3-5 夜の帳がおりる頃

 少女が目を開けると、そこには傷痕を幾重にもつけた男がいた。腕も眼も片方ずつしかない、彼女より一回りもふたまわりも大きな男だ。

 彼は意識を取り戻した少女に何を語るでもなく、焚き火に枯れ枝をくべていた。

 外の世界の景色に深い感慨を抱きもせず、彼女は自分をくるんでいる布のローブをつまんで放す。


「火が好きなのかしら」

 自分に見向きもしないほど。という意味合いを込めながら、少女はあどけない声音で尋ねる。


「君を預けられるような村や町が存在するのか」

「どこかへ私を預けるの?」

「力も学もない。こんなナリの俺と居ないほうが、君の幸せの為にもいいだろう」

「おかしいわ。私すら知らない私の幸せをゼオンが知っているなんて。ああ、もしかして貴方はまた改めて命を断つつもりなのかしら」

「俺は俺の暮らす村しか知らなかったし、興味もなかった。なかったが。星空一つとっても村で見たものと違う。それが面白い。……どうせ生きた身だ。旅でもしてみるさ」

「行きましょうゼオン。一緒に。大丈夫、世界は閉じているんだもの。ええ。貴方の行く末でも見せて頂戴な」

「君には、アトリと呼ばれていた子と同じような力があるのか」

「似た力はあるのだけれど」

「いや、使わなくていい。誰が見ているかも分からんしな」

 そこで、ようやく彼女は草の感触や土の匂い、火によって枝がはぜる音の命のみずみずしさに思いを寄せることが出来た。


「君のことは、これからもナハトと呼べばいいのか」

「名前がなくて不便を感じたことは一瞬もないのよ。これからも、それで構わないの」

「よろしくナハト。そういえば君は分かるか、ここに来るまでに、ずっと聞こえていた音。ル・ル・ラ・ラ・ル・ル…………」

「よろしくゼオン。腕は私が造ってあげるわ……lu lu la la lu lu」

 地下の都市の人々は殲滅され、地上の人間もほぼほぼいなくなった世界の中で。

 二人は地下を突き破り空高くまで築き上げられた多くの金属塔を、眺めていた。

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