#19
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「彼に買ってもらったの」
と、食卓の席で家族に見せたアレクサンドライトの指輪。
「お陽さまの下では緑、電灯の下では赤くなるのよ」とあの屈託のない笑顔でリエは言った。
―――まるで、私たちのように。
リエは一度たりともそんなことは口にしなかったけれど、エリにはそのアレクサンドライトの指輪は自分たちを象徴しているのだ、と知っていた。
誰の前でも華やかな笑顔で笑っていける妹と、憂いを秘めた微笑の姉。誰もに好かれるリエと、誰もが一目置くエリ。
そしてその指輪は、リエが『入れ替わり遊び』をやめたことを宣言するために自分で買い求めたことも、エリは気づいていた。
その証拠に、「買ってくれた」彼と別れた後も、リエはその指輪を外すことはなかった。
リエはその後、その指輪を常に左手の中指につけて愛用した。双子の双方を知る人たちにとってそれは、まるで一方の顔の真ん中にある黒子のように、便利な識別記号になっていったのだった。
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それは、自分たちにとって必要な期間だったのだ、と何度目かのターンをして水中で壁を蹴り、いま来たレーンを戻りながら、エリは思う。
これまで自分が泳ぎ、作ってきた水流を、真逆にさかのぼるように泳ぎ始める。
その逆流にバランスは崩れ、フォームが少し乱れる。しかしエリは泳ぐことをやめない。
今までのやり方が変わったからといって、生きることをやめられないのと同じに。
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