時間列車
雑踏の
列車は好きだった。目まぐるしく変わるあの景色も、どこか眠気を誘うあの揺れも、線路と奏でるあの音も、好きだった。見た目としても、運転席の窓を目に、パンタグラフを棘に見立てると、雄大な竜のようで、格好よかった。また、それを操る人間に、憧憬した。さながら運転手は竜使いだ。自分は、竜使いになりたかったのだ。
けれども、今となっては、自分を運ぶこの鉄塊が、嫌いにさえなっていた。ぎゅうぎゅう詰めの車内は世辞にも快適とは言い難く、揺れに伴う人との接触は受難の種である。周りの人間の表情は、眠さからか行き先への嫌悪感からかわからないが、どこか物憂げだ。自分もきっとそんな顔をしているだろう。自分も彼らも、社会という檻に入った囚人であり、それらを運ぶこれは、かつての自分が畏敬した竜などではなく、動く監獄である。
ふと人混みの隙間に視線を通し、窓の外を見やった。幾度となく、横目に流した景色だ。今更、この高速で過ぎ去る世界に、少しの高揚も、少しの感動も、あるはずがなかった。
いつからだろう。この景色を楽しめなくなったのは。いつからだろう。この揺れに、この音に、心踊らなくなったのは。
少年はいつしか、大人になっていた。列車は、時間を運んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます