4.金属塔

4-1 Next

「力を使ったことに関しては咎めるつもりはありません。しかしいかんせん、ゼーオルグさんとナハトさんがここにきてまさかの不穏な動きをしだしたものでしてね。と、この辺りの会話は覚えてます? むしろワタシのことお分かり?」

「シュピリー」

「ふむ、とっくに限界を迎えているはずのアナタがすでに七年目。千機の支配者ナハトスティルタの権能、精霊から転じた悪霊の浄化、その破壊。自ら産んだオートマタの使役。そちらに気が向いて人間の形を造り出せるを失念していました。結構結構。アナタにどれが備わっているかは完全に把握は出来ませんでしたが。寿命が延びているのは、アナタの身体を逐一修復しているから。馴染んでいる証拠なのでしょう」


 風車の回る音に引きずられるように、おもだるく起き上がるノアの目の前には、以前にあった頃と特に代わり映えのしない長身でやせぎすな眼鏡の男が砂糖漬けにされた果物をほおばっていた。

 窓から差し込む陽の高さから今が昼の時間帯であると少年は知り、乱雑に散らかる部屋の中から水瓶を見つけると近くの陶器のコップで掬い上げて中の水を飲む。

「ワタシとアナタの事後処理くそったれ解放作業は傀儡師マリオトラート、クラップ&ステップを終えた今、千機の支配者ナハトスティルタが最後ですからね。これからの行動方針を固め」

「シュピリーツァ・ヴァン・ハイネスト! あたしと戦え! さんざ色んな精霊機械の情報集めたけどなあ、てめえに使わせんのが一番てっとりばええんだよ」


 シュピリーの言葉をさえぎってけたたましく吠える、その女の口調を、ノアは先の学術都市ホートワープで聞き覚えていた。

 オートマタの部品で自身の改造を施せる人間。スカーレット・フォーカー。そう記憶している。

 癖のある赤髪の彼女はくたびれたジャケットとズボンを身にまとい、顔の真ん中に横一線の切り傷と、左腕を欠損へ自然と目の向いてしまう容姿をしていた。

「あんたらの関係が見えねえ」

「気まぐれにワタシがこのガキを助けて精霊機械について話したのが縁です」

「なんで静謐なる祝詞キュラスハーツは狙わなかったんだ」

「こいつらがヤベえのも、他の精霊機械を探した方が効率がいいのも、一目ですぐ分かった」


 それまで姿を隠していたキュラーが空を浮遊しながらスカーレットへ称賛の音をのせる。

『すっごい嗅覚と直感。貴女かしこい、かしこい子は大好きだわあ。でも浮気はしないの。あたしったら、シュピリーちゃんのマイスイートハニーダーリンだもの』

「はーストーキング脳みそフェアリーに言われると嬉しくて胸焼けして涙がでそうですねー」

『かしこい貴女。ならあたしやシュピリーちゃんが力を貸さないのを承知ではないのん?』

「言っただろ。勝負だって。てめーの願いをアタシが叶えてやるからてめーもアタシの願いを叶えろ」

「ほーほうほう。そう来ますか」


 スカーレットからの提案に、シュピリーは乗り気であった。

 精霊術の素養はさておいても、機械の技能に関して彼女を見定めておきたい欲はあったのだ。

「自分の腕を構築する式を組み立てて下さい。ワタシが納得できるものでしたらアナタの願いを叶えましょう。期限は二カ月。どうです?」

「ふざけんなシュピリー」


 異を唱えたのはノアだ。

 そびえたつ金属塔はあと一つ。その中にアトリがいると知っていて、先延ばしになど出来るはずもない。

 怒気の混じる声音に合わさるようにか、スカーレットも発言をする。

「自分の腕の構築式? んなもんはな……とっくにあんだよ! 金がねえから耐用可能素材も買えねえ試運転もなんも出来ねえ自己満足脳内妄想だけどな満足かクソがっ」


 データを集約させた小型の記録媒体を、スカーレットはシュピリーへ投げつける。

 彼はいぶかしげにそのスティック型の媒体を受け取ると、睨みつけてきたノアへ返答をした。

「ゼーオルグさんがたが動き出したのは、ナハトさんの延命の為。彼女がくたばってから動いた方がお互い楽だと思った親切心からなんですがね」

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