1-2 ノア・トルレイユ
村長との連絡の行き違いから屋敷に入れなかったノアは、宿泊予定場所へ渋々移動する。
コクロトの村から目と鼻の先の距離にあるフィー
ノアは院長への挨拶も程々に、客室とバスルームを借り、身体を洗った後着替え直した。紺鼠色の服の首元は布を重ね合わせた形をしている。灰色の太いラインでふちどられ、半袖の部分にも同じ装飾が施されており簡単な留め具が付いていた。
「この
「やっとさっぱりしたのね。ノア久しぶり。ちっとも変わらない……というか縮んだ?」
「マナがでかくなったんだよ」
清潔な服を着た少年に、マナが声をかけた。孤児院には彼と顔見知りの人間がおり、彼女はその一人だ。 焦げ茶の髪を二つに分けて結び、白のシャツの腕をまくり活動的な姿をしている。両肩から膝辺りにかけて伸ばした橙の帯と、それらをスカートの部分でまとめて固定する布が巻かれている。それらは彼女の持つ健康的なイメージを一層強めた。深緑の瞳が、少年を懐かしげに映す。
ノア=トルレイユ。本来依頼書にかかれていた名前はそれであった。
ノアはバッグの中から金属の円盤を取り出し、掌に置いたかと思うと五度程小突いた。すると円盤は一気に何倍もの大きさになる。少女が驚嘆の声をあげるのを他所に、少年は次々と日用品と着替え、分厚い本の数々を取り出す。
「珍しい機械なんでしょ? そんなにたくさん物が入るんだ」
「詰め込み過ぎて壊すと起動しなくなるけどな」
「壊すと荷物が取り出せなくなるの?」
「そ。他の機械と違ってこれは基本的に修復無理」
多くの荷物が円盤一つに入る不可思議さに彼女は純粋に関心を示した。
「私すぐ壊しそうだから、絶対使いたくないなあ」
「マナ、村長んとこにいる金髪の王国騎士と神父何?」
「ディアさんとルークさん! 私達の村を守ってくれてるってせんせーが言ってた」
「貴族の騎士さんなら分かるけど、隣の神父はねえよ。大体神父が布教活動もしないで居座るなんて変に思わねえのか。まあここ平和そうだから、気をつけるとしたら狼位か。騎士は申し訳程度に一人警備置きました、が妥当だな。馬も連れて来てねえみたいだし貴族のくせに左遷とか将来不安だ」
「時々出るって噂のオートマタなんて、あの二人しか戦えないよきっと」
「ふつーに負けるだろ」
「ばかにしてるー腹立つー!
のちに
世界の数十ヶ所に突如として塔が出現した。地面か天空かどこからこれは姿を見せたのだろうと人々が疑問に思うのもつかの間、空は夥しい数の金属の機械によって世界は覆いつくされたのだ。その機械達と同じあるいはそれ以上の人間が、血を流して苦痛の中で不条理に死に絶えていった。
各地で暴れた暴走機械……通称オートマタは輝きを放っていた動力の要である
世界の人口が半分になったと語られた当時、騎士達は王国に現れた塔の調査の任を受けた。周辺地域の草木も残らず、ただがれきの山と荒涼とした大地の続く光景から目を背けるようにして目的地まで馬を走らせた。が、その塔には入るための扉はなく、壁を破壊しようとあらゆる攻撃をおこなったがうっすら傷がつく程度であったのだ。
王国ではオートマタの解析が進み、おおよそ現代では造り出せぬ技術がそこにはあった。今普及している連絡や交通手段にも機械技術が応用されている。
「ノア、こんにちは。オートマタの話?」
「ああ」
客間を覗く小さな影が、ノアに話しかけた。孤児院にもオートマタに両親を殺された子供などもいる。
「とにかく、あの二人と喧嘩しちゃ駄目だからね」
コクロトには腕の立つ人間がいない。だから、あの二人を、あまり困らせたり怒らせないで欲しいとマナは続けた。それを黙って聞いていた少年は、円盤を手持ち
「騎士さんだけならどうにかなりそうだったが、あの神父が厄介だ。……村長見つける方が早えな」
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