③ 葦利テルは暴露する

 いやあ、これは皆さまお揃いで。


 アタイ?

 アタイはまあ、そこそこ元気でやってるよ。


 なに、これといって不自由はしてないって意味さ。

 常に鬼神に見張られながら妖怪の里で暮らしてみるのも、思ったよりも悪くないもんだよ。


 とりあえず、今のアタイは人間のガキにも負ける。

 神通力に目覚めてなくても、適当に張り手をされりゃあ膝から崩れ落ちる。

 そのくらい弱い。


 弱すぎて泣けてくれるねえ。

 強い奴と戦いたいから命乞いをしたってのに、これじゃあ何のために生き残ったのか分からない。


 ただまあ、坊っちゃんのおかげで今でもおまんま食えてる訳だし。

 贅沢も言ってらんないってね。


 さてさて。


 折角繫いだ命だ。

 坊っちゃんたちに、アタイの知ってる事は洗いざらい吐くさ。


 それはもう清々しいほどに全部ね!


 と言っても、アタイが知ってる事なんて高が知れてる。

 元々そういった情報管理において、アタイの信頼度は限りなく低かった。

 その判断はズバリ正しいので、アタイが文句を言うなんて事はない。

 でも、アタイも命が掛かってんだから、それは役立ちそうな事を話すってもんさ。


 口上が回りくどい?

 さっさと要点を話せ?


 あらやだねえ、せっかちは。

 アタイの好きに喋らせておくれよ。


 妖怪たちは誰もアタイと喋ってくれなかったもんだから、こっちも鬱憤てもんが堪ってるのさ。


 ハイハイ。

 分かったよ。

 話す。話せばいいんだろ?

 全く。


 で、えーと。

 どこから話したもんかね。


 とりあえず、アレから話そうか。


 アタイたちについて。


 そんで、何で坊っちゃんを狙ったのか、その経緯について。


 そこんとこを暴露しよう。




 △▼△




 アタイは皇国の中央に位置する『京』から派遣されたんよ。


 残念。江戸が根城じゃないんだ。


 西の神都『日向ひゅうが』、中央の商都『京』、そして東の皇都『江戸』。

 皇国の三大都市に跨って動く隠密実働部隊『六波羅探題』。


 ――通称『六波羅』。


 それがアタイたちの名前さ。


 活動内容は単純!

 皇国にとって都合の悪い奴を消す、いわゆる暗殺部隊さね。


 暗殺なんて、そんな事が頻繁に起こってたまるか?


 アハハハ!

 そりゃ暗殺なんだから、ひっそりと、誰に、どうやってやられたか。

 バレないようにするのは当たり前だろう?


 歴史の闇に葬られる形で、何人かは殺されたんよ。

 まあ、確かにその数は多くないからあながち間違いでもないんだけどねえ。


 それに、アタイたちの暗殺対象は何も人間だけじゃない。

 っていうか、主な対象はむしろ人間じゃない。


 そう。妖怪さ。


 良く考えてみなよ。

 天照様のおわす神社は江戸にしかないんだ。

 しかも、「封魔結界」は神社を中心に江戸の町を覆ってるだけ。

 他の町は?


 ほれ。

 その安全を確保している組織ってのがアタイたちさ。


 街道の警備は奉行人たちがやってる?

 そりゃ表向きはね。


 奉行人なんかがいくら集まったって妖怪に勝てやしないよ。

 坊ちゃんの側にいる妖怪ちゃんを見れば分かるだろ?

 あの強さは、普通の神通力にどうこうできる次元じゃない。

 だから、アタイたちみたいな存在がいる訳さ。


 不思議に思わなかった?


 妖怪たちは戦闘能力が高いのに、人から隠れて過ごしている現状。


 平和の時間が千年単位で続いているにも関わらず廃れていない剣術。


 ふっふーん!

 アタイたちの暗躍あってこそだ!


 ま、言うてもアタイはまだ二年くらいしか働いてないけどねー。

 先代から今の立場を受け継いだのが二年くらい前だったんだよ。


神足通じんそくつう」のおかげか神術の習得速度も異常に早かったし、皇国でもアタイは上位数十人くらいには入る実力なんだよ。

 坊ちゃんには瞬殺されたけどねえ! アッハッハ!


 けど、そんなアタイでも手を出せないほどヤベエやつらがいる。

 それが「四天妖怪」さ。

「北方の大蛇」、「南方の妖狐」、「西方の魔猪」、そして「東方の鬼神」。

 

 ただ、こいつらも無敵って訳じゃない。それに天照様の封魔結界に近ければ近いほど弱まる。

 だから多くは江戸から離れた所にいるはずだったんだけど……。

 鬼神さんがいつの間にか坊ちゃんの配下になってるのは、流石のアタイでも驚いたねえ。

 『天耳』と『他心』は何やってんだか。


 あ、ちなみに情報収集は『天耳てんに』と『他心たしん』っていう「六神通使い」の二人がやってるよ。

 ただこれ、自分である程度操作できないと役に立たないから大変みたいさ。


 ん?


 六神通の第二『天耳』は他者の言葉を拾う能力さ。

 誰が、いつ、どこで、何を喋ったか。ぜーんぶバレるんだと。


 んで、六神通の第三『他心』は他者の内心を拾う能力。

 誰が、いつ、どこで、何を思ったか。ぜーんぶバレる。


 二人とも出歯亀行為のようなもんよ。

 神力だけはアタイと同じようにデカイけど、戦闘能力は全くない。


 ただ、この能力にはムラがあってねえ。未だに使いこなせてないんだよ。

 坊ちゃんは「封絶」が効いてるからだけど、こっちは単純に力量が足りない。

 神力の大きさに引っ張られてるだけさ。


 だから坊ちゃんの発見も遅れてねえ。


 そうそう、加えて坊ちゃんの「封絶」は強力な分厄介でね。

 『天耳』にしろ『他心』にしろ、内に眠る神力に同調する事で人物を特定するんだけど、これが坊ちゃん相手だとできないんだよ。

 だから坊ちゃん相手に『天耳』と『他心』は全くもって無力って訳。

 アタイみたいに外部に干渉するタイプの神術だと、坊ちゃん相手でも問題ないんだけどね。


 本当は神通力に目覚めた時に回収しに行きたかったんだけど、あの頃はあの頃でゴチャゴちゃしてて……。

 まあこっちの話さね。


 あー、あとあいつ。


漏尽ろじん』はヤバイ。


 六神通の第六。

 魂の輪廻転生権を失う代わりに、今世での力を爆発的に高める異能。

 自分の宿命を定め、その遂行に際して超常の能力を揮う神通力の頂点さ。


 ありゃもうほとんど”神”。

 つーか、ほんまもんの”神”。

 神力だけで神に匹敵すんのに、更に「神勅」で他の神の神力も借りて二重掛けするから意味分からんほど強い。

 坊ちゃんと同じ感じかな。異次元すぎてその差はアタイにも良く分からん。

 とにかく、例え「月読命つくよみ」に覚醒した坊ちゃんでも、『漏尽』が相手だとどうなるか分からんからね。

 気を付けな。


 くふふっ!

 坊ちゃんを殺そうとしたアタイが言っても信憑性がないか!

 アッハハ!


 六神通がほぼ勢揃いしてるって?

 そりゃ、『六波羅』の規約は六神通、もしくはそれに準じる能力者のみが所属できる組織だからね。


 あん?

 他にもいるかって?


 そりゃいるさ。

 全国津々浦々の妖怪を叩っ斬ってんだから、流石に四人じゃ無理だよ。

 大体……二百くらいかな?


 その内、六神通に目覚めてんのは十人くらいだけどね。

『神足』はアタイ含めて四人。

『天耳』が二人と『他心』が一人。

『宿命』が一人で、最後に『漏尽』が一人。

 これで十人。


 まあ、皇国も結構広いからねえ。

 探せば案外いるもんさ。

 六神通の第五『天眼てんげん』だけは見つからなかったけど、坊ちゃんが全部持ってっちゃったんかね。


 他は普通の神通力使いなんだけど、その実力は『神勅』で引き寄せた神の神格にもよるんさ。

 けどまあ、アタイの『志那都比古神しなつひこ』を一蹴できた坊ちゃんなら、特に問題なさそうだけどね。

 後はその力を自分で制御できるかどうかってところか。


 んで、なんで坊ちゃんが狙われたかだけど、これを指示したのは正直アタイは知らない。

 アタイの言う”上”ってのは「六波羅」の事だけど、「六波羅」の上は勿論皇国のお偉いさんたちさ。

 だから、今回は『国家の陰謀』って事で間違いないと思うよ。


 アタイは軽く言われただけだけど、坊ちゃん。

 あんた民衆を扇動できるだけの求心力を披露しちゃったろ。

 しかも「宿命通」に目覚めていながら、「月読命」の『天眼』まで持ってる。


 それは流石にヤバイって。


 皇国の歴史ってのは結構綱渡りなんさ。


 妖怪を迫害する事で成り立ってる。


 これの正当性を主張し続けないといけない。


 過去の記憶で余計な事を思い出し、あまつさえそれを誰かに吹聴して回られるのは困るんだよ。


 何故かって?


 そりゃ簡単さ。


 いいかい、坊ちゃん。


 それが皇国の”闇”ってやつさ。


 アタイも詳しくは知らない。


 でも、アタイたちが妖怪を狩っている一因もこれにある。


 皇国は、



 ――妖怪の命を使って『神』を、人間の手で、作り出そうとしているみたいさね。

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反転の皇国、月に舞う詞 橘 ミコト @mikoto_tachibana

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