第19話 数学専攻の大学生VS小学三年生
「熱くなるとダメなのかい?」と僕。
「熱くなりすぎると性能が下がるらしいね。僕も詳しくはないんだけど、熱くなりすぎると危険だから、性能を落として温度が上がりすぎないように調整する機能があるんだと思うよ」と雄太。
「危険……」
火事にでもなるくらい熱くなるのだろうか?
僕は少し恐ろしくなった。
「ちなみにCPUも熱くなるから冷やすんだよ。まあ、そんなに心配しなくて大丈夫だよ。自分で作るんじゃなくて、ちゃんと製品になったものを買うんだから」
僕の表情を見て不安を読み取ったのだろう、雄太はそう言って僕を
「そういうわけで、ファンの数が多い方がGPUの性能を引き出しやすいけど、ファンが3つのタイプは大きすぎて、組み込めないパソコンもある。そういう場合、少し性能を犠牲にして、ファン2つのタイプを組み込もうかとなったりする」
雄太はそこまで話すと「あとは……」と少し考えて「ディスプレイへの出力端子の種類や数もグラフィックボードによって違うし、自作用だと光ったりするグラフィックボードもあるんだよ」とグラフィックボードの種類が沢山ある理由を補足した。
「……光る?」
恭平が
「うん。光るのがあるね」
雄太がそう答えて頷く。
「何で?」と恭平。
「キレイだからじゃないかな?」
雄太が事も無げに答えるが、恭平はまだ意味が分からないといった表情をしている。
僕も何故光る必要があるのか分からない。
「自作パソコンにはケースが透明のものがあるんだ。中のパーツを光らせて、見た目の凝ったパソコンにする事も出来るんだよ」
そんな僕たちの様子を見た
「……色んな楽しみ方があるんだね」
納得したような、していないような曖昧な口調で恭平が返事をする。まだ理解に苦しんでいるのだろう。
「GPUとグラフィックボードの違いは分かってもらえたかな?」
「何で
「私も。私、また勘違いしてたのね……」
白川さんが恥ずかしそうに言った。
今日話してみて感じたが、白川さんは僕や恭平よりはパソコン関係の情報に詳しいような気がする。
恭平はまだ訝しむような表情をしていたが、特に何も言わなかった。光るパーツの事を考えているのだろう。
「じゃあ、グラフィックボードの話はここまでにして、GPUの話に戻すよ」
「GPUは計算をするパーツという意味ではCPUに近い役割のパーツなんだ。でも、CPUとGPUでは得意な計算が違っていてね、簡単に言うとCPUは複雑な計算が得意で、GPUは大量の単純な計算が得意なんだ」
そう言うと
「そんなの数学専攻の大学生に決まってるよ」
僕は
すると
「同じ算数の問題200問を数学専攻の大学生1人対小学三年生200人で競争して解くとしたらどうだい?」
「なんだって? 200人の小学三年生?」
あまりに突拍子もない人数を聞いて、僕は驚いて訊き返す。
「うん。大学生1人と小学三年生200人で競争するんだ。どっちが勝つと思う?」
「……そんなの勝負にすらならないよ。圧倒的に小学三年生200人に
僕はそう言って「こんなのは勝負とは呼べないよ」と不平を言うと、
「でもね、CPUとGPUでは今の例え話のような事が実際に起きているんだ。ちなみにCPUが数学専攻の大学生で、GPUが小学三年生200人だよ」と
僕も恭平も白川さんも黙り込んでいる。どう反応すれば良いのかわからない。その様子を見て
「例えば、さっきCPUの説明で話したCore i7 8700KというCPUの場合、コア数は6。そして僕のメモでおすすめって書いたGTX1060というGPUのコア数は1280……」
「1280!」
恭平が
僕も彼同様、驚いた。
コアが1280。先程教えてもらったCPUのコア数とは文字通り桁違いの差だ。
「それって、もうGPUだけあれば良いんじゃないの? 6コアしかないCPUなんて要らないんじゃない?」と僕。
その言葉に
「そんなことは無いよ。さっきの例え話で解いたのは小学一年生レベルの算数の問題だったろ? じゃあ、小学三年生に微分積分の問題を提示した場合、200人いれば解けるかい?」
「そうか……。よっぽどの天才が混じっていない限り、1問も解けないだろうね……」
僕は納得し、先ほど
「史一はゲームが好きだろ?」
僕は「まあね」と答える。
「3Dを多用しているゲームを想像してみて。3Dゲーム内を移動するとどんどん風景が変わっていくだろ? それを実現するには、君が操作するのに合わせて迅速に移動した方向の風景の描写をパソコンに計算させる必要があるんだ。それって同じような処理をどんどん大量に
「じゃあ動画を編集する場合も、GPUがあると3Dの描写みたいに描写の速度が上がって、作業がスムーズになるって事かい?」
恭平が
「それがね、そうでもないんだよ。基本的に、動画編集ソフトの演算処理はCPUが担うんだ」
「じゃあ、GPUは使われないの?」と僕。
「動画をカットしたり繋げたりする作業ではたぶん使われないだろうね。残念だけど。ディスプレイへのソフトウェア画面の表示に関わってるくらいかな」と
「じゃあ、ゲームをやらない人には必要ないってこと?」と恭平。
「うーん。それがそうとも言い切れないんだよね……」
「ああ。これ読んだけど一番意味がわからなかったよ」
恭平が少しげんなりした声で言った。
「これはね、GPUの性能を引き出すためにはソフトウェア側が対応している必要があるってことで、こう書いたんだ」と
「ソフトウェア側? 動画編集ソフトにGPUを使う機能があるかってこと?」
恭平が訊き返す。
「そう! 動画編集ソフトの中にはGPGPUに対応したソフトウェアがあって、そういうソフトウェアはGPUに画像処理だけでなく、CPUがやっている処理を一部任せることが出来るんだ」と
「GPGPU? 何それ?」
僕は首を傾げて言うと、
「GPGPU対応の動画編集ソフトでは、この技術を使ってCPUが行っているエンコードという作業をGPUで行うようにしてくれるんだ。こうすることでCPUの負荷を減らせるらしい」
「エンコード?」
僕はまた訊き返す。
「エンコードっていうのは自分で編集した動画をYouTubeなどで再生できるデータ形式に変換する作業の事だよ。手を加えた動画は基本的にこのエンコードという変換処理をしないと多くの人に見てもらえる動画データに出来ないんだ」
「スペックが低いパソコンだと、たった10分の動画のエンコードに50分も掛かるなんてことも起きるんだよ。だから頻繁に動画を投稿する人の中には、このエンコードの時間を出来るだけ短くしたいと思っている人も多いんだ」
「50分! 結構大変なんだね。作った動画の時間よりも、変換に時間がかかるなんて……」
恭平が驚いて言う。
「うん。そこでエンコード処理を速めるために、一部の有料動画編集ソフトではGPUにこの処理を任せる機能を持つものがあるんだ」
「それと動画編集中にエフェクトという加工処理を加えると、プレビュー動作が遅くなったりすることがあるんだけど、これもGPUに処理を任せることで解消できる場合があるんだよ」
雄太が口を挟んで言った。
「そのエフェクト処理を向上させる機能も、GPGPU対応の動画編集ソフトでないと使えないのよね?」
白川さんが雄太に訊ねる。
「うん。そこはエンコードと同じだね」
雄太は白川さんに同意する。そして、また何か思い出したらしく言葉を続けた。
「あとさ動画とは関係ないし、やり方も知らないけどGPUは機械学習や仮想通貨のマイニングにも向いているらしいね」と雄太。
「何それ?」
僕はまたもや聞きなれない単語が登場し、困惑して訊き返した。
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