2-12 これからも旅は続く

 ノアとロジェ達の泊まる宿の部屋には少年のよく知る緑髪の青年がベッドを一つ占領していた。

「おっと、どうしたんだルークくん。そんな傷こさえてきて」

「親からもらった身体は大事にしないといけませんよ」

「お前らね……」


 ガンドナはこれまでルークの治療につきっきりであったのか、辺りには止血薬や血のべったりとついた服や傷を拭きとった布が散らばっている。

 鉄と薬の匂いをさせながらも、痛みがだんだんとひどくなり起き上がれなくなったルークはこれまでの経緯を話す。


「ナハト、それにゼーオルグとか言ってたっけかな。ガンドナさんがいなかったら正直駄目だと思った」

「時間が出来たのもあって、ノア達と合流しようとしたらあの騒ぎで儂ちょっとちびったぞい」

 冗談なのかも分からない老人の言葉に、青年薬師はいいから片付け始めますよと告げた。ルークは怪我人だが泊めるわけにもいかない為、落ち着いたらロジェが負傷した彼を家へ送ることで話がまとまる。


 ルークが謎の二人組の襲撃に遭ったあと、その場に現れたのはガンドナであった。

 迅速な対応もあり、青年は一命をとりとめる。


 ガンドナとロジェが席を外し、部屋には沈黙が広がった。

「ひと段落着いたわけだしさ。ノア、ホートワープに来る時に話した十年前のこと聞かせて。僕は、何があったかを知らないまま生きてきた」

「そうか、そうだな。もうじき終わるし。……疾燕も入って来いよ。聞きたいこともあるんじゃねえの」


 扉を静かに開けた疾燕は、緑髪の青年の手当てされた姿を見た後近くの壁にもたれかかる。商人は盗み聞きをするつもりはなかったが、いざ入ろうとした時にためらいが生まれたのだ。

 少年が語る内容によっては、自分は彼をこの場で。

「新しい仕事が入りましてね。なんでもノア殿が力を使ったのですぐに移動が必要なんだとか。ですので話は早めにお願いします」


 ノアはその外見の年齢にはおおよそ不釣り合いなほどの枯れた笑みを、商人あるいは知識の守り人、調査員ないしは故郷も友も身体も奪われた者へ向けた。その後すぐに普段のぼんやりしたような顔へ戻る。

 今まで誰かに向けて語ったことのない話題をする時、どのようにしていればいいのか少年は分かりあぐねた。彼は負傷した青年に向かい合う場所に椅子を置いてゆっくりと座る。

 おもむろに薬を二錠ほどを小さな缶から取り出して無造作に飲み込みながら、赤い瞳は自分の護衛にあたった人物を見つめて口を開いた。

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