1-4 オートマタ
オートマタの出現の報せを聞いて、より多くの情報を掴むべく、ノアとディアは共に村の外へ向かう。
陽の傾く橙の草原の風景に、異物が混じっていた。
反重力で浮かぶ物体は筒状の形をとりながら移動する機械だ。鱗や動物の皮とも異なる金属の白い光沢を放つ装甲と瞳の代わりに赤い光が不気味に灯っていた。
大きさは羊一頭分にも満たないが下からは四枚程の刃が装着してあり、曲線を描く大振りの二枚の大きさは、一振りで子供五人程の首を簡単に吹き飛ばす。もう二枚は細かな動作の利きそうな細身の刃で、切れ味の点では先程の二枚より上回っている。
刃物は既に血で濡れ、肉片がこびりついていた。その風体に対して威嚇した野犬は、不運にも機械の感知する範囲に踏み込んでしまい、声を上げる間もなく瞬時に細切れにされる。
野犬だったモノは、一度痙攣したきり肉塊と成り果てた。オートマタは、村の方向へ音もなく移動する。血の匂いが、そこら中から漂っていた。
ディアが初めて目にした起動しているオートマタ。その、無機質に生き物の命を刈り取る有り様に言葉を失う。近距離の勝負において、彼女と敵との相性は絶望的に悪かった。
大振りの二つの剣が一体に斬り掛かり、肉を捕らえたかと思うと、細身の刃が高速に動いて野犬を切り刻んだのだ。
「今日はハンバーグ食べたくない気分」
金髪の騎士はノアの感想など意に介さず、介する余裕もなく、動きを止めないオートマタをただただ眺める。太刀筋は、確かに見えた。だからこそ勝てないと、理解してしまったのだ。せめて三枚、二枚の刃であるなら辛うじて破壊できるかもしれない。しかし四枚刃、加えてあのスピードでの攻撃に対抗しうるのは非常に困難だ。
「赤輝石を破壊したらオートマタは動力を失い、止まる」
どこかで聞いた話を
ノアは不審に思う。目の前にいる女性騎士の技量を疑った訳ではない。ただ、合点がいかなかった。
「タイプによったらあるいはと思いましたけど、アレ騎士さんと相性悪いですよ。村の皆で迎え撃ちましょう。
「見たさ。侵入を許せば犠牲が出る」
騎士の口調は激情を
彼女は騎士になれた矢先、警備という名で飛ばされたのは首都からは遠い村だ。ディアにとってそれは瑣末事ではあったが、周りの空気に嘲笑が混じっていたのは覚えていた。
「貴族の女性として生きない私は、家の誰からも認められなかった。騎士になっても、騎士団の者からも、誰もだ。けれど、村の人は貴方がいるなら安心だと、喜んでくれたんだ」
彼女は剣を握る部分にふれる。
「敵が八枚刃であろうと、巨大だろうが。一枚刃だったなら、銃が扱えていたら。そんなの関係無いんだノア。私が切っ先を向けるべき相手は目の前にいる。私を信じた人を、皆を。思いを背負って、どうして背中を向けられる」
初めてオートマタと対峙し、その脅威をみてディアはここを退くわけにはいかないと直感した。
逃げたいとおくびにも出さない。彼女は、闘志だけを示してみせた。
「めちゃくちゃな理屈だな……。けど、無謀も通り越せばなかなか見れるもんだ」
ノアの表情は微かに緩む。奇異なる風貌の少年が、初めて彼女に見せた信頼の情だった。
ディアは自分で敵味方の区別し、判断出来る人間だ。
命を脅かす敵と対峙する時、その心は剣筋に宿る。彼女はオートマタと戦う人間にとって最も必要な才能を兼ね揃えていた。
今回のオートマタは、生体反応を確認したらそれを
元々この機械は三体以上で機能していたものであり、彼らの間合いに入れば瞬く間に斬り殺されていた。広範囲に腕の部分が伸びるのだ。
金属的な材質の部品は、鋼以上の硬度を誇った。切り落とすには、装甲の薄い関節を狙わなければならない。だが、むやみにつっこめば致命傷の一撃喰らう。今の自分達の装備ではまず不可能だと告げる。
「それをふまえて。騎士さん、四枚は無理でも、二枚ならいけます?」
ノアは、円盤を取り出した。
その時、オートマタが確認した高い温度は、二つであった。
刃の数は分散される。
一つ目の生体反応の元に二枚の刃が飛んだ。そこから声が上がることはなかった。
次に左からの反応には、大振りの刃が振り下ろされる。生物にしてはとても硬く、金属が激しくぶつかり合う衝撃音がした。
突然、三つ目が出現する。素早く駆け抜ける対象を、しかし機械は感知した。
大振りの刃と、今や最も近いソレを倒すが如く、一つ目の物体に切り掛かった小振りの刃の一枚が高速で戻る。
二枚の刃が、弧を描く様にして対象を目掛けて襲いかかった。最後の攻撃の際に、騎士の雄叫びが草原に響き渡る。
刹那的な攻防の末の、勝利の咆哮だ。
夕暮れの空模様の中、二人はいた。
少年薬師は円盤による発火装置で焼かれた挙げ句、刃物でズタボロにされた哀れな依頼書の前で合掌する。自分の成し遂げたことが、未だに信じられない様子で女性騎士は両手を見つめていた。
たとえ一体で町や村を滅ぼすとも評されるオートマタとはいえ、各々の戦闘や性質が分かっていれば勝機は見える。
一定以上の熱量をもつ物が攻撃対象になると、知っていればこその動き方であった。それが燃える紙ゴミであっても、オートマタの探知からは生物と判断される。
ノアは円盤についているボタンを押して依頼書を発火させると、それを最初にオートマタの感知する箇所に置いた。その後さらに円盤で取手を引き出す動作をすると、刀に変形させる。この刀が、大振りの刃の一太刀を受け止めた。そうして減らした刃でも、受ければ重傷は避けられない。ここからはディアの剣の技量と、足の速さの勝負だ。
最初に燃えた依頼書に腕を伸びきらせる為、初めに間合いはつめられない。依頼書とノアのいる方向と異なる箇所から一気に駆ける瞬発力と、襲いかかる刃を捌きながら中央の動力部を刺し壊す正確さも必要だった。
自らがどれ程の速度だったのか。壊した時の力の具合は。ディアはよく覚えてはいなかった。
赤い光が失せた瞬間だけが、妙に頭に焼き付いていた。
「驚いた。あんたすっげー早く動けるんだな。鎌っぽいのは平気でも、剣のからは一撃貰うと思った」
「……私は、速かったか」
「あんた一人じゃあ無理だつったけど、訂正させてもらう。充分だ」
「ありがとう。ノアがいたからだ。ああ格好はつけたが、一人では間違いなく命を落としていたな。どうだ、騎士でも目指さないか」
「興味ねえ」
「そうか」
ふとした提案は、あっさりと断られた。それでもディアの表情は満足げだ。
彼女の胸中としては、ルークの忠告も大事にはしたい。けれどもノアは何の関係もない村や彼を疑った人間の為に協力してくれた。そんな目の前の少年が、悪い存在にはどうしても感じられなかったのだ。オートマタを倒した今の自分が、確信している。
「ノア、私は君を」
何気なしに草原の向こうを見た時、ディアは大きく眼を見開いた。
先程と同じ種類の機械が、二体現れたのだ。
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