保険と年金
第43話 良周、保険に入る?
僕は番号札を持って
近づいて行くとテーブルには先ほど見たコーヒーのマグカップ、購入した本が入っているらしい書店の紙袋、そして何かのパンフレットらしき冊子が数冊置かれているのが見えた。
僕はテーブルに向けていた視線を何気なく
「何それ?」
僕は言いながら『05』の番号札と、閲覧用に持ってきた本をテーブルに置く。
「保険のパンフレット」
パンフレットという僕の予想は当たった。
それにしても……
「保険のパンフレット?
僕は思いもしなかった
「まあね。生命保険には入ってるんだけど、もう一つ増やそうかと思ってさ」
その時だ。
「今見てる保険、入るつもり?」
僕は『米ドル』という文字が気になって、思わず
「それって外貨建ての預金みたいな保険だよね?」
僕は質問を続ける。
「うん。ほら、うちの
そう言いながら
僕はその様子を見ながら「うん」と短く相槌する。相槌をしながら
「だからさ。保障を厚くしておかなきゃなって感じてたんだ。自営業はサラリーマンと違って、収入が安定しないことがあると思うから。貯蓄型なら貯金も出来て、保険にも加入できるから一石二鳥かな? って思ったんだよ」
思っていることが顔に出てしまったらしい。僕は一瞬言うべきか迷い「うーん」と小さく唸ると、口を開いた。
「外貨建てって言われるものには注意しろって、本で読んだことがあるのを思い出したんだ……」
そして
「どんな本読んだら、そういう話が載ってるんだよ?」
しかし彼にとって予想外であったろう僕の発言に、
「父さんに読んどけって言われて渡されることがあるんだよ。そういうことが書かれている本」
僕は
大学生にもなって父親に読む本を指示されているなんて、ばつの悪い話だ。
僕は
僕が父親から渡された本を言われるがまま読むような未熟さを露呈したことを、
今は僕の事よりも『外貨建て』の方に意識が向いているのかもしれない。
茶化されやしないかと冷や冷やしていた僕は、そうは
「そういうのは手数料が沢山かかるって書いてあるのを読んだことがあるような……」
僕が安堵で表情を緩め、そう発言したところで「5番でお待ちのお客さまー」と言う呼び声がカフェのカウンターから聞こえてきた。
僕の注文したコーヒーの準備が出来たようだ。
「あっ。僕だ。コーヒー取りに行ってくるよ」
僕はそう言って、話を中断すると席を立った。
「……うん」
僕はそんな
カウンターの向こう側から笑顔の女性店員が「お待たせしましたー」と言って、小さなトレーに乗ったコーヒーを差し出してくれる。僕は礼を言ってそれを受け取り、今度はセルフサービスコーナーに足を向ける。
セルフサービスコーナーで砂糖とミルクをコーヒーに入れ、自分好みにコーヒーの味を調整する。
僕はコーヒーを
「ただいま」
僕がそう言うと、
「今さ、スマホで『外貨建て保険』で検索してたんだ……」
「うん」
僕は短く相槌を打つ。
そのワードでの検索結果に、僕は少なからず予想がついている。
「1ページ目からすごい言われような記事が……」
そう言いながら
「……そっか」
「学生とは言え、妻も子供もいるから保障は厚くと思ったんだけどな」
「その考えは間違っていないと思うよ」
僕は頷いて
例えば明日、縁起でもないけれど
そう、貯蓄が無ければ……
「
僕はそんな事は無いだろうとは思いつつも、念のため確認する。
「
「なるほどね。経済的な余裕が無いなら、保障はそれなりに必要そうだね」
保険は働き手が働けなくなるとお金に困るから加入するのだ。
極端な話、金持ちなら保険に入る必要など無いのではないかと僕は思う。
大学に入り直すような人間ならもしかして、とんでもない金持ちのお
ところで、
幼い子どももいるのに自営業者として働いていて、夫の学び直しに付き合っている。
なんとも奇特な人が世の中にはいるものだなというのが、僕の彼女に対する最初の印象だ。
実は一度、僕は
遠子さんは料理上手で気さくな、美しい女性だった。
最近は仕事が忙しいそうで、
そう言えばその際、そんな遠子さんに
あれは何とも温かい気持ちになれる時間だった。
あんな人が人生のパートナーだなんて、
「遅くなっちゃった。何の話してるの?」
突然、僕の背後で僕と
驚いた僕は話を中断し、思わず背後を振り返る。
そこには右手に本、左手に『08』の番号札を持ち、左手側の小脇にバッグを挟むように抱えた白川さんが立っていた。
白川さんの手が全て塞がっているのを見て、僕は自分の隣の席の椅子を後ろに引く。
「ありがとう」
白川さんは僕に微笑んで礼を言うと、手にした荷物をテーブルに置きつつ、僕の隣の席に座った。
「保険の話だよ。僕が入ろうかなって考えてた保険について、史一が詳しくてさ」
「く、詳しいって言われる程の事は話してないよ」
父さんに薦められた保険について書かれた本は最後まで読んだ。だが読みはしたものの、内容をきちんと理解をしたかと言われるとあまり自信が無かったのだ。
詳しいなんて、とんでもない!
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