トリカゴ

 籠の中の鳥は鳴く。出して、出して、ここから出して。――聞こえた。私には、そう聞こえたんだ。


 いいとも。出してあげるよ、可愛いあなたを。籠に備わっている簡単な機巧を解き、彼を放つ。彼は、はじめの方こそ嬉しそうに翼をはばたかせて見せたが、部屋の隅々を確認し、ここもまた籠の中に過ぎないということに気付くと、大人しく地へ降り立った。そりゃあ、逃げてもらっては困るから。愛しい家族だもの。きちんと窓も戸も閉めてあるのよ。でも、こうして飛び回れば、少しは気も晴れるでしょう?


 一度でいいから、大空ではばたいてみたい。自由に宙を舞う鳥に憧れを持つ人は少なくない。私も、叶うものなら彼のようになってみたい。いや、彼はごめんだわ。空を飛ぶことを許されてないもの。私によってね。ごめんね。


 デジタル時計に目をやった私は、思わず顔をしかめる。ああ、私も籠の中にいるんだ。閉じ込められているんだ。鳥籠なんかよりも、もっともっと冷たい鉄でできた籠の中に。いってくるね。彼を捕まえ、籠の中に戻す。悲しそうな顔をしていた。大丈夫、私もあなたと同じよ。出られない、籠の中にいるの。


 彼は、あの部屋の中で生きていくことはできない。なぜなら、彼が必要とする水が、餌が、籠の中にあるから。皮肉なことに彼は、あの籠がなければ生きていけないのだ。彼が、どんなに解き放たれようと羽ばたいても、結局生きる標がなくて、いつか墜落してしまう。


 電車に揺られながら考える。私も、彼と同じだ。私だけでなく、万人が籠に囚われている。どうにか籠から逃げ出そうと画策している。しかし、それはもれなく策に終わる。皆、どこかでわかっているのだ。この籠から逃げ出したら、私たちは標を失い、翼は疲れ果て、地に堕ちてしまうことを。


 鉛のように重い体を奮い起こし、電車から降りる。行かねばならない。籠の最奥へ。今日も、行かねばならないのだ。


 決意を満たし、空を仰ぐと、私の憧れが飛んでいた。悠々と、翼を広げて。――私の決意なんてちっぽけなものだった。後先なんて考えたくない。今だけでいい。灼け落ちる翼だとしても、今だけはこの大空を飛びたいんだ。


 ああ、私は自由だ。そう、自由なんだ。今日一日だけでいい。籠の外にいようじゃあないか。また明日には戻らねばならないけれど、それでいい。私は、背中に生えた翼を力いっぱいにはばたかせた。空から見る籠は、ひどく窮屈そうだった。





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