咲かない花

 花は私を嗤う。醜いのね、と。悔しくなんてない。だってその通りだから。私は醜い。汚らわしい。罪なほどに。


 その花は美しかった。見る者を魅了させるだけの才があった。私は彼女に嫉妬した。狂おしいほどみっともなく、身の程も弁えず、憧れた。彼女の美しさは、もはや罪だった。


 私は恥と憎しみをかき捨て、彼女に教えを乞うた。彼女は嫌味ったらしい文句を垂れつつも、最後には承諾してくれた。こうして、私の美を追求する日々が始まった。地獄のような日々だった。


 彼女の教えは厳しかった。そして、私がどんなに頑張ろうが、決して褒めてはくれなかった。実際、あの彼女が私を褒める様など想像もつかなかった。


 彼女の教えは的確だった。ふんだんな知識と経験に基づくそれには、説得力があった。私は心酔し、来る日も来る日も尽力した。それなのに、私は、一向に美しくはならなかった。毎日鏡と向き合う。映る私は少しも変わりはしない。それでも彼女は、私を見捨てはしなかった。私が当初彼女に抱いていた醜劣な情たちは、とうに霧散していた。私は更に、更に努力した。どうにか、どうにか彼女に応えようと。


 その日も、私は特訓で身をやつしていた。必死の形相だった。毎日のことであるのに、余裕なんて微塵も生まれなかった。疲れ果て、どんくさく這いつくばる私。そんな私に彼女は嘆息し、突如として告げた。


「本当に美しいのは、あなたよ。」


 私は目を見開き、顔を上げた。私に向けられた彼女の顔は、いつも通り罪な程に美しかった。彼女から貰った初めての賛辞だったのに、素直には喜べなかった。冷静に考えて、それは世辞であるから。他でもない彼女から、美しいだなんて。それも、かつて彼女が嗤った私へ。ありえなかった。私は救いようのない楽天家などではない。それでも、どうしてか彼女のその言葉は、嘘じゃないと思えた。思えてしまった。


 次の日、彼女は枯れていた。それでもなお、彼女は美しかった。私はみっともなく泣いた。涙が滝のように落ちてきた。鳥たちが私を嗤っている。醜いね、と。嗚咽を漏らしながら彼女を抱きしめると、涙の滴が彼女の体に付いた。滴に小さく映った私は、やっぱりどうしようもなく醜いままだった。


 



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