#2




 何故、とエリは思う。

 悲しいのはこちらだ、と。


 そして男はエリの唇に自分の唇を寄せてきた。

 その唇がエリのやわらかな唇に触れる。その舌が唇を撫で、上下のピンクの花びらを、やわらかく押しひらく。

 そしてそっと、前歯の隙間にその舌が入ってくる。その瞬間。


 何故?

 何故??


 エリは混乱した。

 そんなはずが、ないのに。


 エリの腰の奥から、胸の奥底から、堰を切ったように何かがあふれてきた。

 それは名付けることのできないような原始的な何かだ。

 抗おうと心はもがくけれど、それは奔流のようにエリを押し流し、全てを赦し、受け入れてしまう。男の悲しみと高ぶりが、甘美な熱となって、エリの全てを包み込んでしまう。


 やめて。

 それだけは、やめて。


 エリはそう思う。

 身体から、心を奪われるようだ。

 男の舌がエリの舌を捉える。

 もつれるようにこわばっていたエリの舌は、その甘い刺激に応えてしまう。

 男の舌を受け入れて、そして絡みつく。

 エリの身体から力が抜ける。


 あぁ…。

 そんな。

 思考が途切れる。


 男の手が、エリのいましめを解く。

 エリの手は重力に従って下に降りると、そのまま男の腰にまとわった。


 何故…。


 そう思いながら、身体が熱くなるのを止めることができない。

 男の舌とエリの舌が甘いチークダンスを踊るように。それとも奥底に悲哀を湛えた官能的なタンゴを踊るように。

 ―――もつれ、からまる。

 悲しみに満ちた瞳をした男の、その心の波が押し寄せてくるようだ。静寂に沈んだ男の胸の内に、強引に取り込まれるように。


 愛液が、どっとあふれてくるのを実感した。


 男の指がショーツの脇からなかに割って入る。

 エリの花びらは男の指を受け入れる。その指が、熱く湿った谷間に滑り込んでくる。


 はぅ…っ


 それは快楽の苦悶なのか、それとも身体と心を奪われた苦痛の声なのか、エリにも区別はつかない。

 ますますあふれ出てくる蜜を、男の指がすくい取る。そのエリ自らのローションを谷間のなかに刷り込まれる。熱く痺れたそこを、男の指が何度も往復する。


 はぁぁっっ…


 苦しい。

 気持ち…よすぎる。

 眉を寄せ、エリは自分から今まさにこぼれ落ちようとする何かを、必死で押さえ込んだ。


「…お前を…寄越せ」


 ―――分からない、気のせいかもしれない。

 くちづけの最中に、男が確かにそう言った気がした。

 でも、男に強く、激しく求められているのは、言葉など挟まなくともハッキリ伝わっていた。


 男の蜜にまみれた指が、エリの硬くすぼまった突起を見つける。


 いやっ…ああっ!


 それはエリの身体を知り尽くした動きのように的確に、突起を捉える。左右に転がして、上下に撫でまわす。そっと押しつぶしたかと思えば、下から掻き上げるように刺激する。

 そのピンポイントを芯として、尾てい骨から閃光のような快感が一気に背骨を駆け上がる。あまりの鋭さに目の前がスパークして、意識が飛びそうになる。


 おねがい、もうダメ。

 ダメになるから…

 もっと。

 もっとして!




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