第23話 家族が多いとお得がいっぱい!?
「ほら、右上に『4G』って表示があるだろ? これが携帯電話会社の回線を使ってインターネットに接続しているって教えてくれてるんだよ」
「これが僕のスマートフォンの状態。右上のマーク『4G』じゃないでしょ?」
奏人の言う通り、僕のとは違うマークが表示されている。
小さな正円の上に円弧が3本。円弧の長さは下から上に長くなっていて、まるでその小さな正円から上空に電波が発せられているように見える。
「僕のスマホに表示されてるのが、Wi-Fi接続でインターネットに繋がっていることを示すマークだよ」
奏人は僕らに自分のスマホを見せながら言う。
「本当だ。私のも『4G』になってる」
「お父さんと私のもそうみたい」
母さんが自分のスマートフォンと父さんが手にしているスマートフォンを交互に見ながら言った。
「やっぱりね。僕とみんなのとでは、スマホのインターネットの設定が違うみたいだね」
「なんで、僕のスマホのパスワードを知ってるんだよ!」
僕が驚いて言うと、奏人は素知らぬ顔で「誕生日をパスワードにするとか、ロックしていないも同然だよ」と言い放つ。
僕は開いた口が塞がらない。
僕が何も言えずにいる間も奏人は僕のスマートフォンを操作し続けている。数秒後、奏人は手を止めると、またスマートフォンの画面が家族全員に見えるようにスマートフォンを持ちかえた。
「ほら! 『設定』に『無線とネットワーク』の項目があるでしょ? そこにある『Wi-Fi』を押して……」
説明しながら奏人がスマートフォンに表示された『Wi-Fi』という文字を押す。
するとディスプレイの表示が切り替わり、英数字の羅列がいくつも表示された。
「この一番上に表示されているのが
奏人は一番上に表示されている文字の羅列を指さしながら言うと、リビングのテレビの隣にごちゃごちゃと置かれた四角い機器のところまで歩いて行き、四角い機器とスマートフォンを交互に見ながら、僕のスマートフォンに何やら入力した。どうやらあの四角い機器がルーターで、奏人はWi-Fiのパスワードを入力しているようだ。
「はい。これでお兄ちゃんのスマホは家のWi-Fiが使える範囲では、自動的にWi-Fiを使ってインターネットに接続するようになったよ」
そう言って奏人が僕のスマートフォンを返して寄こす。
「でも、それって今度は家のインターネットの使用量が増えることになるんだろ?」
僕は奏人からスマートフォンを受け取りながら言う。
「
父さんはそう言うと「なるほど。そういうことだったのか」と感慨深げに呟いて、言葉を続ける。
「奏人のデータ使用量が少ないのは、この所為だったんだな」
「あと僕は外出先では動画を観ないし、広告で動画が流れるようなアプリも使わないようにしてるよ。勿体無いもん」
奏人が父さんの言葉に補足した。
「それって……スマートフォンが家のWi-Fiを使えるように設定。外出先では動画を閲覧しない。この2つだけ守ればデータの使用量を抑えて、もっと安いプランに変更できるかもしれないってことよね?」
母さんが誰に訊くともなく言った。
「うん。そうできるかもしれない。あとさ、丁度良いから提案なんだけど。僕のタブレットをみんなで共有しない?」
「え? そりゃあ、使わせてくれるって言うなら使うけど……。奏人はそれで良いのか?」と僕。
「うん。その代わり、お父さんにお願いがあるんだ」
奏人はそう言うとリビングへ向かう。そしてテレビ台の上に置いてあったタブレットを手に取り、何やら操作しながら食卓へ戻って来た。そして父さんに自分のタブレットを差し出すと言葉を続けた。
「定額制の電子雑誌をこのタブレットで見れるように出来ないかな?」
思わぬ奏人の言葉に父さんの眉がわずかに動く。だが、口を開いたのは母さんだった。
「見たい雑誌はお小遣いで買うって約束でしょ!」
母さんが強めの語気で言った。
「そうだけど……」
奏人は母さんの迫力に圧され言葉を濁すが、負けずに言葉を続ける。
「僕が良く読む雑誌は1冊800円もするんだよ? 定額制の電子雑誌なら1年払いで契約すると税込みで3888円。1か月は324円なんだ」
僕は奏人の言い分を聞いて、少し興味を持った。
それってかなり安いきがする。
僕の読んでいる雑誌も読めるのだろうか?
僕がそんなことを考えていると、奏人がまた口を開く。
「お母さんも雑誌買ってるよね? 毎月いくらくらい雑誌にお金を使ってるの?」
奏人に訊ねられて、母さんは「ええっと……」と、たじろいだ様子で呟くと答える。
「……毎月は買わないわよ。でも、ファッション誌や料理雑誌で気になったものをちょこちょこ買うから……。月に500円くらいは雑誌に使うかしら? ……あら? 電子雑誌のほうが安いのね!」
母さんが驚いて目を見開く。
「なるほど。確かに、安いな」
母さんの様子を見ながら、父さんが顎に手をあてがって呟くように言った。奏人の提案に興味が湧いているようだ。
「電子雑誌に切り替えれば、雑誌に使っていた小遣いぶんを減らせるんじゃないか? 例えば、1人500円ずつとか……」
父さんが具体的な話を始め出す。
500円か……。
僕は毎月2冊のゲーム雑誌を買っている。値段はそれぞれ550円と950円。なんと、僕は月に1500円も雑誌を購入している。
500円お小遣いが減っても、1000円を別の事に使えるのか……。
悪くないかもしれない。
でも、タブレットの争奪戦が起きそうだな。
その時だ。「ちょっと待って!」と慌てた調子で言って、結衣が割り込んできた。
「私が買ってる雑誌には付録が付いてるのよ! 電子版じゃあ、付録は付かないでしょ? それに、定期購読の電子雑誌は掲載から数か月で読めなくなるって聞いたことあるわ。良い記事があっても数か月で読めなくなるんじゃ困るじゃない!」
結衣が不満げに主張した。
結衣の言葉を聞いて、結衣が嬉しそうに、購入した雑誌の付録を開封していることろを何度も見たことがあるのを思い出した。小ぶりなバックなどの雑貨が付録として付くのが、最近の女性向けファッション誌の流行だとテレビで言っていた。その事を言っているのだろう。
「お姉ちゃんは自分が手鏡やらポーチやら、いくつ持ってるかを覚えてる? 付録で貰ったそういうもの、ちゃんと全部使ってるの?」
奏人が訊ねると、結衣は「それは……」と言って黙り込む。痛いところを突かれたようだ。たぶん、結衣は付録を使い切れていない。
だが、僕も結衣の言葉で思い出したことがあり、疑問をぶつけてみることにした。
「結衣が言ったことで思い出したんだけど、雑誌のオマケでスマホゲームの雑誌限定特典がもらえたりするだろ? そういうのは電子版でももらえるかい?」
僕の質問に奏人は「もらえないかもね」と言って首を振る。だが「でも」と言って言葉を続けた。
「欲しい特典、取っておきたい情報が毎号あるわけじゃないんでしょ? 欲しい特典や情報がある時だけ、紙の雑誌を買えば」
なんという正論。
僕の場合だが、毎月1000円も浮くのだ。どうしても紙で買う必要があるのは高いほうの雑誌を年に3回と仮定すると、紙の雑誌を買うために必要な費用は2850円。年に12000円浮くのだから、2850円を紙の雑誌に使ったとしても9150円残る。
もう、僕も結衣も何も言えなかった。
しばし場が沈黙する。
その沈黙を破ったのはまたも奏人だった。
「電子雑誌だけじゃなく、動画配信サービスも契約してみても良いと思うんだよね。うちは家族が5人もいるから絶対お得になるはずだよ」
誰も反論しないのを見て取ると、奏人はさらに熱弁をふるう。
「知ってる? リビングのテレビ、動画配信サービスにも対応してるんだよ。近所のビデオレンタルの店で借りたら旧作が1本50円。動画配信なら高いサービスでも月額1000円程度で見放題。旧作DVD20本ぶんって思うかもしれないけど、うちは5人家族だから1人あたり月DVD4本ぶん。新作を見るならもっと少ない視聴数で元が取れるかもしれないんだ」
「韓国ドラマもあるかしら? それもあるなら私、DVD4本ぶんくらい1か月で確実に観るんだけど」と母さん。
「あると思うよ」
母の質問に奏人が頷いて答えた。
母さんは「だとしたら、まあ良いかもしれないわね。好きな時に好きな韓ドラが見れるなんて……素敵ね」と言って、うっとりとした表情をする。
奏人は母さんの懐柔に成功したようだ。
「なるほどな。インターネットの通信費用も電子雑誌や動画配信の定額サービスも
父さんが感心して言った。
「そうみたいね。インターネットも家で使うWi-Fiは定額だから。みんなが出来るだけWi-Fiでインターネットを使うように気を付けてくれると、だいぶ助かるわね」
母さんが父さんの言葉に同意する。
「最近は一家族の人数が少ない家庭が多いから。定額サービスはそこを基準に価格設定をしてるってことかな」と結衣。
「そうなのかもしれないな」
父さんは結衣の言葉に頷いて同意し「検討してみる価値がありそうだな。僕がもう少し詳しく調べてみよう。良さそうなら実践してみるか」と言った。
僕も含めて全員、その提案に同意した。
家族が多いと大変なことばかりだと思っていたが、こんなメリットもあるのだ。
他にもお得になるようなサービスはあるだろうか?
僕は定額制サービスに少し興味が湧いてきた。
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