを引っ張り出し、南千住に東京支社があるのだが、電車でそこまで行く為に、まずは会社作業着じゃなく私服に着替えを私はし始めた。
まぁ、昼のトラック仕事なんざ、もう最速自分の中ではどうでもいい‥
これから自由を掴み取る闘いを生き抜くんだっ!
オレの戦いはそこにあるっ!
そんな感じで、なんか私はブルータスモードで勇み込んでいると、同室の同僚の身体が150cmそこそこだけど、妙にガッチリした体格のサト君が、久し振りに話し掛けてきた‥
一言
「やるの?」
なんかシンプルだけど、全てを悟ってるんだろな‥って感じの問いかけを、今の今まで何をするかも言ってなかったのに、全てを察知したと思われるつぶやきを、私に投げかけてきた。
私は一言、
「うん、そのつもり」
と、これからの道程を描きながら、不思議に笑いが込み上げて来るような笑いとと共に、返事をしてみた。
「そっか‥がんばりなよ」
とサト君は返してきて、無理した笑顔を私に向けてきてくれた。
何か、あまり接点は無かったのだが、お互い酷い目に合わされてきたからね‥お互いに通じる処はあると思う。
少し間を置いた処で、お互いテレパシーで"幸運を祈る!"と呟き、親指をお互い突き立て、Good Luckを刻み、そのタイミングで私は着替え終わったので、私の私物を全て、私物ボックスから手提げ袋に移し替え‥といっても、ほんと布団とかは会社のものだし、制服もこれからいらなくなるから置いていくものとして、持っていく私物は手提げ袋2つに纏まってしまい、そのまま二袋を両脇に抱えて、六年間お世話になった寮部屋に、もう戻ることはないと、なんと無く認識はしてるのだが、不思議と感傷もなく、バイバイをした‥‥
現世で地獄を見た私は異世界でも地獄を見ているのは何故だろう ShoTa(ショタコン) @ShoTaCom
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