「先生」の縄
#14
「業務セックスって呼ぶんですよ、あの子」
と、エリは言った。「でも私だって似たようなものなのかも」
「似たようなもの?」
エリの背後に回った先生が静かに尋ねる。
「あの子は撮影の時、業務でするセックスに愛はないのだけれど、その場を一緒に作る男優さんと心を通じ合わせ、身体の反応だってきちんとさせられるって言うんです」
「さすが、プロの女優さんだね」
そう言ってから先生は、「痛くないかな?」と丁寧に聞いてくれた。
背中に回した両手を腰のくびれの位置で交差させ、二の腕から先に朱色の柔らかな縄をかけられてゆく。
初心者のエリが痛がらぬよう、先生は少しゆるめに結び目を縛ってゆく。
とはいえ、両腕を腰の位置で固定されるだけで、身体の自由は奪われ、なにもすることができない。
「私の授業でも、彼女の演技力は他のひとから頭ひとつ、抜きん出ているからね。天性のものと、努力。どちらが欠けてもそこには至らない」
先生はエリの両手の固定を終えた。
彼はスツールに座るエリの前に回ってくる。両手には腕を縛った縄の続きを持っている。
「バストを縛るよ? いいね?」
彼は淡々とそう告げる。
エリは小さくうなずいて、先生の緊縛に身をまかせる。
エリは白いブラウスにタイトなジーンズ姿でいた。ブラウスの下にはキャミソールとプレーンなベージュのブラジャー。
窓の外には海が見えた。
高速道路を三時間走り、太平洋に突き出した半島の先端にあるこぢんまりとした海辺のホテルに彼女は部屋をとった。
そしてこの「先生」と呼ばれる初老の男性の、別荘を訪問した。
彼はここで、エリにSMの縛りを施している。
白い十字の窓枠に切り取られた初夏の海。
わずかな磯場に砕ける波。
背中から回した縄が、ブラウス越しに、エリのバストを上下に挟んでゆく。
背筋が自然に伸びるように背中で縄を張られると、自ずと胸のふくらみが前に突き出される格好となる。しかも、そのバストのふくらみの上と下に二度ずつ縄を回される。エリのふくよかな乳房が上下に挟まれ、行き場を失って前に突き出される。
どうしようもなく卑猥な格好。
先生は余計な口をきかず、ただ黙ってエリを固定してゆく。かすかなタバコの匂い。ごま塩のような色の、ツンツンと立った短い髪。
上下に挟んだバストの縄を、最後にそのセンターで縦に結わえる。
「胸は、これで完成」
先生はそう言った。
スツールの上で背筋を伸ばし、乳房を強調されて縛られるエリ。顔は赤く上気し、不思議と身体が熱くなる。
「こんなの…初めてです」
「苦しい?」
「はい…。でも、辛くは……ないです…」
不思議だ、とエリは思う。
今まで数多くの男性と寝てきた。しかし一度たりとこんな風に男性に身体を拘束されることなどなかった。エリは常に男性をリードする側にいたから。
万が一、相手がそのようなそぶりを見せようものなら、エリは即座にベッドを出ていたろう。
別に男性を支配したい訳ではない。エリが自然にふるまうと、結果としてそういう関係ができあがるだけのことなのだった。
いまエリは、白いブラウスにきっちりと朱色の縄で拘束され、身動きが取れないでいる。
「普段ならこのままブラウスの前をはだけて、乳房を露出させるのだけどね」
先生、と呼ばれるごま塩頭の初老の彼が、淡い笑みを浮かべながらそういう。
「でも、とてもきれいだよ。妹さんに負けないくらいだ」
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