#38





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 リエが帰った日の夜から週末まで、柏木はホテルを引き払い、エリの家に居候した。


「来週からはまた、半島に帰る」と彼がいうものだから、ならばいっそ、自分の家で過ごせば、と提案した結果だ。

 クルマを持たない彼のために、エリは朝晩都心の国連事務所のあるビルまで彼を送り、せっせと朝夕食の支度をした。


 半島に渡ると三ヶ月は帰れないという柏木の事情に、知り合ってほんのわずかしか経たないのに、ふたりは自然と暮らしをともにすることに決めたのだった。


 その夜、部屋の電気を消して、柏木はエリを抱いた。

 とりたてて変わったセックスをするわけではない。抱擁から口づけ。髪を撫でられてシャツを脱がされ、互いの素肌を感じながら身体を合わせる。

 乳房に触れる手は繊細で、エリの身体はそのタッチに敏感に反応する。

 ショーツのなかに指先が侵入し、デルタの形のヘアを撫でられ、その先の花びらに触れられるときは、恥ずかしいくらい濡れていた。

 ゆっくりと縦筋を探られ、蜜をつけた指で突起をやさしく揉みほぐされる。

 エリもまた柏木の幹を口に含み、たっぷりと唾液をつけて刺激する。そうするだけで、エリは我慢ができないほど興奮してしまう。

 ひとしきり愛撫の時間が過ぎて、挿入に到る。互いが結びついたあとは、愛おしさに感極まりながら、エクスタシーを迎える。


 柏木はエリの中で果てる時、いつも名前を呼んでくれた。

「エリ」、「エリ」と、身体を押さえつけられながら彼が奥を深く貫くたび、エリは泣きそうな気分になる。

 エリという名が自分自身のことであり、その自分を彼が求め、愛してくれるというシンプルな事実に、たまらない気持ちが湧き上がるからだ。今まで渇いていた心のなかのどこかが、圧倒的に癒され、満たされてゆく。

 それはあの地下室での呪いが解かれ、そこから自由になってゆくことだとエリは気づいていた。そして自然に、一筋の涙が頬を伝わってゆく。


 絶頂し、エリのなかで果てた柏木が彼女の隣に身体を横たえる。頬と頬を合わせ、エクスタシーの余韻を味わう時、その頬が濡れていることに彼は気づく。

「大丈夫か?」

 ええ、と頷きながら、エリは人差し指でその涙を拭った。

「嬉しいのよ。こんな気持ち、今まで知らなかったから……」

 柏木はエリの頬のうえで頷いた。

「俺も…こんな風に誰かを抱いたのは久しぶりだ。ずっと、出鱈目な生活をしてきたからな」

 柏木が身体を離し、エリの顔を見つめた。

 明かりを消した部屋の天井に、月明かりを反射した港の水面の揺らぎが映っていた。


「聞かせてよ…あなたの出鱈目な暮らしのこと」


 エリがつぶやく。

 そして柏木は、ぽつりぽつりと、自らのことを語り始めた。




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