第9話 生きるという意味って? 私編7

意識が真っ白になった後、何かに"おいでおいで"されてる気がしたが、暫し遠い目をした後、今という現実に、何とか私は意識を呼び戻すことに成功した。


目の前の現実の生きている"鬼"に、意識は嫌がっているが、"私"は立ち向かわなければ殺られるという生命の危機というか、逃げたら殺られるという恐怖から、生命維持本能のままに、少しどもりながら、探りながら"鬼"に話し掛けた。


「す、‥‥みま‥せん(ピクピク)、少し、お話、したいこと、ととが、あり、ありまして‥(もじもじ)」

と勇気を振り絞って出した声に、即座に"鬼"は反応し、

「あぁ、ゴミが作業ほっぽり出して、なにほざいてんだ?あぁんおりぁあ」

と、威嚇、というか?何に威嚇しとるか分からんけど、まずは凄んで萎縮させる何時も通りの、支店長様の有り難いお言葉が降り掛かってきた。


これまた意識を飛ばしそうになったが、ここは踏ん張り、


「すみません、すみません(ペコペコ)、お、恐れ多いのは承知して‥います‥が‥支店長‥

申し訳ない‥のででで‥すが‥‥‥‥‥‥‥

私事ながなが‥ら、家庭‥‥の事情で‥寮を出たい‥のででで‥す(オドオド)‥‥‥


吃りながらオドオドお願い?を私は宣言してみると、"鬼"は顔を少し赤らめながら、ガチガチな体躯と、オールバックのテカテカな髪を、こちらに蛍光灯の光を反射させながら、

「あぁん、おめ、逃げるづも"りなのが?あぁ?

おめの世話してやっとるのは、誰だっとおもどるんや、わりゃ!殺すどっ!

まぁ、おりゃは鬼じゃなかんど、少しおめに考える時間やっど、少しあだまひやせぇや」


以外にまとも?優しい?返事が、世話がうんちゃら?鬼じゃない?『殺すど』とかは聴こえた気はするけど‥予想外に良い答えが返ってきたので、少し私のどもりが治まり、

「はい、有り難うございます!

少し頭を冷させて頂き、また支店長に相談させて下さい!」


と少し持ち直して返事を宣うと、"鬼"は急変し、顔をもっと赤らめさせながら、

「あぁん?舐めとんのか?おめ?

おめがおりぇに意見するなんざ、ブチ殺されでも、もんぐねぇゆぅこったど!

いまはごろざねぇから、眼のま"え"がらぎえろいうごとだで!

あど、ぎょうの作業ば、やらんでもえぇど、おめのごんごのごどばよ、ぢゃんどおりゃががんがえで、場所がえしとくるじぇ、がぐごじどげ」


んんん〜?言ってることが訛ってるから、少し解釈に不明点はあるけど、うん‥『お前酷い目に合わしてやるぞ!』と"鬼"が言ってるのは分かった。

まぁそうだろね、一応時間もくれた事だし、帰ったら退職届を書いて、明日東京支社の人事に退職届を出そうと決〜めた‥

と、心の中で爽やかに、ぐ〜をしながら私が決心した瞬間だった‥


でも今回の絵面は私の中では想定はしていたのだが、やはり現実になるとかなり来るものがある‥

そんな融解した私の心の中で、"鬼"にこれ以上、私の声を聞かせると、物理的に私は無いものとされる危険があったので、色々と思うとこはあったが、ここは退散することにした‥

まぁこうなることは予想してたし、これがキッカケで、娑婆に出るにはいい機会かもしれないな‥‥‥

と自分の中に区切りをつけた様な、諦めに近いかもしれないが、何かスッキリした感情、小風がそよそよと触れた様な感覚が、自分の心の奥で湧き起こっている事を自覚しながら、沈黙を守りながら支店長室を出て、"鬼"にペコリと頭を下げ、そのまま扉を私はそっと閉めた。


寮部屋に向かいがてら私は、"今回は寮というかこの会社に見切りをつける良いチャンスだよね‥この無限地獄から出ることが、まずは優先させるべきだよねっ!"って、心のつぶやきと、念仏の様に私の心を納得させながら、ターミナルの隣の寮の寝床に、これ幸いと私は突進していった。


ちなみに私の寮部屋は、二人部屋で、四畳の部屋に、二段ベッドが備え付けられ、テレビもエアコンもない、私物はベッド備え付けの白いワンボックス(箱?)のみ、何時でも火事が起きたとしても、すぐに逃げられる仕様になっている‥しかも自殺防止に窓は鉄格子が張り付いているという、素晴らしい住環境なのだ‥まぁぷるぷるぶるっちゃうよね‥

まぁ実際、この部屋に私が居るのは、ほんと寝る時くらいなもので、間違ってもここで寛ぐなんて発想はしない‥休日‥といっても、まともにこの六年間、おやすみを貰った記憶はない、監獄の方がマシなんじゃね?という生活をしていたのだが‥


閑話休題だが、この会社、名○運輸の新人は毎年120人位採用されるのだが、一年目で大体80人位辞め、3年目で残るのが平均して5〜10人という、人を厳選しまくる会社なのである。


新人入社一ヶ月の間、毎朝起きたら、『探さないでください』という置き手紙と、保険証を同封した封筒が置いてあるというのが、何時ものパターン、何時もの恒例行事?なんだな‥


ただ、残った人間は、大体逃げられない境遇か、諦めに近い感情をもって、人生捨てているので、まずは逃げない。


と、どうでもいいお話は置いといて、お話を戻すが、そんな寮部屋に私は戻ると、ベッドの脇にある、白いワンボックスの私物箱からペンと茶封筒、便箋を引っ張り出し、いつか辞めるつもりで用意していた、【退職マニュアル】なる本も取り出し、マニュアル本の『退職届見本』のページを探し当て、日付と名前だけ変更して、マニュアル本そのままに、手書きで真似っこ文書を、それまた一心不乱に、私物箱を机にしながら、書き上げていった‥


書き上げて、書き上げた便箋を茶封筒にしたため、茶封筒に『退職届』と書き上げた処で、何か私は安心したのか、眠気という睡魔の霧が、私を襲い始めたので、そのまま"霧"に身を任せることにして、身支度そこそこに眠りについた‥

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