第14話 BTO
ノートパソコンか……。
僕は今レポート作成などに使用しているパソコンの事を思い起こす。
4年ほど前に父が購入したノートパソコンだ。作業速度などには不満は無い。だが、見ただけで年季が入っているとわかるデザインで、外出先で使用するのは気恥ずかしく躊躇していた。
新しい小洒落たノートパソコンを手に入れれば、周りの目を気にせず小洒落たカフェで優雅にコーヒーでも飲みながらレポートを書いたり、ネットサーフィンをしたり出来るのではないか。
それも良いかもしれない。
僕は自分が心変わりしていくのを感じた。
「わかってもらえたみたいで良かったよ。それでさ、これから皆でパソコンを探さない?」
「今から?」と僕。
「でも、もう17時だよ。買うつもりで選ぶならじっくり検討したいし、休日とかもっと時間のある日した方が良くないかい?」
恭平が不安げに
「私もそう思うわ」
白川さんも恭平に賛同する。
「大丈夫、大丈夫。どこにも行かなくても良いんだよ。それに今日買う必要もないさ。買うのはじっくり検討して後日で良いよ。今日のところはどんなパソコンを選べば良いか、それぞれが判断出来るように、僕が知っている範囲で使えそうな情報を共有しておこうかと思ってさ。今買える製品を見ながらね」
「雄太、オススメのBTOとかないかい?」
「大型家電量販店か、パソコンショップにでも行くのかと思ってたよ」と雄太。
「うん、それも考えたんだけどね。折角買いに行っても、丁度良いスペックのものに出会えない可能性もあるだろ? だからと言って自作するっていうのもハードルが高い。僕らはあくまで動画を作りたいのであって、パソコンを作りたいわけじゃないからね」
そう雄太に答えながら、
「自作だと、デスクトップになっちゃうだろうしね」
雄太が
「オススメのBTOか……。最近、有名なのはネズミの格好をしたアイドルが歌って、踊ってるCMの会社だよね」と雄太。
「そうだね。有名だし、サポートも手厚いらしいから初めて買うのには良いかもね。まずはそこで探してみようか」
「じゃあ、このサイトで探してみよう!」
大して待たないうちに、
「ネット通販?」と僕。
「そうだよ。でもただのネット通販じゃないんだ」と
「……」
僕と恭平、それに白川さんは黙ったまま顔を見合わせる。
トップページを見た限りではパソコンのネット通販サイトにしか見えない。強いて言えば専門店という雰囲気を感じるくらいだ。『パソコンの専門サイト』だから普通のネット通販ではないと言いたいのだろうか。
「ちょっと適当に選んでみようか?」
僕らが困惑しているのに気付いたのか、
通販サイトの『新商品情報』という大きな見出しの下に、いくつかパソコンの写真が並んでいる。
クリックと同時に画面が切り替わる。クリックしたノートパソコンの詳細ページのようだ。
すると、画面表示が切り替わる。
「これって……、ショッピングカートのページ?」
そう訊いたのは恭平だった。僕も一瞬ショッピングカートに移動したのかと思ったが、どうも違う気がする。
僕が良く利用するネット通販のサイトでは購入したいものをクリックすると、『カート』というページで購入予定の商品を確認できるようになる。購入予定の品が1つなら、リストは1つだけだ。
だが、今見ているページには沢山のリストが並んでいる。
「なんでパソコンを1台選んだだけなのに、こんなに沢山のリストが出てくるんだ?」
僕は思ったことをそのまま口に出す。
「さっきクリックしたボタンに書いてあっただろ? 『カスタマイズ・お見積り』って。この画面で選べる範囲でパソコンの仕様を変更出来るんだよ」
「まず選ぶのが、どういう保証を付けたいか。次にOS。オフィスソフトを付けるか、付けないか。CPUは変更できないみたいだね。メモリは32ギガまで増設可能だ。カードリーダーは無し。SSDとハードディスクは変更が可能か……」
「じゃあ、オフィスソフトを追加してみよう」と
「オフィスソフトを追加って、オフィスはどのパソコンにも入ってるものじゃないの?」
白川さんが質問する。
「オフィスはメーカーがサービスで付けてくれてるわけではないよ。ちゃんと、パソコン購入代金の中にオフィスソフトの代金も含まれてるんだ。最近は安いモデルだと量販店で売っている製品でもオフィスが入っていないものも沢山あるんだよ」
合計金額という記述の横に『¥148,824(税込)』と記載されている。
カチッというマウスのクリック音がする。
途端に合計金額の記載内容が『¥170,208(税込)』に変わった。
「高くなった」と恭平。
「19,800円のオフィスソフトを付けたからね」と雄太。
「オフィスって結構高いソフトなのね」と白川さん。
僕もその値段に驚く。
「じゃあ、メモリを8ギガから16ギガに変更して、SSDはそのままで2テラのハードディスクを追加したらどうなるか見てみよう!」
僕らが驚いていることに気を良くしたのか、
合計金額の記載内容は『¥195,696(税込)』になった。
「……
「……そうね、変更すればするほど高くなっていくわね」と白川さん。
「どうかな? 今、何をしているのか分かったかな?」
「この画面でさっき選んだノートパソコンの中身を変更できるってことかな?」
恭平が答える。
「そうそう。サポート内容や保証の内容も含めてね」と
確かに
「最初に表示されてた金額は何にもカスタマイズしない場合の最低価格くらいの認識で良いと思うよ」と雄太。
「確かにこの買い方なら、自分に合ったものが探せそうだね」と僕。
「でも、オーダーメイドって高くないの?」
白川さんが不安げに言う。
「量産品とそんなに値段は変わらないと思うよ。むしろ選び方によっては、安くなることもあるかな」
雄太はそう言うと「ただ、量産品に比べるとデザインはあまり期待できないし、パソコン自体の重さも重くなりがちかもね……」と補足する。
デザインは期待できないだって?
僕はその言葉を聞いて少し焦る。先ほど考えていた小洒落たカフェで小洒落たパソコンの夢が打ち砕かれ兼ねない。
「デザインは期待できないって、どんな風に?」
僕は雄太に訊ねた。
「デザイン性よりパソコンの性能を重視してる製品が多いんだよ。まあ、メーカーによってはデザインにこだわった製品を展開している所もあるから、一概には言えないけどね」
雄太の『デザインにこだわった製品を展開している所もある』という言葉に僕は少し安堵した。まだ、僕の夢の実現には望みが有りそうだ。
「さて、BTOでパソコンを買うというのが、どういうものなのかイメージできたかい?」
「パーツをある程度変更することが可能だから、量産品のパソコンより自分の欲しい性能にカスタマイズしやすいってことなのかな?」
恭平が答えた。
「うん。そう言う認識であってるよ」
「BTOの説明はこのくらいにして、どんな風に選べば良いかという話に移るね」
そう言いながら
書類には次のように書かれていた。
『CPU』
Core i5が最低条件。長く使うならi7を選んでおくのが無難。
おすすめはCore i7。4コア/8スレッド以上のもの。
『メモリ』
4GBでは足りない。8GBならギリギリ足りるかも? 動画時間が長いものの編集を予定しているなら16GB欲しい。
おすすめは16GB。
『SSDもしくはHDD』
SSDにするなら256GB以上、HDDも搭載したダブルストレージタイプにするべき。
HDDのみにするなら2TB以上。
おすすめはSSDが256GB、HDDが2TBのダブルストレージタイプ。
『GPU』
有料動画編集ソフトを使用するならGTX1050のスペック以上のもの。
有料ソフトを使う気がなければ無くても問題ない。
僕のおすすめはGTX1060。
「何だい? これ」
僕は書類に目を通しながら言う。
「君たちに用意して欲しいノートパソコンの参考スペック」
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